新規事業の案を並べた会議の後だった。課長がAIに一文で頼んだ。
「新規事業の案を評価してください」。
返ってきたのは、市場性、収益性、実現性を並べた一般論だった。
課長は、同じ依頼を三回送った。
三回とも、答えは一般論。観点の粒度は、粗いままだった。
一般論の評価では、どの案を進めるかは決まらない。四回目に、課長は何を送ればよいのか。
一度で解けない問いは、同じ形に分けて解く
カラクリは問いの大きさにある。大きな問いは、一度に渡しても解けない。
同じ形の小さな問いに分ければ、解ける。手本は、階乗の計算にある。
5の階乗は、5に4の階乗を掛けた数だ。答えを求める式の中に、一回り小さな同じ問題が入っている。
小さな問題を同じ方法で解いていく考え方を、再帰(recursion)と呼ぶ。
分割は、答えがすぐに出る底に着いたら止める。底の名前は、基本ケース(base case)だ。
4の階乗は、4に3の階乗を掛けた数である。同じ形で小さくしていくと、1の階乗に着く。
1の階乗は1と決まっている。分割は、1の階乗で止まる。
止まった後は、戻りながら掛け算を積み上げる。
答えは2、6、24と増える。5の階乗は120。
では、止めどころを決めずに分けると、何が起きるのか。
止めどころのない分割で、何が起きるか
シダの葉では、小さな葉の形が、葉全体の形と似ている。
ブロッコリーでは、小さな房が、全体の房と同じ形を繰り返す。
部分が全体と似た形を持つ図形を、フラクタルと呼ぶ。部分と全体が似る性質は、自己相似性だ。
コッホ曲線は、再帰で作る図形である。
まず直線を3等分する。中央の3分の1を、同じ長さの2辺でできた山形に置き換える。
線分は4本になる。4本の線分にも、同じ操作を施す。
一回ごとに、長さは4/3倍になる。繰り返すほど、長さはどこまでも伸びる。
ところが、曲線が囲む面積は、有限の値にとどまる。
止めどころのない再帰では、線の長さが伸び続ける。階乗の分割が1で止まるのとは、逆の姿である。
課長の依頼にも、止めどころが書かれていなかった。どこまで細かく見るかを、AIは知らない。
コッホ曲線なら、線は伸び続ける。課長の依頼では、分割は最初の一段で止まった。
市場性、収益性、実現性の三つを並べて、答えは終わった。三回とも、同じ一段目である。
AIの答えは、止めどころを書いた依頼で変わる
大きな問いを一度に渡すと、AIの答えは一般論に寄る。
課長が三回送っても変わらなかったのは、問いの大きさが三回とも同じだったからだ。
問いを、同じ形の小さな問いに分ける。小さな問いの答えを、下から積み上げる。
階乗が1の階乗で止まるように、問いの分割にも止めどころを置く。
課長の一文を、四行に書き直してみる。かっこの中を、自分の問いに書き換えて使える。
(例:新規事業の案)を評価します。
1. 評価に要る観点を三つに分けてください。
2. 観点ごとに、確かめられる質問に分けてください。
3. 質問が、はいかいいえで答えられる粒度になったら、分割を止めてください。
4. 最後に、質問への答えを観点ごとに積み上げて、評価をまとめてください。
番号の1と2が分け方、3が止めどころ、4が積み上げ方である。
止めどころを書いた依頼なら、答えは、確かめられる粒度まで下りてくる。
はいかいいえで答えられる粒度は、使いやすい止めどころだ。
四回目に送るもの
課長が三回送ったのは、止めどころのない一文だった。
四回目に送るべきは、同じ一文ではない。止めどころを書いた、四行のプロンプトである。
拙著『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』を読むと、問いを分け、条件を決め、返す形を指定するという組み立てを、日々のプロンプトで使えるようになります。社内の研修や講演で取り上げる場合は、講演と研修の案内をご覧ください。
