カスタマージャーニー分析のケーススタディ

Case Study 1:D2C(Direct-to-Consumer)アパレルブランドの事例

1. 概要と背景

  • 企業概要: 女性向けファッションを扱うD2Cブランド「FashionX」。オンラインのみで商品を販売し、高品質ながら低価格を強みに短期間で人気を得ていた。
  • 課題: 新規顧客は増えているものの、リピート購入率がなかなか伸びず、SNS上の口コミでも「届くまでに時間がかかる」「サイズ選びが難しい」などネガティブな声が増えつつあった。

同社はロイヤルティ向上を目指すため、顧客の最初の認知フェーズから購入後までを時系列で可視化するカスタマージャーニー分析を実施した。

2. 分析プロセス

  1. ペルソナ設定
    • 20~30代の都市部在住女性を中心に、サブペルソナとして海外在住顧客や地方在住顧客も追加。
    • インタビューとアンケートを併用し、サイズ・色・素材など個人差が出やすい部分が不安材料になっている可能性を把握。
  2. フェーズ定義
    1. Awareness(認知)
    2. Consideration(検討)
    3. Purchase(購入)
    4. Delivery & Unboxing(配送・開封)
    5. Usage(着用)
    6. Repeat Purchase / Loyalty
  3. データ収集
    • オンラインの行動データ(サイト訪問頻度、カート放棄率、問い合わせ履歴)
    • SNS上の口コミ解析(#FashionXで投稿された感想をテキストマイニング)
    • インタビュー(配送問題やサイズ選択のプロセスについて深掘り)
  4. ジャーニーマッピング
    • 検討フェーズでレビュー検索に時間をかけるが、「サイズ感がわからない」「配送までのリードタイムがサイト上ではっきりしない」という不安が強く、離脱要因に。
    • 購入フェーズまでは勢いで進む顧客も多いが、届いた後に「イメージと違う」「返品手続きが面倒」といった不満がSNSに散見。

3. 改善施策

  • 配送追跡をリアルタイム可視化
    • 配送のステータスを追跡できる仕組みをサイト上・アプリ内に導入。
    • 事前に「発送準備中」→「輸送中」→「配達中」など段階を細かく通知して安心感を高めた。
  • サイズ・フィットガイドの充実
    • モデルの身長・体重・3サイズや実際の着用写真を多数掲載。
    • AR技術を使って、自身の身体データを登録するとおすすめサイズを提案する機能を試験導入。
  • **購入後のフォローアップ】
    • メールやアプリプッシュで「着こなしコーディネート例」「洗濯方法」などの情報を提供。
    • 返品ポリシーを分かりやすく提示し、顧客の心理的ハードルを下げる。

4. 成果

  • 定常調査しているNPS(Net Promoter Score)が3か月で5ポイント向上。
  • リピート購入率が10%増。サイズガイドの導入以降、返品率も緩やかに低下。
  • SNS上の口コミでは、配送の安心感に関するポジティブ投稿が大幅に増加。

【Pythonコードでの簡易分析例】

以下は、架空データ(フェーズごとの顧客満足度スコア)を生成し、棒グラフを描画するサンプルです。
グラフの軸やタイトルは英語表記としております。

import numpy as np
import pandas as pd
import matplotlib.pyplot as plt
import random

# --- Sample Data Generation ---
np.random.seed(42)
stages = ["Awareness", "Consideration", "Purchase", "Delivery", "Usage", "Repeat"]
scores = [random.randint(60, 90) for _ in stages]  # Satisfaction scores (0-100 range)

df = pd.DataFrame({"Stage": stages, "SatisfactionScore": scores})

# --- Simple Bar Chart ---
plt.figure(figsize=(8, 5))
plt.bar(df["Stage"], df["SatisfactionScore"], color='skyblue')
plt.title("Customer Satisfaction by Stage")
plt.xlabel("Journey Stage")
plt.ylabel("Satisfaction Score")
plt.ylim(0, 100)
plt.show()
  • このコードはあくまで「フェーズ別に顧客満足度がどう推移しているか」を可視化するサンプルです。
  • 実際の企業分析では、さらに詳細なデータ(フェーズ内のタッチポイント別やリピート頻度別など)を扱い、時系列分析やセグメントごとの比較を行うことが一般的です。

Case Study 2:BtoB向けSaaS企業の事例

1. 概要と背景

  • 企業概要: 中小企業向けのクラウド会計ソフトを提供するSaaSベンダー「CloudAccounting」。
  • 課題: 新規導入社数は順調に増えているが、導入3か月以内の解約率(Churn Rate)が高い。競合他社に比べてサポートが手薄という評判があり、導入フェーズでつまずくケースが多い。

