AI臭の消し方:違和感の正体は、語彙ではなく係り受けと前提にある

生成AIが書いた文章には、独特の違和感があります。読んだ人は「AIっぽい」と言いますが、どこがAIっぽいのかを説明できる人は少数です。本稿では、この違和感を「AI臭」と呼び、その正体を文法のレベルまで分解します。正体が言葉になれば検査できます。検査できれば、消せます。

多くの人は、AI臭の原因を語彙だと考えます。「〜を実現します」「重要なポイントは」といった言い回しを削れば消える、という発想です。語彙の置き換えは表面の対処にすぎません。言い回しを整えてもなお残る違和感があり、そちらが本体です。本体は構造、つまり係り受けと前提にあります。

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例文:一見きれいで、どこか気持ち悪い

ある書籍原稿の初稿に、次の一文がありました。章の扉に置く、読者が最初に目にする文です。

モヤモヤがあるときは、今日のランチ選びからはじめます。決める流れを一度やってみましょう。

誤字はありません。敬体も整っています。それでも読者はここで引っかかります。なぜかを、三つの検査で説明します。

AI臭を見つける三つの検査:主語の一貫性、前提の導入、述語の項
AI臭を見つける3つの検査

検査1:省略された主語を補い、係り受けのズレを見つける

日本語は主語を省略できます。ただし、省略された主語が消えるわけではありません。読者は文の各節に主語を補いながら、係り受けを解決して読み進めます。書き手が節ごとの主語を想定せずに書くと、この解決が失敗します。

例文に主語を補うと、こうなります。「(あなたに)モヤモヤがあるときは、(本書が?あなたが?)今日のランチ選びからはじめます。(私たちで)やってみましょう」。条件節の主語は読者の状態なのに、主節の動作主は本なのか読者なのか決まらないまま、次の文では「私たち」に化けます。ひとつの読点の前後で、動作主が無断で入れ替わっているのです。

AIがこれを平気で書く理由は、生成の仕組みにあります。AIは局所的に自然な句をつなぎます。「モヤモヤがあるときは」も「はじめます」も「やってみましょう」も、句としてはどれも自然です。しかし、節をまたいで主語を一貫させる責任は誰も負っていません。人間の読者は、理由を言えないまま、この継ぎ目で軋みを感じます。

「〜します。〜しましょう」と、断定と勧誘で二度着地する文も同じ症状です。誰の動作かを決めていないから、声も決まらないのです。

検査2:読者が持っていない前提に、文を載せない

例文の「決める流れを一度やってみましょう」には、もうひとつ欠陥があります。「決める流れ」という言い方は、その流れがすでに読者に知られていることを前提にしています。しかし、これは書籍の冒頭です。読者は前提も文脈も持たない、まっさらな状態です。既知のはずのものを指されて、読者は「???」となります。

前提は、借りるものではありません。文が自分で運んでくるものです。運搬の手段は昔からそろっています。「〜があります」という存在文で新しいものを導入する。「〜と呼びます」という定義文で名前を与える。「〜という」で役割をその場で名づける。冒頭や新しい概念の導入部では、この運搬をさぼった文がそのままAI臭になります。

検査3:述語の項を数え、すべて埋める

私は文章術として述語主義を採っています。文の品質は述語で決まる、という立場です。ただし述語は、項が確定して初めて磨けます。項とは、その述語が要求する「誰が」「何を」「どこへ」です。

主語がグラグラのまま書くと、述語は誰にでも係る汎用動詞へ逃げます。「する」「行う」「進める」「図る」です。AIの文章が「実施します」「進めていきます」だらけになるのは、文体の癖である以前に、動作主にコミットしていない症状です。逆に、主語を「あなた」と確定すれば「たどり着けます」と書け、主語を「条件」と確定すれば「固まっていきます」と書けます。述語の工夫は、主語の確定の上にしか立ちません。

目的語も同じです。修正の途中で、章扉をいったん「決める練習は、今日のランチ選びからはじめましょう」と直しました。一見よくなりましたが、「決める」は「何を」を要求する述語です。「決める練習」では目的語が空いたままで、冒頭の読者にはそれを補う文脈がありません。主語を直しても、項がひとつ欠ければ違和感は残ります。

直した文:前提を運び、項を埋め、着地を一本にする

三つの検査をすべて通した最終版が、これです。

悩んでいるときや困ったときにも前に進めるやり方があります。今日のランチ選びという身近な題材で練習してみましょう。

一文目は存在文です。「やり方があります」が、新しいものを新しいものとして導入し、前提を自分で運んでいます。主語は一貫して読者です。「にも」の一字が、行き詰まりへの共感を担っています。二文目の「という」は、ランチ選びの役割(題材)をその場で名づけ、「練習してみましょう」の目的語は直前の「やり方」で回収済みです。着地は勧誘一本。どの節の項も埋まっており、読者が補えないものは何もありません。

運用:4ステップの検査は、AIにも教えられる

検査は機械的に回せます。手順は四つです。

AI臭を消す4ステップ:述語、項、前提を確認して書き直す流れ
AI臭を消す4ステップ

第一に、文ごとに述語を見つけます。第二に、その述語が要求する項を数えます。誰が、何を、どこへ。第三に、各項が文中か直前の文脈で埋まっているかを確かめます。省略はかまいません。読者が一意に補えるなら、その省略は正しい省略です。第四に、埋まらない項や未導入の前提が、冒頭や新概念の導入部にあれば書き直します。

この手順は、そのままプロンプトにできます。生成AIに文章を書かせたあと、「各文の述語の項を数え、埋まっていない項と、読者が持っていない前提を指摘せよ」と検査させれば、AI自身にAI臭を拾わせることができます。文章をAIで量産する時代に差がつくのは、生成の速さではなく、この検査眼です。

インディ・パは、生成AIの業務活用支援と、AIを使った文書作成・意思決定の研修、執筆支援を手がけています。自社の文章からAI臭を消したい、AI活用の型を社内に定着させたいという方は、お問い合わせください

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