SNS依存症:

1. はじめに:SNS依存症の台頭

ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)は、現代社会においてコミュニケーション、情報アクセス、社会的交流のあり方を根本から変革し、日常生活に深く浸透しています。この遍在性は、利便性をもたらす一方で、過度な使用やコントロール喪失を特徴とする、いわゆる「SNS依存症」という新たな課題を生み出しています。本報告書は、この現象について医学的および心理学的観点から包括的に検討することを目的とします 1

「SNS依存症」という用語は、日常会話や一部の研究で用いられていますが、正式な診断名としての位置づけは確立されていません。しかし、その問題行動は行動嗜癖の広範な文脈の中で捉えられ、公衆衛生上の懸念として認識されつつあります。本報告書では、SNS依存症の定義、その背景にある神経生物学的および心理学的メカニズム、臨床的特徴、多岐にわたる影響、診断上の考慮事項、エビデンスに基づいた治療戦略、そして重要な予防策について、最新の研究知見を統合し、読者がSNS使用の複雑性を理解し、問題行動に対処するための一助となることを目指します。

2. SNS依存症の定義と理解

2.1. SNS依存症の概念化:単なる習慣を超えて

SNS依存症は、一般的にインターネット依存症の一形態、あるいはより広義には行動嗜癖として理解されています 1。これは、SNSを使用したいという抗いがたい衝動に駆られ、結果として他の生活活動や責任を犠牲にしてまでSNSに過度の時間を費やす状態を特徴とします。

主な特徴としては、以下の点が挙げられます。

  • SNSへの過度な没頭 1
  • 否定的な結果が生じているにもかかわらず、SNSの使用をコントロールしたり減らしたりできない 1
  • SNSにアクセスできないと、不安やいらだちといった離脱症状様の状態を経験する 1
  • 耐性、すなわち、望む効果を得るためにSNSの使用時間を増やす必要が生じる 4
  • 個人的、学業的、または職業的義務の怠慢 1

例えば、インターネット依存症の一般的な定義として、インターネットやゲームへの過剰なのめり込み、自分でやめようと思ってもやめられない状態、ネットに繋がっていないと不安になること、健康の悪化、日常生活への支障などが挙げられており 1、これらはSNS依存症にも直接的に当てはまります。行動嗜癖は、ギャンブルのような特定の行為への依存を指し、物質依存とは区別されるものであり 2、SNSの過剰使用もこの範疇に入ると考えられます。

2.2. 臨床的認識と診断フレームワーク

現時点では、「SNS依存症」は、精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)や国際疾病分類第11版(ICD-11)といった主要な精神医学的診断基準において、独立した正式な診断名としては認められていません 7

しかし、ICD-11では「嗜癖行動症群」というカテゴリーに「ゲーム障害」が含まれるようになり 2、これは非物質関連の嗜癖行動に対する認識の高まりを示唆しています。「ゲーム障害」の診断基準(コントロールの障害、ゲームを他の生活上の関心事や日常の活動より優先すること、否定的な結果が起きているにもかかわらずゲームを続けることなど)は、問題のあるSNS使用と多くの共通点を持っています。

精神医学的診断体系は、DSMの多軸システム(DSM-IVの例ではあるが、疾患分類の原則は関連する)に見られるように、様々な側面から精神疾患を捉えようと試みてきました 8。ICD-11における「ゲーム障害」の分類は、スマートフォンなどの普及に伴うゲームへののめり込みが社会問題化している現状を反映したものです 2

臨床現場では、SNSの過剰使用が引き起こす機能障害や苦痛の程度に基づき、他の行動嗜癖やインターネット依存症の診断基準を参考に評価が行われることが一般的です。主要な診断マニュアルに「SNS依存症」という特定の診断名が存在しないことは、この問題が臨床的に重要でないという意味ではありません。むしろ、急速に進化するテクノロジー関連の行動とその心理的影響に対して、診断システムが追いつくことの難しさを反映していると言えます。この現状は、臨床家がより広範な行動嗜癖の枠組みを用いて対応する必要性を生じさせ、診断の一貫性に課題をもたらす可能性があります。将来的には、SNS依存症が独自の疾患単位として認識されるためには、特有の診断基準を確立するための更なる研究が不可欠であり、これが実現すれば、より的確な治療法の開発や公衆衛生上の啓発活動に繋がるでしょう。

SNS依存症を行動嗜癖の一環として捉えること 2 は、極めて重要です。なぜなら、これにより、ギャンブル障害のような既に確立された他の行動嗜癖に関する理解や治療アプローチを応用することが可能になるからです。インターネットやSNS使用に見られる症状(コントロール喪失、没頭、否定的結果など)1 は、行動嗜癖の核となる要素と一致します。この枠組みを用いることで、病因論(例:報酬系回路、心理的脆弱性)や治療法(例:認知行動療法、動機づけ面接)に関する既存の知見をSNS依存症の文脈に適用できます。したがって、独自の診断コードがない現状においても、この概念的枠組みはSNS依存症を科学的に理解し、対処するための基盤を提供し、共通の根底メカニズムに関する研究を促進すると言えます。

