ビジネスでも、投資でも、人間関係でも、
「なぜあの人はあんな行動をしたのか?」
という説明を誤ると、判断は一気に狂う。
私たちはつい、
「わざとだ」「故意だ」「敵意だ」
と“悪意”を当てはめがちだが、現実はもっと淡々としている。
人間の行動の大半は、不注意・誤解・伝達ミス・勘違い・制度の歪みといった、
“悪意のいらない原因”でほぼ説明できてしまう。
これを一行にまとめたのが、ハンロンの剃刀だ。
「悪意で説明するな。愚かさ(凡ミス)で説明できるなら、それを優先せよ。」
この“剃刀”が鋭いのは、人を切るためではなく、
余計な疑心暗鬼を切り落とすためにある点だ。
たとえば、メールの返信が遅い。
「無視された」と受け取る人もいるが、実際は
- ただ忙しかった
- 通知が埋もれた
- 返信タイミングを逃した
そんな“凡ミス”が99%だ。
会議のリンクが共有されていない。
「排除されたのか?」と思う前に、
単純な事務ミスを疑う方が現実に近い。
システム障害でも、「破壊工作」より
設定ミスや負荷見積もりの甘さの方が確率的には圧倒的に高い。
この原則は、オッカムの剃刀とよく似ている。
「より単純な説明を採用せよ」という発想だからだ。
つまり、私たちが抱きがちな“ドラマチックなストーリー”は、
たいてい削り落とした方が真実に近づく。
組織運営も同じだ。
部下が動かないとき、
「やる気がない」より
「指示が曖昧」「前提を共有していない」「スキルが足りない」
の方がずっとあり得る。
投資分析でも役に立つ。
企業の不祥事を「陰謀」や「悪意」で説明すると視野が歪むが、
実際は
・内部統制の不備
・属人的な運用
・管理職の思い込み
といった、むしろ“悪意不要な構造的ミス”の方が本質だ。
ハンロンの剃刀をポケットに一本持っておくと、
世界の見え方は驚くほど穏やかになる。
人を疑う回数が減り、事実に基づく判断が増える。
そして何より、自分自身の心が軽くなる。
人は、そんなに悪意で動いていない。
むしろ、思っている以上にドジで、不器用で、誤解しやすい生き物である。
だからこそ、この剃刀は鋭い。
悪意を削り落とすことで、
世界はたいてい“普通のミス”として理解できる形に戻る。
そしてその瞬間、
私たちは他人の行動だけでなく、
自分の判断もクリアに見えるようになるのだ。



