ステークホルダー

賭け金から世界観へ:ステークホルダーの語源と歴史的変遷

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序論:現代企業に課せられた使命

現代のビジネス談義において、「ステークホルダー」という言葉は、企業の社会的責任(CSR)、環境・社会・ガバナンス(ESG)基準、そして企業パーパス(存在意義)を巡る議論の中心に位置し、遍在していると言っても過言ではない 1。しかし、この現代経営の根幹をなす概念が、元をたどれば18世紀の賭博の世界にその起源を持つことは、あまり知られていない 4。本レポートの中心的な問いは、ここにある。すなわち、いかにして賭博用語が、21世紀の「ステークホルダー資本主義」と呼ばれる経済思想の礎石となり得たのか 3。そして、この変容を促した歴史的、経済的、哲学的な潮流とは何だったのか。

本レポートは、この壮大な問いに答えるため、4部構成で「ステークホルダー」という言葉の軌跡を詳細に解き明かす。第1部では、その言語学的な起源を掘り下げ、第2部では、株主主権主義が支配的だった時代に、この言葉がビジネスの世界に初めて登場した経緯を分析する。続く第3部では、1980年代に起きた理論的革命を検証し、最後の第4部では、この概念が最終的に資本主義の新たなモデルとして主流化していく過程を追跡する。以下の年表は、これから詳述する物語の全体像を概観するための道標となるだろう。

表1:「ステークホルダー」という言葉の歴史年表

年代出来事・出版物意義
1708年「stake-holder」という言葉の最初の記録賭けにおいて、賭け金(stake)を中立的な第三者として保持する人物と定義される 4
1963年スタンフォード研究所(SRI)の内部メモランダムビジネスの文脈で「ステークホルダー」が初めて使用され、企業の存続に不可欠な集団と定義される [7, 8, 9]。
1970年ミルトン・フリードマンの論文「企業の社会的責任は利益を増大させることである」「株主主権」の理論を確立し、後にステークホルダー理論が挑戦することになる支配的な知的パラダイムを形成する 10
1984年R・エドワード・フリーマンの著書『戦略的経営:ステークホルダー・アプローチ』「ステークホルダー理論」を経営と企業倫理の包括的な枠組みとして正式に確立し、この言葉を世界的に普及させる [11, 12, 13]。
2019年ビジネス・ラウンドテーブルの「企業のパーパスに関する声明」米国の主要企業CEOが公式に株主主権主義を放棄し、全ステークホルダーへのコミットメントを表明。概念の主流化を象徴する出来事となる [14, 15, 16]。

第1部 概念の言語的起源

「ステークホルダー」という言葉の現代的な用法を深く理解するためには、まずその原点に立ち返り、本来の意味と、それが今日に至るまでに遂げた劇的な意味の変容を解き明かす必要がある。

1.1 賭け金の保持者:18世紀の起源

「ステークホルダー(stake-holder)」という言葉が歴史上初めて記録されたのは1708年のことである 4。この言葉は、「stake」(賭け金、危険にさらされるもの)と「holder」(保持者)という二つの単語から成る複合語であり、その元々の定義は「賭けが行われる際に、賭け金を預かる者」であった 4。その役割は、賭けの勝者に賞金を支払うことで完結する 5

この初期の定義において重要なのは、ステークホルダーが賭けの当事者ではなく、あくまで信頼された中立的な第三者であったという点である。彼らの機能は、資産を安全に保管し、公正な取引を保証するという、純粋に手続き的なものであった。賭けの勝敗そのものに個人的な利害関係を持つことは、その役割の本質に反していた。賭博の参加者たちは、ステークホルダーが公平無私であり、私心なく行動することを信頼していたからこそ、安心して賭け金を預けることができたのである 5

