圏論:構造と関係性の数学

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第I部: 圏論的視点

第1節: 序論 — 圏論的思考の本質

圏論(Category Theory)は、20世紀半ばにサミュエル・アイレンベルグとソーンダース・マックレーンによって導入された、数学的構造とその間の関係性を抽象的に扱う数学理論である 1。しかし、この定義だけでは、圏論が現代数学、理論計算機科学、さらには物理学や哲学の領域にまで、なぜこれほどまでに深遠な影響を与えているのかを捉えることはできない。圏論の本質は、単なる新しい数学の一分野ではなく、構造を捉えるための根本的に新しい

視点、あるいは思考の枠組みそのものを提示することにある。

関係性への転換:「モノが何であるか」から「モノがどう関係するか」へ

伝統的な数学の多くは、集合論をその基盤としている。この視点では、数学的対象(例えば「群」)を分析する際、その対象がどのような要素から構成されているか、その内部構造に注目する 3。つまり、「モノが何であるか」を、その構成要素を列挙することで定義しようと試みる。

圏論は、この視点を根本から覆す。圏論的アプローチでは、対象をその内部の要素によってではなく、他の対象との間の関係性のネットワークによって特徴づける 3。ある対象が何であるかは、それが他の対象とどのような関係(これを

、morphism、または矢印、arrowと呼ぶ)を結んでいるかによって完全に決定されると考えるのである 2

このパラダイムシフトは、自己紹介のアナロジーで考えると分かりやすい 3。集合論的な自己紹介が「私の身長は〜cmで、体重は〜kgです」といった自身の内的属性を列挙するのに対し、圏論的な自己紹介は「私は〜さんの子供であり、〜会社の一員であり、〜さんの友人です」といった他者との関係性を記述することに相当する。圏論が注目するのは、個々の対象の「実体」ではなく、対象間に張り巡らされた「構造」と「プロセス」なのである 6

矢印(射)と合成の優位性

この関係性ベースの視点では、主役は「点」(対象、object)ではなく、それらを結ぶ「矢印」()となる 7。射こそが、構造を定義する根源的な構成要素である。この考え方を突き詰めると、対象すらも射の特殊なケースと見なすことができる。すなわち、各対象

Aには、AからA自身への「何もしない」という関係性を表す恒等射(identity morphism)id_Aが必ず存在する 9。この恒等射と対象を同一視することで、圏論の世界は究極的には射とその

合成(composition)のみで記述される「射の一元論」とも言うべき様相を呈する 8

合成は、関係性を組み合わせてより複雑な関係性を構築するための基本的な操作である 10

AからBへの関係fと、BからCへの関係gがあれば、それらを合成してAからCへの関係g ∘ fを作り出すことができる。この合成という操作こそが、圏に内在する力学と構造を生み出す源泉なのである。

構造のための普遍言語

以上の特性から、圏論は数学の諸分野に共通する構造を記述するための、非常に抽象的で強力な普遍言語、あるいは「ツールキット」として機能する 7。特定の対象を要素から具体的に構成するのではなく、「ある特定の関係性のパターン(これを

普遍性と呼ぶ)を満たす対象が存在すると仮定した場合、そこからどのような帰結が導かれるか」という「仕様ベース」のアプローチを取る 12

この抽象性により、圏論は一見すると全く異なる分野間に潜む深層の類似性を白日の下に晒し、一方の分野で得られた知見をもう一方の分野へ移植することを可能にする 14。例えば、集合論における直積、群論における直積、位相空間論における直積は、それぞれ異なる方法で構成されるが、圏論の視点から見れば、すべて「積」という単一の普遍的な構造の具体例に過ぎないのである。

この「要素に言及しない」アプローチこそが、圏論の力の源泉である。これにより、要素という概念が意味をなさないような領域、例えば論理学(対象は命題、射は証明)や計算機科学(対象は型、射はプログラム)にも、同じ枠組みを適用することが可能になる 13。圏論的思考を学ぶことは、単に新しい数学的定義を覚えることではなく、構造と関係性そのものを捉える新しい「眼」を手に入れることに他ならない。

第2節: 言語の誕生 — 歴史的視点

圏論の抽象的な定義は、一見すると天下り的に与えられたかのように感じられるかもしれない。しかし、その誕生は数学の具体的な問題を解決しようとする過程で必然的に生まれたものであった。この歴史的背景を理解することは、圏論の核心的概念がなぜ重要なのか、その存在理由を深く把握する上で不可欠である。

代数トポロジーのるつぼ

圏論は、1940年代から1945年にかけて、数学者のサミュエル・アイレンベルグとソーンダース・マックレーンによって創始された 1。彼らの主戦場は

代数的位相幾何学(algebraic topology)であった 2。この分野では、複雑で捉えどころのない幾何学的図形(位相空間)の性質を調べるために、その図形に不変的に付随する代数的対象(例えば、群)を対応させるという手法が強力な武器として用いられていた 20。この「幾何学を代数学に翻訳する」プロセスは、多くの成功を収めていた。

動機となった問題:「自然さ」の探求

当時の代数的位相幾何学の研究者たちは、様々な数学的構成や同型写像(構造を保つ一対一対応)を扱う中で、ある種の構成が他のものよりも「自然(natural)」あるいは「標準的(canonical)」であるという強い直観を共有していた 19。例えば、有限次元ベクトル空間

Vとその二重双対空間V**の間の同型は、基底の選び方によらない「自然」なものであるのに対し、Vとその双対空間V*の間の同型は、基底を一つ固定するという「恣意的」な選択に依存するため「不自然」であると感じられていた。

問題は、この数学者の誰もが感じる「自然さ」という直観を、数学的に厳密な言葉で定義する方法が存在しなかったことである。アイレンベルグとマックレーンが自らに課した中心的な課題は、この「自然さ」の概念を形式化すること、すなわち自然変換(natural transformation)という概念に厳密な定義を与えることにあった 22

定義の因果連鎖

この「自然変換」を定義するという最終目標が、圏論の基本的な構成要素を次々と生み出すことになった。その定義の連鎖は、通常教えられる順序とは逆である 22

  1. まず、自然変換とは何か。彼らは、自然さが個別の写像の性質ではなく、二つのプロセス構成の間の一貫した関係性であることを見抜いた。例えば、「何もしない」というプロセスと、「二重双対を取る」というプロセスは、ベクトル空間の圏全体にわたる異なる構成である。自然変換は、このような二つの構成(プロセス)を結びつける「写像」として定義されるべきものであった。
  2. 次に、この構成(プロセス)そのものを数学的対象として定式化する必要が生じた。これが関手(functor)である。関手とは、ある数学的世界全体を、その構造を保ったまま別の数学的世界全体へと系統的に「翻訳」する写像である。自然変換は、この関手から関手への「写像」として定義されることになった。
  3. そして最後に、関手を定義するためには、その定義域と値域、すなわち関手が作用する「数学的世界」そのものを定義する必要があった。これが(category)である。圏は、対象とその間の射からなる構造であり、関手は圏から圏への「写像」として定義される。

