ウェルビーイング

ウェルビーイングの解体新書:経営資本・公共政策・個人実践の全階層分析

画像クリックでインフォグラフィックサイトに遷移します。

序章:メガトレンドとしてのウェルビーイング ― なぜ今、幸福は「戦略資産」となったのか

現代社会において、「ウェルビーイング」という概念は、単なる「幸福」や「福利厚生」といった心理学・ライフスタイルの領域 1 を超え、企業のP&L(損益計算書)や国家の政策アジェンダに直結する「戦略的資本」へとその姿を変貌させた。本レポートの核心的な論点は、ウェルビーイングが今や「測定可能」かつ「管理可能」な経営資源であり 3、ESG投資(環境・社会・ガバナンス)や人的資本経営の成否を分ける中核要素として、明確に認識された点にある 4

このパラダイムシフトを不可逆的に加速させた触媒が、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックである 5。2020年に起きた「パラダイムシフト」 5 は、強制的なリモートワークへの移行を促し、仕事と生活の境界線を曖昧にした。これにより、企業はこれまでブラックボックスであった従業員個々の「心身の健康」と否応なく向き合うこととなった。これは、従来のオフィスを中心とした画一的な「労働・安全・衛生」管理 7 の時代の終焉であり、個々の「知的生産性」 7 を支えるための、パーソナライズされたウェルビーイング管理の時代の幕開けを意味する。

本レポートは、この「ウェルビーイング資本」の全貌を解明するため、I章でその「概念的基盤」を定義し、II章で「経営戦略」として、III章で「企業実践」として、IV章で「公共政策」として、V章で「測定手法」として、そしてVI章でその「批判的考察(リスク)」として、多層的に分析・提言を行う。

I. ウェルビーイングの再定義:幸福から持続的資本への進化的解釈

本章では、ウェルビーイングという広範な概念を、その構成要素と心理学的基盤に基づき、戦略的に再定義する。

1.1 ウェルビーイングの3階層モデル

ウェルビーイングは単一の定義ではなく、異なる3つのレベルで理解される 8

  1. 医学的ウェルビーイング (Medical Well-being): 「心身ともに、機能障害がない状態」 8。これは、従来の健康経営や安全配慮の基盤となる「マイナスをゼロにする」概念である。
  2. 快楽的ウェルビーイング (Hedonic Well-being): 「ポジティブな感情があり、人生の満足度が高い状態」 8。これは、従業員満足度(ES)調査などで測定される「ゼロをプラスにする」概念である。
  3. 持続的ウェルビーイング (Eudaimonic/Sustainable Well-being): 「持続的・包括的に良好な状態が維持されており、いきいきと生活できること」 8。これは、ギリシャ哲学の「Eudaimonia(エウダイモニア)」に由来し、単なる快楽ではなく、目的や意味、自己実現を伴う状態を指す。現代の経営戦略や公共政策が目指すのは、まさにこの「持続的ウェルビーイング」である。

この定義の進化は、企業が従業員に果たすべき責任の範囲が、「安全配慮義務」(医学的)から「エンゲージメント向上」(快楽的)、さらに「従業員の自己実現支援」(持続的)へと拡大してきた歴史そのものを反映している。

1.2 心理学的基盤:PERMAモデルの解体

ポジティブ心理学の権威マーティン・セリグマン博士が提唱した「PERMAモデル」は、この「持続的ウェルビーイング」を構成する5つの要素を特定しており、現代のウェルビーイング施策の設計図となっている 8

  • P (Positive Emotion): ポジティブな感情
  • E (Engagement): 物事への没入、エンゲージメント
  • R (Relationship): 良好な人間関係
  • M (Meaning and Purpose): 人生の意味や目的の感覚
  • A (Achievement/Accomplish): 達成感

1.3 PERMAモデルのビジネスへの「翻訳」

PERMAモデルは単なる心理学理論ではなく、人的資本経営のための「オペレーティング・システム」である。その各要素は、具体的な人事戦略や組織論に直接「翻訳」されている 8

