AIが描いた手順の図を、誤りを見逃さずに確かめる方法:課長が印を押した経費のフロー図に、戻りの矢印が1本欠けていた

担当者が、経費の申請手順をフロー図にしてほしいとAIに頼んだ。

返ってきたのは、整った画像の図だった。

課長は図を眺め、承認の印を押した。

翌月、矢印の欠落が見つかった。差し戻しの後に申請へ戻る一本が、図のどこにもなかった。

課長は、手を抜いたわけではない。図を眺め、整っていると見て、印を押した。

では、印を押した課長は、なぜ一本の欠落を見逃したのか。

課長はなぜ、欠けた矢印を見逃したのか

宅配の荷物を受け取るとき、箱を開けて中身を伝票と見比べる人がいる。

仕事の検収(受け取った成果物を確かめて引き取ること)も同じだ。頼んだものの中身を読み、正しいと確かめてから引き取る。

図の検収なら、矢印を一本ずつ読む。分岐の条件も、一つずつ読む。

ところが画像の図は、見た目が整っている。整っているほど、人は眺めて満足する。

印を押した図は、そのまま社内の手順として通る。差し戻された申請の行き先は、図の上では宙に浮いたままだ。

誤りに気づいても、画像の図では直す場所を言葉で伝えるしかない。

カラクリは単純だ。画像の図は、眺めることはできても、一本ずつ読んで確かめる作りになっていない。

逆に、図を記法(図を文字で書くルール)で書けば、図は一行ずつ読める文章に変わる。

記法の図では、一行が、おおむね一つの要素か一本の矢印に当たる。

上から読めば、何が描かれているかを確かめられる。

誤りは、該当の行を直せば片づく。前の版との差分も、文字で取れる。

画像の図では誤りを言葉で伝えるしかなく、記法の図は一行が一本の矢印に対応するので、読んで確かめ、行を直せます。記法を読める人がいるとき、図は検収できる文章になります

どちらなら、課長は読めたのか

図を文字で書く道具は、二つが代表格だ。PlantUMLとMermaidである。

PlantUMLは、UML(ソフトウェア設計の図の標準記法)を土台にした道具だ。

UMLの仕様は、標準化団体OMGが管理している。最新の正式版は、2017年12月公開のUML 2.5.1である。

UMLに慣れた技術者なら、シーケンス図、クラス図、ユースケース図、配置図を記法のまま読める。

Mermaidは、Markdown(見出しや箇条書きを記号で書く簡単な書式)に近い軽い記法の道具だ。

議事録や社内資料を書く人でも、フローチャートやガントチャートの記法を上から読める。

Mermaidの強みは、書いたまま図になる場所の多さにある。

2022年2月、開発者向けサービスのGitHubは、Markdownの中でMermaidの図を表示できるようにしたと公式ブログで発表した。

対応する図には、フローチャートやガントチャートが並ぶ。いまでは多くのMarkdownエディタや文書サービスも、Mermaidを表示する。

書いた本人が、文書の中で図と記法を見比べられる。検収の手間は、そこで一段減る。

どちらの道具も、版を重ねて図の種類を増やしてきた。使う前に、公式の一覧で確かめておきたい。

PlantUMLはUML標準を土台に設計の技術者が読み、Mermaidは軽い記法で多くの文書サービスでそのまま表示でき、資料や議事録を書く人が読めます

読めない記法は、整った画像と変わらない

記法で書かせても、まだ落とし穴が残る。確かめる人が、その記法を読めない場合だ。

UMLを知らない人の前にPlantUMLの行を並べても、中身は読めない。検収は、眺めるだけに戻ってしまう。

読めない記法の図は、整った画像の図と同じ運命をたどる。欠けた矢印は、また印を押された図の中に残る。

UMLの記法に慣れた技術者が検収する場面なら、PlantUMLで厳密に書かせる。

議事録や社内資料を書く人が自分で確かめる場面なら、Mermaidを選ぶ。記法が軽く、文書の中に図が出る。

だから、道具を選ぶ前に、図を読んで確かめる人の名前を書く。順番は、人が先で道具が後だ。

頼む前に、合格の基準を一行で書く

確かめる人が決まったら、次は頼み方だ。

プロンプトは、何の図か、何を描くか、どう返すか、の三つに分ける。かっこの中を自分の図に書き換えれば、そのまま使える。

次の(例:経費の申請手順)を、Mermaidのフローチャートで描いてください。
合格の基準:(例:分岐は「承認」と「差し戻し」の二つ。差し戻しの後は申請へ戻る)
ラベルは日本語にし、コードだけを返してください。

返ってきたコードは、表示する前に読む。差し戻しの後に申請へ戻る矢印の行を探す。

読むには、何が描かれていれば合格かを、頼む側が先に決めておく必要がある。

合格の基準を言葉にしてAIに渡せば、検収は基準と行の照らし合わせで済む。

今日からの手順は三つ。検収する人を決める。合格の基準を一行で書く。返ってきた記法を、基準と一行ずつ照らす。

課長が一読で気づけたはずの一行

画像の図は眺めるもので、記法の図は読むものだ。

あの経費のフロー図も、記法で頼んでいれば、課長は戻りの矢印の行がないと一読で気づけたはずだ。

印を押す前に読む一行が、翌月の発見を前の月に引き寄せる。

出典

拙著『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』の1章に、最初の発注と最後の検収を人が担い、中間の作業をAIに任せる役割分担を書きました。読むと、AIに頼む仕事のどこが発注で、どこが検収で、検収を誰が担えるかを自分の仕事に当てはめられます。

AIの答えが物足りないとき、疑うべきはAIか、自分の言葉か。

ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング 表紙

『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』

AIは言葉でしか動かない。プロンプトを暗記するのをやめ、構成要素に分解して、自分の言葉で意図を込める力を鍛える本です。

読み終えたとき、手元に残るもの

  • 必須、任意、形式の三つに分けたプロンプトの構造
  • 回答の質を変える、意図を込めた生きたプロンプト
  • 発注と検収は人が担う、AIとの役割分担
  • 章末の演習プロンプト26題

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