プログラムは、分からないことがあると止まります。AIは、分からないことがあると、それらしく埋めて最後まで仕上げます。プログラミングとプロンプトの違いは十項目の一覧にできますが、芯にあるのはこの一点、曖昧さをどう扱うかです。この記事では、一覧の項目がこの性質から出てくることを示し、答えの揺れの多くは指示の曖昧さが表に出たものだという見方と、そこから導く指示の書き方を整理します。
十項目の一覧は、二つの性質から出てきます
| 項目 | プログラミング | プロンプト |
| 入力形式 | プログラミング言語のコード | 自然言語による指示文 |
| 実行環境 | コンパイラやインタプリタ | 大規模言語モデル(LLM) |
| 必要なスキル | 文法とアルゴリズムの知識 | 明確な指示と、AIの特性の理解 |
| 出力の決定性 | 同じ入力には同じ出力 | 同じ入力でも出力が変わりうる |
| エラー処理 | エラーメッセージや例外で知らせる | エラーの概念がなく、不適切な出力がありうる |
| 柔軟性 | 厳密な文法に従う | 自然言語で柔軟に指示できる |
| 開発サイクル | 設計、コーディング、テスト、デバッグ | 作成、結果の確認、改善 |
| 主な用途 | ソフトウェア開発、システム制御 | 文章生成、質問応答、作業の自動化 |
| 処理速度 | 一般に高速 | モデルや入力の複雑さによる |
| 再現性 | 高い | 低い |
項目は十ありますが、多くは二つの性質で説明できます。一つは、プログラムが厳密な文法を求め、プロンプトは自然言語を受け付けること。もう一つは、プログラムは書かれていないことを実行できず、プロンプトは書かれていないことを補って実行することです。柔軟性も、エラー処理も、再現性も、この二つの言い換えです。
答えの揺れの正体は、多くの場合、指示に空いた穴です
一覧では、決定的か非決定的かが最大の違いとして語られがちです。たしかに生成AIは同じ指示でも答えが変わりえます。ただ、プログラムにも、乱数を使う処理や、複数の処理を同時に走らせる処理のように、毎回結果が変わるものはあります。決定性は、両者を分ける芯ではありません。
先月の売上を集計して、と頼んだとします。税込か税抜か、返品を差し引くか、月の締めは何日か。プログラムなら、これが決まらなければ書きようがなく、存在しない列を指定すればエラーで止まります。AIは止まりません。どれかを推測で選び、表を整えて返します。次に頼んだときに別の推測を選べば、答えが揺れたように見えます。揺れたのは乱数ではなく、指示の穴です。
AIの答えが毎回違うと嘆く会議で配られる指示文は、たいてい二行です。二行では穴の数が多すぎて、AIは毎回違う穴を違う推測で埋めるしかないからです。揺れを減らしたいなら、モデルを替える前に、推測されたら困る所を数えて書き足します。
エラーが出ないことは、うまくいった証拠ではありません
プログラムでは、コンピューターが誤りを知らせてくれます。プロンプトでは、指示が不十分でも、AIは整った答えを返します。答えが目的に合っているかを確かめるのは人の仕事です。
エラーが出ないことを成功と読むのは、苦情が来ないから顧客は満足している、と読むのと同じです。静かなのは問題がないからではなく、問題を知らせる仕組みがないからです。だからプロンプトでは、テストの役を、頼む前に決めた合格の基準に担わせます。合計が会計システムの数字と一致すること、のように、確かめられる形で書いておきます。
推測されたくない所と、合格の基準を先に書きます
前提を渡さないとき、AIは手持ちの一般的な知識で空白を埋めます。拙著では、前提を四つに分けて書き出します。売上集計なら次のようになります。
- 対象:先月とはいつからいつまでか。どの店舗の売上か
- 目的:経営会議の資料か、店長への連絡か
- 制約:税抜で集計する。返品は差し引く
- 評価基準:合計が会計システムの数字と一致すること
四つを書いても、言い回しは揺れます。それは構いません。困るのは数字や判断が揺れることで、それは四つのどれかが空いている合図です。もっとも、どこまで書けば揺れが止まるのかは、書く前には分かりません。書いて、走らせて、揺れた所を見るしかない部分が残ります。
ただし、この見方が当てはまらない場面もあります。企画の案出しやキャッチコピーのように、毎回違う答えが欲しい作業では、揺れは穴ではなく価値です。その場合は穴をふさぐのではなく、どの範囲なら揺れてよいかを決めて渡します。
あなたがAIに頼んでいる作業のうち、揺れて困るのはどれで、揺れてほしいのはどれでしょうか。揺れて困る作業の指示文に、税込か税抜かのような、当たり前すぎて書いていない前提はいくつ残っているでしょうか。
この記事の背景にある考え方は、拙著『GoogleのAI NotebookLM 意思決定の強化書』の1章1節「意思決定の構造と前提の要素」に書きました。判断を根拠、前提、結論の三層に分け、前提を対象、目的、制約、評価基準の四つで言葉にする、という話で、前提の空白は人でもAIでも手持ちの知識で補われ、AIの場合はそれがハルシネーションや当たり障りのない一般論につながる、と書いています。そこには「本書全体を貫くのは「前提が結論を決める」という主張です。」とあります。この節を読むと、AIの答えが揺れたときに、AIの気まぐれを嘆く前に、四つのうちどれを自分が書かずに渡したのかを探せるようになります。
同じ資料を見ているのに、なぜ結論が割れるのか。
『GoogleのAI NotebookLM 意思決定の強化書』
前提が結論を決める。意思決定を根拠、前提、結論の三層に分け、前提を対象、目的、制約、評価基準の四つで言葉にする本です。
読み終えたとき、手元に残るもの
- 意思決定の設計図になる前提リスト
- 資料を事実、意見、噂、ゴミに仕分けるFORT
- 同じ物差しで比べる選択肢表と採点表
- 始める条件と止める条件を書いた決定書
NotebookLMは2026年7月にGemini Notebookへ名称が変わりました。本の手法は、使うAIの種類を問いません。

