「理解」「了解」「解釈」「評価」の違い

認知とコミュニケーションの四象限:「理解」「了解」「解釈」「評価」の多角的分析と専門領域における異同

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序論:分析の射程 — なぜこの四語か?

本レポートは、「理解」「了解」「解釈」「評価」という4つの日本語の語彙について、その「異同」(類似点と相違点)を分析するものである。これら4つの概念は、単なる類義語のリストとしてではなく、情報受容、社会的合意、意味構築、価値判断という、人間の認知プロセスとコミュニケーションにおける根本的に異なる様式を示すものとして扱う。

これら4語の差異を精密に分析することは、単なる語義の問題に留まらない。それは、日常のコミュニケーションにおける誤解の解消、ビジネスオペレーションの円滑化(特に指示伝達や人事考課)、さらには法学、哲学、心理学といった専門領域における厳密な概念操作に至るまで、不可欠な知的作業である。

本レポートで提示する分析の中核には、これら4語が「受容性」から「能動性」へ、そして「客観性」から「主観性・規範性」へと移行する一つのスペクトラム(連続体)を形成しているという視座がある。

  1. 理解 (Rikai) は、対象の道理や他者の心情をありのままに把握しようとする、比較的「受容的」な認知活動である 1
  2. 了解 (Ryōkai) は、その理解を基盤とし、社会的な「承認・受領」という行為を伴う、「受容から能動への移行点」を示す 3
  3. 解釈 (Kaishaku) は、曖昧な対象に対し、自己の経験や判断に基づき「意味を構築・付与する」、明確に「能動的・主観的」な行為である 5
  4. 評価 (Hyōka) は、特定の基準に基づき対象の「価値を断定する」、最も「能動的」かつ「規範的」(「である」べきかを問う)な行為である 7

したがって、本分析は、「我々が情報といかに向き合い、処理し、それに対して行動を起こすか」という、認知から実践に至るワークフローそのものを解明する試みとなる。本論では、まず各語の中核的定義を確立し(第1章)、次に主要な対立軸である「理解と了解」(第2章)、「理解と解釈」(第3章)、「解釈と評価」(第4章)を深掘りする。その後、法学(第5章)や組織論(第6章)といった専門領域での特異な適用を分析し、結論としてこれら四語の統合的関係モデルを提示する。


第1章:四語の基本語義と中核的機能

1.1. 「理解 (Rikai)」:道理の把握と共感的受容

「理解」は、四語の中で最も基礎的な認知活動であり、その中核には二重性がある。

第一に、論理的・客観的理解である。これは、「物事の道理を悟り、知ること。また意味をのみこむこと」1、すなわち物事の筋道や意味内容を正しく把握することを指す 2。科学理論や数学の証明を「理解する」といった場合、この客観的な道理の把握が求められる。

第二に、共感的・主観的理解である。これは、「(自分以外の人の)気持ちや立場をわかること」1、すなわち他人の心情や苦境を察することである 2。これは客観的な事実把握とは異なり、他者の主観的な内面への共感を伴う把握を指す。

この単一の語彙が、「論理的把握」と「共感的把握」という二つの異なる認知ドメインをカバーしていること自体が、「理解した」という言葉の多義性の根源となっている。例えば、「あなたの言うことは理解した」という発言は、文脈によって「あなたの論理(主張)は把握したが、同意はしない」という意味にも、「あなたの苦境(感情)に共感する」という意味にもなり得る。この内在的二重性が、「理解」を他の概念と比較する上での複雑な基準点たらしめている。

1.2. 「了解 (Ryōkai)」:認識、承認、そして合意

「了解」の辞書的定義は、「はっきりとよくわかること。よく理解すること」3 であり、「理解」と重なる部分が大きい。しかし、「了解」の核心的な機能は、単なる認知状態を超えた点にある。それは「理解して承認すること」3 という、社会的な行為性である。

「理解」が個人の内的な認知状態に留まり得るのに対し、「了解」は、その他者との関係性において機能する。特にビジネス文脈において、「了解しました」という発言は、相手の言葉や事情を理解し、それを受け入れるというシグナルを発する、語用論的な機能(コミュニケーション行為)を持つ 4