ここに、この言葉の歴史における最初の、そして最も重大な意味の転換が見られる。元来の「ステークホルダー」が意味したのは、結果に対する「中立性」と「無関心」であった。しかし、現代のビジネスにおける意味は、その正反対、すなわち、結果に対して明確な利害(a stake)を持つ当事者、と定義される。これは単なる意味の拡大ではなく、根本的な「意味の反転」である。中立的な仲裁者を指す言葉が、いかにして利害関係者そのものを指す言葉へと変貌を遂げたのか。この意味論的な逆転こそが、この言葉の歴史を理解する上で極めて重要な鍵となる。当初のステークホルダーが「影響を受けないこと」によって定義されていたのに対し、現代のステークホルダーは「影響を受けること」によって定義される。この180度の転換は、この言葉がビジネスの世界で採用されていく過程を、より一層興味深いものにしている。

1.2 語源 vs. 現代的含意:「杭を打つ」という誤解を解体する

近年、特に北米の先住民との関係において、「ステークホルダー」という言葉を巡る新たな論争が浮上している。それは、この言葉が植民地時代の入植者が土地に「杭を打ち(staking a claim)」、権利を主張した行為と誤って関連付けられ、植民地主義的な響きを持つ不快な言葉と見なされるようになったという問題である 18。この解釈に基づき、一部の組織ではこの言葉の使用が疑問視される事態となっている 19

語源学的な事実に基づけば、この関連付けは歴史的に不正確である。前述の通り、賭博に由来する用法は、北米大陸への植民地拡大よりも前に存在しており、物理的な杭とは直接の関係がない 4。しかし、この論争の存在自体が、言葉の歴史を分析する上で重要な示唆を与えてくれる。

この現象は、強力な社会言語学的な原則を浮き彫りにする。すなわち、社会的・政治的に繊細な文脈においては、言葉の実際の語源よりも、人々に知覚される含意(いわゆる「民間語源」)の方が、その言葉の適切性や影響力を決定づける場合があるということだ。この論争の核心は、語源学的な正しさではなく、言葉が意図せずして歴史的なトラウマを運び、植民地主義的な物語を永続させうるという、言語の持つ力にある。したがって、この問題を単に「誤解」として退けるのではなく、言語が社会的な使用と解釈を通じていかにして新たな意味を獲得し、蓄積していくかを示す複雑なケーススタディとして分析する必要がある。ある言葉が、聞き手である特定の集団にとって有害な含意を持つと受け取られるならば、その言葉の起源がどうであれ、代替案を模索するべきだという主張は、言葉の歴史が辞書の中だけでなく、それを使う人々の生きた経験の中にも存在することを示している 18


第2部 株主主権の時代におけるステークホルダー

「ステークホルダー」という言葉がビジネスの世界に足を踏み入れたのは20世紀半ばのことであるが、その時代の企業経営を支配していたのは、全く異なる強力なイデオロギーであった。このセクションでは、この言葉のビジネス界への初登場と、それを取り巻いていた「株主主権」という思想的背景を明らかにする。

2.1 スタンフォード研究所の1963年メモランダム:新たなビジネス用語の誕生

経営管理の文脈で「ステークホルダー」という言葉が初めて記録されたのは、1963年にスタンフォード研究所(SRI、現在のSRIインターナショナル)で作成された内部メモランダムにおいてであった 7

SRIは当時、企業計画や戦略分析に関する研究を進めており、企業を取り巻く環境がますます複雑化し、外部からの圧力が増大する中で、新たな経営の枠組みを模索していた 7。その過程で、彼らはステークホルダーを「そのグループの支持がなければ、組織が存続し得なくなるようなグループ」と定義した 9。この最初のリストには、株主、従業員、顧客、供給業者、貸し手、そして社会が含まれていた 9

このSRIによる初期の概念化には、極めて重要な特徴がある。それは、この時点でのステークホルダー概念が、倫理的あるいは規範的なものではなく、根本的に「道具的」かつ「防衛的」な性格を持っていたという点だ。定義が「存続し得なくなる」という企業の生存可能性に焦点を当てていることからも明らかなように、ステークホルダーは企業の継続的な運営を確保するために管理すべき重要な変数、すなわち資源または脅威として位置づけられていた。これは、道徳的な責任を問う視点ではなく、経営者中心のリスク管理の視点から生まれた概念であった。この実利的で防衛的な発想こそが、後に登場する、より哲学的で規範的な理論の種となったのである。問いは「我々は誰に対して道徳的責任を負うのか?」ではなく、「誰が我々の事業を中断させる力を持っているのか?」であった。この原点を理解することは、その後の概念の進化を追う上で不可欠である。

