Case Study 1: Starbucks(スターバックス)
1. 企業概要
- 業界:カフェ、コーヒーショップチェーン
- 展開地域:世界規模(アメリカ本社、世界80ヶ国以上で店舗展開)
- ブランドの特徴:高品質コーヒー、サードプレイス(自宅・職場につぐくつろぎの場)の提供
2. Segmentation
スターバックスは当初、都市部の比較的所得の高いビジネスパーソンやコーヒー愛好家を主要顧客層として見込んでいました。しかし、世界各国に店舗を拡大するにつれ、より多様なセグメントへ対応する必要が生じています。具体的なセグメント例:
- ビジネスパーソン層
- 朝や昼休みにテイクアウトで利用する。
- 店内でPC作業や打ち合わせをするビジネスマン・フリーランサー。
- 若年層(大学生、高校生など)
- 友人同士で集まる場として利用。
- SNS投稿目的で映えるドリンク(フラペチーノなど)を購入。
- ファミリー層/主婦層
- ちょっとした休憩やおやつ代わりに利用。
- 店舗によってはベビーカーや子ども連れでも居心地を良くしている。
- コーヒー通・高所得層
- 新商品の豆や限定ローストを試す。
- プレミアムライン(リザーブ、焙煎所併設店舗など)を利用。
また、地域別(例:アメリカ、中国、日本など)に細分化して、それぞれの消費傾向を調べ、地元文化に合わせたメニュー(抹茶ドリンク、日本限定スイーツなど)を投入しています。
3. Targeting
- コーヒー通と若年層の両方を中心ターゲットとしつつも、「あらゆる年代に向けた、くつろぎとコミュニケーションの場」という広めのターゲティングを採用。
- 都市部店舗ではビジネス需要、郊外店舗ではファミリー需要を取り込み、地域特性に合わせた店舗設計を行う。
4. Positioning
- 高品質コーヒーとリラックス空間の提供
- 単なる「コーヒーを買う場所」ではなく、「第三の場所(サードプレイス)」としてのブランドイメージを追求。
- 価格帯はやや高めに設定し、「自分へのちょっとしたご褒美」「ラグジュアリーな日常使い」のイメージを醸成。
- 店舗内の内装、音楽、Wi-Fi環境などを整備し、ゆっくり居座ってもらうことでコミュニティ感を作り出す。
結果として、「コーヒーを飲むだけでなく自分のスタイルを表現できる場所」として認識されることで他の大衆的コーヒーチェーンとの差別化を図っています。
Case Study 2: Apple(アップル)
1. 企業概要
- 業界:IT・家電・ソフトウェア
- 代表製品:iPhone, iPad, Mac, Apple Watch, Apple Music, Apple TV+など
- ブランドの特徴:革新的デザイン、高いユーザー体験、エコシステム(ソフトウェア・ハードウェア連携)の強み
2. Segmentation
iPhoneやiPadなどのデバイスは、世界中の幅広い層が利用する大ヒット製品となっている一方で、Appleは常に「プレミアム価格帯」「先進技術を取り入れたい層」「デザインやユーザーエクスペリエンスを重視する層」を狙ってきました。代表的なセグメント例:
- テクノロジー先端志向のユーザー
- 新しいガジェットに積極的。発売日に行列を作るファン層。
- クリエイティブ・プロフェッショナル
- グラフィックデザイナー、映像編集、音楽プロデューサーなど。Macの高性能・高画質を好む。
- 一般ユーザー(学生・ファミリー)
- シンプル操作、直感的UIを好む。
- 高所得のビジネスパーソン
- 信頼性、ブランド力、所有感の高さ、周囲との連携を重視。
3. Targeting
- かつてはクリエイター層が中心だったが、iPhoneの大成功以降、幅広い一般消費者も主要ターゲットに。
- ただし、常に「プレミアム」「ハイエンド」のイメージを保ち、低価格帯への大きな展開は控える(iPhone SEなどは例外的に用意するが、あくまでも入口として)。
4. Positioning
- 「イノベーション」と「洗練されたデザイン」を軸に競合他社と一線を画す。
