ソースグラウンディング

生成AIのグラウンディング:信頼できるAIの未来を築くためのアーキテクチャ、方法論、および展望

第1章 生成AIにおけるグラウンディングの根本的な必要性

本章では、グラウンディングの核心概念を確立する。単なる定義を超え、信頼性が高く、エンタープライズレベルでの利用に耐えうるAIを導入するための譲れない要件として位置づける。

1.1 グラウンディングの定義:抽象概念から実践的必須要件へ

グラウンディングとは、大規模言語モデル(LLM)が持つ抽象的で確率論的な言語理解を、検証可能な実世界のデータソースに結びつけるプロセスである 1。根本的には、言語的表現を具体的な実世界の事例やデータに紐付けることと言える 3

このプロセスが不可欠な理由は、LLMがその内部に保持する知識が、特定の文脈においては時代遅れであったり、無関係であったり、あるいは事実として不正確であったりする可能性があるためである 5。LLMは静的なデータセットで事前学習されており、その知識は固定化されている。グラウンディングは、この静的な知識に対して必要な「現実との照合(リアリティチェック)」を提供する 4

「グラウンディング」という用語は、文脈によって二つの異なるニュアンスで用いられるため、その区別が重要である。

  1. 広義のグラウンディング: AIを実世界に接続するという一般原則を指す。これには、画像や動画などのマルチモーダル情報、対話の文脈、さらにはセンサーデータなどが含まれ、より「人間らしい」理解を目指す 3。これはAIに「五感」や「記憶力」を与えるようなものと比喩される。
  2. 狭義のグラウンディング: エンタープライズの文脈でより一般的に用いられる意味であり、LLMの出力を、事実の正確性を保証し、情報の捏造を減らすために、精選された信頼できるデータソース(多くはテキストベース)に固定(アンカー)する特定のプロセスを指す 5

本レポートでは、主に後者の狭義のグラウンディングに焦点を当てるが、前者の概念的な重要性も認識した上で議論を進める。

1.2 中核原理:言語モデルを検証可能な現実に固定する

LLMはデータリポジトリではなく、推論エンジンである 2。その強みは言語操作と論理にあり、事実に基づいた最新の知識ベースを保有することではない。グラウンディングは、LLMの役割を「創造的な推測者」から「知識に基づいた統合者」へと変える。情報の「ごった煮のスープ」から応答を生成するのではなく、明示的に提供された信頼できる証拠に基づいて応答を生成するように制約される 1。このプロセスは、AIの出力を確率論的な生成から、証拠に基づく統合へと根本的に変化させる 7

1.3 エンタープライズおよびミッションクリティカルな応用における主要な利点

グラウンディングは、特に精度と信頼性が最重要視される状況において、数多くの利点をもたらす。

  • 精度の向上とハルシネーション(幻覚)の削減: これは最も頻繁に引用される利点である。グラウンディングは応答を事実に固定することで、モデルが情報を捏造するリスクを大幅に軽減する 1
  • 信頼性と監査可能性: 引用や出典元データへのリンクを提供することで、AIの推論プロセスを透明化し、その出力を検証可能にする。これはユーザーの信頼を醸成し、監査を可能にする 5
  • 知識の鮮度: コストのかかる再トレーニングを行うことなく、LLMがリアルタイムまたは頻繁に更新されるデータソースにアクセスできるようにすることで、「知識の陳腐化」問題を解決する 6
  • セキュリティと一貫性: 企業環境において、グラウンディングはLLMが承認され、精選されたコンテンツのみを使用することを保証する。これにより、機密情報の漏洩を防ぎ、一貫したブランドボイス、ポリシー遵守、製品表現を維持する 5
  • ドメイン特化性: 汎用的なLLMを、医療、法律、金融などの専門分野に特化した知識ベースに接続することで、専門家レベルの応答を提供できるようになる 2

1.4 グラウンディングとファクトチェック:AIの信頼性における決定的な違い

グラウンディングとファクトチェックは、しばしば混同されるが、その機能とタイミングにおいて根本的に異なる。

  • ファクトチェックは、事後的(post-hoc)なプロセスである。これは、AIが生成した応答に含まれる主張を、後から外部ソースと照合して検証する行為である 17。これは修正的な措置である。
  • グラウンディングは、事前(pre-hoc)またはその場(in-situ)のプロセスである。これは、応答生成プロセス自体を制約するアーキテクチャ的アプローチであり、応答作成の前または最中に事実的根拠を提供する 8。これは予防的な措置である。

Google Cloudのcheck-grounding APIは、この違いを明確に示している。このAPIは、生成された応答(「回答候補」)を、与えられた一連の「事実」と照合し、その応答がどの程度裏付けられているかを示す支持スコアを算出する。これは実質的に、グラウンディングされたシステムに対する自動化されたファクトチェッカーとして機能する 20

この概念をさらに深く掘り下げると、グラウンディングはAIの信頼性確保におけるパラダイムシフトを意味していることがわかる。初期のLLM改善アプローチは、より大きなモデル、より良い学習アルゴリズム、より多くのデータといった「モデル中心」の視点に立っていた。しかし、ハルシネーションはモデルの確率論的な性質に固有のものであり、モデル自体の改善だけでは根絶が困難であることが明らかになった 1。グラウンディングは、このモデル固有の限界を認め、信頼性の所在を

