NPS(ネット・プロモーター・スコア)

目次

  1. NPSとは何か?
    • 1.1. 定義
    • 1.2. 誕生の背景と歴史
    • 1.3. 従来の顧客満足度調査との違い
  2. NPSの基本構造と算出方法
    • 2.1. メインとなる質問内容
    • 2.2. スコアリング(推奨者・中立者・批判者)
    • 2.3. 計算式と数値の範囲
  3. NPSを構成する深い意味と狙い
    • 3.1. ロイヤルティの可視化
    • 3.2. “推奨”という行動指標の強み
    • 3.3. フレッド・ライクヘルドの思想
  4. NPSの評価基準と読み解き方
    • 4.1. スコアの一般的な解釈(目安)
    • 4.2. 業界・商材ごとの違い
    • 4.3. スコアだけに囚われない観点
  5. NPS調査の実務的手順と設計上のコツ
    • 5.1. 調査対象とサンプリングの考え方
    • 5.2. 質問票のデザインと質問の順番
    • 5.3. フォローアップの設計
  6. NPSを活用した顧客ロイヤルティ向上戦略
    • 6.1. 批判者の声を拾うプロセス
    • 6.2. 中立者を推奨者に導く方法
    • 6.3. 推奨者への働きかけ(口コミ促進)
  7. NPSの導入メリット・デメリットと主な論点
    • 7.1. シンプルゆえの強み
    • 7.2. スコアのみで判断するリスク
    • 7.3. 競合他社とのベンチマーク活用
  8. NPSと他の顧客指標(CSAT・CESなど)との比較
    • 8.1. CSAT(顧客満足度)との違い
    • 8.2. CES(顧客努力度スコア)との違い
    • 8.3. 使い分けのポイント
  9. NPSのよくある誤解・批判とその対処法
    • 9.1. なぜ「1つの質問」で十分なのか?
    • 9.2. 実際に離反するかどうかとの相関
    • 9.3. 文化圏の差によるスコアの歪み
  10. NPS運用の発展形と最新トレンド
    • 10.1. Relationship NPSとTransactional NPS
    • 10.2. eNPS(従業員NPS)
    • 10.3. NPS 3.0時代の新潮流
  11. 具体的導入事例(業種別)
    • 11.1. SaaS/サブスクリプションビジネス
    • 11.2. 小売・ECサイト
    • 11.3. ホテル・航空・旅行業界
    • 11.4. 金融サービス
  12. NPSを継続的に活かすための組織体制と文化
    • 12.1. 組織全体を巻き込むロードマップ
    • 12.2. 部門横断で顧客の声を共有する仕組み
    • 12.3. “顧客中心”文化の醸成
  13. まとめ

1. NPSとは何か?

1.1. 定義

NPS(Net Promoter Score) は、顧客の自社(自社サービスや製品)に対する「推奨意欲」を測ることで、顧客のロイヤルティや愛着度を数値化する指標です。
「あなたはこの製品(サービス)を友人や知人に薦めたいと思いますか?」というたった1つの質問への回答を軸に算出されます。

1.2. 誕生の背景と歴史

NPSは、コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)のパートナーである**フレッド・ライクヘルド(Fred Reichheld)**氏が2003年に提唱した概念です。
ライクヘルド氏は、「複数の質問を用いた複雑な顧客満足度指標は、企業文化に定着しにくい。もっとシンプルかつ経営指標として実行しやすいものを作りたい」という考えからNPSを生み出しました。
このコンセプトはその後「The Ultimate Question(究極の質問)」という著書(初版は2006年刊行)で広く紹介され、世界中の企業に波及していったのです。

1.3. 従来の顧客満足度調査との違い

従来の顧客満足度(Customer Satisfaction, CS)調査は、

  • 多数の質問項目
  • 数値化が複雑
  • 分析コストがかかる

などの課題がありました。
一方、NPSは極限までシンプルな設計となっており、社内・経営層にも共有しやすく、誰でもすぐ理解できることが大きな利点となっています。


2. NPSの基本構造と算出方法

2.1. メインとなる質問内容

NPSを測定するための質問は主に1つです。

「この商品・サービスを友人や同僚などに薦めたいと思いますか?」

回答形式は、0〜10点の11段階で答えるようになっています。(0は「全く薦めない」、10は「熱心に薦めたい」)

