意思決定マトリックス(意思決定表)以外にも、さまざまな方法やフレームワークが存在します。ここでは代表的な意思決定手法をいくつか取り上げ、それぞれの特徴や簡単な使い方を紹介します。また、コードインタープリターを活用できる例として、いくつかPythonサンプルも交えますので参考にしてください。
1. 意思決定ツリー(Decision Tree)
特徴
- 定性的要素と定量的要素の両方を視覚化できる
- 各選択肢を枝分かれで展開し、最終的な結果やリスク、期待値を検討しやすい
- 確率や期待値計算を取り入れることで、定量的に「どの選択が有利か」を検討できる
使い方の流れ
- 解決したい問題を定義する
- 主要な選択肢をそれぞれ枝分かれで描く
- 各選択肢の後に起こりうる事象や確率、コスト・リターンを記入する
- 確率×リターンで期待値を算出し、最適な経路を導き出す
Pythonサンプル(期待値計算の簡単例)
以下は、各選択肢ごとに「成功する確率」「成功時の利益(あるいはメリット)」「失敗時の損失(あるいはデメリット)」を想定して期待値を計算するイメージ例です。
# 選択肢A, B, Cを用意
import pandas as pd
data = {
'Choice': ['A', 'B', 'C'],
'Success_Prob': [0.7, 0.5, 0.3], # 成功確率
'Success_Value': [100, 200, 400], # 成功時の価値(例:万円換算)
'Failure_Value': [-50, -70, -200], # 失敗時の価値(損失はマイナス)
}
df = pd.DataFrame(data)
# 期待値計算
df['Expected_Value'] = df['Success_Prob'] * df['Success_Value'] + (1 - df['Success_Prob']) * df['Failure_Value']
print(df)
出力例(イメージ):
Choice Success_Prob Success_Value Failure_Value Expected_Value
0 A 0.7 100 -50 55.0
1 B 0.5 200 -70 65.0
2 C 0.3 400 -200 20.0
このように、意思決定ツリーや期待値計算を取り入れると、リスクとリターンを定量的に検討できます。
2. AHP(Analytic Hierarchy Process, 階層分析法)
特徴
- 複数の評価軸を階層構造で整理し、ペアワイズ比較(1対1での優劣比較)によって総合的な順位付けを行う
- 人間の判断を数学的に組み込むため、主観的基準を定量化しやすい
- 大規模な意思決定やチームでの合意形成にも使われる
使い方の流れ
- 目的を明確にする(「もっとも有望な製品企画はどれか」など)
- 評価基準を階層的に分解する(費用・品質・納期・リスクなど)
- 選択肢を定義する(製品A、製品B、製品Cなど)
- ペアワイズ比較: 各基準について、選択肢同士を1対1で比較し、どちらがどれくらい優れているかを数値化する
- 固有ベクトルを計算し、全体の総合評価を導き出す
Pythonサンプル(AHPの簡易実装)
以下は、ペアワイズ比較のための行列を用意して固有ベクトルを計算し、重みづけを求める例です(厳密なAHPパッケージはいくつか存在しますが、ここでは簡易的に示します)。
import numpy as np
# 例: 3つの選択肢(A, B, C)を「コスト」「品質」「拡張性」3基準でペアワイズ比較
# 各基準に対して、A/B/Cのペアワイズ比較行列を作る
# 例: コスト基準 (A:B:C)
# A vs A = 1, A vs B = 3, A vs C = 5 → "AはBより3倍優れている、Cより5倍優れている" と評価したケース
# B vs A = 1/3, B vs B = 1, B vs C = 2
# C vs A = 1/5, C vs B = 1/2, C vs C = 1
matrix_cost = np.array([
[1, 3, 5],
[1/3, 1, 2],
[1/5, 1/2, 1]
], dtype=float)
# 固有ベクトル(正規化した主成分)を計算
def ahp_eigen_vector(matrix):
# 固有値・固有ベクトルを計算
eigenvalues, eigenvectors = np.linalg.eig(matrix)
# 最大固有値に対応する固有ベクトルを取得
max_index = np.argmax(eigenvalues)
max_eigenvector = np.real(eigenvectors[:, max_index])
# 正規化して合計を1にする
normalized = max_eigenvector / sum(max_eigenvector)
return normalized
weights_cost = ahp_eigen_vector(matrix_cost)
print("コスト基準でのA/B/Cの重み:", weights_cost)
これを「品質」「拡張性」など他の基準でも同様に行い、最後に各基準(例えば「コストは40%重視、品質は30%、拡張性は30%」など)の重み付けと組み合わせて最終スコアを求めます。実際に実行すると、A, B, Cの相対的なスコアを定量的に得ることができます。
3. 2×2マトリックス(リスク-インパクト行列や緊急度-重要度行列など)
特徴
- シンプルかつ視覚的に把握できる
- 「リスクの高さ×影響の大きさ」「緊急度×重要度」など、2つの軸で意思決定の優先度を整理する
- 主に「優先順位付け」や「どの課題から手をつけるか」を考える際に有用
使い方の例(緊急度×重要度マトリックス)
- 横軸:緊急度(高い⇔低い)
- 縦軸:重要度(高い⇔低い)
- 4つの象限に分類し、「緊急かつ重要」なタスクをまず処理する、などの戦略を立てる
Pythonでのサンプル(プロット)