モデルの内部知識から、それが接続される外部の検証可能なデータへと移行させる。これにより、信頼できるAIシステムの構築は、不可知なブラックボックスモデルを完成させることではなく、高品質で信頼性の高いデータソースを精選、管理、提供することへと重点が移る。これは、生成AIの領域に適用された古典的な「データ中心AI」の哲学であり、AIの出力品質は、グラウンディングデータの品質の直接的な関数となる。

第2章 共生関係:AIハルシネーションへの主要対策としてのグラウンディング

本章では、ハルシネーション(幻覚)を深く分析し、グラウンディングが最も直接的かつ効果的なアーキテクチャ上の解決策であることを確立する。

2.1 ハルシネーションの解剖学:LLMはなぜ情報を捏造するのか

LLMが事実に基づかない情報を生成するハルシネーションは、単一の原因ではなく、複数の要因が絡み合って発生する。

  • 確率論的な性質: LLMは真実を確かめるのではなく、系列内で次に来る可能性が最も高いトークンを予測するように設計されている。ハルシネーションは、この統計的プロセスの自然な副産物である 19
  • 学習データの欠陥: 事前学習に使用される膨大で未整理のデータセットに含まれる誤り、バイアス、矛盾がハルシネーションの原因となりうる。モデルはこれらの欠陥を学習し、再現してしまう 17
  • 過学習と誤ったパターン認識: モデルが学習データ内の誤った結論や偽のパターンを識別してしまうことがある。これにより、統計的にはもっともらしいが、意味的には無意味な文が生成される 22
  • 知識の欠落と陳腐化: 学習データの範囲外のトピックや最近の出来事について尋ねられると、モデルは無知を認める代わりに、捏造した情報で「空白を埋める」ことがある 2

ハルシネーションは、提供されたソースコンテキストと矛盾する「内在的ハルシネーション」と、実世界の知識と矛盾する「外在的ハルシネーション」に分類できる。グラウンディングは、設計上、主に内在的ハルシネーションを対象とし、最新の実世界知識を提供することで外在的ハルシネーションにも対処する 23

2.2 因果関係:グラウンディングの欠如が事実からの乖離を招く仕組み

グラウンディングされていないLLMは、制約のないシステムである。プロンプトが与えられると、その潜在空間内で確率的な経路をたどる。外部のアンカー(錨)がなければ、この経路は容易に事実という現実から「乖離」してしまう可能性がある 5。グラウンディングはこのアンカーとして機能する。強力で関連性の高いコンテキストを提供することで、生成プロセスを事実として正確な潜在空間の領域へと引き寄せ、捏造につながる「創造的な自由」を減らす 7

2.3 作用機序:検索された証拠による生成プロセスの制約

グラウンディングの核心的なメカニズムは、検索された事実をLLMに与えるプロンプトコンテキストの一部として提供することである 4。プロンプトにはしばしば、「ユーザーの質問には、以下のソースのみに基づいて回答してください」や「提供されたコンテキストに情報がない場合は、回答できないと述べてください」といった明示的な指示が含まれる 5。これは、グラウンディングのフレームワーク内におけるプロンプトエンジニアリングの重要な役割である。これにより、モデルの注意機構(attention mechanism)は提供されたテキストに集中し、内部の事前学習済み知識を効果的に上書きまたは補完することを強制される 1

2.4 影響の定量化:ハルシネーション削減を測定するための指標

グラウンディングの効果を測定するには、いくつかの定量的・定性的な指標が用いられる。

  • 引用生成と分析: グラウンディングされたシステムの重要な特徴は、引用やソースドキュメントへのリンクを生成することである 5。これらの引用の存在、関連性、正確性は、グラウンディングが成功したかどうかの主要な指標となる。
  • グラウンディング/支持スコア: GoogleのVertex AIのようなプラットフォームは、生成された応答が提供された事実にどれだけ直接的に裏付けられているかを定量化する「グラウンディングスコア」や「支持スコア」(0から1の値)を提供する。これは個々の主張や文レベルでも実行可能である 12
  • 人間によるフィードバック(RLHF): 直接的な指標ではないが、応答の品質や事実性に関するユーザーからのフィードバックは、グラウンディングシステムを改善するための評価ループの重要な部分を占める 18

ハルシネーションは必ずしもバグではなく、グラウンディングが選択的に無効化する「機能」であるという見方もできる。いくつかの情報源は、ハルシネーションがモデルの「創造性」と関連していると指摘している 1。詩作や架空のアイデアのブレインストーミングのようなタスクでは、この「機能」は望ましい。問題は、この創造的な能力が、医療や金融アドバイスのような事実に基づき、かつ重要性の高い問いに適用された場合に生じる。ある資料では、「ハルシネーションは、AIモデルが独創的なテキストや応答を作成する能力を示すことができるため、本質的に否定的なものではない…重要なのは、ハルシネーションが問題となる場合を特定し、その欠点を軽減することだ」と明記されている 1。したがって、グラウンディングはモデル固有の生成能力を

排除するものではなく、事実の正確性が要求される場合に、この創造的/幻覚的な傾向を選択的に無効化または強力に制約するための制御メカニズムである。これは、先進的なAIシステムがグラウンディングを単純に「オン」か「オフ」にするのではなく、動的に使用することを示唆している。Googleの「動的検索(dynamic retrieval)」機能は、プロンプトの性質に基づいて応答をグラウンディングするかどうかを「予測スコア」によって決定するものであり、この洞察を直接的に実装したものである 25。システムは、ユーザーのプロンプトの性質に応じて、「事実性制約」をインテリジェントに切り替えるのである。

