エルメス(Hermès)の戦略的コミュニケーション

広告の「不在」が築く、絶対的ブランド価値の研究

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エグゼクティブ・サマリー:広告のパラドックス

本レポートは、「エルメスはなぜ広告を出さないのか」という問いに対し、その核心的テーゼとして「エルメスは広告を『出さない』のではない。広告に『頼らない』のである」と提言する。

多くのラグジュアリーブランドがテレビ CM や大規模な雑誌出稿といったマス広告に巨額の予算を投じる中、エルメスは意図的に異なる戦略を採用している。その戦略とは、ブランド価値を伝達するために、広告という「主張」に代えて、「生きたメディア」を活用することにある。

本分析が指し示す「生きたメディア」とは、以下の要素で構成される。

  1. 体験(Experience): 顧客がブランドのルーツや世界観に没入できるイベント 1
  2. 文化(Culture): 製品とは直接関係のない、純粋な芸術支援活動 3
  3. 職人技(Craftsmanship): メゾンの核心である職人の技術を、目の前で「証明」する機会 1
  4. 哲学(Philosophy): 経営トップが自ら語る、価格と需要に関する独自の経営原則 5
  5. 人間関係(Relationship): 店舗スタッフと顧客との間に築かれる、知識と信頼に基づく長期的な関係 6

この戦略的コミュニケーションは、ラグジュアリー市場においてしばしば相反する二つの要素—すなわち、市場が求める熱狂的な「需要(Desirability)」と、ブランドが守るべき「真正性(Authenticity)」—を、極めて高い次元で両立させることを可能にしている。本レポートは、この「広告への非依存」がいかにしてエルメスの絶対的なブランド価値を構築しているかを、具体的な活動の分析を通じて解明する。

I. 前提の解体:「エルメスは広告を出さない」という通説の検証

「エルメスは広告を一切出さない」という通説は、厳密には事実ではない。しかし、その広告活動は他のラグジュアリーブランドと比較して極めて限定的であり、その目的も根本的に異なる。

限定的広告(雑誌・新聞)の分析

エルメスの広告出稿が極めて稀少である事実は、データによって裏付けられている。例えば、2018 年の日本版『VOGUE』における広告掲載は、「6 回(見開き 2 ページ)のみ」であった 7。これは、同種の雑誌で頻繁に広告を見かける他のブランドとは対照的である。

さらに重要なのは、その広告の内容である。エルメスが新聞に出稿した広告の一例では、新製品のネイルを取り上げつつも、その機能や色展開を訴求するのではなく、「『素の爪』という意志と色気」といった、情緒的かつ哲学的なメッセージを発信している 8。これは、製品の「認知拡大」や「購買促進」を目的とした典型的な広告ではなく、ブランドの美意識を共有するための「編集コンテンツ」に近い。

文脈的広告(OOH)の分析

エルメスが展開する屋外広告(OOH)もまた、その文脈性が際立っている。銀座ソニーパークとの間で行われた「粋な掛け合い」はその好例である 9。これは、店舗装飾を用い、「お帰り」「ただいま」という対話形式のメッセージを交換するものであった 9

この活動は、一方的な「広告」ではなく、銀座という地域コミュニティの一員としての洗練された「コミュニケーション」である。不特定多数に向けた商業的なメッセージではなく、その文脈を理解できる人々(銀座の通行人)に向けた「ウインク」のようなものだ。

広告の希少性が持つ戦略的意味

これらの事例から導き出されるのは、エルメスの広告が、ブランドを知らない人々の*認知を「獲得」するために存在するのではなく、すでにブランドを理解している人々のブランド価値を「強化」*するために存在する、ということである。その予算は「広告費」というよりは、ブランドへの「信頼」と「親密さ」を構築するための「文化活動費」としての性格が強い。

この戦略的アプローチは、さらに深いレベルでの示唆を含んでいる。エルメスの主要製品(特にバッグ)は、意図的な希少性によってその価値が維持されている。広告戦略においても、これと全く同じ構造が採用されている。つまり、広告の「希少性」そのものが、ブランドの「希少性」を模倣し、強化しているのである。顧客が製品を手に入れるために努力(来店、購入履歴、知識の蓄積)を要するように 6、ブランドからの「メッセージ」(広告)もまた、偶然の発見 9 や深い解釈 8 を必要とする。

この「製品の希少性=広告の希少性」という戦略的シンメトリーは、顧客の無意識に「エルメスはすべてにおいて特別であり、容易には手に入らない」という強力なメッセージを刷り込んでいる。