2. 分析プロセス

  1. フェーズ定義(BtoB版)
    1. Awareness(認知)
    2. Research & Evaluation(比較検討)
    3. Proof of Concept / Trial(トライアル)
    4. Purchase & Onboarding(契約・導入初期設定)
    5. Usage & Support(利用・サポート)
    6. Renewal / Upsell(更新・アップセル)
  2. データ収集
    • 営業チームのCRMデータ:商談開始から契約締結までのステータス変遷
    • 導入初期のサポート問い合わせログ:チャットサポート、電話サポートでの問い合わせ内容
    • 定点インタビュー:導入企業の担当者(経理部長、経営者など)が何に不満を感じているか、使いこなし度合いはどうかをヒアリング
  3. ペインポイント把握
    • トライアル版の機能が限定的すぎて、本格導入後に「想定外の設定が必要」と判明するケースが多い。
    • 導入後の設定サポート資料がわかりにくく、電話対応待ちが長いなどの理由で経理作業が止まってしまう。
    • 経営者と現場担当者、それぞれが異なる期待(コスト削減 vs. 作業効率化)を持ち、情報ギャップが発生。

3. 改善施策

  • トライアルプロセスの拡充
    • 有料版に近い機能を一部解放し、「導入してから判明するギャップ」を事前に減らす。
    • トライアル中にサポート担当者がオンボーディングセッションを実施。導入ハードルを下げる。
  • セルフヘルプリソースの拡充
    • 動画チュートリアルやFAQを整備し、自己解決率を高める。
    • 複雑な設定が必要なケースは、事例を踏まえたテンプレートを提供。
  • サポート人員の強化
    • アクティブユーザの利用状況をダッシュボードでモニターし、利用が止まっているアカウントにプロアクティブに声かけ。
    • 新規導入3か月は「優先チャネル」を設け、待ち時間を短縮。

4. 成果

  • 3か月以内の解約率が半年で約20%改善。
  • 有料版移行率が10ポイント増加。
  • 営業・サポート・プロダクト開発が連携しやすくなり、顧客要望のプロダクト反映サイクルが短縮。

Case Study 3:サブスクリプション型オンライン学習サービスの事例

1. 概要と背景

  • 企業概要: 語学学習プラットフォーム「LinguaLearn」。月額課金制で動画講義やAI会話練習機能を提供している。
  • 課題: 初月無料キャンペーンで利用者を獲得しやすいが、2か月目以降の継続率が低い。ユーザが途中で学習意欲を失い、そのまま退会するケースが続発。

2. 分析プロセス

  1. フェーズ定義
    1. Discovery(サービス発見)
    2. Sign-up(登録・初期設定)
    3. Onboarding / First Month
    4. Ongoing Engagement(継続的な学習)
    5. Renewal or Cancellation(更新or解約)
  2. データ収集
    • アプリ内の行動ログ:学習コースの進捗率、1回あたりの学習時間、復帰率など
    • キャンセル時アンケート:学習時間が取れない、モチベーションが続かない、コンテンツ難易度が合わないなどの理由を収集
    • SNSコミュニティ:学習者同士のコミュニティでの会話内容をモニタリング
  3. 気づき(ペインポイント)
    • 初月に必要以上に詰め込み、疲弊するユーザが多い。「短時間で続けられる」コンテンツ設計が不足。
    • レベル分けテストが適切でなく、「難しすぎる・簡単すぎる」と挫折するケース。
    • 学習成果を可視化する仕組みが弱く、自分がどれだけ上達したか実感しにくい。

3. 改善施策

  • パーソナライズされたレッスンプラン
    • AIが利用者の学習速度や正答率を見て、適切な難易度の課題を推薦。
    • 週単位で柔軟に学習プランを見直せるUIを実装。
  • ゲーミフィケーションの導入
    • 学習時間や進捗に応じてバッジやポイントを獲得できるシステムを搭載。
    • コミュニティ機能で学習成果を共有し合い、モチベーションを高める。
  • 進捗可視化&定期フォロー
    • 毎週、学習データを元に「あなたは今週、単語量が◯%増えました」などのレポートをメール送信。
    • 新規ユーザには最初の2週間でチュートリアルを完了させるようプッシュ通知でサポート。

4. 成果

  • 2か月目以降の継続率が20%以上向上し、長期契約ユーザが増加。
  • ユーザコミュニティが活性化し、友人紹介経由の新規登録数も伸びる好循環に。
  • キャンセル率の大幅改善により、LTV(Life Time Value)全体が底上げされた。

まとめ

本稿では、以下の3つのケーススタディを通してカスタマージャーニー分析の実務的な流れや成果を紹介しました。

  1. D2Cアパレルブランド: 配送やサイズ選びの不安が離脱要因 → 可視化とフォローアップでリピート率向上
  2. BtoB SaaS企業: 導入初期のサポート不足が解約を招く → トライアル拡充とサポート強化でChurn Rate改善
  3. オンライン学習サービス: 継続率低下の理由が学習者のモチベーション維持にある → ゲーミフィケーションとパーソナライズで解決

いずれの事例も、「顧客がどこで・何を感じ・何につまずいているか」を定量・定性データから把握し、ジャーニーマップで可視化し、原因を特定したうえで施策を打ち、モニタリングして改善を繰り返すという一連のプロセスが共通しています。
カスタマージャーニー分析をより高度に行うためには、先述のコード例のように顧客行動データを可視化・数値化し、かつ顧客インタビューやSNS投稿解析による定性インサイトを加味して総合的に判断することが重要です。

さらに詳しい業界ごとのカスタマージャーニー事例や、分析手法(機械学習を用いた行動予測など)についてご興味があれば、お問合せください。