2.2. スコアリングの仕組み

回答者は以下の3つに分類されます。

  • 推奨者(Promoters):9〜10点をつけた人
  • 中立者(Passives):7〜8点をつけた人
  • 批判者(Detractors):0〜6点をつけた人

ここで特筆すべきは、

  • 中立者はスコアへの加点も減点もされない
  • 推奨者と批判者のみがNPSに影響する

という点です。

2.3. 計算式と数値の範囲

NPSは以下の式で算出されます: NPS=(推奨者の割合−批判者の割合)×100\text{NPS} = (\text{推奨者の割合} – \text{批判者の割合}) \times 100

  • 計算結果の理論上の最小値は -100(全員が批判者の場合)
  • 最大値は +100(全員が推奨者の場合)

なお、多くの調査会社では、この「推奨者の割合」と「批判者の割合」を「全回答者数」に対するパーセンテージで捉えます。
たとえば、回答者が100名いて、推奨者が30名、批判者が20名(中立者50名)であれば、 NPS=(30100−20100)×100=+10\text{NPS} = (\frac{30}{100} – \frac{20}{100}) \times 100 = +10

となります。


3. NPSを構成する深い意味と狙い

3.1. ロイヤルティの可視化

NPSが注目される理由の一つは、単なる満足度ではなく「顧客のロイヤルティ」を直接的に測れると考えられているからです。
なぜなら、「人に薦めたい」という行動は、顧客が製品・サービスに強い価値を感じている証拠とみなせるからです。

3.2. “推奨”という行動指標の強み

推奨(recommendation)という行動は、口コミ効果の源泉となります。
推奨者は積極的に友人や知人に商品を勧め、自然な形で新規顧客を連れてきてくれる可能性が高い。
逆に、批判者は悪評を広めたり、ライバル企業に乗り換えたりするリスクが高い。
この両者の差が、企業の持続的成長力に関わってくるという考え方がNPSの中核を成しています。

3.3. フレッド・ライクヘルドの思想

ライクヘルド氏は、多くの企業が「利益最大化」や「短期の売上」ばかりを追い求めて、顧客との長期的な関係構築を軽視してしまうことを問題視していました。
NPSは、顧客との長期的な信頼関係の構築に焦点を当て、企業文化そのものを変えていくためのツールという位置づけでもあります。


4. NPSの評価基準と読み解き方

4.1. スコアの一般的な解釈(目安)

NPSは -100〜+100で表示されますが、実際にはビジネスの種類や競合状況によって評価はまちまちです。
一般的には以下が目安とされています。

スコア範囲状態・評価
-100〜0非常に低い。要改善
1〜30改善の余地がある
31〜50平均的。合格点レベル
51〜70高いロイヤルティの証拠
71〜100羨望されるレベルの優秀度

4.2. 業界・商材ごとの違い

ただし、業界によっては平均NPSが相対的に低い場合があります。たとえば、金融や保険、自動車販売のように、顧客の不満が出やすい業種では、プラススコアを取るだけでも大変というケースがあります。
逆に、ファン心理が強く働きやすい分野(例:ハイテクガジェット、カフェチェーン、スポーツなど)は高得点になりやすい傾向があります。

4.3. スコアだけに囚われない観点

NPSは非常にシンプルな指標ですが、数値だけを追いかけると本質を見失う危険があります。

  • 「なぜ推奨者になったのか?」「なぜ批判者になったのか?」
  • 「中立者がもう一歩踏み込んで推奨者になるには何が必要か?」

など、背景の声をしっかり拾い上げ、施策に落とし込むことが重要です。


5. NPS調査の実務的手順と設計上のコツ

5.1. 調査対象とサンプリングの考え方

NPS調査は、なるべく実際に製品・サービスを利用したことのある顧客に対して実施することが望ましいです。

  • 新規ユーザーやトライアル利用者だけの回答では、実際のロイヤルティを測れない。
  • 長期利用者ばかりでは、新規顧客の不満点が反映されにくい。

したがって、顧客属性(購入回数、利用期間など)に応じてサンプリングし、母集団をきちんと設計することが大切です。

5.2. 質問票のデザインと質問の順番

NPS測定では、以下の流れが一般的です。

  1. NPSのコア質問:「この商品(サービス)を薦めたいですか?」(0〜10点)
  2. 理由を尋ねる自由記述:「その評価をつけた理由は何ですか?」
  3. 必要に応じて追加の設問(顧客プロフィールや利用シーン等)

このとき、NPSのコア質問を最初に聞くことがポイントです。
前段で詳細な質問を先に出してしまうと、回答者が回答にバイアスを受ける可能性があります。

5.3. フォローアップの設計

NPS調査で特に重要なのが、回答を終わりにしないこと。

  • 批判者へのフォローアップ:具体的なクレームがあれば対応する。改善策を検討する。
  • 推奨者へのフォローアップ:さらにロイヤルティを高めるための会員プログラムやインセンティブを検討する。
  • 中立者へのフォローアップ:もう一歩高評価につなげるためにボトルネックを調べる。