3. SNS依存症を駆動するメカニズム

3.1. 神経生物学的要因:脳の報酬システム

SNS依存症の形成には、脳の報酬システムが中心的な役割を果たしています。特に、通知の受信、他者からの「いいね!」やコメント、新しいコンテンツの閲覧といったSNS上の体験は、快感、動機づけ、報酬に関連する神経伝達物質であるドーパミンの放出を引き起こします 2

特筆すべきは、SNSが「麻薬と同じレベルの依存性」を持つ可能性が指摘されている点です。これは、SNS利用がドーパミンを強制的に分泌させるためであり、報酬そのものよりも、報酬が得られるかもしれないという期待感(例:新しい「いいね!」がないか確認する行為)が、ドーパミン放出とそれに伴う依存行動をより強力に駆動するという「スロットマシン効果」が示唆されています 9。このような間欠強化スケジュール(予測不可能な報酬)は、行動の確立と維持に非常に効果的です。

このドーパミンシステムへの慢性的な過剰刺激は、脳の適応反応を引き起こし、ドーパミン産生の減少やドーパミン受容体の数・感受性の低下を招く可能性があります 9。この感度低下は、同じレベルの快感を得るためにより多くのSNSエンゲージメントを必要とする状態、すなわち使用のエスカレートに繋がります。

さらに、インターネット依存症を含む行動嗜癖は、衝動制御、意思決定、感情調節といった実行機能を司る脳領域である前頭前野の機能障害と関連しています 2。この機能障害は、否定的な結果を認識しつつもSNSを使用したいという衝動に抵抗することを困難にします。特に、前頭前野が未発達な子どもは脆弱性が高いと指摘されています 2

3.2. 心理的要因:社会的承認、取り残されることへの恐怖(FOMO)、対処行動

SNS依存の背景には、強力な心理的動機が存在します。人間は本質的に社会的動物であり、他者からの受容や承認を求める社会的承認欲求(承認欲求)は強力な動機となります 9。SNSプラットフォームは、「いいね!」、フォロワー数、シェアといった定量化可能な社会的承認の指標を提供することで、この欲求を刺激します。この承認欲求は、生存に関わる本能的衝動であり、部族からの承認が死活問題であった旧石器時代に根差しているとされ、SNSでの反応は、この根源的な欲求を満たすものとして脳に認識される可能性があります 9

**取り残されることへの恐怖(Fear of Missing Out: FOMO)**も、SNSへの没入を促進する重要な要因です。重要な情報や社会的交流、流行などを見逃すことへの不安が、頻繁な確認行動を駆り立てます。これは、SNSのタイムラインをスワイプしたり、リアクションをチェックしたりする行動が、「何か面白いものが見つかるかもしれない」という期待感によってドーパミン放出を促すという「スロットマシン効果」とも関連しています 9。また、スマートフォンの依存傾向を測るチェックリスト項目として「TwitterやFacebookで他の人とのやりとりを見逃さないためにスマホをたえずチェックする」が挙げられていることからも、この心理が示唆されます 12

さらに、SNSは否定的な感情、ストレス、現実世界の問題からの逃避的な対処メカニズムとして利用されることがあります 2。これにより一時的な安堵感が得られるものの、より健康的な対処戦略の発達を妨げ、根本的な問題を悪化させる可能性があります。ストレスなどの心理的要因が行動嗜癖の背景にあることは指摘されており 2、不安感や自己肯定感の充足といった心理がSNS利用の背景にあることが多いとされています 13

3.3. SNSデザインの役割:エンゲージメントと依存の助長

SNSプラットフォームの多くは、利用者のエンゲージメントを高め、習慣形成を促すように設計されています 9。これには以下のような要素が含まれます。

  • 通知機能:絶え間ないアラートが利用者をプラットフォームに引き戻します。
  • 無限スクロール:終わりなく続くフィードが、常に新しいコンテンツの存在を保証します。
  • 間欠的変動報酬:予測不可能な「いいね!」やコメントは、スロットマシンのように利用者を惹きつけ続けます 9
  • 社会的比較機能:プロフィールや投稿が、他者との絶え間ない比較を促すことがあります。

SNS開発者は、人間の脳構造と本能を巧みに利用し、タイムラインのスワイプやリアクションボタンといった機能を介して期待感を高め、ドーパミン分泌を促すことで、プラットフォームへの依存性を高めていると指摘されています 9。この事実は、SNSの依存性が単に個人の脆弱性だけに起因するのではなく、プラットフォーム側の設計によって著しく増幅されることを示唆しています。この理解は、SNS依存症の緩和において、利用者個人の努力とプラットフォーム設計者の双方に責任があることを意味し、倫理的な設計原則の導入や、本質的に依存性の高い機能を削減するといった公衆衛生上の介入の必要性を示唆します。

3.4. 報酬不全症候群(RDS)と衝動性

報酬系回路の慢性的な活性化は、「馴化」または「感度低下」を引き起こし、報酬を感じにくく、快感が得られにくい状態、すなわち**報酬不全症候群(Reward Deficiency Syndrome: RDS)**を招く可能性があります 11。この状態では、自然な報酬から喜びを感じにくくなるため、より強い刺激や頻繁な嗜癖行動(例:SNS利用)を求めるようになり、不快な気分を避けようとします。これは、行動嗜癖者やインターネット嗜癖者において、ドーパミンD2受容体密度の低下が報告されていることによって支持されています 11。この受容体密度の減少が嗜癖に先行するのか、それとも結果として生じるのかについては、まだ結論が出ていません。

