理由、原因、目的の違い

目的論的構造と因果律の建築学:「理由」「原因」「目的」の概念的境界と統合的連関

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序論:概念の解像度と認識の枠組み

人間の知的活動において、「理由(Reason)」「原因(Cause)」「目的(Purpose)」という三つの概念は、世界を理解し、他者とコミュニケーションを図り、自らの行為を正当化するための最も基礎的な構成要素である。これらは日常言語において頻繁に混同され、互換可能なものとして扱われる傾向がある。しかし、ビジネス、法学、哲学、そして科学の領域において、これらの概念の境界線が曖昧になることは、単なる語彙の問題に留まらず、意思決定の誤謬、論理の破綻、さらには実存的な危機の源泉となりうる。

本報告書は、言語哲学、認知科学、経営学、そして倫理学の知見を横断的に統合し、これら三つの概念、およびそれらに関連する「動機」「根拠」「意味」「価値」「手段」といった概念群を厳密に解剖するものである。本稿の目的は、辞書的な定義の羅列を超え、これらの概念がいかにして人間の思考プロセス(認知・判断・正当化)を形成し、社会的な合意形成や組織運営に影響を与えているかを体系的に明らかにすることにある。

分析は以下の構成で展開される。第1部では、過去と現在を繋ぐ因果の鎖としての「理由」と「原因」の決定的差異を、言語的・論理的側面から深掘りする。第2部では、未来への投企としての「目的」の本質と、それが「意図」や「目標」といかに区別されるかを論じる。第3部では、これらを統合する認知モデルとして「動機」から「価値」に至るプロセスを提示し、第4部では「手段の目的化」という病理と、倫理的・実存的な次元での応用を考察する。

第1部 因果と論理の連環:「理由」と「原因」の構造的差異と相互作用

過去に生起した事象や、現在の判断の根拠を問う際、我々は「なぜ(Why)」という問いを発する。この問いに対する応答として用意されるのが「理由」と「原因」である。両者は共に「結果」に対する「先行条件」としての性質を持つが、その認識論的な地位、適用される時間のベクトル、そして主体の介在の有無において根本的に異なる位相に存在している。

1.1 客観的物理連鎖としての「原因(Cause)」

「原因」という概念は、主として物理的、機械的な因果関係(Causality)を記述するために用いられる。それは「Aという現象がBという現象を引き起こした」という、客観的な事実関係を指し示すものであり、そこに人間の解釈や意志が入り込む余地は原則として排除されている1。この無機的な性質こそが、「原因」を科学的探求の中心概念足らしめている。自然科学の領域では、現象は「目的」ではなく「原因」によって説明される。宇宙の運行や化学反応において「なぜ」を問うことは、そのメカニズム(How implies Why)としての原因を特定することと同義である2

特筆すべきは、「原因」という言葉が持つ「不可逆性」と「否定性」の傾向である。言語的な用法の分析によれば、「原因」はしばしば、事故や災害、失敗といった「望ましくない結果(negative result)」の引き金として語られる傾向が極めて強い3。例えば、「大雪が原因で電車が遅れた」3という記述はあっても、「大雪が原因で電車が定刻通り到着した」という表現は不自然である。これは、正常な状態(定刻運行)からの逸脱(遅延)を説明するために、特定の因果の特定が求められるという人間の認知特性に起因していると考えられる。また、物理的な現象において、雪には電車を遅らせようとする「意志」は存在しない。このように、「原因」は人間の意図から独立した、外的な強制力や物理的なメカニズムを指す言葉として機能している2

1.2 主体的物語構築としての「理由(Reason)」

対照的に、「理由」は人間の精神活動の産物である。それは、ある行為や判断に至った経緯を、論理的かつ納得可能な形で再構成した「正当化(Justification)」の物語である1。その語源的背景を探ると、ギリシャ語の「ロゴス(logos)」やラテン語の「ラティオ(ratio)」に遡ることができ、これらは「理性」「計算」「論理」を意味する2。つまり、「理由」とは世界の中に受動的に発見されるものではなく、理性的精神によって能動的に構築され、計算され、言語化されるものである2