II. ブランドの憲法:クラフツマンシップと真正性という経営哲学

エルメスの広告に頼らない戦略は、マーケティング部門の戦術ではなく、経営トップの揺るぎない哲学から導き出される論理的帰結である。

アクセル・デュマ CEO による経営哲学の明示

エルメスの 6 代目 CEO であるアクセル・デュマ氏は、ブランドの経営戦略について、特に価格設定に関して、他のラグジュアリーブランドとは一線を画す哲学を明確に語っている 5

デュマ氏は、「我々の価格は、生産コスト(労働力、素材)によって決められる。製品の『需要(Desirability)』によって決められるのではない」と断言する 5。さらに、これは「顧客との『信頼(Trust)』の問題である」と述べる 5

そして、エルメスという会社を導くものについて、「会社を導くのは、何よりもまず『クラフツマンシップ(職人技)』『製品』『創造性』である」と定義している 5

「需要」のパラドックス

このデュマ氏の言明は、エルメス戦略の核心にあるパラドックスを解き明かす鍵となる。現代のラグジュアリー市場において、価格は「需要」によって決定される(ヴェブレン財)のが常識である。エルメスがこの常識を「真正性(Authenticity)」の名の下に真っ向から否定すること 5 こそが、最も高度なマーケティング戦略となっている。

デュマ氏がバッグの価格は「労働と素材のコスト」であると主張することで、顧客は「自分はロゴや一時的な流行(Hype)に対価を払っているのではない。『本物の労働と素材』という永続的な価値に対価を払っているのだ」という、道徳的にも正当化された強力な購買理由を与えられる。

この「コストベース」の価格設定という物語は、顧客の良心の呵責を取り除き、「信頼」を醸成する 5。そして、この「信頼」こそが、最終的に他のブランドを凌駕する圧倒的な「需要」を生み出すエンジンとなっている。エルメスは「需要」を価格設定の根拠にしないと公言することで、逆説的に「需要」を最大化しているのである。

経営哲学と資源配分の必然性

この「哲学」が、「広告を出さない」という戦略的決定を「必然」にする。

もし会社が「広告と需要」によって導かれるのであれば、最大の投資先は「広告(メディアバイイング)」になる(例えば、グッチの広告戦略 10)。しかし、エルメスは「クラフツマンシップと製品」によって導かれる 5

したがって、エルメスにとって最大の投資先は、メディア(広告枠)ではなく、「クラフツマンシップの維持・披露」(例:「ソー・エルメス」での実演 1)や*「創造性の発露」*(例:アーティストとの協働 11)となる。広告の不在は、単なる節約や偶然ではなく、この経営哲学から導き出される必然的な資源配分の結果なのである。

III. ルーツの体現:「馬」を媒介としたヘリテージ・マーケティング

エルメスの戦略的コミュニケーションにおいて、1837 年に馬具工房として創業したという事実は 1、単なる歴史的背景ではなく、現在進行形の戦略的資産として機能している。「馬」というブランドの DNA は、あらゆる活動の根幹に据えられている。

ケース 1:「ソー・エルメス」— 真正性の「証明」

エルメスは、パリの中心部で国際馬術大会「ソー・エルメス」を主催・後援している 1。これは単なるスポンサーシップを遥かに超えた、ブランドの核心を「証明」する場である。

  • 職人技の動的展示: 会場内では、馬具職人—その中にはフランス国家最優秀職人章(M.O.F.)を授与された職人も含まれる—が、鞍(サドル)づくりのデモンストレーションを来場者の目の前で行う 1。これは、完成品ではなく「製造プロセス」と「人間(職人)」そのものを見せるショーケースである。
  • 創業哲学の体現: 「一つのサドルを 1 人の職人が担当する」という創業以来変わらない哲学が、来場者の目の前で実演される 1
  • R&D との連動: エルメスは「パートナーライダー」と呼ばれるサポート選手を抱え、彼らからの貴重なフィードバックを馬具の「研究開発」に活かしている 1。これは、エルメスが過去の遺産に安住せず、馬具という起源の分野において「現在も革新を追求している」ことの強力な証明となる。

この「ソー・エルメス」は、広告が「我々は素晴らしい職人技を持っている」と主張(Claim)するのに対し、M.O.F. の職人が目の前でサドルを作る姿を見せることで、その主張を証明(Proof)する。証明は主張よりも常に強力である。エルメスは、広告(主張)に予算を割く代わりに、その予算を「証明」(イベント)に投下している。