6. NPSを活用した顧客ロイヤルティ向上戦略

6.1. 批判者の声を拾うプロセス

批判者はネガティブなイメージがありますが、彼らの声は宝の山でもあります。
なぜなら、具体的な不満点を率直に教えてくれるからです。

  • 一度フォローアップを実施し、不満を解消できれば、批判者から中立者・推奨者へ転じるケースもある。

6.2. 中立者を推奨者に導く方法

中立者は、サービスへの大きな不満もなければ、大きな感動もない層です。
彼らには、もう一つの価値訴求上質な顧客体験を提供することで“感動ポイント”を作り出す施策が有効です。

  • 例:追加サービス・アップセル施策の案内、パーソナライズされたサービス提供など

6.3. 推奨者への働きかけ(口コミ促進)

推奨者は自然に口コミをしてくれる可能性が高いですが、何らかの促進策を講じることで、その行動をより強化できます。

  • 口コミキャンペーンや紹介プログラム
  • コミュニティイベントやファンミーティングの開催
  • SNS投稿を促す仕組み(ハッシュタグや特典など)

7. NPSの導入メリット・デメリットと主な論点

7.1. シンプルゆえの強み

  • 数値がわかりやすいので、経営層や社内各部門への説明に適している。
  • モニタリングが容易で、施策の効果測定をシンプルに把握可能。

7.2. スコアのみで判断するリスク

  • スコアが目的化してしまうと、真の顧客ロイヤルティ向上に結びつかない。
  • NPSが高い=必ずしも絶対の顧客満足度が高いわけではない。

7.3. 競合他社とのベンチマーク活用

NPSは業界標準として使われる場面が増えており、競合企業間でNPSを比較することもあります。
ただし、調査方法(対象やタイミング)が異なると数値比較が正確でない場合があるため、同一条件での調査が望ましいです。


8. NPSと他の顧客指標(CSAT・CESなど)との比較

8.1. CSAT(顧客満足度)との違い

  • CSAT:個々の接点や利用場面ごとの「満足度」を測定することに長けている。
  • NPS:企業全体やブランドに対する「推奨意欲」を測定するため、より包括的・長期的視点を持つ。

8.2. CES(顧客努力度スコア)との違い

  • CES:顧客がある行動(問い合わせ対応や問題解決など)をする際に「どれだけの手間・努力が必要だったか」を測る指標。
  • NPSが「どれだけ薦めたいか?」というポジティブな感情に焦点を当てるのに対し、CESは「顧客にかかる負担の軽重」を測る。

8.3. 使い分けのポイント

  • NPS:顧客のロイヤルティ全体の把握、ブランド全般の評価。
  • CSAT:サービス個々の満足度を確認したい場合。
  • CES:カスタマーサポートや契約手続きなどの顧客接点での負担度を改善したい場合。

9. NPSのよくある誤解・批判とその対処法

9.1. なぜ「1つの質問」で十分なのか?

「1つの質問だけでは顧客満足の全体像を掴めないのではないか?」という批判がありますが、NPSはあくまでも**導入の“フック”**として機能する指標です。
背景調査として追加設問(自由回答欄など)を設けるのが一般的で、「推奨度の数値化+定性的な理由」という組み合わせで全体像を補完します。

9.2. 実際に離反するかどうかとの相関

「推奨する」と答えた人が、必ずしも離反しないわけではありません。
ただ、数多くの調査結果からは、批判者や中立者に比べて推奨者の方が離反率が低いという相関は多くの企業で観測されています。
また、推奨者は生涯価値(LTV)が高いとも言われます。

9.3. 文化圏の差によるスコアの歪み

NPSは欧米で始まった指標のため、文化的背景が異なる国(日本を含むアジア圏など)では「極端な点数をつけにくい」「やや辛口評価が多い」といった傾向が見られる場合があります。
そのため、グローバル企業が地域別のNPSを比較する際には注意が必要です。