2.2 フリードマン・ドクトリン:企業の唯一の目的

SRIでステークホルダーという概念が静かに産声を上げていた一方で、企業経営の世界では、経済学者ミルトン・フリードマンが提唱する強力な理論が支配的な地位を確立しようとしていた。1970年、フリードマンはニューヨーク・タイムズ・マガジン誌に「企業の社会的責任は利益を増大させることである」と題する、極めて影響力の強い論文を発表した 10。この論文は、後に「株主主権(Shareholder Primacy)」あるいは「フリードマン・ドクトリン」として知られる理論の礎となった。

フリードマンの核心的な主張は明快である。自由な企業システムにおいて、企業の経営者は事業の所有者、すなわち株主の被雇用者である。したがって、経営者の第一の責任は、所有者である株主の意向に従って事業を遂行することにある。そして、その意向とは、一般的に「社会の基本的なルール、すなわち法と倫理的慣習の両方に従いながら、可能な限り多くの利益を上げること」である 10。この目的を超えて、経営者が企業の資金を社会的な目的に使用することは、株主の金を不当に使う行為であり、許されないとされた 10

この議論の論理的基盤は、私有財産権とエージェンシー理論(代理人理論)にある。企業は株主の私有財産であり、経営者は株主の代理人(エージェント)として、本人(プリンシパル)である株主の利益を他の誰の利益よりも優先して奉仕する、法的かつ道徳的な義務を負うという考え方である 10。このフリードマン・ドクトリンは、企業の目的を株主価値の最大化という一点に集約させ、20世紀後半の企業経営における圧倒的な正統派理論となった。以下の比較表は、この時代に生まれた二つの対照的な思想の核心的な違いを浮き彫りにするものである。

表2:株主主権 vs. ステークホルダー理論 ― 比較フレームワーク

比較項目株主主権(フリードマン)ステークホルダー理論(フリーマン)
企業の主目的所有者である株主の富を最大化すること [10, 24]。全てのステークホルダーのために価値を創造すること。利益は目的ではなく、必要不可欠な結果である [22, 25]。
経営者の責任株主の代理人として行動し、その経済的利益を最優先すること 10全てのステークホルダーの利害を調整・統合すること。可能な限りトレードオフを避ける [5, 25]。
主要な受益者株主/株式保有者。株主、従業員、顧客、供給業者、地域社会などを含む広範なエコシステム [22, 26]。
時間軸株価を押し上げるため、短期的な利益や四半期ごとの業績に焦点が当たりがちである。全てのステークホルダーとの持続可能な関係構築が永続的な成功の鍵であるため、本質的に長期的である 22
企業倫理観利益追求の過程で「法と倫理的慣習に具体化された社会の基本ルール」に従うことと定義される 10倫理は経営に内在する。道徳と価値観は、全ての人のための価値創造プロセスの中心である [13, 28]。

第3部 1980年代の理論的革命

20世紀後半、SRIによって蒔かれた種は、フリードマン・ドクトリンという強固な土壌の下で、すぐには芽吹かなかった。しかし、1970年代から80年代にかけての世界情勢の激変は、既存の経営パラダイムに揺さぶりをかけ、新たな理論が生まれるための土壌を育んだ。このセクションでは、「ステークホルダー」がニッチな概念から、本格的な経営理論へと昇華した決定的な瞬間を検証する。

3.1 流動する世界:新モデルを必要とした社会経済的要請

1970年代から1980年代初頭にかけての時代は、後にR・エドワード・フリーマンが「乱気流(turbulent)」と表現したように、企業にとって極めて不安定で予測困難な外部環境が特徴であった 7。二度の石油危機は世界経済を揺るがし、日本企業などの台頭によるグローバルな競争は激化の一途をたどった 30。また、ウォーターゲート事件に関連する不正献金やロッキード事件といった大規模な企業スキャンダルは、企業と政府に対する社会の信頼を大きく損なった 31。同時に、環境問題や消費者権利に対する市民の意識が高まり、企業活動に対する監視の目はかつてなく厳しくなっていた 32

