当たった予想を、結果だけで褒めてはいけない:拍手を受けた需要予想、売上が伸びた本当の理由は競合の撤退だった

昨年の需要予想を当てた担当者が、予算会議で拍手を受けた。

会社は今年の予想も、同じ担当者に任せた。

後日、経営企画の担当者が、予想に添えた理由を読み返した。

理由の欄にあったのは、需要の伸びの読みだけ。

売上が伸びた本当の理由は、競合の撤退だった。

では、会議の拍手は、何に送られたのか。

今年の予想も、同じ担当者に任せた

任せた根拠は、昨年の予想が当たったことだ。

当たった結論の裏で、理由の読みは外れていた。結論が当たることと、理由まで分かっていることは、別物である。

競合の撤退は、毎年は起きない。担当者は今年の予想も、同じ需要の伸びの読みから組み立てるかもしれない。

会社は今年、外れた理由の読みに、もう一度賭けている。

二つを見分ける道具がある。命題だ。

命題の正体は、真か偽かを問える文の中身

「ドアを閉めなさい」は命令だ。命令に、本当かうそかを問う余地はない。

「東京は日本の首都である」なら、本当かうそかを問える。論理学では、問える中身を命題と呼ぶ。

日常では、わが社の命題、のように、果たすべき大きな課題の意味でも使う。

見分ける基準は、四つある。

一つ目は、真か偽のどちらかになること。

二つ目は、否定(打ち消し)の文を作れること。

三つ目は、かつ、または、ならばで、ほかの命題とつなげられること。

四つ目は、信じる、知る、の中身に入れられること。

命題を見分ける基準は、真か偽のどちらかになる、打ち消せる、ほかの命題とつなげられる、信じる知るの中身に入る、の四つです

需要の伸びの読みも、四つの基準を満たす命題の形で書ける。

命題で書いた理由は、後から当たりと外れに分けられる。拍手を送る前に確かめる手がかりが、ここにある。

止まった時計は、なぜ知識と呼べないのか

哲学は長く、知識を「正当化された真なる信念」と定義してきた。

pが真である。本人がpを信じている。信じる正当な理由がある。

三つがそろえば、本人はpを知っている。そんな考え方だ。

1963年、哲学者のエドマンド・ゲティアが、Analysis誌に3ページの論文を出した。定義に反例を突きつける論文だった。

ゲティア問題と呼ぶ反例が、定義の足りなさを示した。よく使うたとえが、止まった時計である。

ある人が、いつも正確な時計を見て時刻を言った。言った時刻は正しかった。

時計は、前の晩から止まっていた。

信じた中身は真。時計を見たという理由も、ふだんなら正当だ。

それでも、時計を見た人が時刻を知っていた、と言ってよいか迷う。

理由と真実が、偶然つながっただけだからだ。

止まった時計を見て言った時刻がたまたま正しくても、理由と真実が偶然つながっただけなので、知識と呼ぶべきか迷います

結果だけで褒める組織で、何が起きるか

仕事の予想にも、同じ形がある。ある会社が、需要が伸びると読んで投資した。

売上は伸びた。伸びた理由は、読みの外にあった競合の撤退だった。

結果だけを見て予想を表彰する組織は、止まった時計を正確な時計として壁に掛け続ける。

止まった時計も、一日に二回は合う。

壁の時計を信じて、次の予定を組む。今年の予算も、止まった時計の針に合わせて組むことになる。

理由を、結果の前に命題で書く

手当ては、予想の理由を命題に分けて、先に書くことだ。理由の命題は、たとえば次の文になる。

「市場は今後3年で年率10%以上伸びる」。「競合の新規参入はゼロ」。

結果が出たら、結論の当たり外れの次に、理由の命題ごとの当たり外れを確かめる。

結論が当たり、理由が外れていた。教訓の欄には、運がよかった、と書く。

予想の理由を命題として先に書き、結論が当たったとき理由も当たっていれば分かっていた、理由が外れていれば運がよかったと見分けます

AIの答えが当たったときも、同じ形がある。

分かっていた答えか、たまたまの答えか。理由の命題を読めば、見分けがつく。

手順は三つある。

一つ目に、AIに予想を頼むとき、理由を一行ずつの命題で出させる。

二つ目に、返ってきた命題を、予想の記録と一緒に保存する。

三つ目に、結果が出た月に、命題を一行ずつ当たりと外れに分ける。

次の文面のかっこの中を、自分の予想に書き換えて使える。

(例:来期の新製品の需要)について、予想と理由を出してください。
理由は、真か偽かを後から確かめられる文にして、一行に一つずつ書いてください。
各行に、確かめる時期と、確かめに使う数字を添えてください。

拍手の前に、読むべき欄があった

理由が外れた当たりは、運がよかった、と記録する。

拍手を送る前に読むべきだったのは、理由の欄だった。

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