さらに、「了解」という語は、ドイツの哲学者ディルタイの Verstehen (理解)の訳語として用いられることがある 9Verstehen とは、文化や歴史的出来事を、その外部から客観的に分析するのではなく、その内的な生と文化との構造連関を、自己移入や追体験によって内側から捉えようとする解釈学的アプローチを指す 9。この哲学的文脈は、「了解」が単なる「わかった」という表面的な報告ではなく、「あなたの立場・意図を(共感的に)理解した上で、それを受け入れる」という、前述の「理解」の共感的側面と「承認」という実用的な側面が結びついた、より深いレベルの合意形成のニュアンスを本質的に含んでいることを示唆している。

1.3. 「解釈 (Kaishaku)」:意味の付与と主観的構築

「解釈」は、「語句や物事の意味、内容などを説明すること。解き明かすこと」5 という基本的な定義を持つ。しかし、その本質は、自分の経験や判断力などによって理解すること 5 という点にある。

「理解」が対象に「既に存在する」と想定される道理や意味を受動的に把握する行為 1 であるのに対し、「解釈」は、対象が多義的または曖昧である場合に、解釈者の主観(経験、知識、価値観)をフィルターとして介し、能動的に意味を構築、あるいは確定させる行為である。

この能動性は、専門領域においてさらに明確になる。

  1. 法学: 法令というテキストの曖昧な文言の意味を明確にし、その内容が動かないように「定める」こと 6。これは社会的な拘束力を伴う、公的な意味の確定作業である。
  2. 論理学: 抽象的な述語記号に対し、議論領域における特定の性質や関係を「結びつける」こと 6
  3. 仏教(げしゃく): 経典の文章を説き明かし、その内容をわからせること 11

これらの例が示すように、「解釈」は、対象に「正しい単一の答え(「理解」の目標)」が存在しない、あるいはアクセスできない場合に必要とされる知的作業である。法や論理学における「解釈」は、この主観性を規律によって制御し、一貫した意味を「定める」ためのプロセスであり、日常的な「解釈」は、より自由度の高い主観的な意味付与を指す。

1.4. 「評価 (Hyōka)」:価値の査定と基準の適用

「評価」は、他の三語とは根本的に異なる次元の行為である。その定義は、「ある物事や人の特性、能力、性質などを客観的に判断し、その価値や品質を把握すること」7 である。

「理解」や「解釈」が対象の「意味(what it is / what it means)」を問うのに対し、「評価」は対象の「価値(what it is worth)」を問う。この価値判断は、必ず何らかの「目標」や「基準」8 との比較において行われる。

この「評価」は、本質的に規範的 (normative) な行為である。「理解」や「解釈」が(理想的には)対象が「何であるか」を記述する記述的 (descriptive) な行為であるのに対し、「評価」は対象が基準(あるべき姿)に対して「どの程度か(良い/悪い、高い/低い)」を判断する。この「記述」と「規範」の区別が、「評価」を他の三語から根本的に切り離す一線である。

また、特にビジネス(人事評価)の文脈において、「評価」は単なる過去に対する「判断」や「批判」に留まらない。それは「報酬や昇進などの動機付け」8 や、「改善や成長のためのフィードバック」8 という、未来志向の手段として機能する 13


第2章:主要な分岐点(1) — 「理解」と「了解」の語用論的分析

「理解」と「了解」の差異は、辞書的な意味(意味論)以上に、コミュニケーションにおける使用法(語用論)において最も顕著に現れる。

2.1. 内的状態(理解) vs. 外的・社会的行為(了解)

「理解」は、個人の内部で完結可能な認知状態である。「私は一人で数学の定理を理解した」という文は成立する。他者の存在を必ずしも必要としない。

対照的に、「了解」は、他者との関係性において機能するコミュニケーション行為(Speech Act)である。「了解」は、「理解し、かつ承認した」というシグナルを相手に送ることで、特定の社会的効果(例:合意の形成、タスクの受諾、議論の終結)を発生させる。したがって、「了解」は本質的に社会的・対人的な行為である 4

2.2. ビジネスコミュニケーションにおける「了解」の(不)適切性

この「了解」の社会的行為性が、「了解しました」を目上の者に使うことは不適切である、というビジネスマナー上の議論の核心にある 4

この不適切性の根拠は、「了解」が持つ「対等な立場でのやり取り」という語感 4 と、第1章で確認した「承認」というニュアンス 4 にある。目上の者や顧客に対しては、「承知しました」が適切な表現とされている 4

