述語という坩堝 絞り込んだ動詞が文章に熱量を生む

「熱量のある文章とは、述語が絞り込まれた文章である」。この記事では、この命題を、日本語の文の仕組みと、読み手の頭の中で起きることから確かめます。述語を絞る具体的な方法、絞らないほうがよい文章との違いを整理し、最後にAIに書かせる文章を変える指示の出し方を示します。

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熱量は、情報ではなく温度

文章の熱量は、三つの要素に分けて考えられます。書き手が対象に注いだ努力や確信が伝わること。読み手の感情が動くこと。読み手が意味を組み立てる作業に引き込まれることです。

ある文章が「情報よりも温度がある」と評されるように、情報は文章が運ぶ荷物にすぎません。温度を与えるのは表現の工夫で、とりわけ述語の選び方です。「言った」を選ぶのに手間はかかりませんが、「吐き捨てた」や「囁いた」を選ぶには、場面を考え抜く必要があります。書き手の努力は直接は見えなくても、言葉選びの精度として表に出ます。読み手はその精度を、書き手の熱として受け取ります。

日本語の文は、述語に向かって進む

日本語の文は述語を軸に組み立てられ、主語や修飾語の役割も述語との関係で決まります。述語は原則として文末に置かれ、「どうする」「どんなだ」「何だ」という文の型を決めます。

文末にあることには修辞上の意味があります。読み手は情報を抱えたまま、最後の述語で文が決着するのを待ちます。「嵐の夜、軋む扉を開け、震える手で蝋燭を掲げた探偵は、そこに」と続いたあと、「何かを見た」で終われば緊張はほどけるだけです。「息を呑んだ」「凍りついた」で終われば、探偵の内面と発見の重さまで一語で伝わります。述語を絞ることは、文の緊張がほどける瞬間の強さを決めることです。

述語を絞る三つの方法

一つ目は、広い意味の動詞を具体的な動詞に置き換えることです。同じ「言う」でも、選ぶ動詞で生まれる温度が変わります。

基本の動詞絞った述語と、その効果
言う囁く(親密さ)、断言する(確信)、吐き捨てる(軽蔑)
見る見つめる(集中)、睨む(敵意)、垣間見る(偶然)
歩く彷徨う(混乱)、闊歩する(自信)、忍び寄る(脅威)
笑う微笑む(優しさ)、嘲笑う(軽蔑)、爆笑する(解放)

二つ目は、感覚に訴える述語を使うことです。「夕日は明るかった」より「夕日がぎらぎらと照りつけてくる」のほうが、光の強さまで伝わります。

三つ目は、感情を名指さず、体の動きで示すことです。「彼は嬉しかった」ではなく「思わずガッツポーズした」、「がっかりした」ではなく「肩を落とした」と書きます。

読み手の頭の中で起きること

なぜ絞った述語が効くのか。読むことは記号を解読するだけでなく、頭の中に場面を思い描く作業だと考えられています。あいまいな言葉は粗い想像しか求めませんが、具体的な動作の動詞は、細かく鮮やかな想像を求めます。他人の動作を見るときに、自分が動くときと同じように働く神経細胞(ミラーニューロン)があり、動作を読むことでも働く可能性が指摘されています。

もう一つは推論です。「この部屋、暑いね」が「冷房をつけて」という依頼として働くように、言葉は文字どおり以上の意味を運びます。「肩を落とした」と書かれた読み手は、その意味を自分で推し量ります。推論が成功したとき、読み手は文章に深く関わることになります。

絞った述語が熱量になるまで絞り込んだ述語が読み手に熱量として届くまでの流れを示した図。まず書き手が、言うではなく吐き捨てるのように具体的な動詞を選ぶ。その動詞は、動作の様子や感情まで運ぶ。読み手は、その動作を頭の中で鮮やかに思い描く。さらに、肩を落としたなら落胆だと自分で意味を推し量る。想像と推論に頭を使った手応えが、熱量として感じられる。1動詞を絞る言うを吐き捨てるに2情報が増える様子と感情まで運ぶ3思い描く動作を頭で再現する4推し量る肩を落とした=落胆5熱量になる頭を使った手応え

熱量の正体は、読み手が想像と推論に頭を使うことで生まれる手応えだ、といえます。

絞らないほうがよい文章もある

この性質は、ジャンルによっては避けるべきものです。技術や科学の文章は、明確さと再現性が目的なので、一つの意味にしか取れない動詞を選び、感情的な語は外します。法律や公用文は、解釈の余地をなくすことが目的で、「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」のように、定義された言葉を使います。熱量のある文章は、ほかの文章では排除される主観や含みを、あえて生かす文章です。

述語を選ぶ力は、練習で育ちます。類語辞典で動詞の違いを比べる。読書中に巧みな動詞へ印をつけ、文脈ごと手元に集める。名文を書き写し、「なぜこの動詞なのか」と問う。自分の文章の述語だけを書き直す。どれも、より強い動詞を探す癖をつける練習です。

動詞を絞る指示で、AIの文章を変える

AIに文章を書かせると、「言う」「思う」「感じる」「行う」のような広い動詞が並びがちです。整ってはいても、温度の低い文章になります。ここで効くのが、述語についての指示です。

次の文章を書き直してください。「言う」「思う」「感じる」「行う」は使わない。感情は形容詞で書かず、体の動きで示す。各段落の最後の文は、場面に合った具体的な動詞で終える

用途に合わせて逆の指示も出せます。手順書なら「動詞は一つの意味にしか取れないものを選び、比喩は使わない」と頼みます。何を頼み、どんな背景を渡し、どんな形で返してほしいかを順に組み立てる方法は、拙著『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』で解説しています。述語を指示の言葉にできれば、AIの文章の温度を自分で決められます。

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出典

本郷喜千

この記事を書いた人 本郷喜千

インディ・パ株式会社 代表取締役。東証スタンダード市場上場企業(GreenBee株式会社)の社外監査役。著書5冊(うち生成AI関連4冊)。プロフィール

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