バズる構文は、読み手の自己像を先取りする型で、広まるほど効かなくなる

〇〇な人は全員〇〇した方が良い、と書かれると、読み手は自分が〇〇な人かどうかを判定する前に、もう当事者にされています。ここにバズる構文の力があり、同時に寿命の短さもあります。この記事では、さとり構文を、読み手の自己像を書き手が先に差し出す型として読み解き、型が広まるほど効かなくなる理由と、AIで投稿を作るときに型より先に決めるべきことを考えます。

バズる構文とは、拡散されやすい文章の型のことです

バズるは、投稿が短期間に大きく拡散され、多くの人の注目を集めることを指し、英語の Buzz(うわさ、ざわめき)に由来します。明確な基準はありませんが、数千から数万のいいねやリポスト、普段より大きく上がったエンゲージメント率、トレンドへの表示などがよく目安にされます。バズる構文は、こうした拡散を起こしやすい投稿の型で、読み手に自分のことだと感じてもらい、反応や共有を促すことを狙います。

さとり構文は、読み手に自己像を差し出す型です

代表例としてよく挙げられるのが、さとり氏が広めたとされるさとり構文です。

毎日議事録作成に追われている人は全員、GPTの音声機能を使った方が良い。会議を録音すれば文字起こしまで任せられるので、議事録にかかる時間をぐっと減らせる。

前半で悩む人を名指しし、後半で解決策と利点を示す形で、共感、具体性、行動の三つの要素の組み合わせと説明されます。

さとり構文の三つの要素

三つのうち、効き目の中心は前半の名指しにあります。読み手は、議事録に追われている人という自己像を、自分で考える前に受け取ります。受け取った瞬間に、後半の解決策は自分あての提案に変わります。Xは冒頭の数文字で読まれるかどうかが決まりやすい場所なので、この先取りは特によく働きます。驚きや面白さで広がった突然の死のような過去の流行構文と比べると、さとり構文は、読み手を行動へ運ぶマーケティングの要素を強めた型だと言えます。

型の効き目は、型が知られるほど落ちます

自己像の先取りは、読み手が気づかないうちは強く働き、気づかれた瞬間に押しつけに変わります。さとり構文が広まるにつれ、わざとらしい、と感じる人が出てきたのはこのためです。有益な情報、意外性、ストーリー、権威性、親近感、理想の未来、挑戦、話題性と、ほかの型も事情は同じです。意外性の型で、営業成績を上げるには営業しないことが重要だった、と書く投稿が千本並べば、意外なのは千本目まで読んだ人の忍耐のほうです。意外さは読み手の予想とのずれでしか生まれず、型が予想の一部になれば、ずれは消えるからです。

誇張した数字が信頼を一気に失わせること、注目そのものが目的になると中身の薄い投稿や誤情報が広がることも、型に頼るときの危うさとしてよく指摘されます。

AIで型を量産すると、寿命はさらに縮むと考えられます

AIに、バズる投稿を書いて、と頼めば、よく見かける型の平均のような文が返ってきます。同じ型の文が多くのアカウントから同時に流れれば、読み手が型に気づくまでの時間は短くなると考えられます。ただし、Xのアルゴリズムの詳細は公開されている範囲が限られており、型の寿命がどれだけ縮むかを外から正確に測ることはできません。

そこでAIに先に渡すべきなのは、型ではなく、読み手が自分をどんな言葉で説明しているかという前提です。たとえば次のように頼みます。

Xの投稿文を3案作ってください。読み手は、AIに興味はあるが業務で使えていない会社員で、自分のことを、時間がない、と説明する人たちです。目的は、議事録の作業を減らす方法を知ってもらうことです。型は指定しません。読み手が普段使っている言葉で書き、誇張や根拠のない数字は使わないでください。

型は、この前提が決まったあとで選んでも遅くありません。出てきた案から事実と違う点や自分らしくない言い回しを直すのは、発信者の仕事です。

一方で、キャンペーンの告知のように短い期間で多くの人に届けば十分な投稿なら、型の寿命が短いことは大きな問題になりません。型を避けるべきかどうかは、その投稿で何を、どれだけの期間、残したいのかで変わります。

あなたの投稿の読み手は、自分のことをどんな言葉で説明する人たちでしょうか。その言葉を、型に入れる前に一文で書けるでしょうか。

この記事の背景にある考え方は、拙著『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』の6章1節「非定型文の5ステップ」に書きました。制約条件、ターゲット、プレミスとメインメッセージを書き始める前に決める手順を示し、「意図があいまいだと、文章は一貫性を欠き、まとまりのないものになります。」と書いています。この節を読むと、型を選ぶ前に、誰のどんな前提に向けて書くのかを自分で決める順番が見えてきます。

AIの答えが物足りないとき、疑うべきはAIか、自分の言葉か。

ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング 表紙

『ChatGPT はじめてのプロンプトエンジニアリング』

AIは言葉でしか動かない。プロンプトを暗記するのをやめ、構成要素に分解して、自分の言葉で意図を込める力を鍛える本です。

読み終えたとき、手元に残るもの

  • 必須、任意、形式の三つに分けたプロンプトの構造
  • 回答の質を変える、意図を込めた生きたプロンプト
  • 発注と検収は人が担う、AIとの役割分担
  • 章末の演習プロンプト26題

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