構造と体系の異同

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関係の形式と、原理づけられた全体

1. はじめに

「構造」と「体系」は、どちらも複数の要素が何らかの関係をもって成り立っている状態を指す。そのため、両者はしばしば混同される。たとえば「文章の構造」と「知識の体系」、「社会構造」と「法体系」というように、どちらも複数の部分が一定の秩序をもつ場合に用いられる。

しかし、両者は同義ではない。構造は主に「要素間の関係のあり方」を指す。一方、体系は「ある原理によって組織化された全体」を指す。したがって、体系は構造を含むが、すべての構造が体系であるわけではない。

この違いを明確にするためには、「ルール」という語を慎重に扱う必要がある。構造にもルールはある。関係がある以上、そこには何らかの規則性があるからである。ただし、構造におけるルールと、体系を成り立たせる原理は同じではない。本稿では、この点を中心に、構造と体系の異同を整理する。


2. 構造とは何か

構造とは、複数の要素のあいだに成立している関係の型である。

たとえば、机の上に三つの石が置かれているとする。石Aは石Bの左にあり、石Cは石Bの右にある。このとき、石A・石B・石Cのあいだには位置関係がある。そこには「左にある」「右にある」「近い」「遠い」といった関係が成立している。

このように、単に物が存在しているだけでなく、それらのあいだに関係が認められるとき、そこには構造がある。

構造の例としては、次のようなものがある。

文章であれば、導入、本論、結論の配置が構造である。建築物であれば、柱、梁、壁、床の関係が構造である。物語であれば、発端、展開、転換、結末の関係が構造である。社会であれば、階層、役割、制度、権力関係などが構造である。

ここで重要なのは、構造とは「意味のある全体」であるとは限らないという点である。構造は、まず要素間の関係として成立する。偶然に生じた配置にも構造はありうる。壊れた機械の部品が床に散らばっていても、「どの部品がどの部品の近くにあるか」という空間的構造は存在する。しかし、それだけで機械の体系が成り立っているとは言えない。

つまり、構造とは「関係の形式」である。


3. 体系とは何か

体系とは、複数の要素が、ある原理に基づいて組織化された全体である。

構造が「要素間の関係」に注目するのに対し、体系は「その関係が何に基づいて組織されているか」に注目する。体系には、全体を成り立たせる分類基準、目的、法則、理念、方法、機能などがある。

たとえば、図書館の本を考える。

本が床に散乱している状態にも構造はある。Aという本はBという本の上にあり、Cという本は机の下にある。これは位置関係であり、構造である。

しかし、それは体系ではない。

一方、図書館で本が分類法に従って配置されている場合、それは体系である。哲学、歴史、自然科学、文学といった分類原理に基づき、本が一定の秩序に従って並べられているからである。この場合、単なる位置関係ではなく、「なぜその本がそこに置かれるのか」を説明する原理が存在する。

ここでいう原理とは、要素をどの基準で整理するかを決める考え方である。組織とは、その原理に従って実際に要素が配置され、全体としてまとまった状態をいう。

したがって、体系とは、単なる関係の集合ではなく、原理によって統合された構造である。


4. 「ルールのない構造」は存在するか

構造と体系を区別するとき、「体系とはルールを持った構造である」と説明されることがある。しかし、この説明は不十分である。なぜなら、構造そのものにもルールがあるからである。

関係とは、ある意味でルールである。

AがBの上にある。AがBより大きい。AがBを含む。AがBの原因である。AがBに依存している。これらはすべて関係であり、同時に構造を記述するルールでもある。

したがって、「ルールのない構造」は厳密には存在しない。完全に無関係であれば、それは構造ではなく、単なる要素の集合にすぎない。構造と呼ばれる以上、そこには何らかの関係がある。そして関係がある以上、それを記述する規則性がある。

では、構造と体系はどこで分かれるのか。

違いは、ルールの有無ではない。ルールの種類である。

構造におけるルールは、要素間に成立している関係の規則である。たとえば「AはBの左にある」「BはCより大きい」「XはYの原因である」といったものである。

一方、体系における原理は、その構造をなぜそのように組織するのかを説明する規則である。たとえば「進化的近縁性によって生物を分類する」「権利義務関係によって法律を整理する」「研究対象と方法によって学問を分類する」といったものである。

つまり、

構造のルールは「どう関係しているか」を示す。

体系の原理は「なぜその関係として整理するのか」を示す。

この二つを混同すると、構造と体系の区別は曖昧になる。


5. 具体例による比較

5-1. 石の配置

机の上に石が三つ置かれている。

石Aは左、石Bは中央、石Cは右にある。この場合、三つの石のあいだには位置関係がある。したがって構造はある。

しかし、その配置が偶然であり、何らかの分類基準や目的に基づいていないなら、それは体系ではない。単なる配置構造である。

ところが、三つの石が「重い順」「年代順」「産地順」に並べられているなら、そこには体系性が生じる。なぜなら、配置を正当化する原理があるからである。

この例から分かるのは、同じ石の並びでも、単なる構造である場合と、体系である場合があるということだ。

違いは、関係の有無ではない。関係を組織する原理の有無である。


5-2. 図書館

本が乱雑に積まれている状態にも構造はある。上にある本、下にある本、隣にある本という関係があるからである。

しかし、それは図書体系ではない。

本が分類法に従って整理されている場合、そこには体系がある。哲学、宗教、社会科学、自然科学、文学といった分類原理に基づいて、それぞれの本の位置が決められているからである。