この歴史的経緯は、マックレーン自身がその著書『圏論の基礎』で述べた有名な言葉に集約されている。「『圏』は『関手』を定義可能にするために定義され、『関手』は『自然変換』を定義可能にするために定義されてきたのである」 23

この誕生の物語は、圏論の高度な抽象性が目的そのものではなく、数学者の深い直観を捉えるための不可欠な手段であったことを示している。圏、関手、自然変換という三本の柱は、単に並列する定義なのではなく、自然変換という頂点を目指して積み上げられた、明確な階層構造を持つ概念なのである。この歴史的必然性を理解することで、我々は圏論の形式的な定義の背後にある豊かな動機と、その真の力を感じ取ることができる。

第II部: 圏の形式的機構

第3節: 公理的核心 — 圏の定義

圏論の驚くべき一般性は、その定義の極端なまでの簡潔さに由来する。この節では、圏を構成する最小限の要素と公理を形式的に定義し、その構造の核心に迫る。

四つの構成要素

圏Cは、以下の四つの構成要素から成る 10

  1. 対象 (Objects) の集まり Ob(C):
    これらは抽象的な「点」であり、図式におけるノードに相当する。対象は必ずしも集合である必要はなく、より一般的な「類(クラス)」であってもよい 10。
  2. 射 (Morphisms) の集まり Mor(C):
    これらは対象間を結ぶ有向の「矢印」であり、関係性やプロセスを表す。各射fは、明確に定められた始域(source/domain)と終域(target/codomain)を持つ。fの始域がA、終域がBであるとき、これをf: A → Bと表記する 10。
  3. 恒等射 (Identity Morphism):
    すべての対象A ∈ Ob(C)に対して、id_A: A → Aという特別な射が存在する。これは「何もしない」という関係や、対象Aそのものを表す恒元と解釈できる 8。恒等射は以下の
    恒等律(Identity Law)を満たす。任意の射f: A → Bに対して、
    idB​∘f=f=f∘idA​

    が成立する。つまり、恒等射との合成は、元の射を変化させない 10。
  4. 合成 (Composition):
    射の終域と次の射の始域が一致する場合、それらを結合して新しい射を作ることができる。すなわち、任意の射f: A → Bとg: B → Cが与えられたとき、その合成射g ∘ f: A → Cがただ一つ存在する 10。この合成演算は、以下の
    結合律(Associative Law)を満たさなければならない。演算が定義される限りにおいて、
    (h∘g)∘f=h∘(g∘f)

    が成立する 10。

この四つの要素と二つの公理(恒等律、結合律)さえ満たせば、いかなる体系も「圏」とみなされる。この定義の驚くべき簡潔さこそが、圏論の広範な適用可能性の源泉である。

図式の言語

圏論的な議論や証明は、しばしば可換図式(commutative diagram)を用いて行われる 7。可換図式とは、対象を頂点、射を辺とする有向グラフであり、ある頂点から別の頂点へのいかなる二つの経路をたどっても、それぞれの経路上の射を合成した結果が等しくなるような図式を指す 25

例えば、結合律(h ∘ g) ∘ f = h ∘ (g ∘ f)は、以下の図式が可換であることを主張しているのと同じである。

コード スニペット

graph TD
    A — f –> B
    B — g –> C
    C — h –> D
    A — g ∘ f –> C
    B — h ∘ g –> D
    A — h ∘ (g ∘ f) –> D
    A — (h ∘ g) ∘ f –> D

(注:Mermaid記法では複雑な合成射の表現に限界があるため、概念的な図として解釈されたい)

この図式言語は、複雑な等式を直感的で視覚的な関係性として表現することを可能にし、圏論における思考の主要な道具となっている。

双対性の原理

圏論における最も強力で美しい原理の一つが双対性(duality)である。任意の圏Cに対して、その反対圏(opposite category)C^opを考えることができる。これは、Cの対象はそのままに、すべての射の向きを形式的に逆転させることで得られる圏である 5。つまり、

Cに射f: A → Bが存在するならば、C^opには射f^op: B → Aが存在する。

この単純な操作から、驚くべき結論が導かれる。圏の公理のみを用いて証明されたいかなる定理も、その定理の中のすべての射の向きを逆にし、合成の順序を逆にすることで、自動的に新しい、しかし同様に真である「双対な定理」が得られるのである。これにより、一つの証明から二つの定理が生まれることになり、思考の経済性が飛躍的に向上する。

この原理は、圏論の概念の多くがペアで現れる理由を説明する。

  • 始対象 (Initial Object): 任意の対象Xへの射がただ一つ存在する対象。
  • 終対象 (Terminal Object): 任意の対象Xからの射がただ一つ存在する対象 7
  • 積 (Product): 普遍的な「入力」のパターンを持つ対象。
  • 余積 (Coproduct): 普遍的な「出力」のパターンを持つ対象 24
  • 極限 (Limit): 様々な構成(積、引き戻しなど)を一般化する概念。
  • 余極限 (Colimit): 極限の双対概念(余積、押し出しなど) 13

これらの概念は、一方がもう一方の双対となっており、一方の性質を理解すれば、もう一方の性質も自動的に理解できるのである。

第4節: 構造の宇宙 — 圏の様々な具体例

圏の抽象的な定義は、具体例を通じて初めてその豊かさと広がりを実感できる。ここでは、数学の様々な領域から、そして我々の身近な世界から、圏の具体例を巡る旅に出る。これにより、いかに多様な構造が圏論という統一的な枠組みで捉えられるかが明らかになるだろう。

原型:集合の圏 (Set)

圏論を学ぶ上で最も基本的かつ重要な例が**集合の圏 Set**である 4。これは多くの圏論的概念が直観的に理解できる「故郷」のような存在である。

  • 対象: すべての集合 24
  • : 集合間のすべての写像(関数) 24
  • 恒等射: 各集合Aにおける恒等写像 id_A(x) = x。
  • 合成: 通常の写像の合成。

Setは単なる一例に過ぎないが、多くの数学的概念がSetにおける圏論的概念の特殊なケースとして現れるため、非常に良い試金石となる。この対応関係を理解することは、抽象的な定義と具体的な数学的実践とを繋ぐ上で極めて重要である。

圏論的概念Setにおける対応概念典拠
対象集合24
写像(関数)24
モノ射 (Monomorphism)単射(一対一写像)27
エピ射 (Epimorphism)全射(上への写像)27
同型射 (Isomorphism)全単射20
始対象 (Initial Object)空集合 ∅27
終対象 (Terminal Object)任意の単集合(要素が一つだけの集合)7
積 (Product) A × Bデカルト積(直積)24
余積 (Coproduct) A + B非交和(直和)24

