歴史は繰り返すのか、韻を踏むだけなのか:役員会で割れた「1929年に似ている」、二人とも歴史に詳しかった

役員会で、一人の役員が言った。「今回の危機は、1929年に似ている」。

別の役員が言い返した。「まったく別物だ」。

二人とも、歴史に詳しい人だった。

同じ歴史を知る二人が、正反対の結論にたどり着いた。歴史に詳しい二人は、なぜ逆の結論を出したのか。

「歴史は韻を踏む」とは、何が繰り返すことなのか

どちらの役員の意見に乗るかで、役員会の結論は逆を向く。

二人の言い分を解くには、まず、よく引かれる一つの言葉から入る。

「歴史は韻を踏む」という言葉は、一般にマーク・トウェインの名言として知られる。出典をめぐっては、作者を疑う指摘もある。

出来事は、一度きりだ。どの時代にも、固有の政治、経済、文化、技術の条件があるからである。

似たリズムや型は、時代を越えて何度も現れる。恐怖への過剰反応や集団の同調といった人の心理が、どの時代にも働くからだ。

景気の好況と不況の交代も、理由の一つである。

似た型を拾う見方を、パターン認識(型を見つけること)と呼ぶ。

一度きりの出来事の中から似た型を拾うとき、歴史は韻を踏んで見える。

では、型を拾うか、違いを拾うかは、何が決めるのか。

似て見えるか別物に見えるかを決める、比べる高さ(抽象度)の正体

カラクリは単純だ。二人の間で違っていたのは、知識の量より、比べる高さだった。

歴史が似ているかどうかは、比べる人が選んだ高さ(抽象度、粒度とも言う)で決まる。

世界大戦を、大きな紛争、という高さで見る。歴史上の多くの紛争と、韻を踏んで見える。

軍事技術、外交の構造、経済のつながりまで下りて見る。まるで別物だ。

どちらの見方も、事実としては正しい。二つの見方を分けたのは、どの高さで比べると決めたかである。

世界大戦を大きな紛争として高く見れば多くの紛争と韻を踏んで見え、軍事技術や外交まで低く見れば別物に見える。どちらも事実としては正しく、高さは問いに応じて選ぶ

高く上がりすぎると、何でも似ていると言える。教訓は中身を失う。

低く下りすぎると、すべてが別物に見える。学べることはゼロになる。

高さを選んでいるのは、あなたかもしれない

危機をあおりたい人は、高く上がって共通点を挙げる。楽観したい人は、低く下りて違いを挙げる。

議論の行方を決めているのは、歴史の知識より、選んだ高さだ。

読み手も、例外ではない。望む結論に合わせて、知らずに高さを選んでいるかもしれない。

危機をあおりたい人は高く上がって共通点を挙げ、楽観したい人は低く下りて違いを挙げる。議論の行方を決めているのは、歴史の知識より選んだ高さである

違いを挙げる側には、決まり文句がある。今回は違う、だ。

経済学者のラインハートとロゴフは、2008年の論文で、決まり文句を題名に掲げた。「This Time is Different」である。

二人は、14世紀から2008年の米国のサブプライム危機まで、8世紀分の金融危機の記録を集めた。

債務の不履行の大きな波は、たいてい数年から数十年の間を空けて訪れる。

間が空くため、政策担当者も投資家も、今回は違う、と信じやすい。二人の論文は、そう指摘する。

AIで大量の経済データや文献を分析する研究もある。周期や似た論調を、数字で見つける研究だ。

数字で比べても、どの変数を比べるかを選んだ時点で、高さは決まっている。

類推を使う前に、比べた高さ、共通点、隠れる違いの三行を書く

過去から学べることは確かにある。

世界恐慌の対応を、今に丸ごと写すのは無理がある。

大量失業への対処、財政の役割、保護主義の危うさといった論点は、今も学べる。

危ういのは、表面の似ている部分だけを強調することだ。

古代ローマの崩壊と、現代の超大国の影響力の低下を重ねる議論がある。技術も経済も国際秩序も、二つの時代で別物である。

過去の事例を使う意思決定は、今回はあの事例と同じ型だ、という前提の上に立つ。

前提を確かめるために、使う前に三行を書く。

一行目は、どの高さで比べたか。二行目は、比べた高さで見える共通点。

三行目は、比べた高さで隠れる違いだ。違いごとに、結論を変えるほど大きいかを書き添える。

違いを三つ挙げられた類推だけを、意思決定に使う。

過去の事例を意思決定に使う前に、比べた高さ、その高さで見える共通点、その高さで隠れる違いの三行を書く。違いを三つ挙げた類推だけを使う

三行を書いて分かるのは、正解の高さより、自分と相手が食い違っている場所だ。

物価の対策なら低く、社会の不安の広がり方なら高く比べる、という選び方もある。

AIに類推を点検させるときは、次の文面のかっこの中を書き換えて使える。

(例:今回の景気後退は1929年の世界恐慌に似ている)という類推を点検してください。
1. この類推は、どの高さで比べていますか。
2. その高さで見える共通点を三つ挙げてください。
3. その高さで隠れる違いを三つ挙げ、結論を変えるほど大きいかを書いてください。

役員会の二人が、三行を書いていたら

二人が三行を書いていれば、議論はどちらが正しいかから、どの高さで比べるかへ移ったはずだ。

似ている、と、別物だ。役員会の二人は、同じ歴史を違う高さから見ていた。

出典

この記事の考え方は、拙著『GoogleのAI NotebookLM 意思決定の強化書』の4章のコラム「結論の裏にある前提を逆算する」に書きました。このコラムを読むと、歴史の類推で語る主張がどの前提に立ち、どこが急所なのかを掘り起こせるようになります。

同じ資料を見ているのに、なぜ結論が割れるのか。

GoogleのAI NotebookLM 意思決定の強化書 表紙

『GoogleのAI NotebookLM 意思決定の強化書』

前提が結論を決める。意思決定を根拠、前提、結論の三層に分け、前提を対象、目的、制約、評価基準の四つで言葉にする本です。

読み終えたとき、手元に残るもの

  • 意思決定の設計図になる前提リスト
  • 資料を事実、意見、噂、ゴミに仕分けるFORT
  • 同じ物差しで比べる選択肢表と採点表
  • 始める条件と止める条件を書いた決定書

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