ケース 2:「エルメスの馬さがし」— ヘリテージの「体感」

もう一つの事例は、「馬」をテーマにした没入型の謎解きイベント「ミステリー・アット・ザ・グルームズ – エルメスの馬さがし」である 2

  • 16 メチエ(製品部門)の統合: このイベントでは、全 16 の製品部門(メチエ)から集められたオブジェが、「馬」という共通のインスピレーションで結ばれていることを体感させる 2。例えば、レザー製品からは「サドル(鞍)を思わせるバッグ」、シルク製品からは「馬蹄型の足跡を残すシューズ」などが展示される 2
  • 「創造という遊び」の哲学: アーティスティック・ディレクターのピエール=アレクシィ・デュマ氏は、「創造という遊びの場において、馬こそが『エルメス』の最初の仲間なのだ」と語っている 2

「馬」という戦略的プラットフォーム

これら二つの事例は、「馬」というテーマがエルメスにとって単なるアイコンではなく、ブランドの多角化を正当化し、統一感を維持するための「戦略的プラットフォーム」として機能していることを示している。

ブランドが多角化(バッグ、シルクから香水、ネイル 8 まで)を進めると、ブランドの核心が希薄化するリスクが生じる。エルメスは、「馬」という単一のテーマを、すべての製品部門の「創造の源泉」として位置づける 2。これにより、新発売のネイル製品も、歴史あるサドルも、同じ「馬」という DNA から生まれた「エルメス製品」としての正当性を獲得する。「エルメスの馬さがし」イベント 2 は、この内部論理を顧客が「遊び」として体感するための巧妙な仕掛けである。

この「馬」を媒介とした戦略の二面性は、以下の表 1 に要約される。エルメスは、「馬」という単一のテーマを、戦略的に異なる二つの目的(「頂点の証明」と「裾野の拡大」)のために使い分けている。


表 1:「馬」を媒介としたヘリテージ戦略の二面性

戦略的活動対象目的と伝達する価値参照
「ソー・エルメス」VIP、馬術コミュニティ、メディア真正性の頂点
生きた職人技(M.O.F.)、R&D の継続性、ヘリテージの「証明
1
「エルメスの馬さがし」一般消費者、新規顧客層ブランドの「遊び心」
16 メチエの統一性、ヘリテージの「体感
2

IV. 空間のメディア化:アートパトロネージュとウィンドウ・インスタレーション

エルメスの店舗、特に「メゾン」と呼ばれる旗艦店は、「製品を販売する場所」である以上に、「ブランドの価値観を発信するメディア」として設計されている。

ケース 1:エルメス財団とアートギャラリー

エルメスは、銀座メゾンエルメス 10 階の「ル・フォーラム」などで、エルメス財団主催による先進的な現代アートの展覧会を開催している 3。これらの活動の鍵は、その徹底した「非商業性」にある。

一例として、「体を成す – FRAC Grand Large 収蔵作品セレクション展」では、フランスの現代美術地域コレクション(FRAC)と協働し、「<社会的身体>」という極めてアカデミックなテーマを探求している 3。この展覧会は、エルメスの製品とは一切関係がない。

この活動の戦略的意図は、エルメスが単なる「モノ」の売り手ではなく、「文化」の担い手であり、現代社会とアートの課題に関与する存在である 3 ことを示すことにある。

ケース 2:ウィンドウディスプレイという「動くギャラリー」

銀座メゾンのウィンドウディスプレイもまた、単なる製品の陳列(ディスプレイ)ではなく、アーティストによる「アート作品(インスタレーション)」として機能している 11

アルゼンチン出身のアーティスト、マリアーノ・フォルガチ氏が手掛けた「メッセンジャー」と題された作品では、「馬」のモチーフを用いながら、「旅」「変化」「夢」といった普遍的なテーマが表現された 11

この作品は、単に美しいだけでなく、「エルメスというブランドが、常に新しい価値や美意識を発信し続ける『メッセンジャー』としての役割」を象徴していると分析されている 11。その機能は、街行く人々の足を止め、日常の中に「非日常の美と問いを投げかける」ことである 11

文化支援という名の戦略(ポトラッチ)

エルメスは、最も価値のある「広告スペース」(銀座の一等地のウィンドウと店舗内ギャラリー)を、意図的に「非商業的」なアートに「寄付」している。これは、ブランド価値を最大化する高度な文化戦略(文化人類学でいう「ポトラッチ」=威信を得るための贈与)である。

通常のブランドが、一等地のウィンドウに「今期の売れ筋商品」を並べて短期的な売上を追求するのに対し、エルメスは、そのスペースをアーティストに提供し、製品と直接関係のないアートを展示させる 3。この「金銭的利益の放棄」という行為そのものが、「エルメスは商業主義を超越した文化的パトロンである」という強力なメッセージを発信する。顧客は、製品を購入することを通じて、この高潔な「文化活動」を支援しているというステータス意識を得ることができる。

