モーダストーレンス(Modus Tollens)

モーダストーレンス(ラテン語: Modus Tollens、「否定の様式」または「取り去る様式」の意)は、論理学における妥当な推論規則の一つで、日常生活や学術的な議論で非常によく使われる論証形式です。

モーダストーレンスは、以下の形式をとります。

前提1: もし P ならば Q である。(P→Q)

前提2: Q ではない。(¬Q)

結論: それゆえに、P ではない。(∴¬P)

これを論理記号で一行にまとめると、この推論規則の妥当性は次のように表現できます。

((P→Q)∧¬Q)→¬P

この式は、「『もしPならばQである』かつ『Qではない』ならば、『Pではない』」という全体の命題が常に真である(トートロジーである)ことを示しています。

具体例で考えてみましょう。

  • 前提1: もし雨が降っている(P)ならば、地面は濡れている(Q)。
  • 前提2: 地面は濡れていない(¬Q)。
  • 結論: それゆえに、雨は降っていない(∴¬P)。

この例では、前提1と前提2が真であるならば、結論も必ず真になります。もし雨が降っているのに地面が濡れていないという状況は(前提1が真である限り)ありえないからです。

モーダストーレンスの妥当性について

この推論がなぜ妥当なのかは、以下の方法で説明できます。

対偶(Contraposition)との関連:命題「P→Q」の対偶は「¬Q→¬P」です。古典論理では、元の命題とその対偶は論理的に同値です(つまり、真理値が常に一致します)。モーダストーレンスは、この対偶の考え方に基づいています。前提1: P→Q (これは ¬Q→¬P と同値)前提2: ¬Qこの2つの前提から、「¬Q→¬P」と「¬Q」が真であれば、モーダスポネンス(肯定式:もしXならばYである、Xである、ゆえにYである)の形式により「¬P」が導かれます。

    誤りやすい推論との比較

    モーダストーレンスは妥当な推論ですが、似たような形式で誤った推論(論理的誤謬)があるので注意が必要です。

    • 後件肯定の誤謬 (Affirming the consequent):形式: P→Q, Q∴P例: 「もし雨が降っているならば、地面は濡れている。地面は濡れている。それゆえに、雨が降っている。」これは誤りです。地面が濡れている理由は、雨以外(例:水を撒いた)も考えられるためです。
    • 前件否定の誤謬 (Denying the antecedent):形式: P→Q, ¬P∴¬Q例: 「もし雨が降っているならば、地面は濡れている。雨は降っていない。それゆえに、地面は濡れていない。」これも誤りです。雨が降っていなくても、他の理由で地面が濡れている可能性があるためです。

    モーダストーレンスは、仮説を検証したり、議論の中で相手の主張の帰結を否定することによって元の主張を間接的に否定したりする際に、非常に強力な論理ツールとなります。