第3章 検索拡張生成(RAG):現代的グラウンディングの礎石

本章では、RAG(Retrieval-Augmented Generation)の詳細なアーキテクチャを解剖し、グラウンディングの原則を実装するための最も一般的で効果的な手法として確立する。

3.1 RAGフレームワークの分解:二段階プロセス

RAGは、LLMが静的な学習データを超えた情報にアクセスできるようにすることで、その出力品質を向上させるAIフレームワークである 2。これは、LLMのパラメトリック知識(モデル内部の知識)と外部データのノンパラメトリック知識(検索によって得られる知識)を融合させる複合システムである 27。このプロセスは、明確に区別された二つのステージで構成される。

  1. ステージ1:検索(Retrieval): システムはユーザーのクエリを受け取ると、まず外部の知識ベース(文書コーパス、データベース、ウェブなど)を検索し、クエリに関連する情報を見つけ出す 5
  2. ステージ2:拡張と生成(Augmentation & Generation): 次に、検索された情報(「コンテキスト」)を元のクエリと組み合わせ、LLMへの入力(プロンプト)を「拡張」する。LLMはこの拡張されたプロンプトを使用して、最終的でグラウンディングされた応答を生成する 2

3.2 検索コンポーネント:関連コンテキストを調達する戦略

検索ステージの成功は、高品質なコンテキストをいかに効率的に見つけ出すかにかかっている。

  • データソース: 知識ベースは多岐にわたる。企業の内部文書(イントラネット、CRM、製品データベース)、ウェブサイト、学術論文、さらにはリアルタイムの検索エンジン結果まで、あらゆるものが対象となる 5
  • データ前処理: 生の文書は通常、前処理される。これには、テキストのクリーニング、検索しやすいように管理可能な小さな「チャンク」への分割、そしてこれらのチャンクを効率的な検索のために数値表現(ベクトル埋め込み)に変換するプロセスが含まれる 5
  • 検索メカニズム: 最も一般的なメカニズムは、ユーザーのクエリと意味的に最も近いチャンクを見つけるベクトル類似性検索である 32。しかし、キーワード検索(TF-IDFなど)のような他の手法も補完的に使用されることがある 27

3.3 生成コンポーネント:証拠からグラウンディングされた応答を統合する

生成ステージは、LLMがその言語能力を発揮する場であるが、検索されたコンテキストによって制約される。

  • このコンポーネントは通常、GeminiやGPT-4のような事前学習済みのLLMである 27
  • LLMは、検索されたコンテキストと指示を含む拡張されたプロンプトを受け取る。
  • その後、標準的な生成タスクを実行するが、その出力は提供されたコンテキストに強く影響され、制約を受けるため、応答が検索された事実に根差していることが保証される 9

3.4 RAGパイプライン内におけるプロンプトエンジニアリングの役割

プロンプトエンジニアリングはRAGの代替手段ではなく、その不可欠な構成要素である 34

  • クエリ変換: 初期のユーザークエリは、検索ステップでより効果的になるように言い換えられたり、強化されたりすることがある 27
  • コンテキストプロンプティング: 生成器に送られる最終的なプロンプトは慎重に設計される。これには、検索されたチャンク、元のクエリ、そして引用を要求したり外部知識の使用を禁止したりするなど、情報の使用方法に関する特定の指示が含まれる 4
  • 思考の連鎖(CoT)プロンプティング: 高度なRAGシステムでは、CoTプロンプティングを使用して、検索されたデータに基づいてLLMを段階的な推論プロセスに導き、複雑な回答の質を向上させる 34

RAGは、LLMの「コンテキストウィンドウ」という制約を根本的に再定義する。LLMの主要な制約の一つは、一度に考慮できるテキストの量、すなわち有限のコンテキストウィンドウである 21。知識を提供するための単純なアプローチは、可能な限り多くの文書をこのウィンドウに「詰め込む」ことだが、これは非効率的であり、「中間での迷子(lost-in-the-middle)」問題に直面する。RAGは、より洗練された解決策を提供する。コンテキストウィンドウはもはや

知識ベース全体のボトルネックではなくなる。知識ベースは事実上無限(例えばウェブ全体)であり得る。RAGは、コンテキストウィンドウを単一のクエリに対する最も関連性の高い情報のみのボトルネックにする。検索ステップがインテリジェントなフィルターとして機能し、必要な「オンデマンド」のコンテキストのみを動的に選択してプロンプトに注入する 5。したがって、RAGは単にコンテキストウィンドウを

使用するのではなく、その使用を最適化する。それはコンテキストウィンドウを静的なメモリ制限から、リアルタイムの証拠に基づく推論のための動的なワークスペースへと変貌させるのである。

第4章 RAGの技術的基盤:ベクトル検索と埋め込み

本章では、RAGの「検索(Retrieval)」を可能にするコア技術を解明し、意味がどのように捉えられ、大規模に検索されるかを説明する。

4.1 テキストから数値へ:セマンティック埋め込みの概念

セマンティック埋め込み(Semantic Embeddings)は、テキストの断片(または他のデータ)を数値表現、すなわちベクトルに変換する技術である。このベクトルの目的は、テキストのセマンティックな意味を捉えることにある 5

text-embedding-3-smallやBERTのような埋め込みモデルを使用して、テキストチャンクはこれらの高次元ベクトルに変換される 28。この技術の核心的なアイデアは、類似した意味を持つテキストは、ベクトル空間内で互いに「近い」位置に配置されるという点にある。これにより、キーワードだけでなく、意味に基づいた検索が可能になる 32

