市場規模分析のケーススタディ

以下では、市場規模分析のケーススタディを示します。事例として、「日本国内におけるプラントベースミート (植物由来肉) 市場」 を取り上げます。近年、サステナビリティ志向や健康志向の高まりを背景に世界中で注目されており、日本でも徐々に浸透し始めています。ここでは仮説ベースの数値を使い、トップダウンとボトムアップを組み合わせたアプローチで市場規模をざっくり推定していく流れを示します。実際には公的な統計データや各種調査会社レポートを参照しつつ、企業・個人レベルで収集したデータを踏まえて分析します。


ケーススタディ: 「プラントベースミート (PBM)」市場分析

1. 前提設定と目的

  • 対象市場: 日本国内
  • 対象製品: プラントベースミート (肉の代替食品)
    • 大豆由来、えんどう豆由来、菌類由来などさまざまなタイプ
  • 分析の目的:
    1. 現在(例:2023〜2024年時点)の日本のプラントベースミート市場規模を推定する。
    2. 中期的(5年後程度)の成長可能性を見積もる。
    3. 新規参入事業者が取り得る市場シェアをシミュレーションする。

なお、ここに記載する数値は仮定であり、実際の統計とは異なる場合があります。現実のビジネスで活用する際は、必ず一次情報や信頼できる二次情報に基づいて検証してください。


2. マクロデータの収集 (トップダウンアプローチ)

まず、既存の大枠となるデータを把握します。

  1. 日本の人口: 約1.25億人(※2023年前後)
  2. 世帯数: 約5,000万世帯
  3. 国民1人あたりの年間肉類消費量: 約30kg〜35kg(※FAOや農林水産省の資料などを参照)
  4. 国内の総肉類市場規模: 約7〜8兆円(※複数資料の推定値)
  5. 健康志向/ヴィーガン/ベジタリアン人口: 明確な統計は少ないが、「必ずしも動物性食品を避けるわけではないが、ヘルシー/環境配慮のためにプラントベース食品に興味を示す層」も含めると 5〜10% 前後とされる推計が散見される。

トップダウンの例:

  • 肉市場全体: 約7.5兆円(仮定)
  • プラントベースミートが現状、肉市場の 1〜2% 程度を代替しているとすると、0.075〜0.15兆円 = 750〜1,500億円程度。
  • ただし、日本は欧米に比べてまだプラントベースへのシフトが遅れているという見方もあるため、実際には下限 500億円〜上限 1,200億円程度の幅があるかもしれない。

→ トップダウンから、「現状のPBM市場は大まかに数百億円〜1,000億円強」というイメージを得る。


3. ボトムアップアプローチ

次に、人口・世帯数・購買単価といった要素を積み上げる方法で試算していきます。ここでは、BtoC 消費をメインとしながら、一部外食産業・惣菜産業などの BtoB 需要も考慮します。

3.1 消費者セグメンテーション

大きく3つのセグメントを仮定してみます。

  1. ヘビー層 (Heavy Users)
    • 健康・環境意識が非常に高く、プラントベース食品を日常的に取り入れている層
    • 人口全体の 1% と仮定(約125万人)
    • 年間平均購買額は 20,000円〜30,000円 (PBM専用の加工品を一定頻度で購入)
  2. ライト層 (Light Users)
    • 普段は動物性肉を食べるが、ダイエットや話題性、環境配慮などで時々プラントベースを試す層
    • 人口全体の 5% と仮定(約625万人)
    • 年間平均購買額は 5,000円〜10,000円
  3. 外食・中食 (BtoB向け需要)
    • レストランチェーンやコンビニ惣菜、デリバリーなど
    • 全国で多様な飲食店があるが、PBMをメニューに取り入れている店舗数はまだ限定的
    • 総売上ベースで 500〜600億円程度 (現状推定)

この数字はあくまで例示的な仮説です。実際には消費者調査などを行って層別の人数や購買単価を精緻に見積もる必要があります。

3.2 ボトムアップ計算の例

ここでは計算をシンプルにするため、一つのモデルを組んでみます。実際にコードインタープリターで試算します。

# ボトムアップアプローチ (仮定値での例)

import math

# ---- セグメント別仮定値 ----
# Heavy Users
heavy_users_ratio = 0.01  # 全人口比 1%
heavy_users_annual_spending_min = 20000
heavy_users_annual_spending_max = 30000