この報酬不全症候群の概念は、SNS利用の動機が変化する重要な転換点を示唆しています。初期の利用が快楽追求であるのに対し、RDSの状態では、脳が過剰刺激に適応した結果生じる快感消失状態や不快気分を緩和するためにSNSが利用されるようになります。この変化は、依存のサイクルから抜け出すことを一層困難にします。治療においては、SNSへの渇望に対処するだけでなく、自然な報酬に対する感受性を回復させ、初期の離脱期における不快気分を管理する戦略が求められます。

依存症のもう一つの重要な特徴である衝動性の亢進は、ドーパミン系の報酬系とは別に、セロトニン系神経ネットワークの機能低下によって生じる可能性も示唆されています 11。セロトニンは衝動的行為に対する抑制的行動に関与していると考えられており、その機能低下は衝動的なSNS利用の「ブレーキ」を弱める可能性があります。

ドーパミンによって駆動される報酬追求システムが過活動状態にあり、同時にセロトニンによって駆動される衝動制御システムが低活動状態にあるという二重の影響は、依存症にとって「完璧な嵐」とも言える状況を生み出します。利用者はSNSの報酬を強く求める一方で、それを止める能力が弱まっているため、SNS利用の調節が極めて困難になります。この複雑な神経化学的相互作用は、介入が両方のシステムを対象とする必要がある可能性を示唆しており、衝動制御を高め、報酬追求行動を減らす行動戦略や、場合によっては薬理学的アプローチ(ただし、行動嗜癖に対する薬物療法の確立度は物質使用障害に比べて低く、セロトニン関連薬の有効性については議論がある 11)が検討されるかもしれません。

4. 兆候の認識:症状と顕在化

SNS依存症は、心理的、身体的、行動的側面にわたる多様な症状を通じて顕在化します。

4.1. 心理的・情緒的症状

  • 没頭:SNSを使用していない時でも常にSNSのことを考えていたり、次の利用を心待ちにしたりする 1
  • 不安と焦燥感:SNSにアクセスできない、または使用を中断されると、不安、落ち着きのなさ、いらだちを感じる 1
  • 抑うつ症状:SNS上での社会的比較や満たされない期待感などから、悲しみ、絶望感、無価値観が増大する 1。ある研究では、Facebookへの依存と抑うつ症状との間に正の相関が認められています 17
  • 気分変動:感情が不安定になり、特にSNSへのアクセスを拒否されたり批判されたりすると、怒りや不満を爆発させる 1
  • 孤独感と社会的孤立:オンラインで「繋がっている」にもかかわらず、表面的で希薄なオンライン上の交流が、より深く現実的な人間関係に取って代わることで、逆説的に孤独感を深めることがある 16
  • 自尊心の低下:SNS上での頻繁な社会的比較が、否定的な自己認識や自尊心の低下につながることがある 16
  • 取り残されることへの恐怖(FOMO):他者が自分抜きで有益な経験をしているのではないかという持続的な不安が、絶え間ない確認行動を駆り立てる(例:「TwitterやFacebookで他の人とのやりとりを見逃さないためにスマホをたえずチェックする」12)。

4.2. 身体的健康への影響

  • 睡眠障害:夜遅くまでのSNS利用や画面からのブルーライトの刺激により、入眠困難、睡眠維持困難、睡眠の質の低下が生じる 1。インターネット依存傾向が高いほど睡眠時間が短くなるという関連も報告されています 6
  • 眼精疲労と視覚障害:長時間の画面注視は、ドライアイ、かすみ目、頭痛を引き起こし、近視や乱視といった長期的な視覚障害につながる可能性がある 1
  • 筋骨格系の問題:SNS利用時の不適切な姿勢(例:「テキストネック」や「ストレートネック」)、反復運動による障害(例:親指や手首の腱鞘炎など)1。特にストレートネックは、長時間のうつむき姿勢によって首の後ろから肩にかけての筋肉がこわばり、血流が悪くなることで生じるとされています 1
  • 身体的健康のネグレクト:身体活動の減少、不規則な食事やSNS利用中の不健康な間食といった食生活の乱れ 1

これらの身体的症状は、しばしば見過ごされがちですが、問題のある使用の初期の具体的な兆候となり得ます 1。心理的症状が主観的で認識されにくい場合があるのに対し、首の痛みや眼精疲労といった身体的不調はより客観的で無視しにくいため、本人や家族にとって警告サインとなる可能性があります。これらの身体症状を治療する医療専門家(例:整形外科医、眼科医、一般開業医)が、背景にあるSNSやインターネットの過剰使用についてスクリーニングを行うことで、嗜癖行動そのものへの早期介入が促進されるかもしれません。

