減らす前に自動化した職場の末路:経費の申請書は、押印欄を五つ残したまま電子化された

業務改善の会議で、課長が最初に聞いた。「どこを自動化できますか」。

三か月後、会社は経費の申請書を電子化した。

押印欄は、五つ残ったままだった。

紙は消えた。判子を押す欄だけが、画面の上に引っ越した。

なぜ押印欄は消えずに、電子化まで進んだのか。

減らす前の自動化は、無駄まで固める

ふだんの業務改善は、速くすることや自動化から話が始まりがちだ。課長の最初の問いも、そうだった。

減らす前に自動化した工程は、無駄まで速く、固く作り込まれる。一度作り込めば、無駄を外すには作り直しが要る。

痛い目を見たのは、イーロン・マスク氏自身である。

自動化を最後に置く理由として、マスク氏は自身の失敗を語った。順序を飛ばした結果、200万ドルをかけたロボットを迂回させる羽目になった。

無駄を速くしても、無駄は無駄のままだ。速くした分だけ、外すのが高くつく。

自動化は、5段階の最後の段だった

マスク氏が勧める業務改善には、順序がある。内容は、2025年2月時点の報道や解説による。

5段階は、要件の明確化、シンプル化、最適化、高速化、自動化の順番である。減らしてから速くする点が、ふだんの改善と違う。

マスク氏が5段階を語ったのは、2021年夏の公開の場だった。宇宙の解説で知られるYouTubeのチャンネルEveryday Astronautが、2021年8月3日に動画を公開した。

ロケットの製造拠点を案内する動画「Starbase Tour with Elon Musk」の第1部だ。マスク氏は、ロケット製造の工程改善を5段階の順で進めるよう勧めた。

業務改善の5つのステップは、要件の明確化、シンプル化、最適化、高速化、自動化の順に進み、自動化は必ず最後に置く

二段目のシンプル化では、工程や部品を削る。株式会社フィックスポイントの2024年のコラムが、削り方の目安の要旨をまとめている。

ときどき足し戻すくらいでなければ、削り足りない。

最適化の段では、前提を疑って方法を見直す。自動化は、その後にようやく来る。

では、最初の段は何か。

要件を明確にするには、二つの確認が要る。

要件を誰が求めたのか。誰が責任を持つのか。

最初にすることは、要件を求めた人の名前を書くことである。

部署の名前だけが付いた要件は、素通りする

職場では、要件の多くを部署や規程の名前で語る。品質保証部の要求、経理のルール、前からの慣習。

部署の名前だけが付いた要件は、消す権限を持つ人がいない。誰に聞いても、要件を決めたのは前の担当者だ、と答えが返る。

押印欄の一つずつについて、消してよいかを聞いても、答える人がいない。

空席の要件は、減らす段を素通りする。素通りした要件は、形を変えずに速くなり、自動化の対象になる。

五つの押印欄も、素通りした要件だった。

200万ドルのロボットの話は、素通りの値段とも読める。答える人のいない要件ほど、高い仕組みの中に残り続ける。

求めた人の名前で、本物の制約と慣習に差がつく

手順は四つある。一つ目に、要件を一つずつ書き出し、求めた人の名前を書く。

二つ目に、名前が空欄の要件は、求めた人を探す。探しても空欄のままの要件は、削る候補の先頭に置く。

三つ目に、名前が書けた要件は、求めた人に聞く。質問は一つだけだ。

要件を外れた案を、即座に除外しますか。

はいなら、要件を残す。いいえなら、削る候補に回す。

四つ目に、法令、安全、契約で求める要件は、本物の制約として残す。求めたのが社外の人や過去の事故の記録でも、制約は本物だ。

要件を一つずつ書き出して求めた人の名前を書き、名前が空欄のものは削る候補へ、書けたものは即座に除外するかを聞いて、はいなら残し、いいえなら削る候補へ回し、法令や安全や契約の要件は本物の制約として残す

名前を探す目的は、本物の制約と、理由を忘れた慣習を分けることにある。要件の数を減らすことは、仕分けの結果だ。

逆向きの失敗もある。買収後のTwitterでの大幅な人員削減は、評価の割れる改革の一例だ。

要件を誰が求めたかを確かめる前に減らすと、本物の制約まで削る。

五つの押印欄に、名前を書く

減らしてから速くし、自動化を最後に置く。順序の入口は、一枚の紙の上にある。

五つの押印欄の横に、一つずつ求めた人の名前を書く。空欄が残った欄は、削る候補になる。

次の会議で最初に聞くべきは、自動化の候補ではない。五つの押印欄を求めた人の名前だ。

この記事の考え方は、拙著『GoogleのAI NotebookLM 意思決定の強化書』の4章2節、制約と評価基準を見分ける節に書きました。この節を読むと、自分の仕事にある条件を、本物の制約と、理由を忘れた慣習とに仕分ける問いを持てるようになります。

同じ資料を見ているのに、なぜ結論が割れるのか。

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