4.2 ベクトルデータベースとインデックス:高速セマンティック検索のエンジン

ベクトルデータベース(または従来のデータベース内のベクトル検索インデックス)は、数百万から数十億ものベクトル埋め込みを格納し、効率的に検索するために特別に設計されたシステムである 28。クエリが入力されると、そのクエリもまた埋め込みベクトルに変換される。次に、ベクトルデータベースは最近傍探索を実行し、クエリベクトルに最も類似したベクトル(およびそれに対応するテキストチャンク)を見つけ出す 28。GoogleのVertex AI Vector Search 3 や、MongoDB 36、Neo4j 33 などのデータベースと共に使用されるオープンソースソリューションが、この機能を提供している。

4.3 関連性の数学:コサイン類似度とその他の距離尺度

RAGにおいて最も一般的に使用される尺度は、コサイン類似度である。これは、多次元空間における2つのベクトル間の角度のコサインを測定する。値が1に近いほどベクトルは非常に類似しており(角度が小さい)、0は無関係、-1は正反対を意味する 32。埋め込みモデルの学習方法に応じて、ドット積やユークリッド距離といった他の距離尺度も使用されることがある 35。適切な尺度の選択は、検索の精度にとって極めて重要である。

4.4 実践的実装:チャンキング戦略とメタデータによる強化

RAGシステムを効果的に実装するには、データの前処理が鍵となる。

  • チャンキング: 文書が丸ごと埋め込まれることは稀である。通常、段落や文などのより小さなチャンクに分割される。このチャンキング戦略は、検索品質に決定的な影響を与える。チャンクが大きすぎるとコンテキストが希薄になり、小さすぎるとコンテキストが失われる 5
  • メタデータ: チャンクを保存する際には、ソースドキュメントID、著者、作成日、カテゴリなどのメタデータを含めることが不可欠である。このメタデータは、ベクトル類似性検索のに検索結果をフィルタリングしたり、LLMに提供するコンテキストを充実させたりするために使用できる 33。例えば、ユーザーは「2024年第4四半期の文書のみを検索して」質問することができる。

RAGシステムの品質は、互いに独立しているようで実は相互に依存する二つの要素、すなわち埋め込みの品質とチャンキング戦略の産物である。検索の目標は、最も関連性の高いコンテキストを見つけることである。これは、ベクトルがどれだけうまく意味を表現しているか(埋め込みの品質)、そしてどの「意味の単位」が表現されているか(チャンキング戦略)に依存する。優れた埋め込みモデルも、ひどいチャンキング戦略を救うことはできない。同様に、完璧なチャンキング戦略も、質の悪い埋め込みモデルでは役に立たない。したがって、RAGシステムの最適化は、単に良いベクトルデータベースを選ぶだけでは不十分である。特定のドメインとデータセットに対して、異なるチャンキング手法と埋め込みモデルを評価することに多大な労力を費やす、「データ準備」パイプラインへの全体的なアプローチが求められる 28。これは、高性能なRAGアプリケーションを構築する上で、しばしば過小評価される重要な部分である。

第5章 グラウンディング方法論の比較分析

本章では、RAGをLLMカスタマイズ技術の広範な展望の中に位置づけ、アーキテクトや意思決定者向けに明確なトレードオフ分析を提供する。

5.1 RAGとファインチューニング:トレードオフ分析

LLMを特定のタスクやドメインに適応させる主要な手法として、RAGとファインチューニングが存在するが、それぞれに長所と短所がある。

  • ファインチューニングの定義: 事前学習済みLLMの重みを、より狭いドメイン固有のデータセットでさらに学習させることで調整する手法。これにより、モデルに新しいスキルやスタイルを教えることができる 2
  • 知識 vs. 振る舞い: RAGは知識を注入するのに最適であり、ファインチューニングは振る舞いスタイルを教えるのに最適である。例えば、チャットボットに自社の最新製品仕様を教えるにはRAGを使用し、そのチャットボットに特定のペルソナ(例:フォーマル、機知に富む)を持たせるにはファインチューニングを使用する。
  • データの鮮度: この点ではRAGが優れている。知識ベースの文書を追加・変更するだけで、知識をリアルタイムに更新できる。一方、ファインチューニングは静的なモデルを生成するため、新しい知識を取り込むにはコストと時間がかかる再学習プロセスが必要となる 2
  • コストと複雑さ: RAGは一般的に、実装と維持にかかるコスト、時間、計算量がファインチューニングよりも少ない 2
  • ハルシネーションの抑制: RAGは各クエリに対して明示的な証拠を提供するため、事実に関するハルシネーションを防止する上でより直接的かつ効果的である。ファインチューニングは学習データ内のトピックに関するハルシネーションを減らすことができるが、範囲外のクエリに対してモデルが情報を捏造することを防ぐことはできない 2

5.2 RAGとプロンプトエンジニアリング(スタンドアロン技術として)

プロンプトエンジニアリングは、RAGと対立するものではなく、その一部である。第3章で述べたように、プロンプトエンジニアリングはRAGの構成要素であり、真の代替手段ではない 34。スタンドアロンのプロンプトエンジニアリングは、巧妙な指示によってLLMの出力を改善できるが、モデルが元々持っていない知識を提供することはできない。例えば、スタンドアロンのプロンプトでは、LLMに非公開の企業文書の内容を知らせることは不可能である。RAGはこの知識注入の問題を解決する。

