資料を集めるほど決められなくなる人の共通点:百件の切り抜きを前に、提案の欄は白紙のままだった

担当者が、新規事業の資料集めに二週間をかけた。机の上には、ニュースの切り抜きと報告書が百件たまった。

会議の前日。提案の欄は、白紙のままだった。

百件もあれば、材料は十分に見える。では、二週間で何が増え、何が増えなかったのか。

百件と二週間に起きていた、三つの過剰

多くの人は、情報が多いほど安心だと考える。

過剰なインプットは、処理できる量を超える情報や刺激を、悪い時機に受け取ることだ。形は三つある。

一つ目は、量の過剰。短い時間に、大量の情報を浴びる。

冒頭の机の百件が、量の過剰にあたる。

二つ目は、質の過剰。恐怖や怒りを強く揺さぶる刺激や、互いに矛盾する情報が同時に来る。

三つ目は、時機の過剰。休む時間と整理する時間の前に、次の情報が入ってくる。

集める時間だけが二週間続いたなら、冒頭の机は時機の過剰も抱えていた。

大量の情報が流れ込むと、大事なものを見逃す。教育心理学者スウェラーの認知負荷理論は、作業記憶の容量に限りがあると説明する。

読むほど増えたのは、正しさより自信だった

情報を足すと、何が起きるのか。心理学者オスカンプが1965年に発表した、古典的な実験がある。

臨床心理士や心理学の学生など計32人が、ある男性の事例資料を読んだ。

資料は四つに分けて渡した。一区切り読むごとに、同じ質問に答えてもらった。

最初の区切りの後、正答率は26%で、自信の平均は33%だった。

読み進めても、正答率に目立った伸びは出なかった。伸びたのは、自信のほうだ。

最後の区切りでは、9割を超える人が自信過剰になっていた。

完璧な情報を求めて集め続けると、実行が遅れる。分析ばかりで動きが止まる状態を、分析麻痺と呼ぶ。

百件を集めても、正しさは増えない。では、集める前に何を決めればよかったのか。

献立を決めてから買い物に行く人は、何が違うのか

献立を決めずに買い物に行くと、冷蔵庫からあふれるほど買い込む。献立を先に決めると、買う物が決まる。

カラクリは単純だ。冒頭の担当者に足りなかったのは情報の量より、何を決めるために読むかという問いである。

読む量を減らす確かな方法は、我慢より先に、問いを立てることだ。問いが決まると、捨てる情報が決まる。

百件の山は、四つの箱で崩す

問いが決まったら、情報を四つに分ける。確かめられる事実、誰かの意見、出どころが不明の噂、決定の材料の外にあるゴミだ。

見出しと出どころを見れば、噂とゴミの多くは読む前に外せる。残った事実と意見だけを、決定の材料として扱う。

情報を事実、意見、噂、ゴミの四つに分け、事実と意見を決定の材料として残し、噂とゴミの多くは読む前に外します

冒頭の百件も、四つの箱に分けてから読む。読むのは、事実と意見の箱に残った分だけになる。

読む時間も区切る。取り込む時間の後に、整理する時間を残す。

白紙の欄の一行目は、二週間前に書けた

百件を集めた二週間で増えたのは、切り抜きの数だった。増えなかったのは、何を決めるために読むかという一文である。

冒頭の百件も、二週間前に問いを一文書いていれば、白紙の欄に一行目が入っていた。

出典

拙著『GoogleのAI NotebookLM 意思決定の強化書』は、資料を事実、意見、噂、ゴミに仕分け、根拠、前提、結論を組み立てる方法を扱います。社内の研修や講演で取り上げたい場合は、講演と研修の案内をご覧ください。

著者プロフィール・お問い合わせ