この表は、圏論の抽象的な用語が、我々が慣れ親しんだ集合論の世界で何を意味するのかを明確に示す「辞書」の役割を果たす。

代数学から生まれる圏

代数学は、圏の豊かな源泉である。一般に、ある代数的構造を持つ対象の集まりと、その構造を保つ写像(準同型写像)の集まりは圏をなす。

  • Mon (モノイドの圏): 対象はモノイド(結合的な二項演算と単位元を持つ集合)、射はモノイド準同型写像 7
  • Grp (群の圏): 対象は群、射は群準同型写像 13
  • 単一のモノイドからなる圏: これは非常に示唆に富む例である。任意のモノイドMは、ただ一つの対象*を持つ圏と見なすことができる。この圏の射はMの要素そのものであり、射の合成はMの演算に対応する 7。この例は、対象が本質的ではなく、射とその合成こそが構造の核心であるという圏論の思想を強力に裏付けている。群は、すべての射が可逆(同型射)であるような、単一対象の圏と見なせる。

順序と構造の圏

順序関係や位相的構造もまた、自然に圏を形成する。

  • 前順序集合・半順序集合の圏: 任意の前順序集合(反射律と推移律を満たす二項関係≤を持つ集合)は、圏と見なすことができる 20
  • 対象: 集合の要素。
  • 射: x ≤ yである場合に限り、xからyへのただ一つの射が存在する。
    射の合成は、推移律 x ≤ y かつ y ≤ z ならば x ≤ z であることから保証される。この例では、射は関係性の存在そのものを表しており、具体的な写像ではない。
  • Top (位相空間の圏): 対象は位相空間、射はそれらの間の連続写像 13。代数的位相幾何学の出発点となる重要な圏である。

「おもちゃ」の圏と構造的な圏

教育的な目的や、より複雑な概念を定義するための部品として用いられる、単純な圏も存在する。

  • 離散圏 (Discrete Category): 恒等射以外の射を一切持たない圏 7。任意の集合は、その要素を対象とし、恒等射のみを射と考えることで離散圏と見なせる。
  • 単純な図式圏:
  • 0 (空圏): 対象も射も持たない圏 25
  • 1 (終圏): ただ一つの対象と、その恒等射のみからなる圏 20
  • 2 (矢印圏): 二つの対象A, Bと、恒等射に加えてAからBへの射が一つ存在する圏 25。これは「射」という概念そのものを対象として扱う射圏を構成する際に用いられる。
  • 実世界の例: 圏論の考え方は、数学の外にも適用できる。
  • 鉄道路線図: 対象は駅、射は路線 7
  • データベーススキーマ: 対象はテーブル、射は外部キー制約。
  • 血縁関係: 対象は人、射は親子関係などの血縁関係 7

これらの多様な例を通じて明らかになるのは、圏論が「構造を持つ対象と、その構造を保つ写像」というパターンを一般化し、統一的に扱うための言語であるという事実である。群、位相空間、順序集合といった異なる数学的構造は、この圏論的視点のもとでは、すべて同じ土俵の上で比較・分析可能な「圏」という名の構造のインスタンスとなる。この一般化こそが、異なる分野間に橋を架け、深遠なアナロジーを発見することを可能にするのである。

第5節: 世界を繋ぐ — 関手の概念

圏が数学的な「世界」や「文脈」を表すものだとすれば、関手(functor)は、それらの世界の間を構造を保ちながら渡る「橋」や「翻訳機」に相当する 25。圏論の教訓の一つは、新しい数学的対象に出会うたび、それらの間の理にかなった「射」の概念を問うべきだということである 33。圏それ自体を対象と見なしたとき、その「射」にあたるものが関手なのである。

定義:圏から圏への写像

圏Cから圏Dへの関手 F: C → D とは、Cの構造をDの構造へと写し取る、構造保存的な対応付けである 20。具体的には、関手は以下の二つの部分から構成される。

  1. 対象写像: Fは、Cの各対象Xを、Dのある対象F(X)に対応させる。
  2. 射写像: Fは、Cの各射f: X → Yを、Dのある射F(f): F(X) → F(Y)に対応させる。

この対応付けは、無秩序なものではなく、圏の構造、すなわち恒等射と合成を厳密に保存しなければならない 20

  1. 恒等射の保存: F(id_X) = id_{F(X)}
  2. 合成の保存: F(g ∘ f) = F(g) ∘ F(f)

この二つの条件により、Cにおける可換図式は、関手FによってDにおける可換図式へと写される。つまり、関手は圏の「形」を忠実に再現する。

関手の重要な具体例

関手の概念は、多くの数学的プロセスを統一的に記述する。

  • 忘却関手 (Forgetful Functor): これはおそらく最も直感的な関手であり、対象が持つ付加的な「構造」を「忘れる」働きをする 7
  • 例: U: Grp → Set は、群をその台集合(underlying set)に写し、群準同型写像を単なる写像と見なす。群が持つ演算や単位元といった構造は忘れ去られる 7。同様に、
    Top → Set(位相を忘れる)、Vect → Set(ベクトル空間の構造を忘れる)なども忘却関手である。
  • 自由関手 (Free Functor): 忘却関手と対になる概念としてしばしば現れるのが自由関手である 34。これは、構造を持たない対象(多くは集合)の上に、「最も一般的で制約のない」構造を「自由に」生成する。
  • 例: F: Set → Grp は、集合Sを受け取り、Sの元によって生成される自由群を返す 37。自由関手は、多くの場合、忘却関手の
    左随伴(left adjoint)という特別な関係にある(第7節で詳述)。
  • Hom関手 (Hom-functor): これは圏論内部で極めて重要な役割を果たす関手である。圏Cの対象Aを一つ固定すると、二種類のHom関手が得られる。
  • 共変Hom関手 Hom_C(A, -): C → Set: Cの各対象Xを、射の集合Hom_C(A, X)に写す。これはCの内部構造を、我々がよく知るSetの世界に写し出す「探査機」の役割を果たす 39
  • 反変Hom関手 Hom_C(-, A): C^op → Set: Cの各対象Xを、射の集合Hom_C(X, A)に写す。後述するように、これは反変関手の典型例である。
  • 定数関手 (Constant Functor): 圏Cのすべての対象を圏Dのある特定の対象dに写し、Cのすべての射をdの恒等射id_dに写す関手 25
  • 代数的位相幾何学における関手: 圏論誕生のきっかけとなった分野では、関手は中心的な役割を担う。
  • 基本群関手 π₁: Top* → Grp: 点付き位相空間(基点を持つ空間)をその基本群に写し、連続写像(基点を保つもの)を群準同型写像に写す。これにより、位相空間の同相問題(幾何学的問題)が、群の同型問題(代数的問題)へと翻訳される 20。もし二つの空間の基本群が同型でなければ、元の空間は同相ではありえない。このように、関手は複雑な問題をより扱いやすい領域の問題へと変換する強力なツールとなる。

