会議で、AIの答えが話題になった。
どの答えも、どの会社にも当てはまる一般論だ、という声が続いた。
会議で配ったプロンプトの見本は、一行だった。
来期の販促案を考えてください。
AIは、なぜ誰にでも当てはまる答えを返したのか。
どの会社にも当てはまる答えは、どの会社の役にも立たない
どの会社にも当てはまる販促案は、自社の来期には使えない。会議の時間は、一般論の読み合わせで終わる。
しかも、見本の一行は配った人数の分だけ使い回される。同じ一般論が、同じ数だけ返ってくる。
行き着く先は、AIは使えない、という結論だ。
だが、AIの能力が足りなかったわけではない。足りなかったのは、別のものだった。
誰に対しても無難に、が事後学習の正体
カラクリは単純だ。空白の多い指示を、AIは教わった無難な作法で埋める。
その作法は、誰に対しても無難な形に整えてある。一般論は、AIの欠陥ではなく、教わった通りの答えだった。
AIは、事前学習と事後学習の二段で仕上がっている。冒頭の会議で使ったAIも、事後学習を経て利用者の前に出ている。
事前学習は、特定の課題に絞る前に、大量のデータで一般的な特徴を学ばせる段階だ。
事後学習とは、事前学習で作った土台のモデルを、使い道に合わせて調整する段階である。
古典的な例では、ImageNetのような大きな画像データで学んだモデルを使う。猫と犬の画像で調整すると、猫と犬の分類に使える。
文章の例には、BERTがある。2018年にDevlinらが発表したモデルで、大量の文章で事前学習を済ませている。
BERTは、出力の層を一つ足す調整だけで、11種類の言語処理の課題で当時の最高成績を出した。
土台があると、仕上げは小さなデータと短い時間で済む。
古典的な事後学習が生んだのは、決まった問いに決まった形で答えるモデルだった。
大規模言語モデルは、事後学習で何を教わるのか
大量の文章で事前学習しただけのモデルは、文章の続きを書く。質問を入れると、質問の続きを書く場面さえある。
大規模言語モデルでは、二種類の調整が加わる、と説明する資料が多い。
一つは指示チューニングである。指示と望ましい応答の組を学ばせ、指示に沿って答えるモデルに寄せる。
もう一つは、人間のフィードバックによる強化学習(RLHF)だ。複数の応答を人が比べて評価し、人の好む答え方へ寄せる。
効き目は大きい。2022年、OpenAIのOuyangらは、二つの調整を経たInstructGPTを発表した。
人による評価で、評価者は13億個のパラメータ(重み)のInstructGPTの出力を好んだ。
比べた相手は、1750億個のGPT-3の出力である。重みの数は、およそ100分の1だった。
教わるのは、どう答えるか、どこで断るか、どのくらい丁寧に書くか、という作法だ。
作法は強力である。ただし、教わるのは誰に対しても通じる作法までだ。あなたの会社の来期の事情は、作り手の二段のどこにも入っていない。
三つ目の仕上げは、利用者が書く対象、目的、制約、評価基準が担う
利用者の多くは、モデルの調整を作り手に任せる。仕上げの段階は、指示の中にもう一つ残っている。
事前学習と事後学習は、作り手が済ませる。三つ目の仕上げに使う前提は、利用者の頭の中にある。
指示に書くのは、対象、目的、制約、評価基準の四つだ。
対象は誰の、どの案件か。目的は何のためか。
制約は守る線である。評価基準は、何をもって良しとするかだ。
四つが空白なら、AIは事後学習で教わった無難な作法で空白を埋める。会議で出た一般論は、空白の埋まり方の結果である。
AIに問う力とは、四つの欄を、自分の言葉で書いて渡す力である。
次の文面のかっこの中を、自分の仕事に書き換えて使える。
対象:(例:地方の生活雑貨店の、来期の販促案)
目的:(例:30代の新しい客に、来店のきっかけを作ります)
制約:(例:予算は月10万円までです。値引きは定価の1割までにします)
評価基準:(例:新規の来店数が、前年の同じ月より増えたかで測ります)
答えに不満が出たら、AIを替える前に、プロンプトの四つの欄の空白を探す。
一行の見本を、四つの欄で書き直したら
来期の販促案を考えてください。この一行に、対象の店と予算の上限を書き足すところから始める。
会議で配った一行の見本に足りなかったのは、四つの欄である。
出典
- BERT: Pre-training of Deep Bidirectional Transformers for Language Understanding(Devlin ほか、arXiv、2018年)
- Training language models to follow instructions with human feedback(Ouyang ほか、OpenAI、2022年)
この記事の考え方は、拙著『GoogleのAI NotebookLM 意思決定の強化書』の1章1節「意思決定の構造と前提の要素」に書きました。この節を読むと、AIの答え方への不満を、AIが身につけた作法のせいと、渡し忘れた前提のせいとに、自分のプロンプトで切り分けられるようになります。
同じ資料を見ているのに、なぜ結論が割れるのか。
『GoogleのAI NotebookLM 意思決定の強化書』
前提が結論を決める。意思決定を根拠、前提、結論の三層に分け、前提を対象、目的、制約、評価基準の四つで言葉にする本です。
読み終えたとき、手元に残るもの
- 意思決定の設計図になる前提リスト
- 資料を事実、意見、噂、ゴミに仕分けるFORT
- 同じ物差しで比べる選択肢表と採点表
- 始める条件と止める条件を書いた決定書
NotebookLMは2026年7月にGemini Notebookへ名称が変わりました。本の手法は、使うAIの種類を問いません。