4.3. 行動的指標

  • コントロール喪失:SNSに費やす時間をコントロールできない、またはやめたいと思っているにもかかわらずやめられない 1
  • 過度の時間消費:意図したよりもはるかに多くの時間をSNSに費やし、しばしば1日に何時間も使用する 1。仕事や勉強以外の目的で1日に3時間以上使用することも兆候の一つとされます 14
  • 責任の放棄:SNS利用のために、職場、学校、家庭における主要な役割や責任を果たせなくなる 1
  • 離脱症状:SNSへのアクセスができない、または制限されると、苦痛、落ち着きのなさ、いらだちなどを経験する 1
  • 耐性:満足感を得るため、または否定的な感情を避けるために、より頻繁に、またはより長時間SNSを使用する必要が生じる 4
  • 欺瞞:SNSへの関与の程度を隠すために、家族、治療者、または他者に対して嘘をつく 4
  • 他の活動の放棄:以前は楽しんでいた趣味、社会的活動、その他の娯楽への興味を失う 1
  • 有害な結果にもかかわらず継続使用:身体的、心理的、社会的、または職業的に否定的な結果が生じていることを認識しているにもかかわらず、過度なSNS使用を続ける 1
  • 否定的な気分の回避のための使用:罪悪感、不安、無力感、抑うつといった不快な感情を和らげたり避けたりするためにSNSに頼る 3

SNS依存症の症状と、不安や抑うつといった精神疾患との間には、強い双方向性の関連が存在します 1。SNSの過剰使用がこれらの状態を悪化させたり引き金になったりする一方で、既存の精神疾患を抱える人が不適応な対処メカニズムとしてSNSを利用し、抜け出しにくい悪循環を生み出すことがあります。このため、SNS依存症の治療においては、併存する精神疾患への対処が不可欠であり、SNS使用のみに焦点を当てた介入では、根本的な抑うつや不安が未治療のままであれば再発を招く可能性があるため、統合的な治療アプローチが求められます。

表1:SNS依存症の一般的な症状

カテゴリー症状説明・例主要参考文献
心理的・情緒的没頭SNSのことを常に考えている、次の利用を心待ちにする1
不安・焦燥感SNSが利用できないと落ち着かない、イライラする1
抑うつ症状悲しみ、無価値観、気力の低下1
自尊心の低下他者との比較により劣等感を抱く16
身体的睡眠障害夜更かしによる睡眠不足、昼夜逆転、睡眠の質の低下1
眼精疲労長時間画面を見ることで目が疲れる、視力低下の可能性1
筋骨格系の問題(ストレートネック等)不良姿勢による首や肩の痛み、こり1
体力低下・食生活の乱れ運動不足、不規則な食事1
行動的コントロール喪失利用時間を自分で制御できない、やめたいのにやめられない1
過度の時間消費意図した以上に長時間利用してしまう1
責任の放棄学業や仕事、家事などがおろそかになる1
離脱症状利用を中断されるとイライラしたり落ち着かなくなる1
他の活動への興味喪失以前は楽しんでいた趣味や友人付き合いをしなくなる1
問題を知りつつ継続健康や人間関係に悪影響が出ているとわかっていても使い続ける1
嘘をつく利用時間や内容について家族や他人に嘘をつく4
否定的気分の回避嫌な気持ちを紛らわすために利用する3

5. 波及効果:SNS依存症の影響

SNS依存症の影響は個人にとどまらず、対人関係や社会的機能にも広範に及びます。

5.1. 個人のウェルビーイングへの影響:精神的健康、幸福感、自尊心

SNSの過剰使用は、不安、抑うつ、心理的苦痛の増大と強く関連しています 1。ある研究では、大学生においてFacebookへの依存と不安および抑うつ症状との間に正の相関が認められました 17。インターネットへの過度な没入は、抑うつ症状やいらだちやすさを引き起こし、その人の性格を変えてしまう可能性も指摘されています 1

一部の研究では、特に受動的なSNS利用(他者の投稿を閲覧するだけ)が増加すると、主観的幸福感が低下する可能性が示唆されています 18。ミシガン大学の研究では、若者のFacebook利用が増えるほど幸福度が低下したと報告されています 18

SNSプラットフォームは、しばしば他者の理想化された生活を提示するため、上方社会的比較(自分より優れていると思われる他者との比較)を引き起こし、不全感、羨望、自尊心の低下を招くことがあります 16。SNS上で他人と自分を比較することが癖になると、「自分は劣っている」と感じて自信を失ってしまうことがあります 16。また、社会的比較志向性が高い人ほど、他者の投稿を見て羨ましいと感じ、その結果自分の評価を下げて落ち込みやすい傾向があることも示されています 19

これらのプラットフォームが「社会的」な性質を持つにもかかわらず、過剰な使用は逆説的に孤独感を増大させる可能性があります。オンライン上の交流は、対面での関係性が持つ深さや真正性を欠く場合があり、結果として孤独感や社会的孤立感を強めることがあります 16

5.2. 対人関係への影響:家族葛藤と社会的孤立

SNSへの没頭は、家族とのコミュニケーションや質の高い時間の減少につながり、不満、口論、感情的な隔たりを引き起こす可能性があります 1。食事に呼んでも部屋から出てこなかったり、スマートフォンの取り上げに対して激しく怒ったり暴力を振るったりするケースも報告されており、家族関係に亀裂が生じる恐れがあります 1

対面での関わりよりもオンライン上の交流を優先することは、現実世界の友情を弱め、直接的な社会的支援ネットワークを縮小させる可能性があります 1。インターネット利用が原因で友人や恋人との関係が悪化した事例も報告されています 23

オンラインコミュニケーションの特性(非言語的手がかりの欠如、誤解の可能性など)は、対立、ネットいじめ、あるいは評判の失墜につながることがあります 18。SNSの掲示板への書き込みが原因で、現実の人間関係が悪化したケースも見られます 23