こうした背景の中、企業の社会的責任(CSR)を問う動きが加速した。企業は単なる利益追求の主体ではなく、社会の一員として、その活動が社会や環境に与える影響に責任を持つべきだという考え方が広まっていったのである 32

この1970年代から80年代にかけての激動は、フリードマン・ドクトリンの限界を露呈させた。株主利益の最大化という、単純で内向きなモデルは、政府、活動家団体、懐疑的な市民社会といった、複雑で時には敵対的な外部からの圧力にどう対処すべきか、経営者に実践的な指針を与えることができなかった。企業が環境汚染に対する抗議運動や、新たな政府規制、供給業者によるボイコットに直面した際、「我々の唯一の責任は株主に対してである」という答えは、もはや何の解決にもならなかった。この知的かつ実践的な空白こそが、ステークホルダー理論が単なる倫理的な代替案としてではなく、現代の企業環境という現実を乗り切るための、より戦略的に堅牢な枠組みとして登場する舞台を整えたのである。フリードマン理論が前提としていた比較的安定した環境は崩れ去り、経営者たちは、この新しく危険な領域を航海するための、より優れた地図を必要としていた。

3.2 R・エドワード・フリーマンとステークホルダー理論の誕生

この時代の要請に応える形で、1984年、哲学者であり経営学の教授でもあったR・エドワード・フリーマンが、画期的な著書『戦略的経営:ステークホルダー・アプローチ』(Strategic Management: A Stakeholder Approach)を出版した 11。この著作は、現代ステークホルダー理論の基礎として、広く認知されている 28

フリーマンの最大の貢献は、SRIの萌芽的なアイデアを取り上げ、それを体系的かつ包括的な理論へと昇華させた点にある。彼は、企業の真の成功は、その事業を取り巻く「エコシステム」全体、すなわち全てのステークホルダーを満足させることにあると主張した 22。そして、ステークホルダーを「組織の目的達成に影響を与える、あるいは目的達成によって影響を受ける、あらゆるグループまたは個人」と広範に定義した 9

フリーマンの理論は、ステークホルダーへの配慮を、戦略的な必要性と倫理的な要請の両面から論じた。彼は、いずれかのステークホルダー・グループを無視すれば、不満を抱いた彼らが支持を撤回するため、最終的には企業の存続が危うくなると警告した 22

ここに、フリーマンの理論の革新性がある。彼は、SRIの防衛的なアプローチとも、フリードマンの利益至上主義とも異なり、「ステークホルダーを管理することはビジネスにとって有益である」という道具的な側面と、「ステークホルダーのために経営することは正しいことである」という規範的な側面を巧みに融合させた。倫理的な行動と長期的な価値創造は対立するものではなく、相互に補強し合うものであるという、統合的なビジョンを提示したのである。この強力な統合こそが、彼の理論を単なる知的好奇心の対象にとどめず、経営者、学者、活動家といった幅広い層に訴えかけ、永続的な影響力を持つに至った根源的な理由である。彼は、それまでの議論を悩ませてきた利益と社会的責任の間の見せかけの対立を、見事に解消してみせたのだ。


第4部 世界観の主流化

フリーマンによる理論的革命は、「ステークホルダー」という言葉を学術的な議論の最前線に押し上げた。しかし、その旅はまだ終わらなかった。続く数十年で、この概念は専門的な経営理論の枠を超え、企業統治の標準となり、ついには資本主義そのもののあり方を問う世界的な潮流へと発展していく。

4.1 戦略的ツールから倫理的要請へ:CSRとガバナンスへの統合

フリーマンの著作以降、ステークホルダー理論は、企業倫理、企業の社会的責任(CSR)、そしてコーポレート・ガバナンスといった分野における基礎概念として定着した 28。「企業は誰に対して社会的な責任を負うのか?」という根源的な問いに対し、ステークホルダー理論は「そのステークホルダーに対してである」という明確な答えを提供した 2