5.3 ハイブリッドアプローチ:最適なパフォーマンスのためのRAGとファインチューニングの組み合わせ

最も洗練されたシステムは、しばしばハイブリッドアプローチを採用する。これは、両方の技術の長所を組み合わせる戦略である。例えば、特定のタスク(法律文書の要約やSQLクエリの生成など)のエキスパートになるようにLLMをファインチューニングし、そのファインチューニング済みモデルに、タスクを正確に実行するために必要な具体的で最新の文書やデータベーススキーマをRAGで提供する 4。具体例として、ファインチューニングされた医療LLM(振る舞い)が、最新の臨床試験結果や患者記録を検索するRAGシステム(知識)と組み合わされ、診断推奨を提供する場合などが考えられる。

表1:グラウンディング技術の比較マトリクス

以下の表は、技術リーダーが特定の課題に最適なアプローチを決定するのに役立つ、一目でわかる比較概要を提供する。

特徴検索拡張生成(RAG)ファインチューニングハイブリッド(RAG + ファインチューニング)
主要目的外部の動的な知識の注入特定の振る舞い、スタイル、スキルの教育特化した振る舞いと動的な知識の組み合わせ
知識の鮮度高(リアルタイム更新が可能)低(静的、再学習が必要)高(RAGの動的検索の恩恵を受ける)
ハルシネーション抑制非常に高い(事実で出力を直接制約)中程度(ドメイン内のトピックのみ改善)非常に高い(RAGの事実制約と特化モデルを組み合わせる)
実装コスト中程度高(計算コストが高い)非常に高い(両方のコストを組み合わせる)
維持コスト低(知識ベースの更新)高(定期的な再学習が必要)高(両システムの維持が必要)
理想的なユースケース文書に対するQ&A、カスタマーサポートボット、リアルタイム検索チャットボットのペルソナ、スタイル変換、ドメイン固有言語エキスパートシステム(例:法律/医療アシスタント)、複雑な推論タスク

第6章 高度なグラウンディングアーキテクチャ:ナレッジグラフの台頭(GraphRAG)

本章では、標準的なRAGの限界を探り、複雑で相互接続されたデータに対するより強力な解決策としてGraphRAGを紹介する。

6.1 複雑なデータに対する単純なベクトル検索の限界

ベクトル検索は、意味的に類似しているが個別のテキストチャンクを見つけるのに優れている。しかし、異なる情報間の関係性を理解したり、集計を実行したり、複数のホップをまたいで接続をたどる必要があるような質問には苦戦する 33。例えば、「『データベース』マイクロサービスに依存するサービスについて、最も多くの高優先度オープンチケットを抱えている開発チームはどれか?」というようなクエリは、チーム、チケット、サービス、依存関係といった複数のエンティティからの情報を結合する必要があるため、標準的なベクトル検索ではほとんど回答不可能である。

6.2 ナレッジグラフ入門:エンティティと関係性のモデリング

ナレッジグラフ(KG)は、情報をノード(人物、製品、文書などのエンティティ)とリレーションシップ(それらの間の接続)として捉える 33。孤立したチャンクを格納するベクトルデータベースとは異なり、KGはデータポイントがどのように相互接続されているかというリッチで構造化されたコンテキストを明示的に格納する。これにより、構造化データと非構造化データを単一のモデルで統合できる 33

6.3 GraphRAG:構造化クエリによる検索の拡張

GraphRAGは、ナレッジグラフを外部データソースとして使用することでRAGを強化する技術である 33。GraphRAGシステムは、複数のタイプの検索を実行できる。

  1. ベクトル検索: グラフノード内に格納された非構造化テキストプロパティに対して実行される(例:類似した説明を持つタスクを見つける)33
  2. 構造化クエリ: LLMが、関係性をたどり、プロパティをフィルタリングし、複雑な集計を実行するために、公式のグラフクエリ言語(例:Neo4jのCypher)のステートメントを生成する 33

このプロセスでは、エージェント的なLLMがユーザーのクエリを分析し、単純なベクトル検索で十分か、複雑なグラフ探索が必要かを判断し、適切なクエリ(テキストまたはCypher)を生成し、データを検索してから、グラウンディングされた応答を生成する 33

6.4 ユースケース:複雑な依存関係を持つドメインでの卓越性

GraphRAGは、データ間の関係性が重要なドメインで特にその能力を発揮する。

  • DevOps/IT: マイクロサービスの依存関係、所有権、関連するインシデントチケットの理解 33
  • 金融: 企業、役員、金融取引間の関係を分析し、不正を検出する 22
  • ライフサイエンス: 科学文献から遺伝子、タンパク質、疾患、薬剤間の関連性を探索する 40
  • サプライチェーン: 部品、サプライヤー、出荷を追跡し、遅延の下流への影響を理解する。

GraphRAGは、LLMが単なる要約ではなく、外部知識に対して真に複雑な推論を実行するための最初の大きな一歩を意味する。標準的なRAGは、基本的には「検索してから要約する」パラダイムである。関連するテキストを見つけ、それを言い換える。これに対し、Cypherのような構造化クエリを生成する行為は、より深いレベルの理解を必要とする。LLMはまず自然言語の質問を論理的な計画に解析し、関与するエンティティと関係性を特定し、その計画を形式言語に翻訳しなければならない 33。このクエリをグラフに対して実行することで、システムはどの単一の文書にも明示的に記述されていないが、文書やエンティティ

