トーンはスタイルを通してしか伝わらない、AIには態度を言葉の形に翻訳して渡す

AIに「もう少しやわらかく」と頼んで、三回目の書き直しでも狙いに届かなかった経験はないでしょうか。やわらかく、は注文ではなく感想です。感想を受け取ったAIは、やわらかさを生む手段を自分で選ぶしかありません。

文章のスタイルとトーンは別の軸だ、とよく説明されます。この記事では、トーンは読み手に伝わる態度であり、読み手はそれを語彙や文末や文の長さといったスタイルの手がかりからしか受け取れない、という見方をとります。二つを目的と手段の関係として捉え直し、AIにはトーンの言葉をスタイルの指定に翻訳して渡す方法を示します。

スタイルは言葉の形、トーンは読み手が受け取る態度です

スタイルは、文章に表れる形の特徴の総体です。語彙(専門用語の多さ、口語か文語か)、文の組み立て(文の長さ、従属節の使い方)、修辞(比喩、反復、対比)、見た目の型(句読点、段落の切り方)が含まれ、数えたり比べたりしやすいものです。

トーンは、文章が読み手に感じさせる態度や気持ちです。親しみやすい、厳しい、冷静、熱がこもっている、などと表されます。意図して出すこともあれば意図せずにじむこともあり、最後は読み手の受け取り方で決まります。

トーンを変えた例文は、どれも言葉の形が変わっています

「明日の午前10時に会議室で打ち合わせがある」という一つの事実を、トーンを変えて書き分けてみます。

  • 事務的: 「明日10時、会議室にて打ち合わせを行います。」
  • 友好的: 「明日の10時、会議室でお会いできるのを楽しみにしています。」
  • 厳しい: 「明日10時、会議室での打ち合わせに遅れることのないようにしてください。」

トーンだけを変えたつもりでも、変わっているのは言葉の形です。友好的な文には「お会いできる」「楽しみにしています」という語彙と、気持ちを表す文末が加わりました。厳しい文には「遅れることのないように」という否定の言い回しと、指示の文末が加わりました。事務的な文は「にて」という硬い語と短い組み立てで、感情を消しています。

スタイルを保ったままトーンだけを変えられる、という説明はよく見かけます。けれども、その説明に添えられた例文そのものが、トーンを変えるたびに語彙と文末を変えています。文字の上では、言葉の形に触れずに態度だけを動かすことは、ほとんどできないのです。

二つは別の軸ではなく、目的と手段の関係です

トーンは、読み手に感じてほしい態度という目的です。スタイルは、それを実現する手段です。

伝えたいトーン効きやすいスタイルの手がかり
親しみやすい短めの文、話し言葉に近い語彙、相手を主語にした文、気持ちを表す文末
冷静、客観的評価語を減らす、数字や事実を先に置く、言い切りの文末
厳しい依頼ではなく指示の文末、否定や条件の言い回し、前置きを省く
丁寧で慎重敬語を一段上げる、理由を先に添える、断定を避ける語

ただし、この表は一方通行です。同じスタイルが、いつも同じトーンを生むわけではありません。簡潔な文は、急いでいる相手には頼もしく、不安を抱えた相手には冷たく読まれます。トーンは、スタイルと読み手の状態の掛け合わせで決まります。表のとおりに書いても狙いのトーンにならないときは、読み手の状態を読み違えている可能性があります。

AIには、態度の言葉を形の指定と読み手に翻訳して渡します

「温かみのある文章で」とだけ書いたスタイルガイドは、書いた本人にしか読めない暗号です。温かみを生む手段が書かれていないので、読む人ごとに、AIごとに、別の温かみが出てきます。AIへの頼み方も同じで、トーンの言葉に加えて、それを実現する手がかりと読み手の状態を一緒に渡します。

次の案内文を、初めて参加する人を歓迎するトーンに書き直してください。そのために、一文を40字以内にし、専門用語を使わず、参加者を主語にした文を増やしてください。読み手は、参加を迷っている人です。日時、場所、持ち物の事実は変えないでください。

書き直しが冷たく感じられたら、「もっと温かく」と重ねるのではなく、どの手がかりが冷たさを生んでいるのかを探します。文末が指示になっていないか。数字だけが並び、相手への言葉がないか。原因の手がかりを一つ指定し直せば、修正は早く収まります。

形に翻訳できない態度が、まだ残っています

皮肉やユーモアのように、言葉の形だけでなく、読み手との関係や場の文脈に強く頼るトーンもあります。同じ一文が、親しい同僚には冗談として、初対面の相手には失礼として届きます。こうしたトーンを形の指定だけでどこまで再現できるのかは、この記事では答えを出せません。翻訳は、届く範囲を広げる手段であって、すべてを届ける手段ではないのです。

あなたのチームの文書で、トーンの注文だけが書かれていて、それを実現する形が書かれていない指示はどこにあるでしょうか。その注文を、文の長さ、語彙、文末の三つに言い換えると、何になりますか。

この記事の背景にある考え方は、拙著『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』の2章2節「プロンプトの基本要素」で、文体をスタイルとトーンに分けて指定する形式要素として書きました。そこには「このように形式要素はプロンプトを組織的に使用していく上でもポイントです。」とあります。この節を読むと、個人の感覚に頼っていた文体の注文を、チームで共有できる指定に置き換える道筋を、自分の文書に当てはめて考えられるようになります。

AIの答えが物足りないとき、疑うべきはAIか、自分の言葉か。

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読み終えたとき、手元に残るもの

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  • 回答の質を変える、意図を込めた生きたプロンプト
  • 発注と検収は人が担う、AIとの役割分担
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