# Light Users
light_users_ratio = 0.05  # 全人口比 5%
light_users_annual_spending_min = 5000
light_users_annual_spending_max = 10000

# Population
japan_population = 125000000  # 1.25億人

# BtoB segment (e.g., Restaurant chains, convenience stores, etc.)
b2b_spending_min = 500e8  # 500億円
b2b_spending_max = 600e8  # 600億円

# ---- 計算 ----
# Heavy Users
heavy_users_count = japan_population * heavy_users_ratio
heavy_users_spending_min = heavy_users_count * heavy_users_annual_spending_min
heavy_users_spending_max = heavy_users_count * heavy_users_annual_spending_max

# Light Users
light_users_count = japan_population * light_users_ratio
light_users_spending_min = light_users_count * light_users_annual_spending_min
light_users_spending_max = light_users_count * light_users_annual_spending_max

# 合計
total_min = heavy_users_spending_min + light_users_spending_min + b2b_spending_min
total_max = heavy_users_spending_max + light_users_spending_max + b2b_spending_max

print("---- PBM Market Size Estimation (Bottom-up) ----")
print(f"Heavy users (count): {heavy_users_count/1e4:.2f}万人")
print(f"Light users (count): {light_users_count/1e4:.2f}万人")
print(f"PBM spending (Min): {total_min/1e8:.2f} 億円")
print(f"PBM spending (Max): {total_max/1e8:.2f} 億円")

上記のようなモデルにより、ヘビー層ライト層外食中食分野の合計を「下限〜上限」レンジとして求めます。あくまで仮定の数字ですが、「ヘビー層とライト層の消費だけでおよそ数百億円規模〜1,000億円程度」「BtoB でさらに数百億円が加わる」という感覚をつかめます。


4. トップダウン×ボトムアップのすり合わせ

  • トップダウン試算: 500〜1,200億円程度
  • ボトムアップ試算: 数百億〜1,000億円弱 + BtoB分野で約500億円以上 → 1,000〜1,600億円程度の幅

両者の推定を突き合わせると、現状の日本のPBM市場は**「最低でも500億円以上、1,000億円を超える可能性もある」**と推測できます。ただし、海外のトレンドや環境意識の高まり、国内メーカー・流通の積極的展開などにより、数年で1.5倍〜2倍に成長するシナリオもありえます。


5. 成長率と将来予測

日本国内では「健康志向」「動物福祉」「環境保護」などの観点から徐々に市場が拡大しており、年平均成長率 (CAGR) が 10〜20% というレポートも散見されます。ここでは便宜上 年15% 成長 と仮定し、5年間の市場規模推移をざっくりシミュレーションします(下限シナリオ: 1,000億円 → 上限シナリオ: 1,600億円から開始)。

以下、コードインタープリターで例示的に描画してみます。グラフは英語表記にし、文字化けを回避します。

import matplotlib.pyplot as plt

# Assume current market size range
market_size_min_2023 = 1000  # in 100 million yen (億円)
market_size_max_2023 = 1600  # in 100 million yen (億円)

# Growth rate assumption (CAGR)
growth_rate = 0.15
years = [2023, 2024, 2025, 2026, 2027]

min_values = []
max_values = []

current_min = market_size_min_2023
current_max = market_size_max_2023

for y in years:
    min_values.append(current_min)
    max_values.append(current_max)
    # Update for next year
    current_min *= (1 + growth_rate)
    current_max *= (1 + growth_rate)

plt.figure(figsize=(8,5))
plt.plot(years, min_values, marker='o', label='Lower bound (Min Est.)', color='blue')
plt.plot(years, max_values, marker='o', label='Upper bound (Max Est.)', color='red')

plt.title('Projected Market Size for Plant-based Meat in Japan', fontsize=14)
plt.xlabel('Year', fontsize=12)
plt.ylabel('Market Size (in 100 million JPY)', fontsize=12)
plt.xticks(years)
plt.legend()