この理論は、CSRを実践するための具体的な枠組みをもたらした。「社会への貢献」といった漠然としたスローガンに代わり、企業は自社の特定のステークホルダーを特定し、彼らのニーズや懸念に対応するための戦略を策定できるようになった。これにより、CSRはより管理可能で、測定可能で、そして企業戦略と統合された活動へと変貌を遂げた。

ステークホルダー理論が登場する以前、CSRはしばしば場当たり的な慈善活動や、企業の中心業務から切り離された広報活動と見なされがちであった。しかし、ステークホルダー理論は、CSRを企業の中核機能に統合するための基盤となる論理、いわば「オペレーティングシステム」を提供した。それは、社会的・環境的なパフォーマンスを、企業の成功に不可欠なグループの利害と直接結びつけることによって、CSRを単なる「推奨事項」から「戦略的必須事項」へと格上げしたのである。この理論は、CSRにビジネス戦略と両立可能な言語と論理を与え、その実践を大きく前進させた。

4.2 ステークホルダー資本主義の時代:新たなコンセンサス

近年、この概念はさらに進化を遂げ、「ステークホルダー資本主義」という、経済システム全体を視野に入れたより広範なビジョンへと発展している 3。この考え方は、資本主義の目的を単に金融的なリターンを生み出すことだけでなく、社会の全ての構成員のために共有された長期的な価値を創造することにあると捉える。

この潮流における転換点となったのが、2019年8月に起きた画期的な出来事である。米国の大手企業のCEOで構成される団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が、「企業のパーパスに関する声明」を発表し、長年にわたり支持してきた株主主権主義を公式に放棄したのだ。181人のCEOが署名したこの声明は、企業の目的を、顧客、従業員、供給業者、地域社会、そして株主という「全ての」ステークホルダーに価値を提供することであると再定義した 14

この声明は、米国企業社会の最高レベルにおいて、株主主権ドクトリンが事実上降伏したことを示す象徴的な瞬間であった。それは、SRIで生まれ、フリーマンによって理論化されたアイデアが、投資家、従業員、そして社会全体からの圧力に後押しされる形で、ついに新たな主流のコンセンサスとなったことを告げるものだった 42

ステークホルダー資本主義の台頭とビジネス・ラウンドテーブルの声明は、この言葉の進化の最終段階を象徴している。もはや「ステークホルダー」は、単に「一企業をいかに経営するか」という経営戦略論の用語ではない。それは、「資本主義は何のためにあるのか」という、政治経済学的な議論の中心要素へと昇格したのである。議論の舞台は、経営大学院の教室から、世界経済フォーラムのような国際会議や、「新しい資本主義」を巡る国家的な政策論争の場へと移った 41。こうして「ステークホルダー」という言葉は、特定の役割を指す「名詞」から、経済イデオロギー全体を定義する「形容詞」へと、その旅を完遂したのである。その意味は、ミクロ(賭けの保持者)、メソ(企業の戦略)、そしてマクロ(グローバル経済の構造)へと、その適用範囲を劇的に拡大させてきたのだ。


結論:メタファーの永続的な力

「ステークホルダー」という言葉が、3世紀にわたって歩んできた並外れた旅路は、一つの概念が時代と共にいかに変容し、社会に影響を与えうるかを見事に示している。その変遷は、いくつかの決定的な転換点によって特徴づけられる。第一に、賭けにおける中立的な資金の保管者から、企業活動に直接的な利害を持つ当事者への意味の反転。第二に、企業の存続を目的とした防衛的な戦略ツールから、倫理的な規範を含む包括的な経営理論への昇華。そして最後に、個別企業の経営モデルから、資本主義全体のあり方を再定義する世界観への飛躍である。

この言葉がこれほどまでに広く受け入れられ、永続的な力を持った理由の一つは、その比喩(メタファー)としての単純さと力強さにあるだろう。現代の企業活動には、株主だけでなく、実に多くの人々が正当な「分け前(stake)」を持っているという考え方は、直感的で説得力がある。この単純かつ強力なメタファーは、企業の目的を再定義することに成功し、今や、より包摂的で持続可能な経済システムを構築しようとする21世紀の探求において、中心的な役割を担っている。