共変性と反変性

関手には、射の向きを保つか反転させるかによって二つの種類がある。

  • 共変関手 (Covariant Functor): これまで見てきた例の多くがこれにあたる。射の向きを保存する(f: X → Y を F(f): F(X) → F(Y) に写す)。
  • 反変関手 (Contravariant Functor): 射の向きを反転させる(f: X → Y を F(f): F(Y) → F(X) に写す)。合成に関しても F(g ∘ f) = F(f) ∘ F(g) と順序が逆になる 20
  • 形式的には、反変関手F: C → Dは、反対圏C^opからの共変関手F: C^op → Dとして定義される 25
  • 例:双対ベクトル空間を取る操作は、ベクトル空間の圏からそれ自身への反変関手である。また、前述のHom関手Hom_C(-, A)も代表的な反変関手である。

関手は単なる写像ではなく、数学的理論間の体系的な翻訳者であり、異なる視点を提供する変換器である。ある領域の問題を、関手を用いて別の領域に写し、そこで解決してから元の領域に結果を持ち帰る、といった戦略を可能にする。そして、忘却関手と自由関手のように、関手がしばしば「構造を忘れる/加える」という逆のプロセスを表すペアで現れるという観察は、圏論で最も深遠な概念の一つである随伴性(adjunction)へと我々を導くのである。

第6節: 機械の魂 — 自然変換

圏、関手と定義を進めてきた我々は、ついに圏論が誕生する直接の動機となった概念、自然変換(natural transformation)に到達する。マックレーンの言葉を借りれば、圏と関手はこの自然変換を定義するためにこそ用意された舞台装置であった 23。自然変換は、関手と関手の間の「射」であり、二つの異なる数学的翻訳(関手)がどの程度「自然に」関連しているかを測る尺度を与える 41

定義:関手から関手への写像

圏Cから圏Dへの二つの(平行な)関手F, G: C → Dが与えられたとする。FからGへの自然変換 η: F ⇒ G とは、Cのすべての対象Xに対して一つずつ定まる、Dの射の族(ファミリー)である 40

  • この射の族の各要素η_X: F(X) → G(X)は、自然変換ηの成分(component)と呼ばれる。

しかし、単なる射の集まりが自然変換となるためには、極めて重要な追加条件、すなわち自然性の条件(naturality condition)を満たさなければならない。

  • 自然性の条件: Cの任意の射f: X → Yに対して、以下の図式がDにおいて可換になる必要がある 39
    コード スニペット
    graph TD
        FX[“F(X)”] — “η_X” –> GX[“G(X)”]
        FX — “F(f)” –> FY[“F(Y)”]
        GX — “G(f)” –> GY[“G(Y)”]
        FY — “η_Y” –> GY

    この可換図式が意味するのは、G(f) ∘ η_X = η_Y ∘ F(f)という等式が成り立つことである。

自然さの意味

この「自然性の四角形」こそが、自然変換の概念の核心である。これは、変換ηがCの構造全体にわたって「首尾一貫して」おり、「恣意的な選択に依存しない」ことを保証する。

図式を解釈すると、F(X)からG(Y)へと至る二つの経路が存在する。

  1. まずη_XでG(X)へ移り、次にG(f)でG(Y)へ進む経路(右上経由)。
  2. まずF(f)でF(Y)へ移り、次にη_YでG(Y)へ進む経路(左下経由)。

自然性の条件は、これら二つの経路をたどった結果が常に等しくなることを要求する。つまり、関手による変換fと、自然変換による変換ηの順番を交換しても結果が変わらない、ということである。これこそが、アイレンベルグとマックレーンが捉えようとした「自然さ」の数学的な本質なのである 42。我々の身の回りにある矛盾のない対応付けの多くは、この自然変換によって支えられている「縁の下の力持ち」と見なすことができる 42

自然同型と圏同値

  • 自然同型 (Natural Isomorphism): 自然変換ηのすべての成分η_XがDにおける同型射(可逆な射)であるとき、ηを自然同型と呼ぶ。これは、二つの関手FとGが「本質的に同じ」あるいは「標準的に等価」であることを示す、最も強い形での関係性である 7
  • 例えば、有限次元ベクトル空間の圏において、恒等関手Idと二重双対関手(-)**の間には自然同型が存在する。これが、V ≅ V**という同型が「自然」であることの厳密な意味である。
  • 圏同値 (Equivalence of Categories): 自然同型の概念は、さらに二つの圏が「いつ同じと見なせるか」という問いに答えるための圏同値という概念を導く。二つの圏CとDが同値であるとは、関手F: C → DとG: D → Cが存在し、合成関手G ∘ FがCの恒等関手Id_Cと自然同型であり、かつF ∘ GがDの恒等関手Id_Dと自然同型である場合をいう 25
  • これは、対象の数や射の数が完全に一致する「圏同型」よりも緩やかだが、より本質的な「同じさ」を捉える概念である。圏論では、同型な対象は区別できないため、厳密な一致(=)よりも同型(≅)を用いた性質の方が本質的とされることが多い 25

関手圏 (Functor Category)

自然変換の導入により、我々は抽象の階段をさらに一段上がることができる。与えられた圏CとDに対して、新しい圏、すなわち関手圏Fun(C, D)(またはD^Cと表記される)を構成できるのである 7

  • 対象: CからDへの関手。
  • : それらの関手の間の自然変換。

この構成は驚くべきものである。これまで圏と圏を結ぶ「プロセス」であったはずの関手が、今やそれ自体で一つの「対象」として扱われている。そして、それらのプロセス間の関係性である自然変換が、新しい圏の「射」となっている。

この「メタレベル」に移行する能力は、圏論の持つ強力な特徴の一つである。それは、我々が思考の対象としているもの(この場合は関手)を、再び数学的構造(圏)の内部に取り込んで分析することを可能にする。この階層的な構造は、2-圏(対象、射、そして射の間の射を持つ構造)の概念へと直接つながっていく。すべての(小さい)圏を対象とし、関手を射とし、自然変換を「2-射」とする圏Catは、2-圏の原型的な例である 23

第7節: 抽象化の力 — 普遍性、極限、そして随伴性

圏論の真価は、その定義の簡潔さだけでなく、そこから導かれる強力な抽象化ツールにある。この節では、圏論の道具箱の中でも特に強力な三つの概念、すなわち普遍性極限、そして随伴性を探求する。これらの概念は、数学の広大な領域に散在する無数の構成を、驚くほど少数の統一的な原理の下に整理することを可能にする。

関係性による定義:普遍写像性 (Universal Mapping Property)

圏論における最も根源的な発想の一つが、対象をその内部の構成要素によってではなく、他のすべての対象との関係性のパターンによって定義するというものである。この「関係性による定義」を形式化したものが普遍写像性(Universal Mapping Property, UMP)である 6

