注文どおりなのに使えないAIの答え、その正体:「叙情的に1000字」で頼んだ四季の文章は、誰にでも当てはまった

担当者が、AIにプロンプトを送った。

「1000字で、日本の四季の美しさを詳細に描写してください。文章は叙情的で感情豊かに」。

叙情的な1000字が、注文どおりに返ってきた。

並んでいたのは、誰にでも当てはまる四季の美しさだった。

注文は、一つ残らず守られている。では、なぜ使えないのか。

答え方の注文で整うのは、見た目までだ

冒頭の依頼は、形式の注文をすべて満たす文章を引き出した。

読み手の候補は、海外からの旅行者、俳句の初心者、社内報の読者と、何通りもある。

AIは、どの季節のどの面を書くかを、ありがちな選び方で埋めた。

形式の注文を十行重ねる依頼は、包装紙とリボンの色だけを細かく指定する贈り物の注文に似ている。

贈り物の中身を決めるのは、贈る相手と贈る目的だ。

注文を細かくするほど、包装紙だけが立派になる。中身は、誰に贈っても同じ品のままだ。

担当者は、文章の使い道を決める前に頼んでいた。

プロンプトとインストラクションの境目はどこにあるか

依頼の文面を、よくプロンプトとインストラクションの二つに分けて語る。

プロンプトは、AIから応答を引き出すために与える入力だ。対話の話題と、反応の方向を決める。

「日本の四季について教えてください」は、典型的なプロンプトである。広い答えを促す。

「もし猫が話せたら、何を言うと思いますか」のように、想像を促すプロンプトもある。

インストラクションは、どう答えるべきかを導く、具体的な指示だ。

含める情報の種類、文体、詳しさ、形式を決める。

「東京と京都の春の風景を比較して、観光スポットの魅力をポイント形式で列挙してください」。

作業と形式まで指定した、インストラクションの例である。

プロンプトは何について話すかを決めて話題と反応の方向を設定し、インストラクションはどう答えるかを決めて形式や分量を指定する

冒頭の依頼なら、「1000字で」と「叙情的で感情豊かに」がインストラクションにあたる。

二つに分けても、使えない理由は見えてこない。二分法には、段が一つ欠けている。

AIに問うとは、話題と答え方の間に前提を置くことだ

冒頭のプロンプトを、段に分ける。話題は「日本の四季の美しさ」だ。

答え方は「1000字で、叙情的に」。何のために、誰に向けて書くかの段は、空白だった。

空白の段に、自分の前提を言葉にして渡す。前提とは、何のために、誰に向けて答えがほしいのかという背景である。

依頼は、三つの段で組み立てる。何について、何のために、どう答えるか、の三段だ。

話題がプロンプト。答え方がインストラクションで、二つの間に前提が入る。

AIへの依頼は、何についての話題、何のために誰に向けての前提、形式や分量や文体の答え方の三つでできていて、二分法に欠けているのは真ん中の前提です

AIを作る側も、同じことを勧めている。Anthropicは、自社のAI「Claude」向けの公式の手引きで、指示の背景や動機を添えるよう書く。

背景を伝えると、AIは目的をつかみ、狙いに合った答えを返しやすくなる、という。

手引きの例はこうだ。「省略記号を使うな」とだけ書くより、理由を添える方がよい。

「回答は音声の読み上げで流すので、読み上げ機能が読めない省略記号は使わない」。AIは説明から一般化できる、と手引きは続ける。

前提を一行書き、外れたら直す段を選ぶ

同じ話題に前提と答え方を添えると、依頼は次のようになる。かっこの中を、自分の依頼に書き換えて使える。

話題:(例:日本の四季について教えてください)
前提:(例:冬に初めて来日する旅行者が、どの季節に再訪するかを決める材料にします)
答え方:(例:季節ごとに3行で書き、最後に比較の表をつけてください)

前提が効くのは、答えの選び方が何通りもある依頼だ。

英語への翻訳や表の合計のように、答えが一つに決まる作業もある。前提の一行は、短くて済む。

答えが外れたときは、症状で直す段を選ぶ。

話題がずれたら、プロンプトを直す。形が違うなら、インストラクションを直す。

形は整っていても使い道に合わないなら、前提を直す。冒頭の四季の依頼も、三つ目の症状だ。

三つ目の症状がいちばん多く、いちばん見落としやすい。

話題がずれたならプロンプトを、形が違うならインストラクションを、形は整っていても使い道に合わないなら前提を直します。三つ目がいちばん多く、いちばん見落とされます

前提を書く作業は、答えで自分が何を決めたいのかを、頼む前に言葉にする作業だ。

四季の1000字に足りなかったのは、形容詞ではない

叙情的で、感情豊かで、詳細な1000字。注文の言葉は、どれも答えに届いていた。

足りなかったのは、形容詞ではない。誰に読ませるかという、一行だった。

出典

拙著『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』の2章2節に、プロンプトを必須、任意、形式の要素に分けて組み立てる方法を書きました。読むと、使えない答えが返ったとき、足りないのが話題か、答え方か、背景かを切り分けられます。

AIの答えが物足りないとき、疑うべきはAIか、自分の言葉か。

ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング 表紙

『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』

AIは言葉でしか動かない。プロンプトを暗記するのをやめ、構成要素に分解して、自分の言葉で意図を込める力を鍛える本です。

読み終えたとき、手元に残るもの

  • 必須、任意、形式の三つに分けたプロンプトの構造
  • 回答の質を変える、意図を込めた生きたプロンプト
  • 発注と検収は人が担う、AIとの役割分担
  • 章末の演習プロンプト26題

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