  • R (Relationship) → Community Well-being(コミュニティ・ウェルビーイング): 「地域のコミュニティに属することで、得られる幸福」と定義され、具体的には「地域住民との繋がり」や「組織内での所属感」を指す 8。これは、心理的安全性やダイバーシティ&インクルージョンの基盤となる。
  • M (Meaning) + A (Achievement) → Career Well-being(キャリア・ウェルビーイング): 「キャリアに関する充実感や幸福」 8。ここで定義される「キャリア」は、単なる仕事(Job)だけに限定されない。奉仕活動、育児、勉強、研究など「積み重ねた実施の経験」全てを指す 8

この翻訳により、人事部門は「幸福」という抽象的な概念を、「キャリア支援」と「コミュニティ構築」という具体的な施策に落とし込むことが可能になった。

II. 経営戦略としてのウェルビーイング:ESG・人的資本・SDGsの交差点

本章では、ウェルビーイングがなぜ現代企業の最重要アジェンダとなったのかを、「ESG(環境・社会・ガバナンス)」「人的資本経営」「SDGs(持続可能な開発目標)」という3つの不可分なメガトレンドとの関連性から解明する。

2.1 ウェルビーイング経営の4つの直接的メリット

企業がウェルビーイング経営に取り組む理由は、慈善活動ではなく、明確な経営上のリターンが期待できるためである 4

  1. 生産性・顧客満足度の向上: 従業員の幸福度(ウェルビーイング)が向上すると、働く意欲(モチベーション)が高まり、仕事の質が向上する。これが顧客へのサービス向上に直結し、結果として企業の生産性が向上する 6
  2. 人材の獲得とブランディング: ウェルビーイングへの積極的な取り組みは、企業のブランドイメージ(企業価値)を向上させ、「働きがいのある職場」として優秀な人材を惹きつける 4
  3. 離職率の低下(定着率向上): 労働環境や人間関係といった離職の主要因を改善するウェルビーイング施策は、従業員エンゲージメントを高め、人材の定着率を向上させる 4
  4. 健康経営とリスクマネジメント: 従業員の心身の健康を「投資」と捉える「健康経営」 9 は、メンタルヘルス不調などによるリスクを低減し、企業の持続可能性を支える 4

2.2 SDGs:グローバルな「大義」との接続

ウェルビーイング経営は、SDGsという世界的な潮流と直結している 4

  • 目標3「すべての人に健康と福祉を (Good Health and Well-Being)」: まさにウェルビーイングそのものであり、企業が従業員の健康と福祉を促進することは、SDGsへの直接的な貢献となる 4
  • 目標8「働きがいも経済成長も (Decent Work and Economic Growth)」: ウェルビーイング経営による「働きがい」の向上は、目標8の達成に不可欠である 4
  • 横断的効果: さらに、「目標5:ジェンダー平等」や「目標10:人や国の不平等をなくそう」といった目標も、ダイバーシティ(多様性) 6 や人種・年齢・ジェンダーに関わらず働きやすい環境(9)を整備するウェルビーイング経営と深く関連する。

2.3 ESGと人的資本:投資家からの「要請」

ウェルビーイングは、SDGsという「大義」であると同時に、ESG投資家からの「厳格な要請」でもある。これにより、ウェルビーイングは「HR(人事)の施策」から「IR(投資家向け広報)の最重要トピック」へと「格上げ」された。

  • ESGの「S(社会)」の中核: ウェルビーイングは、ESG評価における「S(Social)」領域の核心である 4。投資家は今、「S」の評価軸として、企業が従業員の権利や職場環境にどう配慮しているかを厳しく見ている。
  • 「人的資本」という無形資産: 現代の企業価値の多くは、工場や機械といった有形資産ではなく、人材という「無形資産(人的資本)」によって生み出されている 4
  • ウェルビーイングの具体的貢献: ウェルビーイング経営は、この「S」と「人的資本」に対する具体的な貢献(KPI)を提供する 4
  • ハラスメント対策、労働安全、ダイバーシティの推進 4
  • キャリア開発、従業員満足度、離職率の低減 4

この背景には明確な論理的連鎖がある。(1) SDGsが「グローバルな目標」を設定し 9、(2) ESGがそれを「投資の評価基準」に組み込み 4、(3) 「人的資本経営」が従業員を「コスト」から「資産」へと再定義した 4。この3連鎖により、ウェルビーイング(=人的資本の価値を維持・向上させる活動)は、投資家が企業の中長期的成長を測るための「先行指標」となった。もはや、ウェルビーイングに取り組まないことは、「S」評価の毀損、ひいては資金調達コストの上昇や株価低迷に直結する「サステナビリティ・リスク」として認識されている。

