研修の準備をしていた担当者が、新しい補助金の要綱をAIに渡した。「小学生にもわかるように説明してください」。
AIは、短くて明るい説明を返した。
担当者は説明を読み、申請の段取りを組んだ。
翌週、要綱を読んだ経理の担当者が言った。「対象は、一定の規模以上の会社に限られています」。
規模の条件は、易しい説明から消えていた。
易しい説明は、なぜ肝心の一行を落としたのか。
易しい説明から消える四つのもの
段取りを組んだ後で条件が分かれば、段取りは組み直しになる。経理のひと言がなければ、申請の当日まで気づかなかったかもしれない。
易しい説明は、筋だけを残して、決めるのに要る中身を落とす。
落ちる中身は、四つに分かれる。条件、例外、数字の幅、用語の厳密さだ。
一定の規模以上に限る、という条件が落ちる。経理の担当者が拾ったのは、一つ目の条件だった。
こういう場合は除く、という例外も落ちる。
三割から五割という幅は、だいたい半分に丸まる。
法律や会計で別物の言葉は、一つの言葉にまとまる。
易しく話す人とAIは、どこが違うのか
人については、易しく説明できれば理解している、という言い方がある。
易しく話す人は、核心と肉付けを自分で見分けている。
人は、省いた中身を覚えている。聞かれれば、省いた条件を言い足せる。
大規模言語モデル(LLM)は、大量の文章から、易しく言い換える型を学んでいる。
易しい文章を書けるのは、言い換えの型をよく知っている印だ。
AIは、自信のある口調で言い切る。省いた中身は、説明の外に残ったままになる。
縮尺の小さな地図は、崖を省いて描く。地図だけで登山の計画を立てた人は、現地で崖に出会う。
全体像をつかむだけなら、細部を省いた説明のほうが早く頭に入る。
省いた中身が効いてくるのは、説明をもとに何かを決める場面だ。
続けて尋ねるひと言で、消えた条件が戻ってくる
プロンプトを二段にする。一段目で、易しく説明させる。
二段目で、省いた条件、例外、数字の幅、用語の厳密さを挙げさせる。
次の文面のかっこの中を、自分の資料に書き換えて使える。
(例:添付した補助金の要綱)を、小学生にもわかるように説明してください。
説明のあとで、いまの説明で省いた条件、例外、数字の幅、用語の厳密さを、箇条書きで挙げてください。
尋ねる項目は、頼む前の一行で絞り込める。説明をもとに何を決めるかを、一行で書く。
申請するかを選ぶ場面なら、確かめる項目は対象の条件と例外だ。
補助金の担当者なら、一行目は「申請するかを決める」である。二段目の答えに、会社の規模の条件が載る。
自分の理解を確かめたいときは、役割を入れ替える。
AIが小学生の役で質問する。自分が答える。
あなたは小学生です。これから私が(例:補助金の申請の流れ)を説明します。
気になったところを、一つずつ質問してください。
段取りを組む前に、何を確かめるのか
申請の段取りは、規模の条件を確かめてから組む。
易しい説明を受け取ったら、決める前に、省いた四つを続けて尋ねる。
経理の担当者のひと言は、二段目のプロンプトがあれば一週間早く得られた答えだった。
拙著『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』の5章2節「学習」に、この記事の考え方を書きました。読むと、易しい要約が自分の血肉になったのか、細部を落とした地図を手にしただけなのかを確かめられるようになります。
AIの答えが物足りないとき、疑うべきはAIか、自分の言葉か。
『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』
AIは言葉でしか動かない。プロンプトを暗記するのをやめ、構成要素に分解して、自分の言葉で意図を込める力を鍛える本です。
読み終えたとき、手元に残るもの
- 必須、任意、形式の三つに分けたプロンプトの構造
- 回答の質を変える、意図を込めた生きたプロンプト
- 発注と検収は人が担う、AIとの役割分担
- 章末の演習プロンプト26題
4刷重版。全国の大学図書館65館が所蔵しています(2026年10月時点)。

