投資の勉強会で、参加者が記事の見出しを読み上げた。「ChatGPTが選んだ銘柄が、8週間でプロのファンドを上回った」。
報じられた数字は、8週間で4.9%。発表元Finderの資料をたどると、同じ期間の数字は0.48%だった。
比べた相手は、英国の主要な投資ファンド10本の平均。計算に、手数料も税も入っていなかった。
AIに銘柄を選ばせれば、プロに勝てるのか。
では、見出しはどう読めばよいのか。
市場平均を上回った、の正体は条件付きの勝利だ
カラクリは単純だ。見出しには、期間、比べた相手、費用という三つの前提が隠れている。
三つを外して読むと、見出しは事実の形をした噂になる。
噂を信じて売買すれば、何が起きるか。
この成績の計算に入っていなかった手数料と税が、実際の売買では必ずかかる。成績は、その分だけ下がる。
運動会の徒競走で一位になった子は、同じ組の五人に、当日の一回の走りで勝った子である。
市場平均を上回った、という言葉も同じ形だ。決まった期間に、決まった相手と、決まった費用の扱いで比べたときの結果である。
見出しの数字が言えるのは、決まった条件のもとで勝ったことだけだ。
イギリスの金融サイトFinderは2023年3月、ChatGPTに投資信託の手法を学ばせた。ChatGPTが選んだ38銘柄で、理論上のポートフォリオ(銘柄の組み合わせ)をつくった。
Finderの発表資料では、リターンは8週間で0.48%。英国で人気の投資ファンド10本の平均、0.78%のマイナスを上回った。CNNなどの報道は、同じ結果を4.9%と0.8%のマイナスとして伝えた。出所によって、桁が一つ違う。
Investopediaの実験では、GoogleのBardとMicrosoftのBingチャットに銘柄を選ばせた。
Bardの組み合わせは、3週間で5.15%伸びた。S&P500などを上回る成績である。
見出しのどこに、三つの前提が隠れているか
期間は、8週間と3週間。比べた相手は、特定の10本のファンドや一つの指数だ。
理論上のポートフォリオなので、手数料や税はゼロで計算している。
3週間の成績で銘柄選びの腕を測る。サイコロを三回振って、出目の良かった人を名人と呼ぶのに近い測り方だ。
勝ったという事実は本当である。次も勝つという推論には、別の根拠が要る。
AIは相場に強い、という一言は、次も勝つという結論の大前提に置かれる。
大前提の出どころは何か。短い期間の観察から一般化した帰納である。
研究の数字にも、研究者自身が付けた条件がある
短い実験だけの話ではない。
米フロリダ大学のLopez-Liraらは、ニュース見出しをGPT-4に読ませた。翌日の株価にとって好材料か悪材料かを、GPT-4が見分ける。
見分けた結果にもとづく売買戦略を、2021年10月から2023年12月まで検証した。累積リターンは、市場平均を大きく上回ったと研究者は報告している。
数字は、取引コストなどを計算の外に置いた、研究上の数字だ。
論文の改訂版は、取引コストを差し引いた計算も載せている。売りと買いの往復で0.2%のコストを差し引くと、戦略は利益を出せなくなった。
費用を差し引いた後も、長い期間にわたって勝ち続けられるか。現時点の研究では、未確定である。
研究者でさえ、確かめきれていない。勉強会で読み上げた見出しは、研究より短い期間で、費用をゼロにした数字だった。
AIの使い方はここで差がつく。当てるより、集めて比べる
生成AIを米国株投資に使うなら、当てさせるより、集めて比べる仕事を任せる。
個人の投資でも、ニュースの要約、決算の読み方、資産配分の考え方の整理は、AIに任せられる。
AIは、学習時点より新しい情報や数値を誤ることがある。元記事の日付や数値の出所は、自分で確かめる。
手順は三つ。記事を貼る。
三つの前提を表にさせる。
空欄の残る見出しを噂として扱う。
AIの成績をうたう記事も、AIに三つの前提を抜き出させてから読む。次のプロンプトのかっこの中を、自分の材料に書き換えて使える。
次の記事の見出しにある成績を、三つの前提に分けて表にしてください。
記事:(例:AIが選んだ銘柄がファンドを上回った、という記事を貼る)
列:期間、比べた相手、手数料や税の扱い、数値の出典
お願い:記事に記載のある項目だけを埋め、ほかは「記載なし」と書いてください。
「記載なし」の列が残る見出しは、噂として扱う。
何を比べるかを決めるのは、自分だ。売買の時期も、自分で決める。
見出しを読み上げる前に、何を確かめるか
AIの成績をうたう記事は、AIに三列を抜き出させてから読む。日付と数値の出所を自分で確かめてから、売買の時期を決める。
報道では8週間で4.9%、発表元では0.48%。勉強会で読み上げるべきだったのは、数字の後ろに隠れた三つの前提だった。
拙著『ChatGPTではじめるAI株式投資』の1章5節に、AIの誤りのパターンと、固有名詞、日付、単位を確かめる1分チェックを書きました。投資助言の本ではありませんが、読むと、AIの答えや数字をどこから確かめるかを自分で考えられます。
情報を集めるほど、判断がぶれるのはなぜか。
『ChatGPTではじめるAI株式投資』
成果を分けるのは、投資の軸の有無。AIを予言者ではなく壁打ち相手にして、自分の価値観を芯、軸、ルールの三段で言葉にする本です。
読み終えたとき、手元に残るもの
- やらないことまで書いた、自分の投資の軸
- スクリーニング、売買、ポートフォリオの三つのルール
- AIの知ったかぶりを見抜く1分チェック
- 失敗を次の判断に変える感想戦
本書は投資助言を行いません。特定の銘柄を勧める本ではありません。
出典
- ChatGPT Built a Stock Portfolio That’s Outperforming Top UK Funds(Markets Insider)
- ChatGPT investment fund press release(Finder、2023年5月2日)
- ChatGPT can pick stocks better than your fund manager(CNN配信、KSL掲載、2023年5月5日)
- Battle of the Bots: Which AI is Better at Picking Stocks?
- Can ChatGPT Forecast Stock Price Movements? Return Predictability and Large Language Models(arXiv)
- Morgan Stanley Research Announces AskResearchGPT
- One in five investors report using AI chatbot in the past year(Ipsos)