10. NPS運用の発展形と最新トレンド

10.1. Relationship NPSとTransactional NPS

  • Relationship NPS:企業やブランドとの全体的・長期的な関係を測定するNPS。
  • Transactional NPS:特定の取引や接点(店舗来店後、サポート対応後など)単位で測定するNPS。

両者を使い分けることで、**マクロ視点(総合評価)とミクロ視点(特定のタッチポイント)**の両面でロイヤルティを把握できます。

10.2. eNPS(従業員NPS)

NPSの考え方を社内の従業員満足度やエンゲージメントに応用したものが**eNPS(Employee Net Promoter Score)**です。

  • 「あなたはこの会社(職場)を友人や知人に働く場所として薦めますか?」
    従業員が“自社のアンバサダー”になれるかどうかを測る指標として注目されています。

10.3. NPS 3.0時代の新潮流

ライクヘルド氏自身もNPSの使い方や概念をバージョンアップさせており、近年では「Earned Growth(獲得された成長)」という新たな指標にも言及しています。
これは、NPSが示す「ロイヤル顧客による自然増(口コミ)」をさらに追跡して、具体的な売上や利益へのインパクトを測る試みです。


11. 具体的導入事例(業種別)

11.1. SaaS/サブスクリプションビジネス

SaaSをはじめとするサブスクモデルでは、**継続利用率(チャーン率)**が事業の成否を大きく左右します。
NPSによって批判者の声を早期に発見・対処し、解約を防止することができれば、LTV向上に直結します。

11.2. 小売・ECサイト

小売やECでは、購入後のフォローメールなどでNPSを取得し、顧客がどの程度リピート購入や口コミをしてくれるかを評価します。

  • 中立者以上の顧客には追加クーポンを送ってロイヤルティを高める
  • 批判者にはサポート対応の連絡や個別の割引を打診する

という実務活用が見られます。

11.3. ホテル・航空・旅行業界

ホスピタリティ業界では、「滞在(利用)直後」にNPS調査を行うことが多いです。

  • 離れる前に感想を聞く:Transactional NPSの活用
  • 高評価の顧客にはオンラインレビュー投稿を依頼
  • 不満を持つ顧客には即時対応し、ネガティブ口コミを未然に防ぐ

11.4. 金融サービス

銀行や保険などの金融業では手続きやサポート対応が煩雑になりがちで、それが批判者を生みやすい要因になっています。
NPSをトラッキングし、顧客体験(UX)の改善に役立てているケースが多いです。


12. NPSを継続的に活かすための組織体制と文化

12.1. 組織全体を巻き込むロードマップ

NPSを単なる指標として導入するだけでは、部門間での温度差が生じがちです。

  • 経営陣がNPSを重視する姿勢を示す
  • 部門ごとに改善責任を持たせる
  • 定期的にレビュー会議を開催する

といった仕組みづくりが必要です。

12.2. 部門横断で顧客の声を共有する仕組み

マーケティング部門だけでなく、顧客サポート、開発・製造、営業、店舗スタッフなど、全社で顧客の声を共有できるプラットフォームを整備しましょう。

  • CRMシステムや顧客声分析ツールを活用
  • 全社員が閲覧・共有できる形でNPSの結果を可視化

12.3. “顧客中心”文化の醸成

NPSはあくまで「ロイヤル顧客を育てるための手段」です。
その根底には、顧客を大切にし、顧客の成功を支援するという企業文化が欠かせません。

  • 顧客の課題解決を最優先とする
  • 社内KPIを「顧客志向」に設計し直す

といった取り組みが長期的な成果につながります。


13. まとめ

NPS(ネット・プロモーター・スコア)は、

  1. 「推奨意欲(Recommend)」という行動に注目し、顧客ロイヤルティを数値化するシンプルな指標。
  2. 従来型の顧客満足度調査とは異なり、「企業文化や組織体制」そのものを変える力を持っている。
  3. ただし、スコアを追うだけで終わるのではなく、顧客の声を丁寧に拾い、それを実際のサービス改善や顧客体験向上へ結びつける運用が非常に重要。
  • 批判者の原因を探り、不満を解消していく
  • 中立者を推奨者へ引き上げるきっかけを作る
  • 推奨者の満足・熱量をさらに高めていく

こうした一連のサイクルを回し続けることで、NPSは確実に向上し、結果的に長期的な収益増やブランド価値向上へとつながっていきます。