この場合、構造は本の配置関係であり、体系は分類原理によって組織された知識の全体である。


5-3. 生物分類

「犬」「猫」「人間」「鳥」という生物を並べるだけなら、それは単なる集合である。

これを、

生物
哺乳類
食肉目
イヌ科
イヌ

というように整理すれば、生物分類体系になる。

この体系を成り立たせている原理は、現在では主に進化的近縁性である。つまり、外見が似ているかどうかだけではなく、進化上どのような関係にあるかを基準に分類する。

ここでも、構造は「上位分類と下位分類の関係」である。一方、体系は「進化的近縁性という原理によって組織された分類全体」である。

もし分類原理を変えれば、別の体系が生まれる。たとえば「人間にとって有用かどうか」「大きさ」「生息地」「食性」によって分類することも可能である。その場合、構造は変わる。

このことは、体系が単なる構造ではなく、構造を選択し正当化する原理を含んでいることを示している。


5-4. 法体系

法律にも構造と体系の違いがある。

たとえば、憲法、民法、刑法、商法、行政法などの法律が存在する。それらのあいだには関係がある。憲法は国家権力の基本原理を定め、民法は私人間の権利義務関係を扱い、刑法は犯罪と刑罰を扱う。

この関係だけを見れば、法の構造である。

しかし、法体系という場合には、それぞれの法律がどのような原理に基づいて配置されているかが問題になる。公法と私法、実体法と手続法、一般法と特別法、上位法と下位法といった整理原理がある。

つまり、法体系とは、個々の法律の単なる寄せ集めではない。法的原理によって組織化された全体である。


5-5. 文章

文章にも構造と体系がある。

文章の構造とは、序論、本論、結論の関係や、主張、根拠、具体例、反論、結論の配置である。

たとえば、

問題提起
定義
論証
具体例
結論

という並びは文章構造である。

しかし、それが単に並んでいるだけでは、体系的な文章とは言いにくい。体系的な文章とは、全体が一つの問いや主題に基づいて組織され、各部分がその問いに対して役割を持っている文章である。

たとえば、「構造と体系の違いを明らかにする」という主題があり、そのために定義、比較、具体例、論証が配置されているなら、その文章は体系性を持つ。

文章構造は「段落同士がどう接続しているか」であり、文章の体系性は「全体がどの問いに向かって組織されているか」である。


6. 構造と体系の共通点

構造と体系には共通点がある。

第一に、どちらも複数の要素を前提とする。単独の要素だけでは構造も体系も成立しない。少なくとも、複数の要素、または一つの要素の内部に区別可能な部分が必要である。

第二に、どちらも関係を前提とする。要素が完全に無関係であれば、それは単なる集合であり、構造とも体系とも呼びにくい。

第三に、どちらも秩序を持つ。ただし、構造の秩序は関係の秩序であり、体系の秩序は原理によって統合された秩序である。

この意味で、体系は構造の一種である。より正確に言えば、体系とは、構造のうち、ある原理によって組織化され、全体としての統一性を持ったものである。


7. 構造と体系の相違点

構造と体系の違いは、次のように整理できる。

構造は、要素間の関係の型である。体系は、原理によって組織化された全体である。

構造は、「何と何が、どのように関係しているか」を問う。体系は、「なぜそのように整理され、全体として何を成しているのか」を問う。

構造は、偶然に成立することもある。体系は、偶然の関係だけでは成立しにくい。体系には、分類基準、目的、理念、機能、方法など、全体を統合する原理が必要である。

構造は、対象そのものに見いだされる関係として記述できる。体系は、対象に対する人間の整理、理解、設計、説明の仕方を含むことが多い。

ただし、「構造は客観的で、体系は主観的である」と単純化しすぎるべきではない。建築構造のように設計された構造もあり、自然分類体系のように対象の性質に強く拘束される体系もある。したがって、より正確には、構造は関係の形式に重点を置き、体系は関係を統合する原理に重点を置く、と言うべきである。


8. 論理的整理

構造と体系の関係は、次のように論証できる。

まず、構造とは要素間の関係である。

関係が存在する以上、その関係を記述する規則性がある。したがって、厳密にはルールのない構造は存在しない。

しかし、構造におけるルールは、関係そのものを記述するルールである。たとえば、上下関係、左右関係、因果関係、包含関係、依存関係などである。

一方、体系における原理は、どの関係を重要なものとして採用し、どの基準で全体を組織するかを決める原理である。

よって、体系とは「ルールを持つ構造」ではなく、「組織原理によって統合された構造」である。

この区別により、「構造にもルールがあるではないか」という問題は解消される。構造と体系の違いは、ルールの有無ではなく、関係を記述するルールと、全体を組織する原理の違いにある。


9. 結論

構造と体系は、どちらも複数の要素とその関係を前提とする点で共通している。しかし、両者の焦点は異なる。

構造は、要素間の関係の形式である。体系は、その構造が一定の原理によって組織化され、全体として統一性を持ったものである。

したがって、体系には必ず構造がある。しかし、構造があるからといって、それが体系であるとは限らない。

また、「体系とはルールを持つ構造である」という説明は不十分である。構造にも関係というルールはあるからである。より正確には、体系とは、関係の構造が特定の原理によって選択され、正当化され、統合された全体である。

簡潔に言えば、

構造とは「どう関係しているか」である。

体系とは「どの原理によって全体として組織されているか」である。

この違いを押さえることで、知識、文章、法律、社会、組織、学問などを分析するとき、単なる関係の把握にとどまらず、その背後にある整理原理や統合原理まで見ることができる。構造を見ることは、対象の骨格を見ることである。体系を見ることは、その骨格がどのような原理によって一つの全体として成立しているのかを見ることである。

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