社内研修で、講師がGeminiの名前の由来を話した。
「テキストとコードの二つを扱うから双子です」と講師は言った。
受講者の一人が、説明の出どころを尋ねた。
講師の手元にあった根拠は、AIの答えだけだった。講師は、出どころを答えられなかった。
内容が正しくても、出どころを言えない話は、研修の場で根拠にならない。
では、双子の説明は、誰が言ったのか。
確かなのは、辞書で引ける語義まで
ふだん由来と聞くと、決まった答えが一つあると思いがちだ。
研修の講師も、双子の説明を決まった答えとして話した。
実際には、確かな語義の上に、いくつもの説が積み重なっている。
英語のGeminiは、双子を意味する。夜空のふたご座もGeminiだ。
ふたご座の二つの明るい星には、カストルとポルックスという名前が付いている。
ここまでは、辞書で確かめられる語義である。
名前の成り立ちの説明のうち、名付けた側の公式な発表の裏づけを欠くもの。それを、由来の説と呼ぶ。
語られる説は、なぜどれも似ているのか
執筆時点(2024年3月)で見つかった説明は、主に三つだった。
一つ目は、テキストとコードという種類の違う二つのデータを扱う姿を、双子に重ねる説明。
二つ目は、性格の違う二つのモデルが補い合う関係を、双子になぞらえる説明。
三つ目は、研究者に向けた顔と開発者に向けた顔を、双子にたとえる説明である。
ギリシャ神話の双子、カストルとポルックスに由来するという説もある。
二人は強い絆で結ばれ、力を合わせて強くなると語られてきた。
どの説も、二つのものが組み合わさって力を出す像で共通している。
共通点は、公式の証拠とは別物だ。同じ語義から出発すれば、似た説明が並ぶのは当然である。
町の噂がどれも同じ話でも、本人の発言が出るまで、噂は噂のままだ。
名付けた側の説明は、どの説とも違った
本人の発言は、2024年5月に出た。Googleが公式ブログで、名前の由来を明かしたのだ。
名前を提案したのは、技術面の共同責任者の一人、Jeff Deanだった。
双子が指すのは、データの種類ではない。旧Google BrainとDeepMindという、二つのチームだった。
二つのチームが力を合わせて一つのモデルを作る。その姿に、双子の名前が合うと考えた。
NASAのジェミニ計画にも、ちなんでいる。マーキュリー計画とアポロ計画をつないだ、1965〜1968年の計画だ。
講師が話したテキストとコードの説明は、この公式の説明に出てこない。
AIの答えだけを根拠にすれば、説を公式の説明として人前で話すことになる。
公式と説を分けるだけで、答えに差がつく
AIに由来を尋ねると、説と公式の発表が一つながりの答えで返る場合がある。
先に、何を確かめたいのかを決める。答えの形も、プロンプトで指定する。
何を確かめたいかは、尋ねる人の前提だ。
前提を言葉にしてAIに渡す力が、尋ねる人の問う力である。
手順は三つ。
一つ目に、公式の発表で確かめられる説明を、発表の場と時期つきで書かせる。
二つ目に、第三者の推測や説を、別の欄に分けさせる。
三つ目に、根拠のない点には、根拠なしと書かせる。
次のプロンプトのかっこの中を、自分の調べものに書き換えて使える。
(例:Google Gemini)という名前の由来を調べています。
お願い:
1. (例:Google)の公式な発表で確かめられる説明を書いてください。発表の場と時期も添えてください。
2. 第三者の推測や説は、別の欄に分けて書いてください。
3. 根拠を見つけられなかった点は、根拠なしと書いてください。
受講者の質問には、発表の場と時期で答える
公式の説明には、発表の場と時期の記録がある。説にはない。
受講者の一つの質問に答えられなかった理由は、知識の量ではなく、語義と説を一つの箱に入れたことにあった。
何を頼み、どんな前提を渡し、どんな形で返してほしいかを決めると、答えの信頼性は変わります。この考え方は、拙著『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』で順序立てて学べます。社内の意思決定や導入に落とし込む場合は、AI導入方針・研修設計の整理もご覧ください。