III. コーポレート・トランスフォーメーション:ウェルビーイング経営の実践と成果

本章では、先進企業がウェルビーイングを経営戦略にどのように統合し、具体的な施策として展開しているかを分析する。

3.1 経営トップのコミットメント:「Well-being First」宣言

楽天グループは、「Well-being First」を宣言し、従業員と社会全体のウェルビーイング向上を経営の中心に据えている 10

  • 包括的な方針: この宣言は、「楽天健康宣言」のもと、安全衛生の推進、メンタルヘルス支援、健康管理の充実、労働時間の上限設定による長時間労働の防止、多様な休暇制度、柔軟な働き方の推進などを包括的に定める 10
  • イノベーションの源泉: 楽天は、従業員のウェルビーイングを「イノベーションを通じて人々と社会をエンパワーメントします」というミッションの基盤と位置づけている 10

3.2 具体的な実践プログラム

宣言は、具体的な日々の活動に落とし込まれている。楽天の事例は、ウェルビーイング施策が「個別施策の寄せ集め」から、PERMAモデル 8 やESGの「S」 4 に対応する「体系化されたプログラム」へと進化していることを示している。

  • フィジカル・サポート (P: Positive Emotion): ヨガ、ストレッチ、体操教室などの定期開催。全従業員が参加する「朝会」でのストレッチ時間の導入。楽天独自のストレッチ動画のSNSでの公開 10
  • コミュニティ・サポート (R: Relationship): 健康管理アプリを利用した社内ウォークラリーイベント。参加者同士が写真や情報を共有し、モチベーション向上と「One Team」の醸成を図る 10
  • ジェンダー・サポート (S: Social): 女性特有の健康課題に関するセミナーの実施 10
  • 対話の促進 (R/M: Relationship/Meaning): 「Better Co-Beingプロジェクト」 11 では、対話を通じて「好きなことに何度でも挑戦できる場」を育む試みが行われ、参加者が「発信することの大切さ」に気づくといった成果が報告されている 11

3.3 統合報告書(IR)を通じた開示

ウェルビーイングへの取り組みは、もはや社内報ではなく、投資家向けの「統合報告書」や「サステナビリティレポート」で開示される重要情報となっている。

  • 日立 (Hitachi): 「サステナビリティ2025」レポートにおいて、「従業員のウェルビーイングと生産性を向上」させることを明記し、グローバル統一の階層別マネジメント研修(2024年度実績)など、人的資本への具体的な投資を開示している 12
  • 味の素 (Ajinomoto): 「ASVレポート2024(統合報告書)」 13 を発行。ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value:味の素グループ価値共創)という独自のフレームワークの中で、ウェルビーイングが事業を通じた社会価値と経済価値の創造に不可欠な要素であることを示している。

日立や味の素が、ウェルビーイングを「統合報告書」という株主・投資家向けの最重要コミュニケーションツールに掲載している事実は、II章で示した「ウェルビーイングのIRトピック化」を裏付ける決定的証拠である。これは、両社が「従業員のウェルビーイング向上」を、「新しい工場を建てた」のと同じレベルの「将来のキャッシュフローを生み出すための重要な経営投資」であると、市場に対して公式に宣言しているに等しい。

IV. 公共政策のイノベーション:日本におけるウェルビーイングの社会実装

ウェルビーイングの追求は、企業の枠を超え、国家および地方自治体の政策アジェンダとなっている。特に日本は、欧米の心理的アプローチとは一線を画す、独自の先進的なアプローチで社会実装を試みている。

4.1 国家戦略:デジタル庁と「地域幸福度(Well-Being)指標」

デジタル庁は、「デジタル田園都市国家構想」の推進において、ウェルビーイングを中核的な政策目標としている 14

  • 目的: 地域の社会的課題の解決や魅力向上を実現するため、地方公共団体による「地域幸福度(Well-Being)指標」の活用を推進する 14
  • 指標の整備: 客観指標と主観指標からなるウェルビーイング指標を整備し、自治体が分析・活用できる「指標サイト」(β版 2024年1月)やガイドブックを提供する 14
  • 「ロジックツリー」による施策の可視化: 本戦略の核心は、「ロジックツリー」 14 という手法にある。これは、ウェルビーイングを「政策のインプット(予算)」と「アウトカム(幸福度スコア)」の因果関係で捉える工学的アプローチである。
  • (1) 社会的課題(例:高齢者の介護環境)の特定
  • (2) 課題解決に必要な住民の「行動」(例:在宅治療、健康増進活動)
  • (3) その行動を誘発する「施策」(例:高齢者eスポーツチーム支援、MaaS事業) 14
  • (4) 施策の効果測定(例:スーパーアプリでの行動履歴捕捉) 14
  • …という因果関係を可視化・体系化する試みである。

