細かい数字の予測で損をする人、しない人:小数点以下2桁まで並んだ販売予測は、翌月大きく外れた

需要予測の報告会で、担当者が来月の販売数を映した。

予測値は、小数点以下2桁まで並んでいた。

細かい数字に、出席者はうなずいた。

翌月の実績は、予測から大きく外れた。

あの細かい数字は、いったい何を保証していたのか。

同じ10回のコインから、二つの答えが出る

コインを10回投げて、7回表が出たとする。

各回が独立で、表の確率が一定なら、表の確率は0.7と推定する。

途中でコインがすり減り、表が出やすくなったと考えるなら、前半と後半で別の確率を推定する。

データは同じ。違うのは前提だ。

どちらの前提が正しいかは、データの外の知識で決まる。どんな状況で投げたか、という知識である。

前提を知らずに数字だけを受け取ると、どちらの答えを手にしたのか分からない。

小数点以下を何桁並べても、前提の違いは消えない。

桁の多さが示すのは、計算の丁寧さにすぎない

カラクリは単純だ。桁の多さが示すのは、計算の丁寧さにすぎない。

予測が現実に当たるかは、別の場所で決まる。確率モデルを現実に当てはめた、対応づけである。

確率モデルは、出来事の起こりやすさを確率分布で表す数学のモデルだ。

表が出る確率をpと置き、各回は互いに独立と置く。

10回中7回表が出る確率は、計算で一つに決まる。

確率モデルの答えは、約束の中では必ず正しい。

統計モデルは、確率モデルを使って、手元のデータの生まれ方を説明する枠組みである。

予測を出す計算の道具に見えるが、中には現実についての主張が入っている。

データは、選んだ確率モデルに従って生まれた、という主張だ。

統計モデルの当たり外れは、約束が現実に合うかで決まる。

確率モデルの上に統計モデルが建つ

意思決定を、根拠、前提、結論の三層で見る。データが根拠、分布の仮定が前提、予測が結論だ。

予測が外れたら、データを集め直す前に、前提を疑う。

仮定のずれは、丁寧な計算に隠れて進む

統計モデルは、三つの段で使う。一段目で、確率分布を仮定する。

二段目で、仮定のもとでパラメータ(式の中の値)を推定する。

三段目で、推定した式で予測する。

回帰分析では、誤差が正規分布に従うと仮定する。

最尤法で求めた値は、分布が正しい場合の、条件つきの値だ。

予測の幅も、同じ条件つきである。

一段目の主張が現実とずれると、ずれは計算の丁寧さに隠れて、後ろの段へ進む。

二段目も三段目も、計算は正しい。正しい計算が、ずれた前提をそのまま運ぶ。

予測値だけを貼り、仮定の欄を白紙にした資料がある。

特約欄を白紙にして判を求める契約書と同じだ。判を押した後で、何に同意したかを知ることになる。

予測の数字には、三つの仮定を尋ねる

予測の数字を受け取ったら、まずデータを測った期間を尋ねる。

続けて、三つの対応づけを尋ねる。

独立。観測どうしが、互いに切り離されているか。

一定。集めた期間と予測する期間で、仕組みが同じか。

分布の形。まれに起こる大きな値まで、表せているか。

予測値の隣で、独立、一定、分布の形の三つの対応づけを尋ね、外れたら計算より先に三つの対応づけを疑います

精度95%の報告には、何を独立とみなした95%かを書き添える。

精度は、仮定が成り立つ世界の中で測った値である。

くじのように、人が仕組みを設計した場面では、計算の答えを使える。

点検が効くのは、売上、需要、人の行動のように、仕組みを後から推し量る場面だ。

外れたら、計算より先に三つの対応づけを疑う。

AIに予測を作らせるときは、仮定も書かせる。次の文面のかっこの中を書き換えて使える。

(例:来月の販売数)を予測してください。
データ:(例:過去3年の月別の販売数を添付します)
お願い:予測値の隣に、置いた仮定を書いてください。
独立:観測どうしを切り離して扱ったか
一定:集めた期間と予測する期間で、仕組みを同じと置いたか
分布の形:まれに起こる大きな値をどう扱ったか

報告会で尋ねるべきだったもの

出席者がうなずいたのは、桁の細かさだった。

報告会で尋ねるべきだったのは、小数点以下の桁ではない。三つの仮定だった。

拙著『GoogleのAI NotebookLM 意思決定の強化書』の1章1節に、同じ数字から真逆の結論が出るのは、口に出していない前提が違うからだと書きました。読むと、予測が外れたとき、データを集め直す前に、どの前提で計算したかを書き出せます。

同じ資料を見ているのに、なぜ結論が割れるのか。

GoogleのAI NotebookLM 意思決定の強化書 表紙

『GoogleのAI NotebookLM 意思決定の強化書』

前提が結論を決める。意思決定を根拠、前提、結論の三層に分け、前提を対象、目的、制約、評価基準の四つで言葉にする本です。

読み終えたとき、手元に残るもの

  • 意思決定の設計図になる前提リスト
  • 資料を事実、意見、噂、ゴミに仕分けるFORT
  • 同じ物差しで比べる選択肢表と採点表
  • 始める条件と止める条件を書いた決定書

NotebookLMは2026年7月にGemini Notebookへ名称が変わりました。本の手法は、使うAIの種類を問いません。

Amazonで見る

著者プロフィール・お問い合わせ