AI導入の候補を探すときは、「何を自動化したいですか」と聞く前に、最近、仕事が止まった場面を一つ聞いてみてください。困りごとの具体例が分かると、AIで手伝える作業と、手順や役割を見直すべき問題を分けやすくなります。
本記事では、現場担当者への聞き取りから、検証する課題を一枚にまとめる方法を提案します。質問、記録欄、例は本記事で作成したものです。見積業務の例は架空であり、実在企業の調査結果ではありません。
「AIが欲しい」を課題の名前にしない
「AIで見積書を作りたい」は解決手段の希望です。見積書のどこに時間がかかるのかは、まだ分かりません。文章を書く時間、価格の確認待ち、承認のやり直しでは、必要な対策が違います。
ここではペインポイントを、業務の途中で本人が困っている具体的な場面として扱います。困りごとがあるだけで、有料サービスへの需要やAI導入の効果が証明されたことにはなりません。まず確認するのは、何が起き、誰にどんな影響が出たかです。
現場に聞く5つの質問
英国政府のユーザー調査ガイドは、誘導を避けた質問を使い、一般論より実際の出来事や具体例に注目するよう勧めています。この考え方を、AI導入前の聞き取りへ応用します。
1.最近、その仕事で困ったのはいつですか。
「いつも大変です」で終わらせず、直近の一件を選びます。思い出せない場合は無理に例を作ってもらわず、次に起きたときの記録を依頼します。
2.始まりから終わりまで、何をしましたか。
使った資料、相手とのやり取り、待った箇所を順に聞きます。「入力が面倒なのですね」と先回りして原因を決めないようにします。
3.どこで止まり、そのとき何が足りませんでしたか。
入力データがないのか、判断基準がないのか、承認者から返事がないのかを分けます。担当者の能力不足と決めつけず、作業の条件を確認します。
4.その場をどう切り抜けましたか。
別の表へ転記した、過去のメールを探した、同僚へ聞いたなど、実際の対処を残します。すでに機能している工夫は、新しい仕組みでも残すべき要件になる場合があります。
5.何が変われば、楽になったと判断できますか。
作業時間だけでなく、確認漏れ、やり直し、待ち時間も候補にします。数字が分からなければ推測で埋めず、何を記録すれば判断できるかを決めます。
一枚のメモには、事実と仮説を分けて書く
架空の見積業務では、次のように整理できます。これは記入例であり、標準時間や改善効果の目安ではありません。
対象の一件:昨日依頼された追加部品の見積。
本人の説明:価格を確認するため、過去のメールを探した。
まだ分からないこと:探した時間、同じ問題の発生頻度、価格表が使えなかった理由。
仮説:最新版の価格情報へたどり着きにくい。
次に確かめること:次の見積で、参照した資料と探し始め・終わりの時刻を記録する。
「本人がそう話したこと」と「記録で確認できたこと」も別です。聞き取りは原因の候補を見つける材料になりますが、頻度や時間を正確に測る代わりにはなりません。一人の一件を、部署全体の傾向へ広げないようにします。
AIに任せるのは、記録の整理から
最初の使い方は、聞き取りメモの整理です。組織で利用が認められた環境と情報の範囲で、次のように依頼します。氏名や取引条件など、整理に不要な情報は取り除きます。
「以下の聞き取りメモを、本人の発言、確認済みの事実、原因の仮説、不足情報、次に確かめることに分けてください。元の記述を示し、書かれていない時間や頻度は不明としてください。複数の解釈がある場合は残してください。解決策をAIの導入に限定しないでください。」
整理結果は原文と照合します。AIが「毎回」「多くの担当者」と書き足していたら、その根拠を探します。原文に根拠がなければ削ります。読みやすくまとまったことと、内容が確かになったことは別です。
導入判断の前に、小さく確かめる
例の原因が価格情報の散在なら、参照先を一つに案内するだけで改善するかもしれません。必要な資料は揃っていて比較に時間がかかるなら、AIによる整理を試す余地があります。価格そのものが未承認なら、文章生成だけでは解決しません。
試行前に、対象作業、比較方法、確認者、やめる条件を決めます。早く終わっても確認漏れが増えたなら、成功とは扱わないという判断も必要です。聞き取りメモを、AIを買う理由ではなく、次に何を確かめるかを決める資料として使ってください。
概念や分類を広く確認したい方は、ペインポイントの包括的ガイドも参照できます。本記事は、導入候補を探す最初の聞き取りと、その記録に対象を絞っています。
参考資料
GOV.UK Service Manual:Using in-depth interviews(2026年9月12日確認)。質問の中立性と具体例を聞く原則を参照しました。5つの質問、見積業務の例、AIへの依頼文は本記事の提案です。