SNS依存症の影響は個人に限定されず、家族や友人関係といった周囲の人々にも「副次的被害」とも言える深刻な影響を及ぼします 1。家族内での精神的苦痛、コミュニケーションの断絶、場合によっては暴力行為の発生は、SNS依存症が単なる個人の問題ではなく、関係性の問題であることを浮き彫りにします。この理解は、介入において、依存症者本人への治療だけでなく、家族療法や家族への支援プログラムの導入が望ましいことを示唆しています。

5.3. 学業および職業的パフォーマンスへの影響

SNS依存症は、学習時間の減少、授業中の集中困難、成績低下、さらには中途退学と関連していることが指摘されています 1。学校の成績が以前より落ちてきたり 1、スマートフォンの使いすぎで学校の成績が下がったと感じるケース 4、Facebook依存と学業成績の低下との相関 17 などが報告されています。

成人においては、SNS依存症が生産性の低下、締め切りの不履行、懲戒処分、失職につながる可能性があります 1

SNSの通知による絶え間ない中断やマルチタスクの習慣は、持続的な注意を必要とする課題への集中力を損なう可能性があります 13

SNS依存症による学業や職業上のパフォーマンス低下 1 は、個人および社会にとって長期的な社会経済的影響をもたらす可能性があります。これは、個人の問題を超えて、人的資本の育成や経済生産性に関わる広範な社会的懸念となります。学業成績の不振は将来の教育機会やキャリア選択を制限し、職場でのパフォーマンス低下は失職や経済的不安定、不完全雇用に繋がる可能性があります。社会全体で見れば、若者や労働力のかなりの部分がこのような問題により能力を十分に発揮できない場合、国の生産性やイノベーションに影響を与えかねません。この観点から、個人のウェルビーイングのためだけでなく、より広範な社会的健全性や経済的理由からも、特に教育現場における早期介入と予防の必要性が強調されます。

6. 評価と特定

6.1. 診断に関する考慮事項(関連疾患からの類推)

「SNS依存症」は正式な独立した診断名ではないため、評価はしばしば「インターネットゲーム障害」(DSM-5研究用付録)や行動嗜癖の一般的な枠組みから適応された基準に依存します 4

主要な診断上の考慮事項(インターネットゲーム障害の基準 4 を参考に適応):

  1. 没頭:SNSの使用について考えたり、計画したりすることに多くの時間を費やす。
  2. 離脱:SNSが利用できない場合に、いらだち、不安、悲しみなどの症状が現れる。
  3. 耐性:満足感を得るために、SNSの使用量を増やす必要が生じる。
  4. コントロール喪失:SNSの使用をコントロールしたり減らしたりする試みが不成功に終わる。
  5. 興味の喪失:以前の趣味や娯楽への興味が薄れる。
  6. 問題があるにもかかわらず継続使用:否定的な心理社会的問題を認識しているにもかかわらず、SNSの使用を続ける。
  7. 欺瞞:SNSの使用程度について他者に嘘をつく。
  8. 逃避:否定的な気分(例:無力感、罪悪感、不安)を和らげるためにSNSを使用する。
  9. 人間関係・機会の危機:SNSへの参加のために、大事な交友関係、仕事、教育や雇用の機会を危うくしたり失ったりする。

これらの行動パターンが、社会的、職業的、教育的、その他の重要な機能領域において臨床的に著しい障害または苦痛を引き起こしている場合に、問題として認識されます 1

6.2. 気づきのための自己評価ツールとチェックリスト

様々な自己評価ツールやチェックリストが、個人のSNS使用が問題である可能性を判断するのに役立ちます。これらは診断ツールではありませんが、自己認識を高め、必要に応じて専門家への相談を促すことができます。

チェックリスト項目の例 4

  • 思ったより長い時間SNSをしていることがありますか 4
  • SNSをする時間を増やすために、家庭での仕事や役割をおろそかにすることがありますか 1
  • SNSが使えないと、イライラしたり、落ち着かなくなったり、不安になったりしますか 1
  • SNSの利用時間を減らそうとしたが失敗したことがありますか 4
  • SNSの利用が原因で、人間関係、仕事、学業に問題が生じたことがありますか 1
  • SNSの利用時間について、家族や他人に嘘をついたことがありますか 4
  • 嫌な気持ちを紛らわすため、あるいは和らげるためにSNSを利用しますか 3

一部のチェックリスト(例:S-スケール 4)では、得点に応じてリスクの程度が示されるものもあります。

多様な自己評価ツールが存在すること 4 は、意識向上に役立つ一方で、SNS依存症に特化した単一の、普遍的に受け入れられたスクリーニングツールが不足していることも示しています。この状況は、自己認識や研究における一貫性の欠如につながる可能性があります。SNSの問題使用に特化した、簡潔で信頼性が高く、広く受け入れられるスクリーニングツールの開発と検証に関するさらなる研究が、早期発見の改善、公衆衛生努力の指針、研究の標準化のために必要とされています。

多くの評価基準 4 が、単に費やされた時間だけでなく、行動による否定的な結果コントロールの喪失を強く強調している点は重要です。これは、問題のある使用と、時間は長いが病的ではないエンゲージメントとを区別するための重要な差異です。機能障害とコントロール喪失を主要な指標として強調することは、健康的な利用者への誤ったラベリングを避け、真に苦しんでいる人々を正しく特定するために不可欠です。