この「了解」と「承知」の使い分けは、単なる丁寧さの問題ではなく、言葉が持つ機能的な差異に基づいている。

  1. 「了解」の機能: 「了解」は「理解して承認する」ことを意味する 4。部下が上司の指示を「理解」することは職務上必須である。しかし、部下が上司の指示を「承認する」という行為は、論理的に立場が逆転している。承認は、通常、権限を持つ者(対等か目上)が行う行為である。そのため、「了解しました」という返答は、(意図せずとも)「対等な立場であなたの指示を審査し、承認します」という尊大なメタメッセージとして受け取られるリスクがある 4。また、「了解」には「承知」と異なり、謙譲・尊敬の意味が含まれていない 4
  2. 「承知」の機能: 一方、「承知」は「承る(うけたまわる)」と「知る」が語源であり、「事情を理解して受け入れる」ことに加え、相手の意向を「へりくだって理解する」という謙譲のニュアンスを明確に含む 4

結論として、「了解」が不適切とされるのは、それが(意図せずとも)階層構造を無視した「対等な承認」というメッセージを発信し得るためである。対照的に、「承知」は「謙譲の立場から、あなたの指示を拝領します」という、階層構造を是認する明確なメッセージを送るために選択される。これは、言葉の辞書的意味よりも、文脈における機能(語用論)が優先される典型例である。

2.3. 「了解」が内包する「承認」の程度

実務上、「了解」が持つ「承認」の強度は、文脈によって変動する。ある文脈では、「内容を理解し、受領した(タスクを実行するとは言っていない)」という単なる受領確認(Acknowledgement)を意味する場合もあれば、別の文脈では、「内容に同意し、その実行を約束する」という実質的な合意(Agreement)を意味する場合もある。この曖昧さが、ビジネス上の「了解したはずなのに動かない」といった認識の齟齬を生む潜在的なリスク要因となる。


第3章:主要な分岐点(2) — 「理解」と「解釈」の認識論的分析

「理解」と「解釈」の対立は、コミュニケーション論や認識論の領域で最も重要な分岐点の一つである。

3.1. 客観的把握(理解) vs. 主観的構築(解釈)

両者の違いは、対象(相手の言葉や事象)へのアプローチにある 16

  • 理解: 相手の考えや意図を、そのまま正しく把握すること。対象に内在する「事実」の把握に焦点を当てる。
  • 解釈: 相手の言葉を、自分の経験や価値観に基づいて捉えること。対象に対する「推測」や「意味付与」であり、主観的要素が不可避的に混入する。

例えば、部下が「プロジェクトの進捗が厳しいです」と報告した場合、「『進捗が厳しい状況なのだな』とそのまま捉える」のが「理解」である。一方、「『この部下は仕事を投げ出したいと思っているのかもしれない』と推測する」のが「解釈」である 16

3.2. 哲学的背景:普遍実在論的「理解」と唯名論的「解釈」

この「理解」と「解釈」の対立構造は、哲学における「普遍実在論」と「唯名論」という二つの立場と強い類似性を持つ 17

  • 理解の構造(普遍実在論): 「理解」は、「対象が先に存在し、後から概念で整理する」行為である 17。これは、普遍的な概念や性質(プラトンのイデアなど)が個物とは独立して実在し、我々はその実在する「道理」を把握するという「普遍実在論」的な構造を持つ。まず把握すべき「正しい答え」が存在するという前提がある。
  • 解釈の構造(唯名論): 「解釈」は、「概念が先に存在し、その概念が対象に意味を与える」行為である 17。これは、普遍は実在せず「名前(概念)」としてのみ存在するという「唯名論」的な構造に似ている。解釈者の持つ「概念(フレームワーク、経験、価値観)」が、曖昧な対象の意味を能動的に決定・構築する。

3.3. コミュニケーション不全の源泉としての「解釈」

この認識論的な違いは、組織や対人関係におけるコミュニケーション不全の根源を説明する。信頼関係の崩壊は、多くの場合、「理解」の不足を、当事者が無意識的に行った「解釈」で補おうとすることによって発生する 16

この問題の本質は、「カテゴリーエラー」にある。すなわち、発信者は「理解」(客観的事実の把握)を求めているのに対し、受信者が「解釈」(主観的推測)を返し、さらに受信者自身は自分の「解釈」を客観的な「理解」であると誤信している状態である。