4.2 神奈川県の先進モデル:「未病(ME-BYO)」コンセプト

神奈川県は、ウェルビーイングに関する独自の哲学「未病(ME-BYO)」を提唱・実践している。

  • 「未病」の概念: 心身の状態を「健康」か「病気」かの二元論で捉えるのではなく、「健康と病気の間で連続的に変化する」グラデーションの状態として捉える 15。ウェルビーイングとは、この「未病」の状態をより「健康」側にシフトさせていく日々の努力を指す。
  • 「未病指標」による可視化: この抽象的な概念を可視化・数値化するために、東京大学などと連携して「未病指標」を開発した 15。幸福度を「歩行速度」や「音声ストレス」といった客観的・身体的データで測定しようとする、このバイオメディカルなアプローチは、日本の独自性を示している。
  • 測定ツール「マイME-BYOカルテ」: スマートフォンアプリ「マイME-BYOカルテ」 16 を通じ、誰でも「未病指標」を測定できる(表1参照)。

表1:神奈川県「マイME-BYOカルテ」による未病指標の測定項目 16

領域具体的な測定項目
総合スコア0~100点で表示。過去のスコアを折れ線グラフで表示。
生活習慣身長・体重・血圧(最高/最低)の入力。
メンタルヘルススマートフォンに表示される文章を読み上げ、「音声」からストレスを測定。
認知機能記憶テスト(3つの単語の記憶と音声回答)、時計描画テスト(指定された時間)。
生活機能歩行速度の測定(GPSまたはストップウォッチ)、手足の機能に関する5つの質問。
結果と介入4領域の3段階評価、結果に応じたアドバイスの表示、10年後のスコア目安を予測。

4.3 基礎自治体の実践:川崎市の総合計画

川崎市は、市の総合計画「第3期実施計画」 17 の理念に「ウェルビーイング」を明確に位置づけている。

  • 理念: 「一人ひとりの多様な幸せや社会全体の幸せともいうべきウェルビーイング(well-being)の理念の実現により、多様性と包摂性のある持続可能な社会をめざす」 17
  • 課題認識と具体的施策: 川崎市の事例は、自治体がウェルビーイングを「理念」として掲げるだけでなく、具体的な「エビデンスベースの政策」に落とし込む優れたモデルケースを示している。
  • (1) 課題特定: 全国学力調査で、市の子どもの自己肯定感が全国平均より低い(「自分にはよいところがあると思わない」小学生6.3%, 中学生7.2%)というウェルビーイング上の課題を特定 17
  • (2) 解決策: この課題に対し、小中学校で「キャリア在り方生き方教育」を重点施策として推進。日々の学習を通じて「自己肯定感を高め」、将来の社会的自立に必要な能力を育むことを目指す 17
  • 公民連携: さらに、デンマークデザインセンターのデザイン力と富士通のテクノロジーを合わせ、ウェルビーイングな未来の川崎市を実現するためのプロジェクトを推進している 18

V. ウェルビーイングの測定:幸福を「データ」に変える技術

ウェルビーイングが戦略の中心となるためには、「測定」可能でなければならない。本章では、国際比較から企業内部の診断ツールまで、多様な測定手法を分析する。

5.1 国際比較:「世界幸福度ランキング」における日本の位置

国連の持続可能開発ソリューションネットワーク(SDSN)が発表する「世界幸福度ランキング(World Happiness Report)」は、各国のウェルビーイングを測る代表的な指標である 19

  • 測定方法: 各国約1,000人以上に、現在の生活を0から10の11段階で自己評価してもらう「生活評価」を基にし、過去3年分(2025年版は2022~2024年)のデータをまとめる 19
  • 2025年版ランキング:
  • 上位国:1位 フィンランド、2位 デンマーク、3位 アイスランド 19
  • 日本:55位(スコア 6.147) 19
  • 米国:24位 19

