ある企画担当者が、AIに新商品の相談をした。
プロンプトには、「若い世代に響くコピーがほしい」と書いた。
AIは、若い世代に響くコピーを10案そろえた。
どの案も、担当者の狙いに熱心に応えていた。
10案がそろったのに、何かが欠けていた。何が欠けていたのか。
意図と目的は、どこが違うのか
新商品のキャッチコピーで考える。
他社と差をつけ、若い世代に響く言葉がほしい。こちらが意図だ。
意図は、プロンプトを書く理由や動機である。なぜ頼むのか、に当たる。
コピーを5〜10案出してもらい、最後に1案を選ぶ。こちらが目的だ。
目的は、プロンプトで最終的に手に入れたい成果である。何がほしいのか、に当たる。
意図が隠す、狙いそのものへの疑問
意図を書くと、答えの向きが定まる。平均的な答えが、あなた向けの答えに変わる。
若い世代に響くコピーがほしいと書けば、AIは若い世代に響く方向で案をそろえる。
若い世代を狙う方針は、商品に合うのか。疑問は、答えのどこにもなかった。
問いそのものが、答えの外に残る。
言語モデルには、利用者の示した見方に寄せて答える傾向(迎合)がある。
Anthropicの研究チームは2023年、五つのAIアシスタントを調べた。五つとも、利用者の聞きたいことに寄せて答える傾向を示した。
同じ研究では、利用者の見方に賛成する答えほど、人の評価でも好まれやすかった。
賛成してほしいと書いた相談に、AIが熱心に賛成する。企画の出来の証明とは別物だ。
このまま10案から1案を選べば、方針の是非を一度も問わないまま、企画が進む。
目的が答えの物差しになる理由
意図が答えの向きを決めるなら、目的は答えの形を決める。受け取る側には、答えを測る物差しになる。
新規事業のアイデアを10個、という目的なら、5個の答えは目的の半分だ。
目的を欠いたまま、AIと何往復もする。ゴールの位置を決めずに、サッカーの試合を始めるのと同じである。
目的は、どの場面でも書く。
方向を決める前の検討は、ここで差がつく
方向が決まった後の作業では、意図も目的も書く。コピーの案出し、要約、清書のような作業だ。
方向を決める前の検討では、二つの依頼を並べる。
意図を書いた依頼と、意図の段を外して目的だけで出し直した依頼だ。
次の文面のかっこの中を、自分の検討に書き換えて使える。
依頼A
目的:(例:新商品のキャッチコピーを5案出す。最後に1案を選びます)
意図:(例:若い世代に響く言葉がほしい)
依頼B
目的:(例:新商品のキャッチコピーを5案出す。最後に1案を選びます)
お願い:どの世代に向けたコピーが商品に合うかも、案ごとに添えてください。
依頼Bは、意図の段を外した版である。若い世代を狙う方針の是非も、AIに案ごとに比べさせる。
二つの答えの差が大きいときは、意図を見直す。検討の結果なのか、出発点の思い込みなのか。
何を問うかを決めるのは、頼む側だ。
10案がそろったとき、何を疑うのか
10案がそろったら、案を選ぶ前に、意図を外した依頼Bを並べる。
10案がそろって賛成したのは、企画ではなかった。プロンプトに書いた、担当者自身の狙いだった。
拙著『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』の2章1節に、狙い、立場、欲するものを書き込むと、あなた向けの答えが返る話を書きました。読むと、意図という強い道具を、どの場面で効かせ、どの場面で外すかを自分で決められます。
AIの答えが物足りないとき、疑うべきはAIか、自分の言葉か。
『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』
AIは言葉でしか動かない。プロンプトを暗記するのをやめ、構成要素に分解して、自分の言葉で意図を込める力を鍛える本です。
読み終えたとき、手元に残るもの
- 必須、任意、形式の三つに分けたプロンプトの構造
- 回答の質を変える、意図を込めた生きたプロンプト
- 発注と検収は人が担う、AIとの役割分担
- 章末の演習プロンプト26題
4刷重版。全国の大学図書館65館が所蔵しています(2026年10月時点)。