前述の例 16 で言えば、

  1. 事実(部下の発言): 「プロジェクトの進捗が厳しいです」
  2. 上司の「解釈」(陥りがちな罠): 「(自分の経験に基づき)『進捗が厳しい』とは、彼が『仕事を投げ出したい』と思っていることの現れだ」と推測する。
  3. カテゴリーエラーの発生: 上司がこの「解釈」を客観的な「理解」であると誤認し、「投げ出すな」と対応する。
  4. 結果: 部下は「事実を伝えただけなのに、なぜ『投げ出す』と解釈されるのか」と反発する。上司がこの「解釈に基づく判断」を繰り返すと、部下は「どうせ誤解される」と感じ、上司に本音を伝えにくくなり、信頼関係が崩壊する 16

このコミュニケーション不全への処方箋として提示される「アクティブリスニング(積極的傾聴)」や「質問の活用」16 は、上司を危険な「解釈」の領域から安全な「理解」の領域に引き戻すための技術である。「なぜそう思ったのですか?」や「具体的にはどのような問題が起きていますか?」といった質問 16 は、上司の主観的な「解釈」を停止させ、部下の「理解」(彼が持つ事実)を確認するプロセスに他ならない。


第4章:主要な分岐点(3) — 「解釈」と「評価」の連関と分離

「解釈」と「評価」は、どちらも主観が関わる能動的な行為であるが、その目的が異なる。

4.1. 意味の確定(解釈) vs. 価値の確定(評価)

「解釈」は対象の「意味」を確定する作業である 5。

「評価」は対象の「価値」を確定する作業である 7。

多くの場合、認知プロセスとして「解釈」が先行し、その「解釈」された意味内容に基づいて「評価」が行われる。例えば、ある人物の行動を「他者への配慮」と解釈すれば、「素晴らしい」という評価がなされ、「自己満足」と解釈すれば、「望ましくない」という評価がなされる。

4.2. 芸術鑑賞プロセスにおける両者の相互作用

この連関は、芸術鑑賞のプロセスにおいて明確に観察される。鑑賞者は、芸術作品を鑑賞する中で「様々な価値を解釈する」18。例えば、詩のリズムや韻といった統語論的な性質を分析すること(解釈)は、その詩の「意味」の特定に留まらず、その作品の「評価」と密接に関連している 19。そして、その解釈と評価のプロセスが、鑑賞者自身の新たな表現活動(創作)へと結びついていく 18

4.3. 認知心理学における「解釈」と「評価」の歪み

「解釈」と「評価」の連関は、健全なプロセスだけでなく、認知の歪み(Cognitive Distortion)といった病理的なプロセスにおいても観察される 20

「認知のゆがみ」の一形態として、「拡大解釈 (Magnification)」と「過小評価 (Minimization)」が指摘されている 20

  • 拡大解釈: 物事の悪い面を必要以上に拡大して解釈すること 20。これは「解釈」の歪みである。
  • 過小評価: 良い面(例:他者からの賞賛)を素直に受け止められず、その価値を不当に低く見積もること 20。これは「評価」の歪みである。

これら二つの歪みは、独立しているのではなく、相互に強化しあう「解釈=評価」の負のフィードバックループを形成している。

  1. トリガー(出来事): 些細な失敗をする。
  2. 歪んだ「解釈」(拡大解釈): 「この失敗は、全てが台無しになったことを意味する」と解釈する 20
  3. 歪んだ「評価」への影響: この「全てが台無し」という解釈に基づき、「自分は何をやってもダメだ」「私は価値のない人間だ」という自己への否定的な評価が下され、自尊心が低下する 20
  4. 逆方向のループ(次の出来事): 他者から賞賛される。
  5. 歪んだ「解釈」(前提:低い自己評価): 既に低い自己評価がフィルターとなり、「(私なんかが褒められるはずがないから)この賞賛は、お世辞か皮肉に違いない」と解釈する。
  6. 歪んだ「評価」(過小評価): その結果、その賞賛を「価値のないもの」として過小評価する 20

