有機ELの黒は光らないので、白との差は理論上無限大になります。ただ、その無限大が本当なのは照明を落とした部屋の中だけで、昼間のオフィスでは、部屋の照明が画面に映り込み、黒い部分も反射で光って見えます。
この記事では、有機ELと液晶の光り方の違いを確かめたうえで、目に届く白と黒の比は、パネルの性能より部屋の明るさで決まる場面が多いこと、そして仕様表の数字と見積もりの数字が大きく食い違う理由を示します。
有機ELは黒で消え、液晶は黒でも漏れます
有機ELは、画素そのものが光る仕組みです。白背景ではすべての画素が発光し、黒背景では画素が消灯して光の量はゼロに近づきます。黒が完全に0 cd/m²(カンデラ毎平方メートル)なら、白との比は計算できないほど大きくなります。
液晶は、後ろのバックライトの光を液晶で通したり遮ったりして表示します。白背景ではバックライトの光をほぼそのまま通し(例: 300〜400 cd/m²)、黒背景でもバックライトは点いたままで、液晶が光を遮ります。遮りきれない光が漏れるため、比は有限の値になります。モニターの仕様表には、この比がコントラスト比として書かれていて、液晶では1000:1前後がよく見られます。
目に届く光には、照明の映り込みが足されます
仕様表の比は、パネルそのものの性能を表す数字です。実際に目に届く光には、部屋の照明が画面で反射した分が、白にも黒にも同じように足されます。目に届く比は、白の輝度に反射を足したものを、黒の輝度に反射を足したもので割った値になります。
この式では、反射は分母に強く効きます。黒の輝度は小さいので、反射が少し加わるだけで分母は何倍にも膨らみ、白の輝度は大きいので、分子はあまり変わりません。たとえば液晶の白が300、黒が0.3 cd/m²なら、暗い部屋では比は1000倍です。そこに照明の反射が5 cd/m²加わると、白は305、黒は5.3になり、比はおよそ58倍まで縮みます。有機ELの黒が0でも、反射が5なら白305に対して黒は5で、比は約61倍です。明るい部屋では、無限大と1000倍の差はほとんど残りません。
元の見積もりにあった液晶の10〜50倍という数字は、黒を数〜十数 cd/m²と置いていました。パネル単体の黒としては明るすぎますが、映り込みを含めた黒と考えれば、明るい部屋での見え方に近い数字です。仕様表の1000倍と見積もりの10〜50倍は、どちらかが間違いというより、暗い部屋の数字と明るい部屋の数字を比べていたと考えると整理できます。仕様表の数字で日中の見え方を語るのは、無風の実験室で測った傘の性能で、台風の日の濡れ方を語るのに似ています。
ここで使った5 cd/m²は、計算の形を示すための仮の値です。実際の反射の量は、画面の表面処理(光沢か反射を抑えた仕上げか)、照明の明るさと位置、見る角度で大きく変わり、一般的な値は決められません。同じオフィスでも、窓際と奥の席で答えが変わります。
電池の持ちには、パネルの違いがそのまま出ます
有機ELでは白背景の方が多くの画素が光るので電池の消費が増え、最大で2倍程度の差が出るという目安もあります。液晶はバックライトが常に点いているため、背景の色による差は出にくくなります。明るい部屋で有機ELをダークモードにする利点は、見え方より電池の側に残ると言えます。
条件を言わない質問には、答えが定まりません
白と黒の差は何倍かとAIに聞くと、もっともらしい倍率がすぐに返ってきます。ただ、答えは画面の種類、明るさの設定、部屋の明るさ、画面の表面で大きく変わります。条件を渡さずに聞けば、AIは自分で条件を置いて答え、その条件は文章の中に埋もれがちです。その倍率を資料にそのまま貼るのは、どの部屋で測ったかを書かない温度計の数字を、全社の室温として報告するようなものです。聞くなら、パネルの種類と仕様表の値、部屋の明るさを先に書き、暗い部屋の場合と映り込みを含めた場合の二通りで計算させ、置いた仮定を箇条書きで示させます。
あなたが画面の見やすさで誰かと意見が食い違ったとき、二人は同じ明るさの部屋の話をしていたでしょうか。いま手元の画面で白と黒の差を決めているのは、パネルと照明のどちらでしょうか。
この記事の背景にある考え方は、拙著『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』の2章1節「プロンプトの重要性と設計方針」に書きました。作業の内容や目的、条件を書かずにAIに頼むことを「これは、目的地を告げずにタクシーに乗るようなものです。」とたとえ、固有名詞、数値、条件を加えて焦点を絞る明確化と具体化の考え方を説明しています。この節を読むと、答えが条件しだいで変わる問いを、自分で条件ごとに分けて立て直せるようになります。
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