すっきりした説明図ほど危ない本当の理由:会議で好評だった図から、納期と品質の矢印が消えていた

経営会議の前日、担当者が説明用の図を描き直した。品質、満足、価格、納期を結ぶ矢印の網を、一本の流れにそろえた。

図の流れは、品質から満足へ、満足から価格へ、の一本。会議では、図がすっきりしていると好評だった。

半年後、納期の遅れで品質が下がった。

すっきりした図は、会議室の全員に何を見えなくしたのか。

好評だった図が、半年後に払わせたもの

描き直す前の網には、納期と品質の引っ張り合いが描いてあった。

警告は、前日の担当者の手元に確かにあった。だが、会議に出た図には一本の線も残っていない。

会議の全員が、すっきりした図にうなずいた。うなずいた図の中に、半年後の品質の低下を予告する矢印はなかった。

図を整えるたびに、同じことが起きうる。見やすさと引き換えに、次の失敗の手がかりを消している。

会議で好評だった図の正体

駅の乗り換え案内は、出発から到着までを一本の矢印でたどれる。

スキーム図(Scheme Diagram)は、全体の枠組みや手順を、一方向の流れで示す図だ。流れは、関係の網から一本を選んで描く。

会議で好評だった図は、スキーム図だった。

概念図(Concept Diagram)は、概念どうしの関係を、双方向の矢印も使って広げて描く図である。描き直す前の網は、概念図にあたる。

概念図の代表格に、コンセプトマップ(概念地図)がある。米コーネル大学のジョセフ・ノヴァクが、1972年に研究の中で開発した。

ノヴァクのコンセプトマップでは、二つの概念を結ぶ線の上に言葉を書く。線上の言葉が、二つの関係を特定する。

概念図は、考えている途中に向く。スキーム図は、決まったことを人に伝える段階に向く。

概念図は関係の理解のために双方向の矢印も使い、スキーム図は全体像と手順を示すために一方向の流れで描きます

考えるなら概念図、伝えるならスキーム図、という覚え方がある。二つの図の間では、網の目から一本を選ぶ作業が挟まっている。

矢印をそろえた瞬間、何が消えたのか

顧客満足、価格、品質、納期の関係を概念図にすると、矢印は網の目になる。

品質が上がれば、満足が上がる。満足が上がれば、価格を上げられる。

価格を上げれば、品質に投資できる。納期を縮めれば、品質が下がる場合もある。

品質から満足へ、満足から価格へ、と一本の流れを選んだ瞬間、ほかの矢印は図から消える。

価格から品質への矢印も、納期と品質の引っ張り合いも消える。

一本の流れを選ぶ作業は、何を原因と置くかを決める作業である。消した理由は、見た目の整理より、原因の置き場所を決めた点にある。

図から消えた矢印は、聞き手の頭からも消える。聞き手の手元に残るのは、描き手が選んだ一本の流れだけだ。

半年後の会議室で品質の低下を説明できる矢印は、前日の机の上で消えていた。

原因の置き場所を決めるのは、誰なのか

では、図をAIに描かせれば、選び間違いは防げるのか。

AIは、頼まれた形に合わせて矢印を選ぶ。今回の説明で何を原因と置くかは、描く人の頭の中にある。

どれが本当の原因か、描く人でも迷う場面がある。迷ったまま一本を選べば、迷いごと図から消える。

AIに問う力とは、何を原因と置くかという自分の前提を、言葉にして渡す力だ。

外した矢印は、捨てずに一覧で残す

概念図の網の目からスキーム図の一本の流れを選ぶときに外した、価格から品質への矢印や納期と品質の引っ張り合いを、理由と一緒に一覧で残します

外した矢印を、図の横か付録に一覧で載せる。どの関係を、なぜ今回の説明から外したのかを、一行ずつ書く。

迷ったまま一本を選ぶなら、選んだ事実も一覧に残す。

一覧があると、聞き手は図の前提を確かめられる。状況が変わったときに、外した関係を図に戻せる。

生成AIに描かせるときは、図を頼む前に、原因と置く要素を一行で書く。そのうえで、三段階に分けて頼む。

次の文面のかっこの中を、自分の題材に書き換えて使えばよい。

手順1:(例:顧客満足、価格、品質、納期)の関係を、互いの影響が分かる概念図にしてください。矢印は双方向も可。
手順2:概念図から、(例:経営会議で説明する)ための一方向のスキーム図を作ってください。要素は5つ以内にします。
手順3:スキーム図から外した関係を一覧にし、外した理由を一行ずつ書いてください。

納期と品質の引っ張り合いは、図の横で待っていた

すっきりした図は、間違っていなかった。外した矢印の行き場がなかっただけだ。

半年前の会議室に、外した矢印の一覧が一枚あれば。納期と品質の引っ張り合いは、図の横で出番を待っていた。

出典

拙著『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』の4章1節「発散と収束で単純化」に、この記事の考え方を書きました。読むと、いま広げているのか絞っているのか、絞るときに何を捨てているのかを確かめながら考えられるようになります。

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