普遍性は、通常、「ある特定の形状の写像を持つ任意の対象Xに対して、その対象Xから普遍的対象Uへのただ一つの(unique)構造を保つ射が存在する」という形で述べられる 24。この「存在し、かつ一意的である(exists and is unique)」という条件が、普遍的対象を(同型を除いて)一意に定めている。

普遍性による構成

多くの基本的な数学的構成が、この普遍性という言葉でエレガントに再定義される。

  • 終対象と始対象 (Terminal and Initial Objects):
  • 終対象 T: 圏の任意の対象XからTへの射がただ一つ存在する対象 7。集合の圏
    Setでは、任意の一点集合(シングルトン)が終対象である。
  • 始対象 I: 終対象の双対概念。Iから圏の任意の対象Xへの射がただ一つ存在する対象。Setでは、空集合∅が始対象である。
  • 積と余積 (Products and Coproducts):
  • 積 A × B: 集合論では「順序対の集合」として構成的に定義されるが、圏論ではその関係性によって定義される。積とは、対象A × Bと二つの射影(projection)π_A: A × B → A、π_B: A × B → Bの組であって、以下の普遍性を満たすものである。任意の対象Zと任意の射のペアf_A: Z → A、f_B: Z → Bに対して、f_A = π_A ∘ uかつf_B = π_B ∘ uを満たすようなただ一つの射u: Z → A × Bが存在する 6
  • 余積 A + B: 積の双対概念。二つの入射(injection)ι_A: A → A + B、ι_B: B → A + Bを持ち、普遍的な「出力」の性質を満たす。

構成の一般化:極限と余極限

圏論の統一的な視点は、これらの個別の構成が、実はより大きなパターンの現れであることを見抜く。積、引き戻し(pullback)、等化子(equalizer)、終対象といった一見異なる構成はすべて、極限(limit)という単一の概念の特殊なケースとして理解できる 13

極限は、ある図式(圏の内部の特定の形状のグラフ)に対する「普遍的な錐(cone)」として定義される。双対的に、余積、押し出し(pushout)、余等化子(coequalizer)、始対象はすべて、余極限(colimit)という概念の特殊なケースである。

この一般化の威力は絶大である。極限について一つの定理を証明すれば、その定理は積、引き戻しなど、極限のすべての具体例に対して自動的に成り立つ。これは、圏論がもたらす驚異的な知的経済性の一例である。

最も深遠な関係:随伴関手 (Adjoint Functors)

普遍性、極限といった概念をさらに高いレベルで統合するのが、随伴性(adjunction)の概念である。これは、圏論において最も重要かつ遍在する概念と言っても過言ではない。随伴性は、逆方向に進む二つの関手F: C → DとG: D → Cの間の、ある種の「準-逆」の関係性を記述する 36

随伴の形式的な定義は、Cの対象XとDの対象Yに対して、二つの射集合(Hom-set)の間に自然な一対一対応(同型)が存在することである 37

HomD​(F(X),Y)≅HomC​(X,G(Y))

このとき、Fを左随伴関手、Gを右随伴関手と呼び、F ⊣ Gと表記する。

この一見すると抽象的な定義は、数学における広範な現象を統一する、驚くべき力を持っている。

  • 随伴性の例:
  • 自由-忘却随伴: 自由関手は忘却関手の左随伴である。例えば、SetからGrpへの自由群関手Fは、GrpからSetへの忘却関手Uの左随伴である (F ⊣ U) 36
  • 積-対角随伴: 対角関手Δ(X) = (X, X)は、積関手_ × Aの左随伴である。
  • テンソル-Hom随伴: ベクトル空間の圏において、テンソル積関手_ ⊗ Vは、内部Hom関手Hom(V, _)の左随伴である。

随伴性の最も重要な性質の一つは、左随伴は余極限を保ち、右随伴は極限を保つことである。これは、多くの数学的構成がなぜ特定の性質を持つのかを、統一的かつエレガントに説明する。

随伴の定義式Hom_D(F(X), Y) ≅ Hom_C(X, G(Y))が持つ深い意味を、自由-忘却随伴の例で考えてみよう。この式は、「集合Xから自由に構成された群F(X)から、ある群Yへの群準同型を考えること」と、「元の集合Xから、群Yの構造を忘れて得られた集合G(Y)への単なる写像を考えること」が、本質的に同じ情報であることを意味している。これはまさに自由群の普遍写像性そのものである。

このように、普遍性はしばしば随伴性の一側面として現れる。随伴性は、数学における「構成(左随伴)」と「性質(右随伴)」の間の根源的な双対性を捉える概念であり、関手、普遍性、極限といったこれまで見てきた強力なツールを、一つの壮大な構造の下に統合するのである。

第III部: 諸分野への影響と応用

圏論の抽象的な枠組みは、純粋数学の領域を遥かに超え、現代科学と技術の多様な分野で具体的な応用を見出している。この最終部では、圏論が数学の基礎、計算機科学、物理学、さらにはデータベース理論や経済学といった分野に与えた変革的な影響を探る。

第8節: 新たな数学の基礎か?

圏論は、単なる便利な言語にとどまらず、数学そのものの基礎(foundation)としての役割を担う可能性を秘めている。このことは、20世紀を通じて数学の基礎として揺るぎない地位を築いてきたZFC集合論(ツェルメロ=フレンケル集合論+選択公理)との関係において、活発な議論を呼んできた。

圏論 vs. ZFC集合論:パラダイムの対立

この議論の核心にあるのは、数学的対象を捉える二つの根本的に異なるアプローチの対立である 45

  • ZFC集合論: 「要素ベース」あるいは「物質的(material)」なアプローチを取る。すべての数学的対象は究極的には集合として構成される。例えば、自然数2は集合{∅, {∅}}として、写像f: A → Bは直積A × Bの特定の性質を持つ部分集合(グラフ)として定義される。この世界観では、対象の「中身」がその本質を決定する 3
  • 圏論: 「関係性ベース」あるいは「構造主義的(structuralist)」なアプローチを取る。対象は内部構造を持たない抽象的な点であり、その本質は他の対象との間の射のネットワークによってのみ定義される 3。この世界観では、対象間の「関係」が本質である。

伝統的な立場からは、圏論は集合論に寄生しているという批判がなされることがある。なぜなら、圏の標準的な定義自体が、「対象の集まり」や「射の集合(hom-set)」といった集合論的な概念を暗黙のうちに用いているからである 10

しかし、この批判に対して、圏論の側からは、集合論を前提とせずに数学の基礎を構築する試みがなされてきた。その代表例がETCS(Elementary Theory of the Category of Sets)や、より一般的にはトポス理論である。これらの枠組みでは、「集合の圏」が持つべき抽象的な性質(公理)を直接定義し、そこから数学全体を再構築する。このアプローチでは、集合は写像(射)の特殊なケースとして現れ、ZFCとは立場が逆転する 12