7. 回復への道のり:治療と管理戦略

SNS依存症からの回復には、専門家の支援、自己管理、そして周囲のサポートが重要となります。

7.1. 専門的支援:認知行動療法(CBT)、カウンセリング、医学的相談

認知行動療法(CBT) は、行動嗜癖に対して広く認識され、効果的な心理療法的アプローチです 24。SNS使用に関連する不適応な思考パターンや行動を特定し、修正するのに役立ちます。主な技法には以下が含まれます。

  • 行動パターンの可視化:SNS使用のきっかけや結果を理解する 24
  • 現実的なルールの設定:SNS使用に関する達成可能な目標(時間、場所、内容)を共同で設定する 24
  • 対処スキルの開発:ストレス、退屈、否定的な感情を管理するためのより健康的な方法を学ぶ。
  • 楽しい活動の拡大:オフラインの趣味や関心事を見つけ、関与する 24

久里浜医療センターや神奈川県立精神医療センターなどでは、青少年に対するネット・ゲーム課金依存の治療として認知行動療法リハビリテーション・プログラムが実施されています 27

カウンセリングと心理療法は、自尊心の低さ、社会的 불안、抑うつ、トラウマなど、SNS依存症の根底にある問題に対処することができます 13。トラウマや家族機能の問題から依存症を捉えることが改善への一歩となる場合もあります 28

医学的相談と薬物療法については、特に併存する精神疾患(例:抑うつ、不安)が存在する場合や症状が重い場合には、精神科医や医師への相談が重要です 13。SNS依存症に特化した承認薬はありませんが、併存疾患の治療のために薬物が使用されることがあります。あるクリニックでは、ギャンブル依存症において衝動的行動を抑制するための薬物療法が言及されており 27、重症例に対する可能性を示唆していますが、これは抗うつ剤の使用とは異なります。

日本国内には、インターネット依存症やゲーム依存症の専門治療を提供する医療機関やクリニックが多数存在します 29

7.2. 自己管理とライフスタイルの調整:デジタルデトックス、境界設定、オフラインの趣味の育成

デジタルデトックスは、スマートフォンやSNSを含む全てのデジタル機器から意図的に一定期間離れることです 20。これにより、脳疲労の軽減、睡眠の質の向上、社会的比較によるストレスの軽減、他の活動への時間確保、テクノロジーとの関係性の再評価などが期待できます 21。具体的な方法としては、就寝前のスマートフォン使用禁止、通知オフ、アプリタイマーの使用などがあります 21

明確な境界線とルールの設定も重要です。SNS使用の具体的な時間と長さを決めたり 26、「テクノロジー禁止区域」(例:寝室、食卓)や時間を設けたり 26、アプリ機能や物理的なタイマーで使用時間を監視・制限したりする 21 ことが有効です。

オフラインの趣味や活動の育成は、画面から離れた喜びや達成感を得るための代替手段となります 24。その他、自身の感情状態やSNS使用の引き金に注意を払うマインドフルネス、就寝前のスクリーン回避といった睡眠衛生の改善 20、友人や家族との対面での交流の優先 32、不要な通知の管理 21 なども有効な自己管理戦略です。

7.3. 家族の関与と支援システムの重要性

特に青少年においては、家族の理解、支援、関与が回復に不可欠です 1

  • オープンなコミュニケーション:本人が自身の苦悩を安心して話せる環境を作る 15
  • 協力的なルール設定:一方的にルールを押し付けるのではなく、本人(特に青少年)を巻き込んで機器使用のルールを設定する 24
  • ロールモデルとしての家族:親が健康的なテクノロジー利用の模範を示す 26
  • 家族カウンセリング:家族関係がSNS依存症に寄与している、または深刻な影響を受けている場合に検討する 28
  • 支援グループ:本人および/または家族のための支援グループ(ギャンブル依存症の自助グループ 27 のような存在が類推される)。

SNS依存症の効果的な治療は、単に使用時間を減らすことを超えた包括的なアプローチを必要とします。これには、根底にある心理的ニーズへの対応 13、充実したオフライン生活の再構築 24、そしてしばしば、損なわれた家族関係の修復 15 が含まれます。SNSが果たしていた機能(例:不適応ながらも対処や社会的繋がりの手段)がより健康的な代替手段に置き換えられ、根本的な脆弱性が対処されない限り、単にSNSの使用を中止または制限するだけでは不十分であり、回復は持続可能ではありません。

日本の文脈においては、特に青少年に対して、構造化されたルールに基づく介入や、確立された医療機関・カウンセリングセンターの利用が重視される傾向が見られます 24。これは問題解決や医療希求行動における文化的アプローチを反映している可能性があります。例えば、久里浜医療センターのガイド 26 は、家族向けの非常に具体的で構造化されたルールを提示しています。このようなアプローチは、文化的に共鳴しやすく、アクセスしやすい可能性があります。

川崎市(川崎沼田クリニック、川崎メンタルクリニック 27)や横浜市(横浜市立大学附属病院、神奈川県立精神保健福祉センター 29、各種相談サービス 28)を含む日本各地で、インターネット関連嗜癖の専門治療施設が利用可能であることは、この問題が制度レベルで認識され、医療対応が発展しつつあることを示しています。これにより、助けを求める人々は、一般的な精神保健サービスを超えて、より専門的なケアを受けることができます。

