マークダウンとマークアップの違いは手間ではなく、見た目を誰が決めるか

マークダウンという名前は、マークアップをもじった言葉遊びです。アップの反対のダウンを名乗っていますが、実際にはマークアップ言語の一種で、二つは対立する別々の道具ではありません。名前の対比に引っぱられて、手間が多いか少ないかの比較で理解すると、肝心の違いを見落とします。この記事では、二つの書き方を例で見比べたうえで、違いの中心は手間ではなく、見た目を誰がいつ決めるかにある、という見方を示します。

マークアップは、タグで文書の構造を指定します

マークアップ記法は、文章に「タグ」と呼ばれる目印を付けて、文書の構造を指定する方法です。代表は、ウェブページに使うHTMLです。

<h1>こんにちは</h1>
<p>これは段落です。</p>

h1 のタグで大きな見出しを、p のタグで段落を指定しています。タグの種類が多く、細かく指定できるぶん、覚えることと書く量が増えます。

マークダウンは、記号で同じ構造を書きます

同じ内容を、マークダウン記法ではこう書きます。

# こんにちは

これは段落です。

行頭の # が見出しを表し、普通に書いた文章がそのまま段落になります。タグがないので、書いている途中の文章もすっきり読め、プログラミングの知識がなくても直感的に使えます。ブログや文書づくり、メモで広く使われています。

違いの中心は、見た目を誰がいつ決めるかです

よく見る比較では、マークアップはページの構造やデザインに向き、マークダウンは文章の整形に向く、とまとめられます。半分は正しいのですが、HTMLはもともと構造を書く言語で、色や配置といった見た目は、多くの場合CSSという別の仕組みで決めます。HTMLで見出しを書いても、その見出しが何色で何ポイントになるかは、HTMLだけでは決まりません。

そう見ると、二つの違いは、表現力の差というより、書き手に何を決めさせるかの差です。HTMLは、タグに属性を書き足せば、その場で見た目に口を出せます。マークダウンには、見た目を指定する手段がほとんどありません。書き手から見た目を決める自由を取り上げ、ここは見出し、ここは箇条書き、という構造だけを書かせる記法です。見た目は、表示する側のテーマやテンプレートがあとから決めます。

見た目を自由に決められる記法を渡された書き手は、往々にして、構造より先に文字の色や大きさを決め始めます。目に見える変化のほうが、構造を考えるより手応えがあるからです。マークダウンの不自由さは、この寄り道をさせないための制約として働きます。

この見方が当てはまらない場面もあります

見た目を決める自由を取り上げることが、いつも利点になるわけではありません。表示する場所が一つに決まっていて、レイアウトそのものが伝えたい中身になっているページ、たとえば商品の比較を表と画像の配置で見せるページでは、書き手が見た目まで指定できるほうが早く確実です。また、マークダウンでもHTMLを混ぜて見た目に口を出せる環境は多く、二つの境目は、実際にはこの記事の説明ほどはっきりしていません。どこまでを書き手が決め、どこからを表示側に任せるのがよいかに、一般的な正解はありません。

AIに頼むときは、見た目を決めるのが誰かで記法を選びます

この違いは、ChatGPTなどのAIに出力の形を指定するときにも効きます。AIは、頼み方しだいで、マークダウンで整えた文章も、HTMLのコードも返せます。

貼り付け先の画面が見た目を決めてくれるなら、メモや社内文書のように、見出しと箇条書きをマークダウンで、と頼めば足ります。自分のサイトのように、見た目をCSSで管理している場所に載せるなら、HTMLで、見出しは h2、段落は p で、style は書かずに、と頼みます。HTMLで返して、とだけ頼むと、AIが気を利かせて見た目の指定まで書き込み、サイトのデザインと食い違うことがあります。見た目を誰が決めるかを伝えていないので、AIがその空白を自分で埋めるからです。

あなたの文書の見た目は、誰が決めているか

ご自身の仕事に当てはめるなら、AIに書かせた文章を最後に貼る場所では、見た目を決めているのは書き手でしょうか、それとも貼り付け先の画面でしょうか。その答えを、AIへの依頼に一行で書けているでしょうか。

この記事の背景にある考え方は、拙著『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』の2章2節「プロンプトの基本要素」の、出力形式の話に書きました。回答を受け取る形式を箇条書き、表、コード、マークダウンなどから指定すると整理された情報が得られ、レイアウトの情報を持つPDFは苦手なので、マークダウンで出して外で変換する、という話です。そこには「PDF形式での出力は、ChatGPTは苦手とします。」とあります。この節を読むと、AIに頼む前に、受け取ったものをどこに貼り、見た目をどこで決めるのかを考え、出力形式の指定に書き込めるようになります。

AIの答えが物足りないとき、疑うべきはAIか、自分の言葉か。

ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング 表紙

『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』

AIは言葉でしか動かない。プロンプトを暗記するのをやめ、構成要素に分解して、自分の言葉で意図を込める力を鍛える本です。

読み終えたとき、手元に残るもの

  • 必須、任意、形式の三つに分けたプロンプトの構造
  • 回答の質を変える、意図を込めた生きたプロンプト
  • 発注と検収は人が担う、AIとの役割分担
  • 章末の演習プロンプト26題

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