この「世界幸福度ランキング55位」という日本の客観的順位は、IV章で見た「日本政府の先進的な取り組み」と強烈なコントラストをなしている。このギャップは、(1) 日本が客観的な生活の質(安全、インフラ)は高いものの、主観的な人生の満足度が極めて低いこと、(2) あるいは、トップダウンの政策と、国民(特に現役世代)が日々感じる幸福感との間に大きな断絶があることを示唆している。この「ウェルビーイング・ギャップ」こそが、日本政府が国家戦略としてこの問題に取り組む最大の理由である。

5.2 企業における測定:「ウェルビーイング14指標」

企業が従業員の状態を詳細に把握するため、より実践的な診断ツールが開発されている。「幸福学」の第一人者である前野隆司氏とスカイベイビーズ社が共同研究したサーベイ『ソラミドWell-being』 3 はその代表例である。

  • 特徴: このツールは、ウェルビーイングを「ポジティブな側面(ウェルビーイング指標)」と「ネガティブな側面(イルビーイング指標)」の両面から測定する点に特徴がある 3
  • 無料診断: 52問・約5分の無料診断で、14の指標ごとにスコアを算出できる 3

この「14指標」(表2参照)は、ウェルビーイング経営の「ダッシュボード」として極めて優れている。経営者は、「成長期待」(ポジティブ)と「オーバーワーク」(ネガティブ) 3 のスコアを並べて見ることで、「成長実感はあるが、過重労働で燃え尽き寸前」といった組織の危険な状態を早期に察知できる。従来のエンゲージメントサーベイがポジティブな側面に偏りがちだったのに対し、この「イルビーイング(Ill-being)指標」の併記は、リスクマネジメント 4 の観点から不可欠なイノベーションである。

表2:企業向けウェルビーイング測定「14指標」モデル 3

No.分類指標名内容
1ウェルビーイング成長期待仕事を通じ、やりたいことを実現したり、人間的に成長を期待できている。
2ウェルビーイングレジリエンスプライベートに気を揉むことなく、仕事の消耗から回復できている。
3ウェルビーイング仲間・協働仕事仲間と信頼関係を築き、助け合いながら切磋琢磨できている。
4ウェルビーイング自己価値認識仕事の意義を理解し、主体的に動けている。
5ウェルビーイング承認・信頼関わる人から信頼され、高い評価を受けている。
6ウェルビーイング貢献実感仕事を通じて、他者への貢献を実感できている。
7ウェルビーイング自立性自分の裁量で仕事を進められている。
8イルビーイング自己否定感自分の役割が見出せず、成果や成長を感じられない。
9イルビーイング不安・不服一方的に仕事を押し付けられたり、暴言や叱責を受けたりしている。
10イルビーイング不快空間職場環境が不衛生・無機質など、身体的・精神的に不快。
11イルビーイングオーバーワーク常に時間に追われ、休息がとれない。
12イルビーイング協働不全同調させられたり、足を引っ張られたりする。
13イルビーイング疎外感同僚と気軽に話せず、自分らしく振る舞えない。
14イルビーイング評価不満自分の価値が正当に評価されていない。

VI. 結論:ウェルビーイングの「光」と「影」― 批判的考察と戦略的提言

本章では、ウェルビーイングというメガトレンドがもたらす「影」の側面、すなわち「ウェルビーイング疲れ」と「ウェルビーイング・ウォッシュ」のリスクを分析し、本レポートの総括とする。

6.1 影(1):パフォーマンスと結びつく「ウェルビーイング疲れ」

ウェルビーイングが経営戦略の中心に据えられた結果、それは「個人の新たな責務」となり、「ウェルビーイング疲れ」 7 という新たな形の疲労を生み出している。

  • 「疲れ」の本質の変化: かつての製造業中心の社会では、「肉体労働」による疲労が主であった 7。しかし現代のホワイトカラーの疲労は、メールのやり取りだけで疲弊する、「肉体の疲れ」「感情の疲れ」「認知の疲れ」が複合的に組み合わさったものである 7
  • ウェルビーイングの主眼の移動: 現代のウェルビーイングは、単なるリラックスではなく、「いかにパフォーマンスを落とさないか」「知的生産性を上げるか」という点に主眼が移っている 7
  • 複合的疲労の具体例 7
  • 肉体の疲れ: 不適切な姿勢(猫背、仰向け座り)でのデスクワークが原因。
  • 感情の疲れ: ストレス。姿勢の悪さが肺をつぶして呼吸を浅くし、イライラを助長する。
  • 認知の疲れ: 知的活動・集中力の低下。これは「血糖値のコントロール」 7 といった食生活の乱れが原因(例:昼食後の眠気、エナジードリンクへの依存)。