- “It just works.”(簡単で直感的に使える)というUX価値と、ハードウェア・ソフトウェア・サービスの統合エコシステムで圧倒的な使い心地を提供。
- 広告や店舗(Apple Store)のデザインなど、すべてに統一感を持たせ、高級感とブランドロイヤリティを醸成。
結果として、競合よりも価格帯が高くても「Appleだから」「信頼できる」「使いやすい」という理由で選ばれる強力なポジションを築いています。
Case Study 3: Tesla(テスラ)
1. 企業概要
- 業界:自動車(電気自動車)、エネルギー関連
- 主な製品:Model S, Model 3, Model X, Model Y, サイバートラック(Cybertruck)など
- ブランドの特徴:電気自動車の先進ブランド、ハイテク・革新性
2. Segmentation
EV(電気自動車)という新市場を切り開いたテスラは、当初、比較的高価格帯からスタート。次第に価格帯を抑えたモデルをリリースする戦略をとっています。代表的なセグメント例:
- 環境意識の高い富裕層
- エコロジーへの関心、先端テクノロジーへの投資意欲。
- ハイテク志向・ガジェット好きの中高所得層
- 車そのものを「巨大なガジェット」と捉え、ソフトウェアアップデートや自動運転機能に魅力を感じる。
- 高級車からの乗り換えを検討する層
- Mercedes-Benz, BMW, Audiなどからの乗り換えを狙う。
- 近年:量産モデル(Model 3, Model Y)で中間層へ拡大
- ハイエンド以外の大衆向けEV市場にも参入し、台数ベースでのシェア拡大を狙う。
3. Targeting
- 創業当初は富裕層向けに高級スポーツEV(ロードスター)を販売し、ブランドイメージと資金を確立。
- その後、ミドルクラス向けのModel 3やModel Yを投入し、本格的にEV普及を狙う。
- 地域的にも、アメリカのみならず欧州、中国などEV需要が急拡大する市場を重点ターゲットに。
4. Positioning
- “EVのパイオニア”かつ“テクノロジー企業”としてのポジション。
- 一般的な自動車メーカーというよりは、ソフトウェア更新や自動運転を前面に押し出した「走るコンピューター」のイメージ。
- 「環境負荷が低い」「未来感を先取りできる」という訴求で、他の高級車との差別化を図る。
- CEOイーロン・マスクのカリスマ的存在がブランドプロモーションの一端を担い、ファンコミュニティを形成。
結果として、車に詳しくない層にも「次世代カー」「革新的ブランド」として熱烈に支持され、EV市場全体の拡大をけん引していると見なされています。
Case Study 4: P&G(Procter & Gamble)の洗剤ブランド展開
1. 企業概要
- 業界:家庭用消費財(FMCG: Fast Moving Consumer Goods)
- 代表ブランド:アリエール、ボールド、ジョイ、パンパース、ファブリーズなど多数
- ブランドの特徴:グローバル展開、各カテゴリで複数ブランドを展開
2. Segmentation
洗剤ひとつをとっても、P&Gは多様な切り口でセグメンテーションを行います。例えば衣料用洗剤:
- 機能重視派(汚れ落ち・殺菌力)
- 子どもが泥んこ遊びをする、スポーツウェアをよく洗濯するファミリー層。
- 香り重視派
- 部屋干し時のニオイ対策、柔軟剤との香りの相乗効果などを気にする層。
- コストパフォーマンス重視派
- 「安さ+そこそこの品質」を求める一般家庭。
- 環境・肌への優しさ重視派
- 敏感肌対応、オーガニック、エコ志向を好む層。
3. Targeting
- 洗剤カテゴリーでは複数のブランドを用意し、それぞれ異なるメッセージを発信している。
- アリエール:高洗浄力・除菌力が強み → 子どもがいる家庭、運動部の洗濯物が多い家庭
- ボールド:香りや柔軟剤効果を重視 → 香り付けを楽しみたい若年層・主婦層
- タイ(Tide)(主に北米向け):洗浄力とブランドロイヤルティの強さ → アメリカのマス市場
4. Positioning