import matplotlib.pyplot as plt
# タスクを例にとる
tasks = [
{"name": "タスクA", "importance": 9, "urgency": 8},
{"name": "タスクB", "importance": 6, "urgency": 7},
{"name": "タスクC", "importance": 3, "urgency": 9},
{"name": "タスクD", "importance": 7, "urgency": 2},
]
x = [t["urgency"] for t in tasks]
y = [t["importance"] for t in tasks]
names = [t["name"] for t in tasks]
plt.figure(figsize=(6,6))
plt.scatter(x, y, color='blue')
for i, txt in enumerate(names):
plt.text(x[i]+0.1, y[i], txt, fontsize=9)
plt.axvline(x=5, color='red', linestyle='--') # 緊急度の区切り
plt.axhline(y=5, color='red', linestyle='--') # 重要度の区切り
plt.xlabel("Urgency (緊急度)")
plt.ylabel("Importance (重要度)")
plt.title("2×2マトリックス(緊急度×重要度)")
plt.show()
実行すると、タスクA,B,C,Dが2×2マトリックス上で可視化され、それぞれの位置づけを直感的に判断できます。
4. Six Thinking Hats(シックス・ハット法)
特徴
- エドワード・デボノが提唱した発想・意思決定支援法
- **6つの異なる視点(帽子)**をかぶり分けることで、バイアスを減らし多角的な検討ができる
- 白: 事実・データの視点
- 赤: 感情・直感の視点
- 黒: リスク・否定的側面の視点
- 黄: 楽観的・肯定的側面の視点
- 緑: 創造的・新たな提案の視点
- 青: 全体のプロセス管理・俯瞰の視点
使い方
- 話し合いのテーマを決める(例:「新製品アイデアの良し悪し」)
- 参加者全員で1つの「帽子の視点」を共有しながら議論する(白→赤→黒→黄→緑…)
- 最後に青の帽子で全体を俯瞰し、意思決定やアクションをまとめる
この方法は、数値的な判断だけでなく心理的・創造的・批判的な考え方をバランスよく取り入れたいときに有効です。
5. SWOT分析(Strengths, Weaknesses, Opportunities, Threats)
特徴
- 組織や個人の「内的要因(強み/弱み)」と「外的要因(機会/脅威)」を洗い出し、戦略を策定する
- 戦略立案や方向性の検討に使われることが多い
- 個人のキャリアの意思決定にも活用可能
使い方
- 内的要因: 自分(または組織)の強み(S)と弱み(W)
- 外的要因: 市場や環境などの機会(O)と脅威(T)
- 分析結果を掛け合わせて考える
- S×O:強みを活かしてチャンスをつかむ
- W×O:弱みを克服してチャンスを活かす
- S×T:強みで脅威を回避する
- W×T:最悪の事態を防ぐためにどうするか
具体的には、ChatGPTに「自分の強みや弱みを挙げ、それぞれが環境でどう活かせるか」という角度で質問して、文章として整理してもらうのも有効です。
6. その他の意思決定手法の例
- ペアワイズ比較(Paired Comparison)
選択肢を2つずつ比較し、どちらが優先度が高いかポイントを割り振ることで相対的な順位づけを行う。AHPの一部手法としても使われますが、AHPより単純化した形でも利用可能。 - Pros & Cons リスト
とてもシンプルですが、各選択肢の良い点(Pros)と悪い点(Cons)を箇条書きで整理するだけでも効果的です。素早く思考整理を行いたい際によく使われます。 - シナリオプランニング(Scenario Planning)
将来起こりうる複数のシナリオ(楽観的・中立的・悲観的など)を想定し、それぞれの場合のリスクとチャンスを分析する。長期的な意思決定や不確実性が高い状況に適している。 - KJ法(川喜田二郎が考案)
もともとアイデア整理の手法ですが、関連性の近い意見やデータをクラスタリングして全体像を把握する過程で、方向性の検討にも応用できます。 - デザイン思考
これも意思決定というより「問題発見から解決策の試作(プロトタイピング)までを反復する」方法論ですが、ユーザー視点で実際に試作と検証を繰り返すことで、最適な判断に近づいていくプロセスを重視しています。
まとめ
意思決定マトリックス(意思決定表)は、複数の評価軸と選択肢を定量化して比較しやすい優れた方法のひとつです。しかし、意思決定の種類や状況によっては、より詳細な手法・視覚化・発想支援・リスク分析など、他のフレームワークを組み合わせるほうが有用な場合も多々あります。
- 意思決定ツリーや期待値計算は、確率論やリスク・リターン分析が中心
- AHP(階層分析法)は、主観的評価をしっかりと数学化して扱いたいときに便利
- 2×2マトリックス(緊急度×重要度など)はシンプルで優先度の整理に適している
- Six Thinking Hatsでは、異なる思考スタイルをあえて意図的に取り入れ、多面的に検討
- SWOT分析は内的・外的要因から戦略の方向性を探る
- その他にもPros & Consリスト、ペアワイズ比較、シナリオプランニングなど多数
いずれの方法を使う場合も、定量的な要素(コスト、期待値、確率など)と定性的な要素(価値観、やりがい、将来ビジョンなど)の両方をバランスよく考慮することが大切です。また、ChatGPTやそのコードインタープリターを活用すれば、定量化や可視化、ヒントの提案などを効率的に行えるため、意思決定プロセスをより客観的かつスムーズに進めることができます。