# ラベルを付与 (数値表示)
for i in range(len(years)):
    plt.text(years[i], min_values[i]+50, f"{min_values[i]:.0f}", color='blue', ha='center')
    plt.text(years[i], max_values[i]+50, f"{max_values[i]:.0f}", color='red', ha='center')

plt.ylim(0, max(max_values)+200)
plt.show()

この結果(数値は仮定)から、5年後には下限シナリオで約2,000億円規模、上限シナリオで約3,000億円規模に成長するかもしれない、というイメージを得られます。


6. 競合環境と市場シェア (SOM: Serviceable Obtainable Market)

最後に、新規参入企業 (仮に「Company X」とします) が獲得できる現実的な市場シェアを検討します。プラントベースミート市場には、国内外の食品メーカーやスタートアップが参入しており、競争が激化しています。

  • 競合: 大手食品メーカー (例: 大塚食品、日清食品、伊藤ハム米久HD、マルコメなど)、外資系スタートアップ (Impossible Foods, Beyond Meat など)
  • チャネル: スーパー・コンビニ、EC (Amazon, 楽天等)、外食チェーン

6.1 SOM を仮定計算

  1. 今後5年間の平均市場規模: 中間値をとって(1,000〜1,600億円の中間=1,300億円スタート)年15%成長 → 5年目に約 2,600億円 規模
  2. 当該市場でシェア 5% 程度を獲得できるとすると 5年目で約 130億円
  3. さらに、他チャネル拡大でシェアを 10% に拡大できれば 5年目で約 260億円

これをもう少し具体的な数式でモデル化することもできますが、要は「市場全体の大きさ × 市場シェア」でSOMを見積もり、そのうえで各年度の売上計画を策定していく流れです。


7. ケーススタディから得られるポイント

  1. トップダウンとボトムアップの両面
    • どちらか一方だけでなく、両方の視点を統合することで合理的な推定レンジを導ける。
  2. 仮定の透明化
    • 「健康志向」「購買単価」「利用頻度」といった変数をどのように置いたかを明示することで、ステークホルダー間で議論しやすくなる。
  3. 外部要因・成長要因の分析
    • 政府の食品政策、SDGs推進、消費者意識の変化などのマクロトレンドが市場拡大を後押しする可能性。
  4. 競合環境・差別化要素
    • 大手や海外勢も参入する激戦領域。差別化のために「美味しさ」「価格」「流通チャネルの確保」が重要。
  5. リスクとシナリオ分析
    • 動物性肉の価格変動 (例えば世界的な食肉価格高騰が起きるとPBMが相対的に普及しやすくなる)
    • 消費者嗜好が一時的なブームに留まるか、定着するかの不確実性

8. まとめ: ケーススタディの活用法

本ケーススタディは、「日本国内のプラントベースミート市場」 を題材に、以下のプロセスを示しました。

  1. 既存レポート (トップダウン) で大枠の市場規模を把握
  2. 消費者セグメントや利用頻度 (ボトムアップ) で積み上げ試算
  3. 両者のギャップをすり合わせ、現実的なレンジを導出
  4. 年平均成長率 (CAGR) を仮定して将来規模を予測
  5. 新規参入企業の想定シェア (SOM) を試算
  6. リスク・競合・差別化ポイントを考慮して最終シナリオを複数描く

実際のビジネスシーンでは、より精緻なデータ (マーケティングリサーチ、消費者アンケート、販売実績、競合分析) を取り入れて、シナリオや数値の精度を高めます。また、国内外の多言語ソース (政府統計、市場調査レポート、専門誌・学術論文など) を積極的に参照しつつ、仮定ごとに感度分析を行って柔軟な計画を立てることが重要です。

このケーススタディはあくまで一例ですが、市場規模分析の実際の進め方や考え方、数値の積み上げ方のイメージを具体的に示しているので、他の業界でも同様のプロセスで適用可能です。さらに詳しい部分(セグメント定義、アンケート調査方法、競合マッピングなど)についてご要望がありましたら、お問い合わせください。