の関係性の創発的な特性である情報を統合することができる。これは演繹的推論の一形態である。KGが前提(事実と関係性)を含み、LLMがクエリ言語を用いて結論を導き出す。したがって、GraphRAGは単純な情報検索を超え、知識の統合と推論の領域へと踏み込む。これは、より高性能で信頼できるAIシステムに向けた重要なステップであり、ニューロシンボリックAIの実践的な実装と言える。

第7章 実践におけるグラウンディング:主要プラットフォームアーキテクチャのレビュー

本章では、主要なクラウドAIプロバイダーであるGoogleとMicrosoftのグラウンディング実装を解体し、そのアーキテクチャ上の選択、能力、戦略的な違いを明らかにする。

7.1 Googleのエコシステム:Vertex AIとGemini API

Googleのソリューションは、エンタープライズ向けのVertex AIと、より汎用的なGemini APIで構成される。

  • Vertex AI Searchとグラウンディング: これはGoogleのエンタープライズ向けソリューションであり、プライベートなデータストア(例:Google Cloud Storage内の文書)やウェブサイトでのグラウンディングを可能にする 8。アーキテクチャとしては、「データストア」を作成し、文書を取り込むと、サービスがチャンキング、埋め込み、インデックス作成を処理するRAGアーキテクチャを採用している 30
  • Gemini APIの「Google検索によるグラウンディング」: これは、Google検索を介して公開されているリアルタイムのウェブデータにグラウンディングするための機能である 8
  • 主要な機能とメカニズム:
  • 動的検索(Dynamic Retrieval): モデルがまずグラウンディングが必要かどうかを示す「予測スコア」を予測する、際立った機能。スコアが設定可能な閾値を超えた場合にのみGoogle検索が実行され、コストとレイテンシを最適化する 25
  • 引用生成: 応答には、ソースのウェブページにリンクバックするインライン引用とメタデータが含まれ、これはサービスの利用要件でもある 12
  • Google検索サジェスチョン: APIは、さらなる探索を促すためのフォローアップ検索クエリの候補も返す 25
  • 批評: 一部の批評家は、検索におけるグラウンディングの実装方法(回答を生成したにそれを裏付けるソースを検索することがある)が、ウェブを推論の主要な情報源としてではなく、単なる「脚注」に貶めていると主張している 42

7.2 Microsoftのエコシステム:CopilotとAzure AI

Microsoftのアプローチは、データソースに基づいて明確に分離されている。

  1. 公開ウェブでのグラウンディング: Copilot(旧Bing Chat)は、Bingの検索インデックスを使用して、公開ウェブデータに応答をグラウンディングする。このプロセスには、生成された検索クエリをBingに送信し、その結果をコンテキストとして使用することが含まれる 43
  2. プライベートエンタープライズでのグラウンディング: Microsoft 365 Copilotは、ユーザーの組織データに応答をグラウンディングする。Microsoft Graphを使用して、ユーザーがアクセス権を持つデータ(メール、文書、チャットなど)に、組織の安全なテナント内でアクセスする 14
  • セキュリティとコンプライアンス: これはMicrosoftの大きな焦点である。エンタープライズデータのグラウンディングは、Microsoft 365のサービス境界で行われ、既存のすべてのセキュリティ、コンプライアンス、アクセスコントロールポリシー(条件付きアクセスやMFAなど)が尊重される。これはデータプライバシーを懸念する企業にとって重要なセールスポイントである 14
  • ウェブグラウンディングのリスク: M365 Copilotのオプションプラグインであるウェブグラウンディングの使用はリスクを伴う。内部データに基づいて検索クエリを生成し、それをテナント境界外のBingに送信する可能性があり、機密情報が漏洩する恐れがある 44。これは、知識の広さとデータセキュリティの間の重要なアーキテクチャ上のトレードオフを浮き彫りにしている。
  • 引用: Googleと同様に、Microsoft Copilotも応答の生成に使用されたウェブソースへのリンク付きの引用を提供する 24

表2:プラットフォームグラウンディングアーキテクチャ:Google vs. Microsoft

以下の表は、二大エンタープライズAIプラットフォームの戦略的な比較を提供し、アーキテクトが信頼性、セキュリティ、データ処理に対するアプローチの根本的な違いを理解するのに役立つ。

特徴Google Cloud (Vertex AI / Gemini)Microsoft (Azure AI / M365 Copilot)
公開データグラウンディングGoogle検索を伴うGemini API: 公開ウェブに対するリアルタイムグラウンディング 25Copilot (旧Bing Chat): Bing検索インデックスに対するグラウンディング 43
プライベートデータグラウンディングVertex AI Search: Google Cloud内のカスタムデータストア(例:GCS、ウェブサイト)に対するグラウンディング 8Microsoft 365 Copilot: Microsoft Graphを介した組織データ(メール、ファイル、チャット)に対するグラウンディング 14
主要技術/APIVertex AI Search API, Grounding API, Gemini APIのgoogle_search_retrievalツール。Microsoft Graph API, Bing Search API。
セキュリティモデルデータはGoogle Cloudプロジェクト境界内で管理。ウェブグラウンディングは公開検索にクエリを送信。強力なテナント境界: M365グラウンディングは顧客のテナント内に留まり、すべてのセキュリティポリシーを継承 14
主要な差別化要因動的検索: ウェブ検索をいつ使用するかをインテリジェントに判断し、コストを節約 25。統合された検索/グラウンディングプラットフォーム。深いM365統合: ユーザーの全作業コンテキストへのシームレスなアクセス。エンタープライズセキュリティ境界の強力な重視。
特定されたリスクウェブ検索結果における引用品質が理想的でない可能性 42ウェブグラウンディングによるデータ漏洩: M365 Copilotのウェブグラウンディングプラグインを有効にすると、プライベートデータに基づくクエリが公開Bingサービスに送信される可能性 45

