医療現場で用いられるフレームワーク

以下では、医療現場でSOAP以外に利用される代表的なフレームワークや、看護・多職種連携で活用される文書化(チャーティング)手法をいくつか紹介します。それぞれに特徴・用途が異なりますので、必要に応じて使い分けられています。


1. APSO (Assessment, Plan, Subjective, Objective)

◇ 概要

  • APSO はSOAPの順序を入れ替えた形式で、
    • A (Assessment)
    • P (Plan)
    • S (Subjective)
    • O (Objective)
      の順に記録します。
  • 医療スタッフがカルテを開いた際に、まず「評価(A)」と「計画(P)」が目に入るようにすることで、臨床現場のスピード感ある意思決定や対応に役立ちます。

◇ メリット

  • いきなり結論や次のアクションが把握できるため、忙しい現場での情報共有に便利
  • SOAPと同じ内容を扱うため、フレームワークそのものを大きく学び直す必要が少ない。

◇ デメリット

  • 「S→O→A→P」という臨床推論の基本的な流れに慣れた人には、順番が逆転していることに違和感が生じる場合がある。
  • 「まず総合評価を出す」という書き方に慣れていないと、原因や根拠があいまいになりやすい懸念がある。

2. SBAR (Situation, Background, Assessment, Recommendation)

◇ 概要

  • SBAR は、もともと患者の状態を口頭で報告・連絡するときに使われるコミュニケーションのテンプレートとして発達しました。
  • 軍隊や航空業界でのコミュニケーション手法を医療界に取り入れたと言われ、簡潔かつ重要ポイントを伝えやすいのが特徴です。

◇ 構成

  1. S (Situation): 今どういう状況か
  2. B (Background): 患者の背景や既往、経過、関連情報
  3. A (Assessment): 現在の評価・問題点
  4. R (Recommendation): 相手に提案・要望すること、または次にすべき具体的行動

◇ 用途

  • チームメンバー間の口頭報告・電話連絡・緊急時のコミュニケーションなどで利用される。
  • 看護師が医師へ報告するときのフォーマットとして特に普及。
  • 記録形式というよりは伝達様式なので、カルテ記載よりも申し送りやコール時のやり取りに強い。

3. PIE (Problem, Intervention, Evaluation)

◇ 概要

  • PIE は、主に看護記録で用いられることの多い方法で、
    1. P (Problem): 患者が抱える問題 (看護診断も含む)
    2. I (Intervention): 問題に対して行った介入・ケア内容
    3. E (Evaluation): 介入に対する評価・結果
      という3段階で文書化を行います。

◇ 特徴

  • 問題を中心に据えて、その問題に対してどのようにアプローチし、結果どうなったかを連続的に管理できる。
  • 看護師が変化に素早く対応するためのリアルタイムな振り返りに適している。
  • SOAPに比べシンプルな反面、「S」や「O」に相当する情報を十分に拾いきれない場合は注意が必要。

4. DAR (Data, Action, Response) / FOCUSチャーティング

◇ 概要

  • DAR、またはFOCUSチャーティングとも呼ばれる記録方法で、
    1. D (Data): 患者から得られるデータ(主観・客観含む)
    2. A (Action): そのデータを踏まえたケア・介入
    3. R (Response): 介入に対する患者の反応、評価
      の3つに分けて整理します。
  • 看護診断だけでなく、患者が「フォーカス(焦点)」となる広い概念を扱うことができ、心理面や家族ケアなど、看護が対象とする多様な領域を記録しやすい点が特徴です。

◇ 活用例

  • 痛み管理、呼吸管理、栄養指導など、特定のケアやフォーカスに関して深く追う場合に適している。
  • チームで共有するときは、やや「看護ケア寄り」な視点の記録となるため、医療全体の視点でどう読み解くか工夫が必要。

5. ADPIE (Assessment, Diagnosis, Planning, Implementation, Evaluation)

◇ 概要

  • ADPIE は、看護過程(Nursing Process)の基本ステップを示す頭文字で、
    1. A (Assessment): アセスメント(情報収集と評価)
    2. D (Diagnosis): 看護診断
    3. P (Planning): 計画立案
    4. I (Implementation): 実施
    5. E (Evaluation): 評価・再評価
      というプロセスを回し続けるサイクルです。

