昼休みに、若手の社員が言った。「地上波はタイパが悪いですよね」。
隣の席の課長は、遠い町の祭りの話をしていた。前の晩の番組で知った話だ。
課長がテレビをつけた理由は、天気予報だった。
欲しかったのは、明日の天気。手に入ったのは、知らなかった町の祭り。
若手の一言は、正しいのか。課長の祭りの話は、タイパの点数のどこに入るのか。
欲しいものが決まった人の物差しで、地上波は何点か
タイパは、タイムパフォーマンスの略だ。かけた時間に対する効果や満足度を指す。
2022年、三省堂の「辞書を編む人が選ぶ今年の新語」で、タイパは大賞を取った。時間の損得を測る物差しは、もう日常の言葉である。
料理の作り方を知りたい。試合の結果を知りたい。
欲しいものが決まっている人は、検索して選ぶ。倍速で要点だけを見れば、欲しいものが早く手に入る。
この物差しで、地上波を測ってみる。
民放テレビでは、1時間番組のうち約12〜15分がCMだという。全体の2割から4分の1ほどが、本編の外の時間だ。
CMの前には、続きを予告するあおりが入る。同じ映像のくり返しもある。
リアルタイムで見る人は、番組の流れる順番と速さに合わせるしかない。欲しい場面へ直行する道は、配信の側にある。
欲しいものが決まった人の物差しなら、地上波の点数は低く出る。当然の結果だ。
では、課長の祭りの話は、点数のどこに入ったのか。
祭りの話には、タイパの式に最初から席がない
タイパを式にすると、分母は使った時間。分子は、手に入った欲しいもの。
要は、分子に入るものが、見る前に決まっている点にある。
課長が見る前に決めた欲しいものは、明日の天気だった。
祭りの話は、天気予報を欲しがった人の式に入らない。点数が低いのではない。点数を書く欄が、そもそもない。
若手の一言は、番組の評価に聞こえる。中身は、物差しを一つ選んだ結果である。
タイパは、測るための一語だ。測るなら、分子に何を入れたかを問う必要がある。
選ぶ自由が増えるほど、出会う機会は減っていく
自分で検索する範囲の外にも、話題はある。知らなかった土地の暮らし。興味の外にあった分野の面白さ。
タイパの式は、偶然の出会いを分子の外に置く。分子に入るのは、欲しいものとして先に登録したものだけだからだ。
配信の推薦は、多くの場合、過去に見たものに近い番組を選ぶ。
選ぶ自由が増えるほど、選んだものの外側に出会う機会は減る。
タイパだけで時間を測り続けると、欲しいものの一覧の外は、測られないまま視界から消えていく。
課長は、天気予報のためにテレビをつけた。その一回がなければ、遠い町の祭りは一覧の外に残ったままだった。
地上波の価値の一部は、欲しいものの一覧の外にある話題との出会いにある。
物差しを選ぶ前に、目的を一行で書く
手順は三つ。
一つ目に、時間を使う目的を一行で書く。
二つ目に、目的に合う物差しを選ぶ。
三つ目に、物差しの分子に入るものと、外に出るものを書き出す。
仕事に要る情報を早くつかむのが目的なら、タイパは目的に合う物差しだ。
休むことが目的なら、物差しは、休めたかどうかに替える。
自分の外側にある話題に触れたいなら、どうか。タイパで測ると、いちばん大事な部分が分子の外に落ちる。
偶然の出会いがCMの時間に見合うかは、人によって違う。違いを決めるのは、物差しより前に書いた目的である。
若手と課長は、別の目的を書いていた
若手は、欲しいものを早く手に入れるという目的に照らして、地上波を測った。
課長は、天気予報のつもりでテレビをつけ、遠い町の祭りを持ち帰った。
地上波はタイパが悪い。その一言は、若手の目的の欄にだけ書ける答えだった。
拙著『GoogleのAI NotebookLM 意思決定の強化書』の2章3節「ソースを集める」に、この記事の考え方を書きました。読むと、情報の集め方が都合のよい方へ寄っていないかを、反対の材料をあえて調べる手順で点検できるようになります。
同じ資料を見ているのに、なぜ結論が割れるのか。
『GoogleのAI NotebookLM 意思決定の強化書』
前提が結論を決める。意思決定を根拠、前提、結論の三層に分け、前提を対象、目的、制約、評価基準の四つで言葉にする本です。
読み終えたとき、手元に残るもの
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NotebookLMは2026年7月にGemini Notebookへ名称が変わりました。本の手法は、使うAIの種類を問いません。