トポス理論:一般化された集合の宇宙

トポス(topos)とは、一言で言えば「集合の圏Setのように振る舞う圏」である 48。より形式的には、有限極限を持ち、デカルト閉(後述)であり、かつ

部分対象分類子(subobject classifier)を持つ圏として定義される 48

トポスの画期的な点は、それが古典的な数学の宇宙だけでなく、直観主義論理(排中律が必ずしも成り立たない構成的数学の論理)のモデルをも提供することである 49。各トポスは、それ自身の

内部言語(internal language)を持っており、そのトポスの中で通用する「真理」の概念が定まる 48

Setの内部言語は古典論理であるが、他のトポスの内部言語は直観主義論理になることがある。

これは、数学の「真理」や「論理」が絶対的なものではなく、我々がどのような数学的「宇宙」(トポス)を基礎として選ぶかに依存する相対的なものである、というラディカルな視点を提示する。

グロタンディークによる代数幾何学の革命

圏論の foundational な力の最も劇的な現れの一つが、アレクサンドル・グロタンディークによる代数幾何学の革命である。彼は、多項式方程式の解として定義される古典的な「多様体」の概念を、スキーム(scheme)という遥かに一般的で強力な概念へと拡張した 52

グロタンディークが特に重視したのは、点の関手(functor of points)と呼ばれる視点であった 52。この視点では、幾何学的空間

Xは、点の集まりとしてではなく、ある種の関手として捉えられる。具体的には、Xは可換環の圏CRingから集合の圏Setへの反変関手Hom(-, X)として定義される。任意の環Rに対して、X(R) = Hom(Spec R, X)は、Xの「R値の点」の集合を与える 55

このアプローチでは、空間の本質は、様々な「ものさし」(環R)で測ったときの応答の総体として定義される。点の関手という視点を用いることで、ファイバー積などの幾何学的に重要な構成が、圏論における極限として極めて自然かつ簡潔に記述できるようになり、代数幾何学の風景を一変させた。

結論として、圏論の基礎としての役割は、ZFCを単純に「置き換える」ことにあるのではない。むしろ、数学的な「宇宙」がいかに多様でありうるかを探求するための、より豊かで柔軟なメタフレームワークを提供することにある。トポス理論は、Setが唯一の舞台ではないこと、異なる論理を持つ無数の舞台が存在しうることを示し、我々の数学観そのものを拡張するのである。

第9節: 抽象の具体化 — 計算機科学への応用

圏論の抽象的な概念が、最も具体的かつ実用的な形で結実している分野の一つが計算機科学、特に関数型プログラミングである。ここでは、一見すると難解な圏論の用語が、プログラマが日常的に用いる構成要素と驚くほど直接的に対応していることが示される。

対応の基礎:型と関数の圏

関数型プログラミングと圏論の間には、基本的な「ロゼッタ・ストーン」とも言うべき対応関係が存在する 16

  • : プログラミング言語ののシステム。
  • 対象: Int, String, Boolといった具体的なデータ型
  • : f: Int → String のような、ある型から別の型への関数

この視点では、プログラムの型検査は、圏の公理(射が正しく合成できるか)を検証するプロセスと見なせる。この対応を基盤として、より高度な圏論の概念がプログラミングの構成要素として姿を現す。

  • 積と余積:
  • 積 (Product): 多くの言語におけるタプルレコード(例:(Int, String))は、圏論的な積の直接的な実装である。
  • 余積 (Coproduct): バリアント型共用体(例:Either String Bool、これはString型かBool型のどちらかの値を持つ)は、圏論的な余積に対応する。
  • 関手 (Functor):
  • プログラミングにおける関手(HaskellのFunctor型クラスなど)とは、List<T>やOptional<T>のように、型パラメータを取る型構築子(type constructor)Fであって、「写像可能(mappable)」なものを指す。つまり、A → Bという関数があれば、それを「持ち上げて」F<A> → F<B>という関数を機械的に作ることができる 57
  • 例えば、Listは関手である。なぜなら、Int → Stringという関数があれば、それをList<Int>の各要素に適用してList<String>を生成できるからだ。これは、圏論的な関手が射を写し取る操作F(f): F(A) → F(B)そのものである。

副作用を飼いならす:モナド

純粋関数型プログラミングにおける長年の課題は、関数の結果がその入力のみに依存するという「純粋性」を保ちながら、いかにして副作用(I/O、状態変化、エラーなど)を扱うかであった 58。この問題をエレガントに解決したのが

モナド(monad)である。

プログラマの視点から見ると、モナドとは以下の二つの操作を持つ型構築子Mのことである 60

  1. return (または pure): A → M<A>
    純粋な値Aを、モナドという「文脈」や「コンテナ」に包み込む操作。
  2. >>= (bind, または flatMap): M<A> → (A → M<B>) → M<B>
    文脈に包まれた値M<A>と、純粋な値Aを受け取って文脈付きの値M<B>を返す関数とを「連結」し、一連の計算を逐次的に実行する操作。

このbind演算子が、副作用の文脈をプログラム全体にわたって適切に引き回す役割を担う。「プログラマブルなセミコロン」と形容されることもある 60

一方、圏論的な定義では、モナドは「自己関手の圏におけるモノイド」と表現される 62。これは、自己関手

T: C → Cと、二つの自然変換η: Id → T(単位元、returnに対応)およびμ: T ∘ T → T(乗算、M<M<A>>をM<A>に「平坦化」するjoin操作に対応)からなる。プログラミングで用いられるbindは、このjoinとfmap(関手の写像操作)から定義できる。

このモナドという単一の抽象概念が、驚くほど多様な計算上の「効果」をモデル化できる。

モナド型構築子 M<A>モデル化される文脈・効果bind (>>=) の振る舞い典拠
Maybe (Option)Just A または Nothing失敗の可能性、オプショナルな値入力がNothingならNothingを伝播。Just xなら関数をxに適用。60
List (Array)[A] (Aのリスト)非決定性、複数の結果入力リストの各要素に関数を適用し、結果として得られるリスト群を連結する。64
IOAを生成する「アクション」外部世界との相互作用(入出力)二つのアクションを逐次的に連結し、最初のものが完了してから次が実行されることを保証する。58
StateS → (A, S)状態管理、可変変数状態Sを関数の連鎖を通じて引き回し、一つの関数の出力状態を次の関数の入力状態とする。64
ReaderR → A共有された読み取り専用環境計算の連鎖に対して、共有の環境Rを提供する。67

プログラム意味論

圏論は、プログラミング言語の意味(semantics)を数学的に厳密に定義するための強力な枠組みを提供する 68。特に

表示的意味論(denotational semantics)では、プログラムの意味を、具体的な実行ステップとは独立した数学的対象(例えば写像)として捉える。

この文脈では、プログラミング言語の構文自体が圏をなし、その意味は、その圏からSetのような意味論的な圏への構造を保存する関手として与えられる 68。言語が持つ様々な機能は、圏が持つべき特定の構造に対応する。

