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音声:VOICEVOX:玄野武宏(CV:ガロ)
AIエージェントが普及すると、人間は何をするようになるのでしょうか。
メールを書く。資料を作る。調査する。比較する。予約する。データを整理する。プログラムを書く。
これまで私たちが「仕事」と呼んできたもののかなりの部分を、AIエージェントが代行するようになるでしょう。
そうなると、人間の仕事がなくなるのか。
私は、少し違うと思っています。
むしろ人間は、これまで仕事の中に埋もれていた、もっと根源的な活動に時間を使えるようになります。
それがR&Dです。
ここでいうR&Dは、大企業の研究所で行われる「Research and Development」という意味ではありません。
もっと広い意味です。
試行錯誤すること。実験すること。
これこそ、AIエージェントが広まった後に、人間に残る大きな楽しみになるのではないかと考えています。
答えが分かっている仕事はAIに任せればいい
仕事には、大きく二種類あります。
一つは、答えにたどり着く手順がある程度分かっている仕事です。
請求書を作る。
競合企業を調べる。
会議の日程を調整する。
売上データを集計する。
条件に合うホテルを探す。
こうした仕事には目的があります。
そして、目的が明確なら、そこへ到達するまでの手順の多くはAIエージェントに任せられるようになります。
人間が一つずつWebサイトを開き、情報をコピーし、Excelに貼り付け、比較表を作る必要はありません。
「この条件で調べて、比較して、候補を出して」
そう指示すれば、AIエージェントが実行してくれる。
つまり、既知のゴールに向かって進む作業は、徐々にAI側へ移っていきます。
では、人間は何をするのでしょうか。
「やってみたらどうなる?」は残る
たとえば、新しい生成AIサービスが登場したとします。
普通の使い方を知りたいだけなら、マニュアルを読めば済みます。
しかし、人間が面白いと感じるのは、その先です。
「このAIに会社の資料を全部読ませたらどうなるだろう」
「ChatGPTと別のツールをつないだら何ができるだろう」
「今まで3時間かかっていた仕事を、全部AIエージェントにやらせたらどこで失敗するだろう」
「このプロンプトを少し変えたら結果はどう変わるだろう」
やってみる。
失敗する。
原因を考える。
条件を変える。
もう一度やってみる。
うまくいく。
今度は別の方法を試してみる。
これがR&Dです。
つまり、
仮説 → 実験 → 結果 → 修正 → 再実験
という循環です。
これは仕事というより、かなり遊びに近い活動でもあります。
子どもはずっとR&Dをしている
考えてみれば、人間はもともとR&Dが好きです。
特に子どもを見ると分かります。
積み木を高く積んだらどうなるか。
水に物を入れたら沈むのか浮くのか。
このボタンを押したら何が起きるのか。
高いところからボールを落としたらどう跳ねるのか。
誰かから指示されたわけではありません。
役に立つかどうかも考えていません。
単純に、
「やったらどうなるんだろう」
と思うからやる。
これは完全に実験です。
ところが大人になると、仕事の多くが「正しい手順を正確に実行すること」に変わっていきます。
失敗しないことが評価される。
決められた方法を守る。
期限までに成果物を出す。
いつの間にか、試行錯誤する時間は減っていきます。
AIエージェントは、この構造を逆転させる可能性があります。
正確に処理する部分をAIが担当し、人間は再び、
「これをやったらどうなる?」
という場所へ戻れるからです。
R&Dは科学者だけのものではない
R&Dという言葉を使うと、科学技術の研究を想像するかもしれません。
しかし、試行錯誤と実験という意味で考えるなら、R&Dは生活のあらゆる場所に存在します。
料理もそうです。
「この調味料を少し増やしたらどうなるか」
旅行もそうです。
「いつもとは違う街に行ったら、どんな発見があるだろう」
仕事もそうです。
「会議を半分に減らしたら、組織はどう変わるだろう」
文章を書くこともそうです。
「構成を逆にしたら、読者の反応は変わるだろうか」
人間関係にもあります。
「いつもと違う聞き方をしたら、相手の反応はどう変わるだろう」
人生そのものも、かなり大きなR&Dです。
絶対に正しい答えが最初から分かっているわけではありません。
試して、観察して、考えて、また試す。
私たちはずっと、この繰り返しの中で生きています。
AIは実験のコストを劇的に下げる
そしてAIの面白いところは、R&Dを奪うどころか、むしろR&Dをやりやすくすることです。
以前なら、新しいアイデアを試すには時間もお金も必要でした。
Webサービスを作りたければプログラマーが必要でした。
市場調査をしたければ大量の資料を読む必要がありました。
デザインを試したければデザイナーが必要でした。
ところが生成AIによって、試作品を作るコストが急速に下がっています。
文章なら数分。
画像なら数分。
プログラムも数十分。
調査も短時間でできる。
さらにAIエージェントが普及すれば、
「ちょっと試してみる」
ために必要なコストはもっと下がります。
これは重要な変化です。
失敗のコストが下がるからです。
失敗しても、また作ればいい。
別の方法を試せばいい。
すると人間は、正解を一発で当てようとする必要がなくなります。
むしろ、
たくさん試して、良いものを残す
という行動が合理的になります。
AI時代には、この能力のほうが重要になるかもしれません。
正解を知っている人より、実験できる人
これまでの社会では、知識を持っている人が強い場面がたくさんありました。
正しい答えを知っている。
正しい手順を知っている。
経験がある。
だから失敗せずに仕事ができる。
しかしAIによって、知識へのアクセスコストは限りなく小さくなっています。
手順そのものもAIが実行するようになります。
そうすると価値が移ります。
「答えを知っているか」
から、
「何を試すか」
へ。
そして、
「試した結果から何を学ぶか」
へ。
重要になるのは、正解を覚えている能力よりも、
仮説を作る力。
実験する力。
観察する力。
失敗から修正する力。
そして何より、
面白そうだからやってみる力
ではないでしょうか。
人間は「実行する存在」から「試す存在」へ
AIエージェントが高度化すればするほど、人間が自分で実行しなければならないことは減っていきます。
そこで人間の活動が消えるとは限りません。
活動の中心が変わるのです。
これまでは、
考える → 実行する → 修正する
だったものが、
考える → AIに実行させる → 観察する → 次を試す
になる。
つまり人間は、「作業する人」から「実験する人」へ移っていきます。
私は、この変化をかなり肯定的に見ています。
人間が何時間も単純作業を繰り返す世界より、
「これを試したらどうなる?」
を何度も繰り返せる世界のほうが、ずっと面白いからです。
AIエージェントが広まった後、人間に残る楽しみはR&Dである。
ただし、ここでいうR&Dとは研究所の研究開発ではありません。
日常の中での試行錯誤です。
小さな仮説を立てる。
やってみる。
失敗する。
考える。
条件を変える。
もう一度やってみる。
そして、ときどき予想もしなかったものを発見する。
もしかするとAI時代とは、人間が再び子どものように、世界を実験できる時代なのかもしれません。
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