OIR法

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観察から始め、解釈し、もう一度観察する思考手順

OIR法とは、対象をまず観察し、そこから解釈を立て、その解釈を踏まえて再び観察することで、観察力と仮説形成の精度を高める手順である。

OIRは、

Observe:観察する
Interpret:解釈する
Re-observe:再観察する

の頭文字を取ったものだ。

日本語では、

観察 → 解釈 → 再観察

という順序になる。

OIR法の特徴は、最初に解釈へ飛びつかない点にある。人は何かを見た瞬間に、すぐ意味づけをしてしまう。「怒っている」「不安そうだ」「失敗している」「場の空気が悪い」といった判断は、観察というよりも解釈である。

OIR法では、その前にまず「何が見えるか」を確認する。
そのうえで「それは何を意味するか」を考える。
最後に、その解釈を持ったまま、もう一度対象を見る。

この順序によって、思い込みによる早すぎる判断を抑え、観察文の精度を高めることができる。

OIR法が必要な理由

観察と解釈は、しばしば混同される。

たとえば、ある人物を見て「怒っている」と言う場合、それは観察ではなく解釈である。観察として言えるのは、次のような内容である。

「眉間にしわが寄っている」
「口元が強く閉じられている」
「腕を組んでいる」
「相手から視線を外している」
「声の調子が低い」

これらの観察をもとに、「怒っているのではないか」と解釈する。

この区別は重要である。

観察を飛ばして解釈から始めると、自分の印象を事実だと思い込みやすい。反対に、観察を先に置くと、解釈の根拠が明確になる。

OIR法は、解釈を禁止する方法ではない。むしろ、解釈をより確かなものにするために、まず観察を置く方法である。

OIR法の手順

OIR法は、次の3段階で行う。

1. Observe:観察する

最初に、対象をできるだけ低推論の言葉で記述する。

ここでは、意味づけや評価を急がない。

「この人は不満そうだ」と言うのではなく、「腕を組んでいる」「発言していない」「視線が資料から外れている」と記述する。

「会議の空気が悪い」と言うのではなく、「質問が出ていない」「発言者が一部に偏っている」「決定事項の確認時に返答が少ない」と記述する。

この段階では、できるだけ見えるもの、聞こえるもの、確認できるものに近い言葉を使う。

2. Interpret:解釈する

次に、観察した内容が何を意味するのかを考える。

ここで初めて、仮説を立てる。

「参加者は議題に関心が低いのではないか」
「発言しにくい空気があるのではないか」
「意思決定者が不在なのではないか」
「情報共有が不足しているのではないか」

重要なのは、解釈を断定しないことである。解釈は、あくまで観察から導いた仮説である。

観察と解釈を分けておけば、「そう見えた」ことと「実際にそうである」ことを混同しにくくなる。

3. Re-observe:再観察する

最後に、立てた解釈を踏まえて、もう一度対象を見る。

再観察では、次のような問いを持つ。

「その解釈を支える観察はほかにあるか」
「逆に、その解釈に合わない観察はあるか」
「最初に見落としていた要素はないか」
「別の解釈は可能か」

たとえば、「参加者は議題に関心が低いのではないか」と考えたなら、再観察では、発言量だけでなく、メモの取り方、視線、質問の内容、会議後の行動などを見る。

その結果、最初の解釈が補強されることもあれば、修正されることもある。

この「もう一度見る」段階が、OIR法の重要な部分である。

VTSとの違い

OIR法は、VTSと関係が深い。

VTSとは、Visual Thinking Strategies の略で、絵画や写真などを見ながら、観察、解釈、対話を深める方法である。代表的な問いとして、「この絵で何が起きていますか」「どこからそう思いましたか」「ほかに気づいたことはありますか」がある。

標準的なVTSでは、「この絵で何が起きていますか」という問いから始まる。この問いは、単なる観察ではなく、暫定的な解釈を促す問いである。

その後、「どこからそう思いましたか」と問うことで、解釈を観察上の根拠に戻す。

一方、OIR法では、最初に「何が見えるか」を置く。

つまり、標準的なVTSが、

解釈 → 根拠確認 → 再観察

に近い流れを持つのに対して、OIR法は、

観察 → 解釈 → 再観察

という順序を取る。

この違いは小さくない。

VTSは、対話や意味づけを促す方法として有効である。
OIR法は、観察文を精密にし、早すぎる解釈を抑える訓練として有効である。

OIR法とアブダクション

OIR法は、アブダクションとも接続できる。

アブダクションとは、観察された事実をもっともよく説明する仮説を立てる推論である。

たとえば、「床が濡れている」という観察から、「水をこぼしたのではないか」「雨が吹き込んだのではないか」「清掃直後ではないか」と仮説を立てる。これがアブダクションである。

ただし、アブダクションの質は、最初の観察文の精度に左右される。

「床が濡れている」だけでは、仮説の範囲が広すぎる。

しかし、

「窓際の床だけが濡れている」
「天井には染みがない」
「窓が少し開いている」
「カーテンの端にも水滴がある」

という観察があれば、「雨が窓から吹き込んだ」という仮説が立てやすくなる。

つまり、OIR法はアブダクションそのものではない。
アブダクションに入る前に、観察文を精密化する手順である。

粗い観察から始めると、仮説は思いつきの列挙になりやすい。
精密な観察から始めると、仮説は観察によって制約される。

その意味で、OIR法は、アブダクションの前処理として有効である。

OIR法の活用場面

OIR法は、美術鑑賞だけでなく、さまざまな場面で使うことができる。

取材では、相手の発言だけでなく、沈黙、言いよどみ、表情、視線、話題の避け方を観察する。

会議では、発言者の偏り、質問の有無、参加者の反応、決定事項への反応を観察する。

文章を書くときは、対象を大きな言葉でまとめず、細部の違いを観察する。

データ分析では、平均値だけでなく、外れ値、変化点、分布、偏り、時系列のズレを観察する。

問題発見では、「うまくいっていない」とすぐ判断するのではなく、何が、どこで、どのように変化しているのかを観察する。

OIR法は、見る力だけの方法ではない。対象を根拠に基づいて考えるための思考手順である。

OIR法の注意点

OIR法では、観察と解釈を分けることを重視する。

ただし、観察と解釈を完全に切り離せるわけではない。人間は、何かを見た瞬間に、すでに何らかの意味づけをしている。

したがって、OIR法は「完全に無解釈な観察」を目指す方法ではない。

目指すべきなのは、早すぎる高次解釈を抑え、まず低推論の観察文を作ることである。

「怒っている」と断定する前に、「眉間にしわがある」「口元が閉じている」「視線が外れている」と見る。
「会議が停滞している」と判断する前に、「発言者が少ない」「質問がない」「決定事項への反応が弱い」と見る。

このように、解釈の前に観察を置くことで、判断の飛躍を減らすことができる。

まとめ

OIR法とは、Observe、Interpret、Re-observe の頭文字を取った観察力訓練の手順である。

日本語では、観察、解釈、再観察となる。

OIR法の目的は、解釈を禁止することではない。
解釈の前に観察を置き、解釈のあとに再観察を置くことで、観察文の精度と仮説形成の妥当性を高めることである。

VTSが対話や意味づけを促す方法だとすれば、OIR法は観察を先行させることで、推論の土台を整える方法である。

また、OIR法はアブダクションの前処理としても使える。観察文が精密になれば、そこから生まれる仮説も精密になる。

よい解釈は、よい観察から生まれる。
OIR法は、そのために「まず見る」「次に考える」「もう一度見る」という順序を明確にした方法である。

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