  • 一階関数: 有限積を持つ圏
  • 高階関数(関数を引数に取ったり返したりする): デカルト閉圏(Cartesian Closed Category, CCC)
  • 副作用: 有限積を持つ圏上の強モナド
  • 再帰: 不動点演算子

このように、圏論はプログラムの構成要素と、それらが織りなす構造の本質を捉え、抽象的でありながら極めて実践的な洞察を計算機科学にもたらしている。

第10節: 普遍言語 — 科学と工学への応用

圏論の抽象的な力は、数学や計算機科学の領域を越え、物理学、データベース理論、システム工学、さらには経済学や認知科学といった、より具体的な科学・工学分野においても、構造を理解し、複雑さを管理するための「普遍言語」として機能し始めている。

データベース理論:関手的データ移行

マサチューセッツ工科大学のDavid Spivakらによって開拓された分野では、圏論がデータベースの設計と操作に新たな視点を提供している 69

  • スキーマは圏である: データベースのスキーマ(構造定義)は、圏としてモデル化される 69
  • 対象: 各テーブル。
  • : テーブル間の外部キー関係。
  • 可換図式: path1 = path2 のようなパスの等式は、データの整合性制約を表す 70
  • インスタンスは関手である: スキーマに格納された実際のデータ(インスタンス)は、スキーマ圏から集合の圏Setへの関手として表現される 70。この関手は、各テーブル(対象)に対応する行の集合を割り当て、各外部キー(射)に対応する行間の参照関係(写像)を割り当てる。

このモデルの真価は、データベースの統合や移行といった複雑なタスクを扱う際に発揮される。二つのスキーマCとDの間の対応関係が関手F: C → Dとして与えられると、このFから三つの「データ移行関手」(Δ_F, Σ_F, Π_F)が自動的に導出される 70。これらの関手は、

DのデータをCに引き戻したり(Δ_F)、CのデータをDに押し出したり(Σ_F, Π_F)する操作に対応し、射影、和、結合といったSQL操作を一般化したものと見なせる。これにより、複雑なデータ変換を、整合性が保証された形式的かつ標準的な方法で扱うことが可能になる 73

物理学:時空とプロセスの構造

物理学、特に理論物理学の最先端では、圏論が時空と物理プロセスの根源的な構造を記述する言語として注目されている 76

  • 位相的場の量子論 (TQFT): 圏論はTQFTの自然な言語である 77
    n次元TQFTは、n次元コボルディズムの圏nCobからベクトル空間の圏Vectへの、対称モノイダル関手として定義される。
  • nCobの対象は(n-1)次元の空間であり、射はそれらの空間を境界とするn次元の時空(コボルディズム)である。
  • TQFT関手は、空間(対象)に状態のなすベクトル空間を対応させ、時空のプロセス(射)に状態間の時間発展を表す線形写像を対応させる。この定義は、「空間には状態のヒルベルト空間が、時間発展にはユニタリ作用素が対応する」という量子力学の基本思想をエレガントに一般化している。
  • 高次圏論と量子現象: より進んだ高次圏論(射の間にさらに高次の射を考える理論)は、物性物理学におけるトポロジカル相の分類や、場の量子論における対称性の深い構造を理解するために用いられている 77。また、
    トポス理論は量子力学の基礎(文脈依存性や非局所性など)を再検討するための枠組みを提供している 79

システムとネットワーク:コンポジションの科学

Brendan FongやDavid Spivakといった応用圏論の研究者たちは、圏論を用いてオープンで相互接続されたシステムをモデル化する枠組みを開発している 80

  • コンポジション性 (Compositionality): このアプローチの核心は、コンポジション性の原理、すなわち「システム全体の振る舞いは、その部品の振る舞いと、それらがどのように組み合わされているかによって決まる」という考え方を数学的に定式化することにある 80
  • システムを射としてモデル化: 電気回路、化学反応ネットワーク、ソフトウェアコンポーネントといった個々の「開いたシステム」(外部との入出力を持つシステム)は、ある種の圏におけるとしてモデル化される。このためのツールとして、構造化コスタン(structured cospan)やレンズ(lens)といった圏論的構成が用いられる 80
  • 合成が結合に対応: この圏における射の合成は、物理的あるいは論理的なシステムの結合(例えば、二つの回路を配線で繋ぐこと)に対応するように定義される。

これにより、異なる種類のシステム(電気、化学、情報)を、すべて「合成可能な射」として同じ土俵で扱うことが可能になり、システム設計と分析のための統一的な数学理論が提供される。

経済学と認知科学

圏論の応用範囲は、さらに広がりを見せている。

  • 経済学: 複雑な経済システム(金融ネットワーク、サプライチェーンなど)を圏としてモデル化し、その動態を分析する試みがなされている。このモデルでは、対象は経済主体(企業、消費者)、射はそれらの間の取引や相互作用を表す 83
  • 認知科学: 人間の高次の認知能力、例えば類推(アナロジー)や体系性(「ジョンはメアリーを愛している」を理解できれば「メアリーはジョンを愛している」も理解できる能力)を、圏論の普遍的構成や随伴性によって説明しようとする研究が進められている。これは、認知アーキテクチャの形式理論を提供するものである 14

これらの多様な応用例に共通しているのは、圏論が合成という根源的な行為の数学理論であるという事実である。プログラムにおける関数の合成、データベースにおけるテーブルの結合、物理学におけるプロセスの逐次実行、工学におけるコンポーネントの結合。これらすべてが、圏論の核心にある「射の合成」という一つの抽象的な操作の異なる現れと見なすことができる。圏論がこれほどまでに「不合理な有効性」を示すのは、それが我々の世界を構成する最も基本的な行為の一つである「ものを組み合わせる」という操作の論理を、純粋な形で捉えているからに他ならない。

第11節: 結論 — 圏論の統一力と未来

本報告書を通じて、圏論が単なる数学の一分野ではなく、構造と関係性を捉えるための強力な思考様式であり、分野の垣根を越えて知見を統合する普遍言語であることが示された。その本質と貢献は、以下の三つの役割に集約できる。