- P&Gは1つの市場カテゴリー(洗剤)に対し、「機能」「香り」「価格帯」「肌への優しさ」などのニーズ別にブランドを設定。
- 各ブランドは異なる特徴を前面に出しながらも、最終的には「P&G品質=信頼できる」と思われるように、企業としての統一感も維持。
- 結果として、同じメーカー内でブランドが複数並立しても、競合ブランドに取られるシェアを最小化し、各セグメントを自社内で取り込む戦略(マルチブランド戦略)を成功させている。
Case Study 5: 国内B2B SaaS企業(架空例)
1. 企業概要
- 業界:SaaS(クラウド型ソフトウェア)提供企業
- 製品:顧客管理システム(CRM)+ 顧客サポートチャットツール
- サービスの特徴:シンプルUI、低コスト導入、日系中小企業向けサポート
2. Segmentation(B2B向け)
- 大企業(従業員1000名以上)
- 導入プロセスが複雑、セキュリティ要件が厳しい。カスタマイズやAPI連携が必須。
- 中堅企業(従業員100~1000名)
- 業務プロセスを効率化したいが、そこまでの巨大予算はない。
- ある程度のカスタマイズやサポートが欲しい。
- 中小企業(従業員10~100名)
- 導入コストを抑えたい、IT部門が弱いので簡単に使えるツールが必要。
- 丁寧なサポートを重視。
- スタートアップ企業(従業員10名未満)
- スピード重視で、新機能や拡張性を求める。
- 価格にも敏感だが、将来のスケールアップを考慮。
3. Targeting
- 大企業向けの競合は既に強力(Salesforceなど)。
- 自社は中小~中堅企業のセグメントに注力し、低価格プラン&手厚い電話・チャットサポートを最大の売りにする。
- スタートアップ向けにはベーシックプランを格安で提供し、将来成長した際にアップグレードしてもらう作戦を用意。
4. Positioning
- 「ITに詳しくなくてもすぐ使える」「日本語サポートが充実している」「費用対効果が高い」という点を強調。
- 競合の外資系CRMと比べ、「小規模企業でも導入ハードルが低い」「文化的・言語的ギャップが少ない」という差別化。
- Webサイトや営業資料では、導入事例として中小企業の具体的な成功ストーリー(問い合わせ対応時間が○%短縮、顧客満足度が○%改善など)を紹介。
結果的に、大企業市場での激しい価格競争や機能競争からは距離を置き、「最初のCRM導入として選ばれやすい」ポジションを確立している。
まとめ
以上のケーススタディを通じて、STP分析の実践事例がより具体的にイメージしやすくなったかと思います。各社・各製品が行うSegmentation(誰を細分化しているか)、Targeting(どのセグメントを中心に狙うか)、**Positioning(市場・顧客の頭の中でどのような差別化を図るか)**の取り組みは、業種・市場環境によって大きく異なります。
- スターバックス:コーヒーショップを「くつろぎの場」にし、価格以上の体験価値を提供して差別化。
- Apple:先端技術とデザイン、プレミアム感で他社との差別化を絶えず刷新。
- Tesla:EVの先行者優位を武器にハイテク路線でブランドを構築、富裕層から中間層まで徐々にセグメント拡大。
- P&G:1つの製品カテゴリーに複数ブランドを持ち、異なるセグメントをマルチブランド戦略で網羅。
- B2B SaaS企業(架空例):強豪が参入しにくい中小企業向けの切り口を徹底し、サポートと低価格を強みに差別化。
ご自身の業界やビジネスに当てはめる際には、「自社のお客様はどのようなセグメントに分けられ、どのセグメントが自社の強みにフィットしているのか?」「競合が手薄な領域、あるいは潜在需要の高い領域はどこか?」といった観点で整理してみてください。さらにポジショニングを明確にし、それを顧客に伝わる形(広告、製品特徴、ユーザー体験)に落とし込むことで、初めてSTP分析が活きてきます。
ケーススタディが、具体的なマーケティング施策を練る際の参考になれば幸いです。ぜひこれらをヒントに、自社独自の市場細分化・ターゲット選定・ポジショニングを検討してみてください。