表2:SNS依存症の管理戦略の概要

戦略タイプ具体的な方法主要な原則・行動期待される効果主要参考文献
専門的心理介入認知行動療法(CBT)不適応な思考・行動パターンを特定・修正、対処スキル向上、代替活動の探索思考パターンの修正、行動変容24
カウンセリング・心理療法根底にある心理的問題(不安、抑うつ、トラウマ等)への対応根本原因の解決、精神的安定13
自己管理・ライフスタイルデジタルデトックス一定期間デジタル機器から離れる、使用ルール設定スクリーンタイム削減、脳疲労軽減、睡眠改善21
明確な境界線とルールの設定利用時間・場所の制限、タイマー活用使用コントロールの向上26
オフラインの趣味・活動の育成新しい趣味や関心事を見つけ、取り組む代替的な満足感の獲得、生活の充実24
通知管理不要な通知をオフにし、SNSへの注意を減らす衝動的な確認行動の抑制21
家族・社会的支援オープンなコミュニケーション本人が安心して悩みを話せる環境づくり孤立感の軽減、支援の促進15
協力的なルール設定(特に青少年)本人と共に使用ルールを決定ルール遵守の動機向上、自律性の尊重24
家族による健康的な利用の模範親がバランスの取れたテクノロジー利用を示す子どもの健全な利用態度の育成26
医学的介入併存疾患の治療医師の診断に基づき、不安や抑うつなどの併存疾患に対して薬物療法等を行う全体的な精神状態の改善、依存行動への影響軽減13
専門医療機関での治療プログラム依存症専門医や多職種チームによる集中的な治療・リハビリテーション包括的な回復支援、再発予防27

8. 予防と健全なデジタルエンゲージメントの育成

SNS依存症の予防には、教育機関、家庭、そして社会全体の取り組みが求められます。

8.1. 青少年向けの教育プログラムと学校ベースのガイドライン

学校は、生徒が責任を持って安全にインターネットやSNSを利用するための情報モラル教育において重要な役割を担います 36。これには、プライバシー、ネットいじめ、知的財産権、そして過剰使用のリスクについての教育が含まれます 37

学校独自のSNS利用ガイドラインを策定することも有効です。例えば、授業中のスマートフォン使用禁止、利用時間の指定、ネットいじめ禁止といったルールが考えられます 37。重要なのは、ガイドラインを配布するだけでなく、その内容を理解し遵守するための学習機会を設けることであり、可能であれば生徒の意見も取り入れながら策定することが望ましいとされています 38

また、生徒自身が依存のリスクを認識し、適切な対策を講じる意識を高めるために、依存症の兆候、症状、潜在的な悪影響について教育し、自己診断ツールやチェックリストを活用して自己評価を促すことも効果的です 31

8.2. デジタルシティズンシップと責任あるオンライン行動の促進

デジタルシティズンシップ教育は、青少年がオンラインコミュニティの責任ある、倫理的な、そして積極的な一員となることを目指すものです 39。これは単なる「禁止事項」のリストではなく、「すべきこと」、すなわちテクノロジーを肯定的かつ安全に活用する方法に焦点を当てます 40。主要な構成要素には、プライバシーとセキュリティの理解、デジタルフットプリントの認識、オンラインコミュニケーションのエチケット、オンライン情報の批判的思考などが含まれます 40

青少年がSNS依存症を効果的に予防するためには、単に制限的なアプローチや恐怖心に訴える方法(「これをしてはいけない」)から、デジタルシティズンシップのような、よりエンパワーメントを重視し、スキルを育成する教育へと転換することが求められます 39。この積極的なアプローチは、レジリエンス(精神的回復力)と責任ある意思決定能力の構築を目指します。情報リテラシーやモラルを理解した上で、自律的にICT環境を活用できるようにするための教育方針 39 は、若者が特定の信念を受け入れたり、特定のオンライン活動に参加するよう説得するのではなく、新しいテクノロジーがもたらす機会を考慮し、情報に基づいた選択ができるようになることを目的としています 40。このような教育を通じて、若者はデジタル世界を責任を持って航行するための批判的思考と自己管理スキルを身につけることができ、これは、十分に理解していない、あるいは同意していない可能性のあるルールのリストに従うだけよりも、長期的な予防に繋がりやすいと考えられます。

8.3. 保護者のガイダンス:バランスの取れた支援的な家庭環境の構築

家庭における保護者の役割も極めて重要です。子どもたちがオンラインでの経験や懸念について安心して話せるオープンなコミュニケーションの環境を育むこと 15、そして、機器の使用に関する明確な家族ルールと境界線を協力して設定すること 26 が求められます。久里浜医療センターのガイド 26 では、機器は保護者が貸与するという形を取り、時間・場所・金銭使用のルール、ルール違反時の対応などを明確に定めることが推奨されています。

保護者自身がバランスの取れた責任あるテクノロジー利用を模範として示すこと 26、そして、趣味、スポーツ、家族の時間、対面での社会的交流といったオフライン活動を奨励し機会を提供すること 26 も不可欠です。