このように、歪んだ「解釈」が歪んだ「評価」を生み、その歪んだ「評価」が次の歪んだ「解釈」の前提となる悪循環が完成する。


第5章:専門領域における厳密な適用(1):法と論理

「解釈」と「評価」は、法学や論理学といった厳密性が求められる分野において、技術的な用語として使用される。

5.1. 法解釈学における「解釈」

法学における「解釈」は、第3章で述べた日常的な(主観的な)解釈とは異なり、「法令の意味を明確にして、その内容が動かないように定める」という、社会的拘束力を持つ公的な行為である 6。法文というテキストは、必然的に曖昧さや多義性を含む。法解釈とは、この多義的なテキストに対し、立法趣旨、論理、社会通念など様々なツールを用いて、特定の(権威的な)意味を固定する作業を指す。

5.2. 解釈の無限後退問題と「理解」の基礎的役割

法解釈には、哲学的な難問が伴う。法学者、長谷部恭男氏の議論(22で引用)によれば、「解釈とは、あるテキストを別のテキストに置き換える作業である」22。もし、あるテキスト(法)を理解するために別のテキスト(解釈)が必要なら、その解釈テキストを理解するためにはさらに別の解釈が必要となり、この作業は無限に続いてしまう(解釈の無限後退)22

この法哲学上の難問は、理解 (Rikai) という概念の存在によって、現実には回避されている。22のテキストは、「解釈の無限後退」の陥穽(かんせい)を提示した後、法の「解釈」は「例外的な活動」であると述べている 22

「解釈」が例外である根拠は、テキスト理解の「通常の姿」が「解釈抜きで成り立つ理解」であるからだ 22。この「解釈抜きで成り立つ理解」とは、まさに第1章および第3章で定義した「理解 (Rikai)」—すなわち、曖昧さがなく、道理や意味が(解釈という能動的作業を介さず)直接的に把握される状態 1—に他ならない。

法体系全体が機能不全に陥らないのは、世の中の膨大な法的テキスト(契約書、法令)の大多数が、専門的な「解釈」を必要とせず、当事者間の「理解」のレベルで運用されているという暗黙の前提があるからである。「解釈」は、「理解」が失敗した(=文言が多義的であった、当事者間で「理解」が食い違った)場合にのみ発動される、高次の修復プロセスとして位置づけられる。

5.3. 論理学における「解釈」と訴訟における「認定」

専門用語としての「解釈」には、論理学における用法もある。述語論理学などにおいて、「解釈 (Interpretation)」とは、公理系の抽象的な記号(例:述語記号 $R$ )に対し、具体的な議論領域における意味(例:「兄弟である」という特定の関係)を「対応付ける(結びつける)」技術的操作を指す 6。これは、第3章で論じた「唯名論的(概念が先にあり、対象に意味を与える)」構造の最も純粋な形態である。

また、法律用語には「解釈」や「評価」と厳密に区別されるべき「認定 (Nintei)」が存在する。「認定」とは、「一定の事実又は法律関係の存否を有権的に確認すること」であり、特に「事実の認定」は、証拠に基づいて事件の事実関係(何が起こったか)を確定するプロセスを指す 23

裁判プロセスにおいて、これらの概念は次のように連鎖する。まず「事実の認定」(証拠に基づく)が行われ、次にその事実に適用すべき「法の解釈」(法文の多義性の解消)が行われ、最終的にそれらを総合した「評価」(有罪/無罪、賠償額の算定など)が下される。


第6章:専門領域における厳密な適用(2):組織と人事

組織論、特に人事管理の領域は、「理解」「解釈」「評価」が衝突する主要な現場である。

6.1. 人事「評価」制度の構造

人事における「評価」(人材評価)は、個人の感覚的な「判断」ではなく、社員の給与、賞与、昇進といった処遇の決定や、適材適所な人員配置に直結する、公式な「制度」である 13

この制度が機能するためには、「評価」は客観的であるべきであり、「明確な目標設定」と「明確かつ具体的な評価項目」に基づいて行われる必要がある 8。基準が曖昧であれば、社員の不満を招き、制度が逆効果となるためである 13

6.2. 評価の三本柱:成果・能力・意欲

部下の「評価」基準は、多くの場合、3つのカテゴリー(3本柱)に分類される 12

  1. 成果評価: (過去の実績、業績)
  2. 能力評価: (保有スキル、業務遂行能力)
  3. 意欲評価(情意評価): (態度、積極性、規律性)