第8章 グラウンディングに内在する課題と体系的な限界

本章では、批判的な視点を採用し、利点を超えて、実践者が直面する根本的な課題と限界を、最先端の研究と実践的な類推から分析する。

8.1 「中間での迷子」問題:長いプロンプトにおけるコンテキスト利用

関連文書が検索されたとしても、LLMは長いコンテキストウィンドウの中間に位置する情報を効果的に利用するのに苦労する。パフォーマンスは、プロンプトの最初と最後に位置する情報に対して最も高くなる傾向がある(「U字型」のパフォーマンス曲線)21。この原因は、Transformerアーキテクチャの注意機構に内在するバイアスに起因すると考えられている 21。この問題が示唆するのは、単により多くの文書を検索してコンテキストを長くすることが、実際にはハルシネーションのリスクを

増加させる可能性があるということである。なぜなら、モデルが中間に埋もれた重要な事実を無視するかもしれないからだ。これは、生成のよりインテリジェントなコンテキストのランキングや要約の必要性を示唆している。

8.2 検索品質の課題:RAGの「R」は難しい

RAGの成功は検索の品質に大きく依存するが、ここにはいくつかの困難な課題が存在する。

  • 異質性: クエリと文書はしばしば長さや意図が異なる。短いユーザークエリは、より長く詳細な文書チャンクと一致する必要がある。単純なベクトル類似性では不十分な場合がある 21
  • スケーラビリティとコスト: 広大なベクトルインデックスを維持し、検索するには、多大な計算コストと金銭的コストがかかる 21
  • スパース性とノイズ: 真に関連性の高い情報は、大規模でノイズの多い知識ベースの中では希薄(スパース)である可能性がある。「ノイズ」から「シグナル」を検索することは大きな課題である 21
  • 検索された知識の信頼性: グラウンディングシステムは、その情報源と同程度の品質しか持ち得ない。検索された文書自体が不完全、偏向、または時代遅れである場合、LLMの出力は「正しくグラウンディングされている」が、事実としては間違っていることになる 21

8.3 「ガベージイン、ガベージアウト」の原則

これは最も根本的な限界である。グラウンディングはLLMをデータに固定するが、そのデータの品質を保証することはできない 17。陰謀論に満ちた知識ベースにグラウンディングされたシステムは、自信を持って「正確に」それらの陰謀論に基づいた応答を生成するだろう。事実性の責任は、LLMから知識ベースの管理者へと移る。

8.4 システムレベルの複雑さ:レイテンシ、コスト、そして「グラウンドループ」の類推

RAGシステムは、単一のコンポーネントではなく、複数の要素が連携して動作する複雑なシステムであり、それゆえの課題も存在する。

  • レイテンシ: 検索ステップは応答時間に顕著な遅延を追加し、リアルタイムアプリケーションでは問題となる可能性がある 29
  • コスト: LLMの推論コストに加えて、RAGシステムはデータストレージ、インデックス作成、検索クエリのコストが発生する 38

RAGシステムの体系的な障害を理解するために、電気工学からの類推が有効である。電気工学における「グラウンドループ」は、回路の異なる部分が異なる電位の接地点に接続されることで、不要な電流が流れ、信号を破損させるノイズが発生する現象である 47。この概念をRAGシステムに適用すると、知識ベースが「グラウンド」であり、LLMの推論が「信号」と見なせる。もし知識ベースに矛盾した情報(例えば、相反する事実を含む二つの文書)が含まれている場合、それは「異なる接地電位」を持つことに等しい 47。検索コンポーネントがこれらの矛盾した文書を取得すると、LLMのコンテキストに「ノイズ」が注入される。矛盾した事実から一貫した答えを統合しようとするLLMは、混乱した、無意味な、あるいは幻覚的な出力を生成する可能性がある。これが「AIグラウンドループ」である。この考え方は、「悪いデータ」の問題を、個々の文書の品質の問題から、知識ベースの

一貫性という体系的な問題へと再構成する。高忠実度のオーディオシステムがハムやノイズを防ぐために単一で安定した接地基準を必要とするように、堅牢なグラウンディングアーキテクチャは、正確な情報源だけでなく、一貫性があり矛盾のない知識システムを必要とする 49

第9章 未来への軌跡:真に信頼できるAIのためのグラウンディングの進化

本章では、これまでの研究を統合し、より動的で、インテリジェントで、統合されたシステムへと向かうグラウンディングの未来の進化を予測する。

9.1 現在の研究フロンティア:RAGをよりインテリジェントにする

RAGは静的な技術ではなく、活発な研究開発の対象である。現在のフロンティアには以下のようなものがある。

  • 適応的検索(またはマルチホップRAG): 単一の検索ステップを超えるアプローチ。システムは情報を検索し、予備的な回答や思考を生成し、それを使ってより洗練された第二の検索を実行し、必要に応じてこれを繰り返す。これは、多段階の推論を必要とする複雑な質問にとって極めて重要である 21
  • マルチパス推論: 単一の推論経路を追求するのではなく、システムは複数の推論経路を並行して探索し、それらを評価して最終的な答えを統合する。これにより、推論時間とのトレードオフで、堅牢性と精度が向上する 21
  • 自己反省と修正: LLMが、検索されたコンテキストに基づいて自身の生成した回答を批判し、潜在的な矛盾を特定し、反復的なループで応答を洗練させる 21

