会議が結論に至らない本当の理由:「良い候補を選びましょう」で、3人の面接官が別々の候補者を推した

採用会議で、部長が言った。「良い候補を選びましょう」。

三人の面接官が、三人の別々の候補者を推した。

一人目の面接官は、経験年数を見ていた。二人目は人柄を見ていた。

三人目は、伸びしろを見ていた。会議は、良い候補の中身を言い合って終わった。

三人とも、良い候補を推したつもりだった。では、三人は何を言い争っていたのか。

「良い候補」の正体は、言葉の範囲に引く一本の線だ

カラクリは単純だ。割れていたのは候補者の評価より前にある、良い候補という言葉の定義だった。

定義を決めるとは、言葉が指す範囲に線を引くことだ。採用会議の良い候補なら、線は三行で引ける。

経験年数の下限、重く見る人柄、伸びしろを測る問い、の三行である。

線は、関係者が同じように使える形に固める。

辞書は、世の中の平均的な使い方を教える。チームの中で使う線は、チームが引く。

システム開発の要件定義書が、線引きの例だ。何を作るか、何のために作るかを、最初に言葉にする。

発注側と制作側が、同じ完成品を思い浮かべる。「別の意味だと思っていた」という手戻りが減る。

物差しを先に決めた面接は、どこまで当たるのか

「良い候補」「成功した施策」の定義を書く作業は、意思決定の評価基準を書く作業だ。

基準を結論の後で書くと、人は出したい結論に合う基準を選ぶ。

採用には、裏付けもある。サケットらは、選考手法の予測力を測った過去の研究をまとめ直した(Journal of Applied Psychology、2022年)。

最も高い予測力を示したのは、構造化面接だった。質問と評価の物差しを先に決めておく面接を指す。

入社後の仕事ぶりとの相関は、0.42。冒頭の三人の面接官は、物差しをそろえないまま席に着いていた。

意思決定に使う言葉の定義は、結論より先に書く。

明確な定義が、ある日から足かせに変わる

定義を固めると、関係者の認識がそろう。意思決定が速くなる。

進む方向が定まる。優先順位も見える。

同じ明確さが、硬さにもなる。固めた後に状況が変わると、定義が現実とずれる。

採用会議の三行も例外ではない。経験年数の下限が現実とずれれば、伸びしろのある候補を締め出す線になりうる。

固める前には、情報集めと調整に時間と費用がかかる。観点が欠けたまま固めると、一部の人の意見に寄った定義になる。

新しい取り組みでは、事前に書いた定義の一部が、始めた後で現実と合わなくなる。

ウォーターフォール型の開発が、両面の例だ。最初に決めた仕様に沿って、品質と日程を管理する。

途中で仕様を変える場面では、同じ仕組みが重荷になる。仕様を見直す日を工程に入れておけば、変更を受け止める場所が先に決まる。

定義を決めると、認識がそろい、意思決定が速くなり、優先順位が見えます。同じ明確さが硬さにもなるので、定義は見直す前提で決めます

五つの手順は、最後の一つで差がつく

一つ目に、何について、何のために定義するかを書く。

二つ目に、事実、データ、関係者の意見を集める。集めた材料が、観点の偏りを減らす。

三つ目に、定義の案をチームで読み合わせる。

四つ目に、定義の要素が複数あれば、重く見る順をつける。

五つ目に、見直す日を予定表に入れる。

見直す日は、定義を書いた会議の場で入れる。明確な定義を保ったまま、硬さを和らげられる。

三人の面接官に、同じ紙を一枚

冒頭の採用会議なら、候補者の名前を出す前に良い候補の三行を書く。経験年数、人柄、伸びしろのうち、どれを重く見るかも書き添える。

半年後の見直し日も、同じ紙に書き込む。

三行があれば、三人の面接官は同じ物差しで候補者を比べられた。

出典

拙著『GoogleのAI NotebookLM 意思決定の強化書』に、意思決定の前提を四つの要素で言葉にし、比較と採点へ進める手順を書きました。読むと、定義を決める技術を、AIを使ったぶれない意思決定の仕組みに変えられます。研修や講演は講演と研修の案内をご覧ください。

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