6.3. 「評価」の目的:処遇決定と成長促進

人事「評価」の目的は、単に処遇を決定する(13)ことだけではない。もう一つの重要な目的は、従業員の「モチベーションアップ」(14)や「成長促進」(8)という未来志向の側面である。適切なフィードバックを通じて、個人や組織の発展につなげる重要なツールであると位置づけられている 8

6.4. 「解釈」による「評価」の汚染

人事評価制度における最大の失敗リスクは、第3章で分析した「理解」と「解釈」の混同、すなわち、評価者(上司)の主観的「解釈」が、客観的であるべき「評価」システムを汚染(contamination)することである。

この汚染のプロセスは、以下のように発生する。

  1. 制度の要求: 人事「評価」制度は、「客観的」判断 7 と「明確な基準」13 を要求する。
  2. 脆弱性の発生: しかし、評価の三本柱のうち「成果」や「能力」は比較的客観的に測定可能だが、「意欲評価(情意評価)」12 は、本質的に客観的測定が困難であり、評価者の「解釈」が入り込む余地が極めて大きい。
  3. 汚染の具体例: ある部下が会議で発言しない(=観測可能な事実)。
  4. 上司の「解釈」: 上司はこれを「積極性がない、やる気がない」(12の「積極性」の欠如)と解釈する。これは、第3章で警告された「解釈に基づく判断」16 に他ならない。
  5. 「評価」の汚染: 上司は、この主観的な「解釈」を、客観的な「評価」シートの「意欲評価」欄に「C(低い)」と記入する。
  6. 結果: この瞬間、主観的な「解釈 (Interpretation)」が、客観性を装った公式な「評価 (Evaluation)」へとすり替わり、制度(13)の信頼性を破壊する。

この汚染を防ぐため、12のテキストは、フィードバックの際に「上からのダメ出し(=上司の解釈の押し付け)にならないよう」気をつけ、「部下自身が評価できる自分の行動を聞き出す」ことを推奨している。これは、16のアクティブリスニングと同様、評価者の主観的「解釈」を排し、被評価者の「理解」(事実認識)に基づいて「評価」を再構築しようとする制度的防衛策である。


結論:四語の相関関係と統合的理解

本レポートは、「理解」「了解」「解釈」「評価」という4つの概念を、意味論、語用論、認識論、そして法学や組織論といった専門領域における適用の観点から多角的に分析した。

これらの四語は独立した概念ではなく、認知とコミュニケーションの連鎖的なプロセスを構成している。

  1. 理解 (Rikai) は、全ての基盤となる、対象の道理(論理)や他者の心情(共感)を把握する受容的プロセスである。
  2. 了解 (Ryōkai) は、理解を社会的に拡張し、「承認」という相互行為によって他者との合意を形成する語用論的プロセスである。
  3. 解釈 (Kaishaku) は、理解が困難な(曖昧な)対象に対し、主観(経験・判断力)を能動的に用いて「意味」を構築・確定するプロセスである。
  4. 評価 (Hyōka) は、理解または解釈された対象に対し、「基準」を適用してその「価値」を判断する規範的プロセスである。

真の専門性とは、これら四語の辞書的定義を知ることではなく、自分が今、どの認知モード(理解、了解、解釈、評価)にいるかをメタ認知(自覚)すること、そして、直面する状況(例:部下との面談、法廷での議論、契約書の読解、芸術鑑賞)に応じて、それらのモードを意図的に切り替える(あるいは、危険なモード、例えば解釈の暴走を停止させる)能力にある。

表1:四語の比較分析サマリー

用語中核的意味認知プロセス主観性/客観性主要な機能(行為)関連する問題領域・典拠
理解 (Rikai)物事の道理や他者の心情を把握すること。受容・把握 (Comprehension)客観的(道理)または共感的(心情)把握する、わかる全ての認知の基盤。共感と論理の二重性。 1
了解 (Ryōkai)理解し、それを承認・受領すること。確認・承認 (Confirmation & Approval)間主観的(社会的合意)承認する、受け入れるビジネス上の合意形成。階層的コミュニケーション。 3
解釈 (Kaishaku)曖昧な対象に主観的判断を介して意味を付与・構築すること。推論・構築 (Interpretation & Inference)主観的(能動的)意味を定める、説明するコミュニケーション不全。法、哲学、芸術。 5
評価 (Hyōka)基準に基づき、対象の価値・品質を判断すること。価値判断 (Judgment & Valuation)規範的(基準に基づく)価値を定める、査定する人事考課、認知の歪み。判断とフィードバック。 7