9.2 エージェント的RAGとマルチエージェント協調の出現

RAGの進化は、LLMをより自律的な存在へと変えつつある。

  • エージェント的RAG: LLMは自律的なエージェントとして機能する。どのツール(ベクトル検索、グラフクエリ、ウェブ検索など)を使用するかを決定し、クエリを策定し、実行し、結果を評価することができる 16
  • マルチエージェントシステム(MAS): 未来は、専門化されたエージェントのネットワークが協調してクエリに回答する方向に向かっている。あるエージェントはウェブ検索の専門家、別のはナレッジグラフのクエリ専門家、そして三番目は最終レポートの統合専門家といった具合である。彼らは協調することで、単一のエージェントよりも堅牢で包括的な回答を生成する 37

9.3 より深い統合:LLMとデータベース管理システム(DBMS)の収束

究極の未来は、LLMとデータベースが統一されたニューロシンボリックシステムへとシームレスに収束することである 21。これは「データベース内のLLM(LLM-in-the-Database)」という概念で表される。これには、DBMS内に直接ネイティブなLLMサポートを組み込むことが含まれる。これにより、従来のリレーショナル操作(SQLのJOINなど)とLLMベースのセマンティック操作を組み合わせた計画を作成できる統一クエリ最適化が可能になり、精度、コスト、レイテンシの組み合わせを最適化できる 21。この深い統合は、データ移動を最小限に抑え、高度なキャッシングを可能にし、システムが知識検索と推論パイプライン全体を包括的に最適化することで、効率を最大化するだろう。

9.4 結論的分析:信頼できるAIの基礎的支柱としてのグラウンディング

グラウンディングは、信頼できるAIを構築するための、一時的な修正ではなく、永続的で進化し続けるアーキテクチャ上の原則である。研究の焦点は、単にハルシネーションを防ぐことから、より複雑で検証可能な推論を可能にすることへと移行している。単純なRAGから、エージェント的で、マルチモーダルで、グラフベースで、データベースに統合されたシステムへの進化は、グラウンディングが信頼できるAIの未来が築かれる上で不可欠な基盤であることを示している 21

引用文献

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  2. LLM Grounding Leads to More Accurate Contextual Responses – K2view https://www.k2view.com/blog/llm-grounding/
  3. RAGとGroundingの違いを解説! – GI Cloud エンジニアブログ – Dryaki https://dryaki.gicloud.co.jp/articles/rag-grounding-search
  4. Grounding data is like doing a reality check on your LLM – K2view https://www.k2view.com/blog/grounding-data/
  5. LLM Grounding: Preparing GenAI for the Enterprise – Coveo https://www.coveo.com/blog/dynamic-grounding/
  6. Grounding LLMs: driving AI to deliver contextually relevant data – Toloka https://toloka.ai/blog/grounding-llms-driving-ai-to-deliver-contextually-relevant-data/
  7. Gemini のグラウンディングとは? ~ RAG との違いや具体的な … https://techblog.nhn-techorus.com/archives/38901
  8. Grounding overview | Generative AI on Vertex AI – Google Cloud https://cloud.google.com/vertex-ai/generative-ai/docs/grounding/overview
  9. What does it mean for a generated answer to be “grounded” in the retrieved documents, and why is grounding crucial for trustworthiness in RAG systems? – Milvus https://milvus.io/ai-quick-reference/what-does-it-mean-for-a-generated-answer-to-be-grounded-in-the-retrieved-documents-and-why-is-grounding-crucial-for-trustworthiness-in-rag-systems
  10. VertexAIでgoogle検索によるグラウンディングの素晴らしさを伝えたい – Zenn https://zenn.dev/hajimari/articles/7421ce5ddf50df
  11. グラウンディングの概要 | Generative AI on Vertex AI – Google Cloud https://cloud.google.com/vertex-ai/generative-ai/docs/grounding/overview?hl=ja
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  13. Understanding Techniques and Applications for Grounding LLMs in Data – Raga AI https://raga.ai/blogs/llm-grounding-techniques
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  16. LLM Grounding: Techniques to Amplify AI Model Accuracy – Aisera https://aisera.com/blog/llm-grounding/
  17. ハルシネーションの対策5選!プロンプトも紹介 – SIGNATE Cloud https://cloud.signate.jp/column/measures-for-hallucination
  18. ハルシネーションが発生する原因と対策方法を詳しく解説 | Windows マイグレーション相談センター https://licensecounter.jp/win_migration/blog/c513fe5813f74b55ecd5ebd2b9b3c2f62bfafe70/
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  20. Check grounding with RAG | AI Applications – Google Cloud https://cloud.google.com/generative-ai-app-builder/docs/check-grounding
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  23. AI 活用の落とし穴? AI ハルシネーションの原因・対策をわかりやすく解説! – G-gen https://g-gen.co.jp/useful/General-tech/ai-ai/
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