  1. 数学への新たな視点: 圏論は、伝統的な集合論の要素中心主義から脱却し、対象をその外部との関係性によって定義する「構造主義的」な視点を提示した。射(関係性)と合成(関係性の結合)を第一に考えるこのアプローチは、数学的対象をより抽象的かつ本質的なレベルで捉えることを可能にした。
  2. 分野を横断する統一言語: 圏論は、代数学、位相幾何学、論理学といった純粋数学の諸分野に共通するパターンを「普遍性」「極限」「随伴性」といった概念で抽出し、統一的に記述する言語を提供した。さらにその応用範囲は、計算機科学におけるプログラムの構造、物理学における時空のプロセス、データベース理論におけるデータの移行、システム工学におけるコンポーネントの合成など、広範な科学技術分野に及ぶ。これにより、異なる領域間に潜む深遠なアナロジーを発見し、知識を相互に移植するための形式的な道筋が拓かれた。
  3. 数学の基礎に関する柔軟な枠組み: 圏論は、ZFC集合論に代わる、あるいはそれを一般化する新たな数学の基礎としての可能性を示した。特にトポス理論は、古典論理だけでなく直観主義論理にもとづく数学の「宇宙」を構築可能であることを示し、数学の基礎が単一ではないという多元的な視点をもたらした。これは、論理そのものが研究対象となりうる、より高次の foundational なフレームワークを提供するものである。

抽象化の最前線

圏論は今なお発展を続ける生きた分野である。その最前線には、以下のようなテーマが存在する。

  • 高次圏論 (Higher Category Theory): 射と射の間に「2-射」、さらにその間に「3-射」…と、高次の関係性を導入する理論である 12。これにより、同値関係やホモトピーといった「等しいわけではないが、本質的に同じ」という概念をより精密に扱うことが可能になり、位相幾何学や数理物理学の最先端で不可欠なツールとなっている。
  • 応用圏論 (Applied Category Theory, ACT): 圏論の抽象的なツールを、数学の外にある現実世界のシステム(生物ネットワーク、認知プロセス、社会システム、資源管理など)のモデル化に積極的に活用しようとする、新しい学際的研究分野である 81。これは、圏論が純粋数学の言語から、複雑な現実を記述するための科学的方法論へと進化しつつあることを示している。

最終的な考察:類推と統合の科学

結論として、圏論は単なる数学理論を超え、形式的な「類推の科学」と見なすことができる。ある分野におけるパターンが、別の分野のパターンと「同じである」とはどういうことか、という問いに対して、圏論は関手や自然変換といった概念を通じて厳密な答えを与える。それは、直観や比喩を数学の言葉に翻訳し、知の断片を統合してより大きな構造を明らかにするための、強力なエンジンである。

対象そのものの性質ではなく、それらが織りなす関係性の網の目にこそ本質が宿るという圏論の思想は、相互接続性が増す現代世界を理解するための、根源的な示唆を与え続けている。その探求は、我々が構造とシステムを思考する方法そのものを、今後も変革し続けるであろう。

引用文献

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  3. 高校生でも雰囲気だけわかる圏論 – YouTube https://www.youtube.com/watch?v=D2GU4cmm3Ys
  4. 【社内勉強会】圏論的集合論 ~第一回 集合論について~ | The Finatext Tech Blog https://techblog.finatext.com/study-set-theory-for-category-theory-1st-session-3106f167e18c
  5. Getting Started with Category Theory – Ryan Brewer https://ryanbrewer.dev/posts/getting-started-category-theory.html
  6. 数学者じゃない人が圏論を学ぶ時の勘どころ ー 圏論に独特の「定義」|nao_tsuchiya – note https://note.com/nao_tsuchiya/n/nbf630feb6f04
  7. 圏論ってナンだ? (1) 抽象化のための言語 #自然変換 – Qiita https://qiita.com/tshimizu8/items/81afe3742de07d028c29
  8. 圏論「恒等射」to me、衝撃の再会 – TETRA’s MATH http://math.artet.net/?eid=1422318
  9. 米田の補題 #11 圏の定義④ 恒等射 #AdventCalendar2024 – Qiita https://qiita.com/zanjibar/items/9d46d9682d64631ecdda
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  42. 第2回 圏論の三つの根本概念 「圏」「関手」「自然変換」 – gihyo.jp https://gihyo.jp/science/serial/01/category_theory_report/0002
  43. 自然変換・関手圏 https://alg-d.com/math/kan_extension/nat.pdf
  44. Basic Category Theory – arXiv https://arxiv.org/pdf/1612.09375
  45. 圏論と集合論 – DDO! JP https://fuchino.ddo.jp/misc/category-vers-sets-2020-x.pdf
  46. 圏論で学ぶのか|山田亮 – note https://note.com/ryamada22/n/n6f2f89fbefa6
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  48. The Ultimate Guide to Topos Theory – Number Analytics https://www.numberanalytics.com/blog/the-ultimate-guide-to-topos-theory
  49. Constructivism (philosophy of mathematics) – Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Constructivism_(philosophy_of_mathematics)
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  51. Categorical Ontology I: Existence – PhilSci-Archive https://philsci-archive.pitt.edu/17679/1/luniv-ontology1.pdf
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  53. algebraic geometry in nLab https://ncatlab.org/nlab/show/algebraic+geometry
  54. Alexander Grothendieck in nLab https://ncatlab.org/nlab/show/Alexander+Grothendieck
  55. functorial geometry in nLab https://ncatlab.org/nlab/show/functorial+geometry
  56. scheme in nLab https://ncatlab.org/nlab/show/scheme
  57. Scalaプログラマが圏論を学ぶためのオススメ文献 – 3選 – Qiita https://qiita.com/hinastory/items/f29a47a32499dcc9f08a
  58. Monads in Haskell and Category Theory – uu .diva http://uu.diva-portal.org/smash/get/diva2:1369286/FULLTEXT01.pdf
  59. Why do we need monads? – haskell – Stack Overflow https://stackoverflow.com/questions/28139259/why-do-we-need-monads
  60. Monad (functional programming) – Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Monad_(functional_programming)
  61. A Fistful of Monads – Learn You a Haskell for Great Good! https://learnyouahaskell.com/a-fistful-of-monads
  62. Monad (category theory) – Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Monad_(category_theory)
  63. The Monads Hurt My Head — But Not Anymore | The n-Category Café https://golem.ph.utexas.edu/category/2009/07/the_monads_hurt_my_head_but_no.html
  64. Category Theory and Monads – Number Analytics https://www.numberanalytics.com/blog/category-theory-and-monads
  65. A Gentle Introduction to Haskell: About Monads https://www.haskell.org/tutorial/monads.html
  66. The State Monad: a tutorial for the confused? | Brandon Simmons’ website https://brandon.si/code/the-state-monad-a-tutorial-for-the-confused/
  67. 10章 自然変換 · Scala で始める圏論入門 https://criceta.com/category-theory-with-scala/10_Natural_transformations.html
  68. プログラミング言語の意味論と圏論 – RIMS, Kyoto University – 京都 … https://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kenkyubu/kokai-koza/H28-hasegawa.pdf
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  80. APPLIED CATEGORY THEORY IN CHEMISTRY, COMPUTING, AND SOCIAL NETWORKS 1. Introduction Society is increasingly complex and connect – UCR Math Department https://math.ucr.edu/home/baez/mrc_2022.pdf
  81. MIT 18.S097: Applied Category Theory – Brendan Fong http://brendanfong.com/7sketches.html
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