もちろん、その旅はまだ終わっていない。ビジネス・ラウンドテーブルの声明が象徴するように、言葉の上でのコンセンサスは形成されつつあるが、ステークホルダー資本主義を具体的にどう実践していくかについては、依然として複雑で困難な課題が山積している。理論を現実に落とし込み、全ての利害関係者のために真の価値を創造することは、現代のビジネスリーダーにとって、これからも続く重要な挑戦となるであろう。

引用文献

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  2. 中小企業における CSR のあり方 ―マーケティングの概念を用いた戦略的 CSR 事例― – 兵庫県立大学 https://www.u-hyogo.ac.jp/mba/pdf/SBR/14-1/403.pdf
  3. schoo.jp https://schoo.jp/biz/column/1620#:~:text=01%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%BC%E8%B3%87%E6%9C%AC%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E3%81%A8,%E3%81%AE%E8%80%83%E3%81%88%E6%96%B9%E3%82%92%E8%A8%80%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
  4. Stake-holder – Etymology, Origin & Meaning https://www.etymonline.com/word/stake-holder
  5. “Stakeholders” and its conflicting meanings: a problem for cultural heritage studies? | by Chris McGlinchey | Medium https://medium.com/@chris_mcglinchey/stakeholders-and-its-conflicting-meanings-a-problem-for-cultural-heritage-studies-38b1e6974569
  6. ステークホルダー資本主義とは?【批判される理由】メリット – カオナビ人事用語集 https://www.kaonavi.jp/dictionary/stakeholder-shihonsyugi/
  7. コーポレート・ガバナンスと ステークホルダー – 桃山学院大学学術機関リポジトリ https://stars.repo.nii.ac.jp/record/4617/files/KJ00000155026.pdf
  8. 【プロ監修】DXで使えるステークホルダー分析とは?プロジェクト成功に繋げるコツとおすすめ分析手法4つ https://mirai-works.co.jp/business-pro/business-column/b11_stakeholder_pro
  9. The Origins of the “Stakeholder” concept | TAM UK – Organisational … https://tamplc.wordpress.com/2013/09/20/the-origins-of-the-stakeholder-concept/
  10. 株主主権論の一考察 https://kanagawa-u.repo.nii.ac.jp/record/5179/files/PP37-02.pdf
  11. ステークホルダーとは?ビジネス用語の正しい意味と使い方 – 三井住友カード https://www.smbc-card.com/nyukai/magazine/recommend/stakeholder.jsp
  12. ステークホルダーとは?意味と使い方、良好な関係を築くためのポイントを解説 | SDGsコンパス https://sdgs-compass.jp/column/5975
  13. Stakeholder Theory – UVA Darden School of Business https://www.darden.virginia.edu/stakeholder-theory
  14. Ed Freeman: Meet the ‘Father of Stakeholder Capitalism’ | Institute for Business in Global Society https://www.hbs.edu/bigs/ed-freeman
  15. Risk Oversight vol.130:ビジネスラウンドテーブルの声明は1年後も重要であり続けているか https://www.protiviti.com/jp-jp/newsletter/risk-oversight-vol-130
  16. パーパス経営へのシフト https://www.tbr.co.jp/report/sensor/pdf/sensor_20210727_06.pdf
  17. keiyaku-watch.jp https://keiyaku-watch.jp/media/kisochishiki/stakeholder/#:~:text=%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BD%9C%E8%AA%9E%E6%BA%90%E3%82%84%E6%84%8F%E5%91%B3%E3%82%92%E5%88%86%E3%81%8B%E3%82%8A%E3%82%84%E3%81%99%E3%81%8F%E8%A7%A3%E8%AA%AC%EF%BC%81,-%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%BC%EF%BC%88stakeholder%EF%BC%89%E3%81%A8&text=%E2%80%9Dstake%E2%80%9D%E3%81%AF%E3%80%8C%E6%8E%9B%E9%87%91%E3%80%8D,%E3%81%A6%E6%8D%89%E3%81%88%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
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