ある分析では、「雑誌広告が少ない」という事実と、「芸術支援活動のポトラッチにより、ブランド価値は高められている」という記述が並列して論じられている 7。これは、エルメスが「広告」の代わりに「芸術支援」を戦略的に選択していることを示している。エルメスは、広告(短期的な認知、商業的)よりも、芸術支援(長期的、文化的、非商業的)の方が、自社のブランド価値を高める上で費用対効果が高いと判断しているのである。

V. 「人間」を増幅するデジタル:店舗体験こそが最重要の接点

他のブランドが E コマースで「効率化」「無人化」を進める中、エルメスのデジタル戦略は逆説的ともいえるアプローチをとる。エルメスにとって、デジタルは「人間関係の深化」のために使用されるツールである。

デジタルカタログの真の目的

エルメスが導入するデジタルカタログは、「オンラインショッピングを便利にすることを主眼に開発されたのではない」と明確に位置づけられている 12

その真の目的は、「対人接客の増幅」である 11。デジタルカタログは、店舗スタッフが高解像度の商品をプレゼンテーションし、顧客とのコミュニケーションのきっかけとして使うための「ツール」である 12。この背景には、テクノロジーは「人間の知性や愛を強化するもの」として採用されるべきであるという思想がある 12

この戦略は、エルメスのデジタルトランスフォーメーション(DX)が、「Digital Transformation」ではなく、「Human-centric Transformation(人間中心変革)」であることを示している。一般的な DX がテクノロジーで人間を置き換える(例:AI チャットボット)のに対し、エルメスの DX はテクノロジーで人間(店舗スタッフ)を強化する(Augment)。エルメスは、テクノロジーを使ってでも「人間による非効率な接客」という最もコストのかかる体験を守り、それを「増幅」しようとしている。

店舗体験という「選別」の場

エルメスにおいては、「広告」の代わりに、「顧客になるためのプロセス」そのものがマーケティングとして機能している。

公表されてはいないものの、「顧客ランクは存在すると言われている」 6。その評価基準は、1 年間の購入総額(バッグ・革製品以外)や来店頻度に加え、決定的に重要な要素として「エルメスの商品をどれくらい把握しているか」という商品知識が挙げられる 6

このシステムは、顧客に「担当者」と呼ばれる専属の販売員との関係構築を促す 6。これは、顧客に対する「選別」であり「教育」である。

広告が不特定多数に「買ってください」と懇願するのに対し、エルメスの店舗システムは特定の顧客に「我々にふさわしい顧客であることを証明してください」と要求する。この「困難なプロセス」(時間、お金、そして知識と情熱の投入)を経ることで、顧客は「選ばれた」という強いロイヤリティと達成感を得る。この関係構築のプロセス自体が、他のいかなる広告よりも強力なブランドへのコミットメントを生み出しているのである。

VI. 戦略的比較分析:エルメスは何と異なるのか

エルメスの特異性は、競合他社とのコミュニケーション戦略を比較することで、より鮮明になる。

Case 1: シャネル(CHANEL)のアンバサダー戦略

シャネルは、「アンバサダーはブランドと共に成長する」という思想の下、セレブリティを起用したアンバサダー戦略を強力に推進している(例:小松菜奈) 13。シャネルは、ブランドのペルソナを体現する「外部の人間(セレブリティ)」を選び、その人物の成長とブランドイメージを重ね合わせる。これは、*広告塔による「擬人化」*戦略である。

Case 2: グッチ(GUCCI)の広告祝祭戦略

グッチは、ブランド創設 100 周年を記念し、「Gucci Garden Archetypes(グッチ ガーデン アーキタイプ)」と題したエキシビションを開催した 10。この展覧会のテーマは、グッチの「これまでの広告キャンペーン」そのものであった 10

グッチは、自社の「広告キャンペーン」そのものを「アート作品(アーキタイプ=原型)」として展示する 10。これは、広告(イメージ)こそがブランドの核心であるという、極めてメタ的な広告戦略である。

内部の価値 vs 外部の価値

この比較分析から、ブランド価値の源泉に関する決定的な違いが浮かび上がる。シャネルとグッチは「外部」の力を使ってブランド価値を「投影」する。

  • シャネルの価値は、アンバサダー(セレブリティ)によって体現される 13
  • グッチの価値は、クリエイティブ・ディレクターが創り出す広告キャンペーンのイメージによって定義される 10