◇ 特徴

  • 看護師が患者ケアを展開するときの思考過程を可視化したもの。
  • SOAPほど「S」「O」という区別はないが、Assessmentで患者情報を統合し、Diagnosisで「看護上の問題」を明確にしていく。
  • 主に看護計画の策定や評価を行う際に用いられる理論的枠組みだが、各ステップをドキュメント化(カルテ記載)する施設もある。

6. ADIME (Assessment, Diagnosis, Intervention, Monitoring and Evaluation)

◇ 概要

  • ADIME は、管理栄養士が栄養ケア・マネジメントプロセスを記録するときに用いるフレームワーク。
    1. A (Assessment): 栄養アセスメント
    2. D (Diagnosis): 栄養診断
    3. I (Intervention): 栄養介入
    4. M (Monitoring)E (Evaluation): モニタリングと評価
  • 医療の中でも特に栄養管理に特化している点が特徴です。

◇ 特徴

  • 栄養に関する問題を整理し、介入の成果を数値やバイタル(BMIや血糖、食事摂取量など)で評価しやすい。
  • チーム医療の一環で管理栄養士の専門性が発揮される場面(糖尿病、腎不全、肥満、摂食障害など)で重宝される。

7. Charting by Exception (例外記録法)

◇ 概要

  • Charting by Exception は、「正常」や「規定どおり」を大まかに省略して、例外的な事象(異常値、問題発生時)や特記事項のみにフォーカスして記録する手法です。
  • 時間短縮と効率化を狙いとして、欧米の一部で導入され始めた経緯があります。

◇ メリット・デメリット

  • メリット: 記録量を大幅に削減し、重要な情報に絞り込むことができる。
  • デメリット: 正常時や経過観察中の詳細が記録に残らないため、あとで問題が起きた際に根拠の追跡が難しくなる場合がある。

8. I-SBAR-R (Introduction, Situation, Background, Assessment, Recommendation, Repeat)

◇ 概要

  • I-SBAR-R は、SBARをさらに拡張し、最初に「I (Introduction)」を加え、最後に「R (Repeat/Read back)」を置いた形です。
    1. I (Introduction): 自分と患者の自己紹介(報告者・受報告者の明確化)
    2. S (Situation): 主要な状況
    3. B (Background): 背景情報
    4. A (Assessment): 評価・問題点
    5. R (Recommendation): 提案・助言・要望
    6. R (Repeat or Read Back): 復唱・確認
  • 安全管理上、指示やオーダーを“復唱”することでミスを減らす意図がある。

まとめ

  1. SOAP (or APSO): 医療のカルテ記載で最も一般的。論理的な流れや思考整理に有用。
  2. SBAR (or I-SBAR-R): 主にコミュニケーション・報告ツールとして活用。口頭で情報を伝える際に重要ポイントを簡潔に整理できる。
  3. PIE / DAR (FOCUSチャーティング): 看護記録として、患者の問題やフォーカスを軸にアクションと結果を追うスタイル。
  4. ADPIE / ADIME: 看護過程や栄養ケアのプロセスを文書化したフレームワーク。問題解決の段階を明確化する。
  5. Charting by Exception: 例外や異常のみを重点的に記録し、効率化を図る手法。
  6. それぞれのフレームワークは特定の目的(医師主導の診療録、看護ケア、栄養管理、チーム内コミュニケーションなど)に合わせて最適化されているため、状況に応じて複数のフレームワークを組み合わせて使うことが多い。

どのフレームワークが最適か?

  • SOAP は、医療従事者全般での情報共有に非常に汎用性が高い。
  • SBAR は口頭報告や緊急時の連絡に特化。
  • 看護記録なら PIE / DAR / ADPIE などが中心。
  • 栄養指導分野では ADIME
  • 記録の効率化を重視する場面では Charting by Exception を導入している施設もある。

最終的には、施設の運用ルールチームが目指す共有の仕方に基づいて選択・統合されていきます。それぞれのフレームワークを理解しておくことで、スムーズな情報共有や医療の安全性向上、ケアの質改善につなげることが可能です。