引用文献

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  4. 【早見表つき】「承知しました」と「了解しました」の違いと正しい使い分け | シェアフルマガジン https://sharefull.com/content/jobtips/22607/
  5. 11月 8, 2025にアクセス、 https://kotobank.jp/word/%E8%A7%A3%E9%87%88-42466#:~:text=%E3%81%8B%E3%81%84%E2%80%90%E3%81%97%E3%82%83%E3%81%8F%E3%80%90%E8%A7%A3%E9%87%88%E3%80%91,-%E3%80%98%20%E5%90%8D%E8%A9%9E%20%E3%80%99&text=%E2%91%A0%20%E8%AA%9E%E5%8F%A5%E3%82%84%E7%89%A9%E4%BA%8B%E3%81%AE,%E3%81%BE%E3%81%9F%E3%80%81%E3%81%9D%E3%81%AE%E8%A7%A3%E8%AA%AC%E3%80%82&text=%E2%91%A1%20%E7%89%A9%E4%BA%8B%E3%80%81%E7%89%B9%E3%81%AB%E8%A1%A8%E7%8F%BE%E3%81%95%E3%82%8C,%E3%81%AA%E3%81%A9%E3%81%AB%E3%82%88%E3%81%A3%E3%81%A6%E7%90%86%E8%A7%A3%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%80%82
  6. 解釈(カイシャク)とは? 意味や使い方 – コトバンク https://kotobank.jp/word/%E8%A7%A3%E9%87%88-42466
  7. 11月 8, 2025にアクセス、 https://kenjins.jp/magazine/company-interview/44661/#:~:text=%E8%A9%95%E4%BE%A1%E3%81%AE%E5%AE%9A%E7%BE%A9%E3%81%A8%E6%84%8F%E5%91%B3,%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%82%92%E6%8C%87%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
  8. 評価とは?その意味と使い方を詳しく解説 – 顧問のチカラ … – KENJINS https://kenjins.jp/magazine/company-interview/44661/
  9. 了解(リョウカイ)とは? 意味や使い方 – コトバンク https://kotobank.jp/word/%E4%BA%86%E8%A7%A3-149916
  10. 解釈 – Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A7%A3%E9%87%88
  11. 「解釈」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書 https://www.weblio.jp/content/%E8%A7%A3%E9%87%88
  12. 社員のモチベーションを左右する!部下の評価を行う基準と注意点|マネジメント・リーダーシップ|人材開発コラム – キャプラ研修サーチ https://capla-kensyu.jp/column/archives/18
  13. 人材評価とは?正しく人材を育成するための評価ポイントについて解説 – 労務SEARCH https://romsearch.officestation.jp/hr/17464
  14. 人事評価の基礎知識:意味・メリット・課題をわかりやすく解説 | ITトレンド https://it-trend.jp/merit_rating/article/assessment
  15. 「承知しました」と「了解しました」の違いは?シーン別使い分けで失敗しない方法 – ブラストエンジン https://blastengine.jp/blog_content/all-right-business/
  16. 理解と解釈の違いを認識してコミュニケーションをより良いものに … https://humanbrothers.co.jp/%E7%90%86%E8%A7%A3%E3%81%A8%E8%A7%A3%E9%87%88/
  17. 理解と解釈の違いについて考察メモ|ryoryo – note https://note.com/london_ryo/n/na6d4ebe8db78
  18. 博士論文(要約) 鑑賞による表現の触発プロセス解明と 触発を利用 … https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/52600/files/A34418_summary.pdf
  19. レジュメ|ベリズ・ガウト 「芸術を解釈する:パッチワーク理論 … https://obakeweb.hatenablog.com/entry/GAUITA
  20. 認知のゆがみとは?10パターンの具体例、原因、治し方 丨コグラボ – Awarefy https://www.awarefy.com/coglabo/post/cognitive_distortion
  21. 認知のゆがみとは?10パターンの具体例、原因、治し方 丨コグラボ … https:www.awarefy.com/coglabo/post/cognitive_distortion
  22. 【解釈】用語集 – 図解六法 https://www.zukairoppo.com/glossary-kaishaku
  23. 【 確認・確定・​認定・容認・認容・承認・推定】用語集 – 図解六法 https://www.zukairoppo.com/glossary-nintei