これに対し、エルメスは「内部」の力からブランド価値を「生成」する。

  • エルメスの価値は、内部の職人 1素材 5 によって創造される。

エルメスが広告(=外部への投影)を必要としないのは、その価値の源泉が「内部」(アトリエ)にあり、「外部」(メディア)に依存していないからである。一方、シャネルやグッチの戦略は、その本質において「広告」を必要とするビジネスモデルである(表 2 参照)。


表 2:ラグジュアリー・コミュニケーション戦略の比較

ブランド価値の源泉(ヒーロー)コミュニケーション戦略「広告」の役割参照
エルメス内部
職人(M.O.F.)、製品、素材
真正性の証明
(体験・文化)
代替
広告予算を「文化支援」 3 や「体験」 1 に再配分
1
シャネル外部
アンバサダー(セレブリティ)
擬人化
(ブランドと共に成長)
必須
アンバサダーを起用したイメージ広告が戦略の核となる
13
グッチ外部
クリエイティブ・ディレクター / 広告イメージ
祝祭化
(広告のメタ化)
戦略の核
広告キャンペーン自体が「アート(原型)」として祝われる
10

VII. 総論:広告を超えた価値創造

エルメスが「広告を出さない」ように見えるのは、彼らが「広告」というカテゴリーを遥かに超えた領域、すなわち文化、芸術、職人技、哲学、そして人間関係のすべてを、ブランド価値を伝達する精緻なメディアとして活用しているからに他ならない。

エルメスは「メディア(広告枠)を買う」のではなく、「自らがメディアになる」ことを選択した。

  • 「ソー・エルメス」 1 は、スポーツ・メディアである。
  • 「ル・フォーラム」 3 は、アート・メディアである。
  • 「銀座のウィンドウ」 11 は、パブリックアート・メディアである。
  • 「店舗」 6 は、リレーショナル・メディア(人間関係のメディア)である。

この戦略の根底には、アクセル・デュマ CEO が語る「クラフツマンシップと創造性」が会社を導く 5 という絶対的な哲学が存在する。

エルメスは、「広告」という近道(ショートカット)を意図的に拒否し、「職人技」という最も困難な道を歩み続ける。そのプロセス自体が、他のいかなるブランドも模倣不可能な、最も強力な「広告」となっているのである。

本レポートは、この「広告に頼らない」戦略こそが、模倣不可能な「憧れ」と長期的な「信頼」を構築する最も強力な手段であることを結論づける。

引用文献

  1. 「エルメス」が国際馬術大会「ソー・エルメス」を開催! カレン … https://www.elle.com/jp/fashion/fashion-column/a60455570/saut-hermes-interview-2404/
  2. 「エルメス」が没入型謎解きイベント“エルメスの馬さがし”を開催 … https://www.wwdjapan.com/articles/2248440
  3. 体を成す からだをなす – FRAC Grand Large収蔵作品セレクション … https://www.hermes.com/jp/ja/content/maison-ginza/forum/250719/
  4. パリの中心でライダーと馬が華麗に舞うスポーツの祭典【国際馬術 … https://precious.jp/articles/-/54722
  5. Axel Dumas (Hermès CEO) EXPLAINS HERMÈS STRATEGY (H1 2023) – YouTube https://www.youtube.com/watch?v=w_oZ_6XDzp0
  6. エルメスの顧客ランクとは?担当をつける方法やランクアップの … https://www.g-rare.com/column/hermes-customer-rank/
  7. ミュージアム・コミュニケーションを活用した広告 … – researchmap https://researchmap.jp/light_mitsu/presentations/33844972/attachment_file.pdf
  8. 「エルメス」の新聞広告が教えてくれた「素の爪」という意志と … https://www.biteki.com/nail/news/895960
  9. 【PDF版】総合報道2025年3月5日号/電通発表「2024年日本の広告 … https://sogohodo.stores.jp/items/67c696db5b90ec070453239b
  10. グッチの広告キャンペーンの世界を掘り下げた没入型 … https://www.fashion-headline.com/article/114314
  11. ブランドの伝え方 極めて高度なブランドエクスペリエンス戦略の … https://note.com/ibdginza/n/n0daf3bb51e01
  12. DX推進には従業員エンパワーメントが重要、エルメス・PPIHの … https://markezine.jp/article/detail/46507
  13. 「シャネル」のアンバサダー戦略は「アンバサダーはブランドと共に成長」 小松菜奈がパリコレのヒロインになるまで」【業界アンバサダー特集】 – WWDJAPAN https://www.wwdjapan.com/articles/1563402
  14. グッチの広告キャンペーンに見る、そのクリエイティビティの源。「Gucci Garden Archetypes」展が開幕|美術手帖 https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/24609