空欄のない比較表は、空欄のない履歴書と同じで、埋まっていること自体は何も保証しません。表という形式は、すべてのマスを埋めよという無言の指示として働くからです。この記事では、マークダウン(Markdown)で表を書く方法を確かめたうえで、AIに表で答えさせると、確かでないマスにももっともらしい値が入りやすくなる理由と、それを防ぐ頼み方を示します。
表は三種類の行でできています
マークダウンの表は、縦線と半角のハイフンで組み立てます。もともとのマークダウンの仕様には表の書き方がなく、後から GitHub Flavored Markdown などの拡張で広まった書き方です。そのため、表示する環境によって細部の扱いが違うことがあります。
上から、列の名前を縦線で区切った見出し行、見出し行のすぐ下に置く区切り行、値を並べるデータ行の順に書きます。区切り行では、各列に半角のハイフンを並べます。数は自由で、最低1つあれば機能します。
| 見出し1 | 見出し2 | 見出し3 |
| --- | --- | --- |
| データ1 | データ2 | データ3 |
| データ4 | データ5 | データ6 |
区切り行を忘れると、表として表示されないことが多くなります。縦線と文字の間の半角スペースはなくても機能しますが、入れると元の文章が読みやすくなります。行末の縦線は省略できます。セルの中で縦線そのものを使いたいときは、表示する環境の書き方を確かめます。
区切り行のコロンで、列の揃え方を決めます
区切り行に半角のコロンを加えると、列ごとの揃え方を決められます。ハイフンの左端に付ければ左揃え、右端なら右揃え、両端なら中央揃えです。
| 商品名 | 価格 | 在庫状況 |
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| ノートパソコン | 120,000円 | 在庫あり |
| スマートフォン | 80,000円 | 在庫なし |
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数字の列を右揃えにすると桁がそろい、大小を比べやすくなります。表が向くのは、このように同じ観点で複数のものを比べる情報です。逆に、理由や経緯のように一つひとつの長さがばらつく情報、条件によって答えが変わる情報は、マスに押し込むと肝心の但し書きが消えます。
表で頼むと、マスは埋まろうとします
ChatGPT などの対話型AIの多くは、マークダウンの表で答えると画面に表として表示します。比較を頼むときに表を指定すると、答えが整理され、見落としに気づきやすくなります。
その一方で、表には文章にない圧力があります。文章なら「この点は分かりません」と一文で済むところが、表では空いたマスとして目立ちます。AIは頼まれた形を満たす方向で答えを組み立てるので、確かでないマスにも、もっともらしい値を入れがちになります。マスがきれいに埋まった表を見ると、中身まで確かめた気になりやすいのも人の側の弱点です。整った形が、確かさの代わりに見えてしまうからです。どのくらいの割合で推測が混ざるかは、モデルや題材によって変わり、一般的な数字として言えるものではありません。言えるのは、表という形式がその余地を広げる方向に働く、ということまでです。
防ぎ方は、列の設計と同時に、空欄を許す決まりを書くことです。
次の三つのクラウドストレージを比べてください。列は「サービス名」「無料の容量」「共有のしやすさ」「向いている人」の4つにして、マークダウンの表で答えてください。確信のない値は推測で埋めず「要確認」と書き、表の下に、確かめるべき項目を一覧にしてください。
列は、答えを検査する項目になります
列名を決めずに「表にして」とだけ頼むと、AIは埋めやすい列を選びます。判断に要る列ではなく、答えやすい列が並ぶわけです。列は、自分が何で比べたいのかという評価基準から作ります。評価基準が先に決まっていれば、列はそのまま答えの検査項目になり、どのマスが要確認なのかもすぐに見えます。
ただし、空欄を許す決まりが要らない場面もあります。手元の資料を渡し、その中の値だけを表に並べ直させる場合は、AIが推測で埋める余地が小さいので、形式の指定だけで足ります。注意が要るのは、AIの手持ちの知識で表を埋めさせるときです。
次に表で頼む前に、二つだけ考えてみてください。その表の列のうち、自分の判断を本当に左右するのはどの列か。その列のマスが一つ空いていたら、判断はどう変わるか。
この記事の背景にある考え方は、拙著『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』の3章の「事実回答のばらつきを抑える秘訣」のうち、「ハルシネーションを封じる、4つの対策」に書きました。人があいまいな部分を想像で補うのと同じように、AIも確率で答えを組み立てるので、確かでないところをもっともらしく作ってしまう、と原因を説明し、明確で具体的な指示、根拠の確認、最新情報の要求、質問の分割という四つの対策を示した節です。具体的な指示の例として、そこには「もし情報がなければその旨を示してください。」という一文が添えてあります。この節を読むと、表で頼むとき、確かでないマスをどう扱わせるのかを、頼む側の一文として自分で書き足せるようになります。
AIの答えが物足りないとき、疑うべきはAIか、自分の言葉か。
『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』
AIは言葉でしか動かない。プロンプトを暗記するのをやめ、構成要素に分解して、自分の言葉で意図を込める力を鍛える本です。
読み終えたとき、手元に残るもの
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