6.2 影(2):「自己責任論」への転嫁

この「パフォーマンスとしてのウェルビーイング」 7 は、「ウェルビーイングの自己責任論」という深刻な問題を引き起こす。ウェルビーイングが「知的生産性」 7 と直結した結果、企業と個人の責任が逆転するリスクが生じている。

この論理は次のように構築される。(1) 企業は「パフォーマンス向上」 7 のためにウェルビーイングを推進する。(2) その手段として、個人が実践すべき「知識」を提供する(例:正しい姿勢、血糖値管理、マインドフルネス) 7。(3) 企業は、実践のためのツール(例:マインドフルネスアプリ、健康アプリ) 21 を提供する。(4) この結果、「生産性が低い」または「燃え尽きた」従業員は、「企業が過重労働を課した」のではなく、「個人がウェルビーイング(=自己管理)を“怠った”」からである、という「自己責任論」が成立しやすくなる。

これは、ウェルビーイングが従業員を「エンパワー」するどころか、新たな「プレッシャー」と「管理の足かせ」になり得る危険性を示している。

6.3 影(3):「ウェルビーイング・ウォッシュ」のリスク

「SDGsウォッシュ」 23 と同様に、企業が実態を伴わずにウェルビーイングをPR(企業ブランディング 4)目的で利用する「ウェルビーイング・ウォッシュ」 24 のリスクが常につきまとう。

  • 定義: 実質的な労働環境の改善(例:オーバーワークの是正 3)や構造的な問題(例:サプライチェーン上の児童労働 23)に取り組むことなく、表面的な施策(例:ヨガイベントの実施 10)のみを宣伝すること。
  • 典型例: 「よい情報のみを発信し、不都合な事実(例:離職率、メンタルヘルス不調者数)を開示しない」 23 パターン。
  • リスク: 一度「ウォッシュ」と見なされれば、SDGsやウェルビーイングへの取り組みで得られるはずだったブランディング強化や人材確保 4 といったメリットが全て失われ、企業の信頼は大きく損なわれる 23

6.4 戦略的提言:持続可能なウェルビーイングの実現に向けて

ウェルビーイングを一過性のブームや「ウォッシュ」で終わらせず、企業と社会の持続的な基盤とするために、経営者と政策立案者は以下の点を堅持すべきである。

  1. 「イルビーイング(Ill-being)指標」の直視: 表面的なポジティブ指標だけでなく、測定ダッシュボード(表2参照 3)において「オーバーワーク」「協働不全」「不安・不服」といったネガティブ指標を最重要KPIとして設定し、その根本原因(業務プロセス、評価制度、マネジメントの質)の改善にリソースを投下すること。
  2. 「組織」の責任の明確化: ウェルビーイングを個人の「自己責任」 7 に転嫁しないこと。マインドフルネスアプリ 21 の導入は重要だが、それは「心理的安全性」が担保された職場環境 9 や、適切な労働時間管理 10 といった「組織としての責務」を代替するものではない。
  3. 透明性と実態の伴った開示: 「ウォッシュ」 23 との批判を避けるため、取り組みの成果(ポジティブな側面)と同時に、直面する課題(ネガティブな側面)をも誠実に開示すること。統合報告書 12 での実践は、この透明性を担保する第一歩である。

総括:

ウェルビーイングは、21世紀における「人的資本」の価値を測る最重要のバロメーターである。その追求は、企業の生産性 9、投資家からの評価 4、そして国家の持続可能性 14 に直結する。しかし、その実践が「新たなプレッシャー」 7 や「表面的なPR」 23 に堕した瞬間、ウェルビーイングは企業と個人をエンパワーする「資産」から、双方を疲弊させる「負債」へと転化する。この「光」と「影」を深く理解し、実態を伴った変革を続けることこそが、現代のリーダーに課せられた真の責務である。

