LLM以降のAIエージェント史――「答えるAI」から「仕事を進めるAI」へ

生成AIの変化を追うとき、モデルの性能やサービス名だけを見ていると本質を見失う。LLM以降の大きな変化は、AIが文章を返すだけの存在から、外部の道具を使い、結果を確認しながら作業を進める存在へ変わったことにある。

AIエージェントとは、目的を受け取り、手順を組み立て、必要な道具を使い、結果を見て次の行動を選ぶ仕組みである。その歴史を2022年以降に絞って整理する。

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2022年|思考と行動を一つの循環にしたReAct

転機の一つが、2022年に公開された研究「ReAct」である。ReActは、LLMによる推論と、外部環境に対する行動を交互に進める方法を示した。

基本形は「考える → 行動する → 結果を見る → 考え直す」という循環である。検索を例にすれば、AIは最初の検索結果を読んで終わらない。結果が足りなければ検索条件を変え、追加情報を集め、回答を組み直す。

重要なのは、最初に立てた計画をそのまま実行するのではなく、途中の結果によって次の行動を変えられる点である。現在のLLM型AIエージェントの基本構造は、この循環にある。

2023年|外部ツールを使うAIが広がった

2023年には、LLMが検索、電卓、データベース、APIなどを使う研究と実装が広がった。

同年に発表されたToolformerは、言語モデルが、どのAPIを、いつ、どの引数で呼び出すかを学べることを示した。LLM単体が苦手とする正確な計算や最新情報の取得を、外部ツールで補う考え方である。

同じ時期には、Auto-GPTなど、与えられた目標を複数の作業へ分解し、連続実行を試みる仕組みも注目された。一方で、同じ処理を繰り返す、誤った前提を修正できない、処理時間や費用が膨らむといった問題も明らかになった。

ここで分かったのは、自律性を高めれば、そのまま実用性も高まるわけではないということである。目的、停止条件、確認方法を人間が設計しなければ、AIは動けても仕事を完了できない。

2024年|APIから画面操作へ

2024年には、AIエージェントの行動範囲がAPIからパソコンの画面へ広がった。

Anthropicは同年10月、Claudeの「computer use」を公開ベータとして発表した。AIが画面を見て、カーソルを動かし、ボタンを押し、文字を入力する仕組みである。

API連携では、サービスごとに専用の接続口が必要になる。画面操作型のエージェントは、人間向けの画面をそのまま操作できるため、専用APIがない業務ソフトも対象にできる。ただし、画面の変化や例外に弱く、誤操作の危険もある。低リスクの作業から始め、重要操作の前に人間が確認する設計が欠かせない。

2025年|エージェントを業務へ組み込む基盤が整った

2025年には、検索、ファイル参照、コンピューター操作、複数ステップの実行を一つの基盤で扱う動きが進んだ。

OpenAIは同年3月、Responses API、Web Search、File Search、Computer Use、Agents SDKなど、エージェント構築のための部品を発表した。単発のデモではなく、実際の業務システムへ組み込むための観測、制御、連携が重視される段階に入った。

調査、資料作成、プログラミング、顧客対応、社内情報検索などで利用が進む一方、完全自律よりも、定型的な流れとAIの判断を組み合わせる設計が現実的である。Anthropicも、実用例では複雑な仕組みより、単純で組み合わせ可能なパターンが有効だと報告している。

現在|チャットから作業環境へ

現在のAIエージェントは、独立した特殊製品というより、チャットAI、開発環境、業務ソフトへ組み込まれる機能になりつつある。

利用者は、個別の操作を一つずつ命令するのではなく、目的と制約を伝える。AIはファイルやウェブを読み、必要な道具を選び、作業を進め、成果物を作る。

AIツールを追う時代からAIエージェントに任せる時代への変化

変わったのは、AIの能力だけではない。人間の役割である。従来は、どのツールを選び、どう操作するかが中心だった。AIエージェント以降は、目的、範囲、接続するデータ、承認地点、完了条件を決める役割が中心になる。

AIエージェント登場前後における人間の役割の変化

実用性を決めるのは権限設計である

AIエージェントは、能力が高ければ安全に使えるわけではない。何を読めるか、どのアプリへ接続できるか、どこまで変更できるか、どの操作で人間の承認を求めるかによって、実用性と危険性が変わる。

したがって、導入時に見るべき対象は、モデルの性能だけではない。次の5点を一つの設計として扱う必要がある。

  1. 基盤エージェント|どのエージェントを仕事の入口にするか
  2. 接続先|どのデータやアプリにつなぐか
  3. 権限と承認|どこまで自動実行を許すか
  4. 結果の検証|出力や変更内容をどう確認するか
  5. 専門ツール|能力差が成果に直結する道具は何か
AIエージェント時代に重要な5つの観点

「回答から行動へ」が歴史の本線である

LLM以降の流れは、次のように整理できる。

  • 2022年|思考と行動を循環させる
  • 2023年|外部ツールを使う
  • 2024年|画面を操作する
  • 2025年|業務へ組み込む基盤が整う
  • 現在|チャットから仕事を進める環境へ移る

ただし、「何でも自律的に任せられる時代になった」と捉えるのは早い。AIは目的を理解したように見えても、前提の誤りや例外を完全には防げない。

AIエージェント時代に人間が手放すのは、細かな操作の一部である。目的の決定、権限の設定、重要場面の承認、結果の検証は、むしろ重要になる。

AIは「答えるもの」から「動くもの」へ変わった。次に問われるのは、どのAIが最も賢いかではない。どの仕事を、どの条件で、どこまで任せるかである。

参考資料

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