学校 38 であれ家庭 26 であれ、ルールやガイドラインを設定する際には、対話と協力が繰り返し強調されています。これは、一方的なルールの押し付けとは対照的であり、より大きな納得感と効果をもたらす可能性があります。例えば、学校のガイドライン策定に生徒を参加させること 38 や、家庭で親子が共に納得のいく条件を決めて文書化すること 34 は、当事者意識と理解を育み、トップダウンの指示よりも遵守の可能性を高めます。この協調的なアプローチは、ルール設定を対立点から学習と相互尊重の機会へと転換させる力を持っています。

保護者が健康的なテクノロジー利用の模範を示すことの重要性 26 は、予防における極めて重要でありながら、しばしば過小評価される要素です。「子どもは親を見て育つ」という言葉 26 が示すように、子どもや青少年は親の行動から大きな影響を受けます。保護者が常にスマートフォンに没頭していたり、問題のあるテクノロジー習慣を示していたりする場合、子どもたちに使用制限を口頭で指示しても、その効果は薄れるか、偽善的だと受け取られる可能性があります。したがって、若者のSNS依存症予防策には、保護者自身が自らのデジタル習慣を振り返り、管理することを奨励する要素も含まれるべきであり、子どもだけを対象とするのではなく、家族全体のデジタルウェルビーイング戦略がより効果的であると考えられます。

表3:青少年におけるSNS依存症の主要な予防策

関係者予防戦略具体的な行動・例根拠・目標主要参考文献
学校・教育者デジタルシティズンシップ教育の実施オンラインプライバシー、倫理、情報リテラシー、ネットいじめ対策などを教える責任あるオンライン行動の育成、批判的思考力の向上39
学校独自のSNS利用ガイドライン策定・教育授業中・校内での使用ルール、投稿内容の注意点などを定め、生徒と共に学ぶ機会を設ける安全な学習環境の確保、問題行動の未然防止37
依存リスクに関する啓発活動依存の兆候や影響について教育し、自己診断ツール等で自己認識を促す早期発見・早期対応の促進、当事者意識の向上31
保護者・養育者オープンなコミュニケーションの確立子どものオンライン活動に関心を持ち、悩みや問題を話しやすい雰囲気を作る信頼関係の構築、問題の早期発見15
明確な家庭内テクノロジールールの設定利用時間制限(例:1日2時間まで、就寝1時間前は使用しない)、寝室への持ち込み禁止など、親子で話し合い合意するバランスの取れたライフスタイルの確立、過剰使用の抑制26
健康的な利用習慣のモデリング保護者自身が模範となるようなテクノロジー利用を心がける子どもの健全な価値観・態度の育成26
オフライン活動の奨励と機会提供スポーツ、芸術、読書、家族との時間、友人との直接的な交流など、画面から離れた活動を積極的に支援する代替的な興味・関心の育成、現実世界での充実感の獲得26
青少年自身(支援あり)自己認識とセルフコントロール能力の向上自身のSNS利用パターンや感情への影響を客観的に把握し、利用時間や内容を意識的に管理する自律的な利用習慣の確立、依存リスクの低減31 (自己診断ツール)
リアルな人間関係の重視オンラインだけでなく、対面でのコミュニケーションや友情を大切にする社会性・共感性の育成、孤立感の予防(間接的に示唆)
困った時の相談SNS利用で問題を感じたら、信頼できる大人(親、教師、カウンセラー等)に相談する問題の深刻化防止、適切な支援へのアクセス37

9. 結論:バランスの取れたデジタルな未来に向けて

本報告書では、SNS依存症の多面的な側面について考察してきました。主要な知見を要約すると以下の通りです。

  • SNS依存症は、コントロール喪失、没頭、そして生活の多岐にわたる領域における否定的な結果を特徴とする複雑な行動上の問題です。
  • その背景には、神経生物学的要因(ドーパミン、報酬システムの適応、前頭前野の機能不全)、心理的要因(承認欲求、FOMO、対処行動)、そして技術的要因(プラットフォームデザイン)が複雑に絡み合っています。
  • その影響は広範囲に及び、個人の精神的・身体的健康、対人関係、学業・職業的パフォーマンスに影響を与えます。

SNS依存症には単一の原因や解決策は存在せず、その理解と対応には包括的な視点が不可欠です。

この問題に対処するためには、SNS依存症の兆候やリスクに関する一般市民および専門家の意識向上が急務です。問題の深刻化や長期的な悪影響を防ぐためには、早期発見と早期介入の利点を強調する必要があります。さらに、SNS依存症の機微、その長期的影響、特有の診断基準、そして多様な文化的背景における様々な治療・予防戦略の有効性に関する継続的な研究が求められます。

目指すべきは、SNSの完全な排除(多くの人々にとって非現実的)ではなく、人生を損なうのではなく豊かにするような、意識的で意図的、かつバランスの取れた利用を促進することです。個人、家族、そしてコミュニティが、健全なデジタルエンゲージメントのための戦略を主体的に構築していくことが重要です。

デジタル社会を航行するには、意識的な努力と、ウェルビーイングを支えるスキルおよび環境の育成が不可欠です。SNS依存症のメカニズムと影響を理解し、効果的な予防・管理戦略を実行することで、ソーシャルテクノロジーの恩恵を享受しつつ、その潜在的な害を軽減し、より健康的でバランスの取れたデジタルな未来への道を切り開くことが可能となるでしょう。

引用文献

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