引用文献

  1. ウェルビーイングおすすめ本を目的別に厳選9冊 – pure life is https://purelifediary.com/wellbeing/wellbeing-book1/
  2. 『HAA』・ 池田佳乃子さんが選ぶ 「ウェルビーイングを感じる本5冊」 | sotokoto online(ソトコトオンライン) https://sotokoto-online.jp/sdgs/14647
  3. 企業が知るべきウェルビーイングの指標14個と測定ツール【従業員 … https://www.skybabies.jp/media/well-being-index/
  4. ウェルビーイング経営とSDGsの関係とは?企業が今取り組むべき … https://medicarelight.jp/sugume-note/well-being/with-sdgs/
  5. ここが分岐点!コロナ後の働き方は社員の幸福、well-beingに通じる – 内田洋行 オフィス家具 https://office.uchida.co.jp/workstyle/telework/column_shirakawa_006.html
  6. ウェルビーイングとは?意味や定義、注目を集める背景について解説|Fem+コラム https://www.femtech-week.jp/hub/ja-jp/blog/article_02.html
  7. ウェルビーイングでワークスタイルの質を高める – ニューズウィーク https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/05/post-5171_3.php
  8. ウェルビーイングを構成する5つの要素とは?世界の動きと日本の現状 https://kiwi-go.jp/column/wellbeing-5element/
  9. ウェルビーイングとは?SDGsとの繋がりや、企業が取り組むために … https://buzzkuri.com/columns/well-being/3904/
  10. 健康・安全・ウェルネス|楽天グループ株式会社 https://corp.rakuten.co.jp/sustainability/wellness/
  11. 社会のウェルビーイングを創る「楽天」 – Wellulu https://wellulu.com/blog/37825/
  12. 日立 サステナビリティレポート 2025_social – Hitachi https://www.hitachi.com/content/dam/hitachi/global/ja_jp/sustainability/media/download/ja_sustainability2025_social.pdf
  13. ASVレポート2024(統合報告書)を掲載 | サステナビリティニュース – 味の素 https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/activity/news/news240830.html
  14. 地方公共団体における 地域幸福度(Well-Being)指標 … – デジタル庁 https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/11e68843-5707-4331-8ea1-00c1bcebe4c2/72011d8e/20231220_meeting_digital-garden-city-nation-wellbeing_outline_04.pdf
  15. ME-BYO サミット – 神奈川 2024 – 公益財団法人 神奈川産業振興 … https://www.kipc.or.jp/blog/.assets/ME-BYO%E3%82%B5%E3%83%9F%E3%83%83%E3%83%88%E7%A5%9E%E5%A5%88%E5%B7%9D2024.pdf
  16. アプリ版未病指標の測定方法 – 神奈川県ホームページ https://www.pref.kanagawa.jp/docs/mv4/mebyo-index/mebyo-index_howtouse.html
  17. 第3期実施計画期間の取組 5 – 川崎市 https://www.city.kawasaki.jp/880/cmsfiles/contents/0000153/153806/3_p24-p62.pdf
  18. バックキャスティングで考える2035年Well-beingな川崎市 – YouTube https://www.youtube.com/watch?v=KXXQ3zqiLXk
  19. 【2025年最新】世界幸福度ランキング 日本は何位?アメリカは過去 … https://eleminist.com/article/4109
  20. 睡眠と運動の関係 適度に体を動かすとよく眠れるのはなぜ? | MUZE 睡眠 blog https://muze-japan.com/blogs/sleep/sleep-and-exercise
  21. 初心者にもおすすめのマインドフルネス瞑想アプリ5選!【2023年最新版】 https://fairwork.jp/mindfulness-app/
  22. 大人のためのウェルビーイングアプリおすすめ6選【2025年版】|AIファシリテーターのぞみ – note https://note.com/ainozomi/n/n54a983311d3e
  23. SDGsウォッシュが企業に与えるダメージとは?事例と対策を紹介 https://sdgs-compass.jp/column/144
  24. SDGsウォッシュが企業にもたらす影響とは?事例と対策の手順を紹介 https://www.yoridori.jp/earth-note/sdgs-wash/