「理由」の最大の特徴は、その「主観的解釈」と「柔軟な適用性」にある。「理由」は、「ある一定の事実や資料に基づいて行われる主観的な解釈や推論」を内包する1。例えば「人を刺した理由は、腹が立ったから」1という供述において、怒りという感情と刺すという行為の間には、物理法則のような必然性はない。そこにあるのは、行為者の内面的な動機と、それを正当化しようとする論理的結合である。また、「原因」が否定的な文脈で用いられがちであるのに対し、「理由」は「優勝できた理由はチームワーク」3のように、肯定的な結果に対しても違和感なく適用される。これは、「理由」が単なる因果の記述ではなく、結果に対する「意味づけ」のプロセスであることを示唆している。

1.3 思考の方向性と論証への接続

「理由」と「原因」の違いは、思考のベクトル(方向性)にも顕著に現れる。「原因」の探求は、常に過去から現在への物理的な時間の流れに従う。事象A(過去)が事象B(現在)を引き起こすという時系列に沿った分析である。一方で、「理由」の構築は、しばしば結論(現在または未来の判断)から遡って前提を探るという、論理的な推論のプロセスを含む。

この違いは、他者を説得する論証の場面において決定的な意味を持つ。「理由」は、単なる事実の報告ではなく、他者(あるいは自己)に対して自らの行為や判断の妥当性を訴える「説得のツール」として機能する。しかし、単なる主観的な「理由」だけでは、説得力は脆弱である。ここで、客観性を担保するための「根拠」と、論理的飛躍を埋める「論拠」が登場し、三層構造を形成する1

論証の三層構造:理由、根拠、論拠

論理的なコミュニケーションにおいて、「理由」と「根拠」の混同は致命的である。「理由」は「思考の動機(なぜ私はそう考えたか)」であり、主観的なものである。対して「根拠」は「説明の証拠(なぜそれが正しいと言えるか)」であり、客観的な事実やデータでなければならない1。さらに、その根拠がなぜ主張を支えることになるのかという、推論のルールや原理を示すのが「論拠(Warrant)」である。

スティーヴン・トゥールミンの論証モデルを援用すれば、主張(Claim)を支えるために事実としての根拠(Data/Grounds)があり、その両者を結びつける正当化の原理として論拠(Warrant)が存在する1。例えば、「新薬を承認すべきだ(主張)」という判断に対し、「臨床試験で有効性が示されたから(根拠)」という事実を提示するだけでは不十分な場合がある。そこには「臨床試験で有効性が示された薬は承認されるべきである」という科学的・制度的な合意(論拠)が暗黙の前提として機能している。

以下の表は、これらの概念の構造的差異を整理したものである。

比較軸理由 (Reason)原因 (Cause)根拠 (Grounds)論拠 (Warrant)
核心的定義行為や判断に至った主観的な「わけ」・正当化の物語結果を引き起こした物理的・直接的な要因主張や理由を支える客観的な事実・データ・証拠根拠から主張を導く推論を正当化する一般法則・原理
主体の介在あり(理性的構築物)なし(物理的メカニズム)なし(客観的事実)あり(共有された合意)
時間のベクトル結論から前提への論理的遡及過去から現在への物理的進行現在に存在する証拠普遍的な原理(無時間的)
主な適用領域意思決定、倫理、動機づけ自然科学、事故分析、災害論証、法廷、科学的証明論理学、法解釈
言語的ニュアンス肯定的・否定的双方に使用可(正当化)否定的結果に多用される傾向(不可逆性)中立的中立的

このように、「理由」と「原因」は、現象を「物語」として理解するか、「メカニズム」として理解するかという、人間の認識の二つのモードに対応していると言える。

第2部 未来と意志の地平:「目的」と「意図」の階層構造と戦略的意義

「理由」と「原因」が「なぜそうなったのか(過去・起源)」を問う概念であるのに対し、「目的」はその視線を未来へと向ける。それは「何のためにそうするのか(未来・終局)」という問いであり、人間の意志が時間を超えて投影される場である。このセクションでは、「目的」の本質的定義と、それに関連する「意図」「目標」との厳密な区分、そして組織における戦略的意義を論じる。

2.1 テロスとしての「目的」:到達点の絶対性と外的志向

「目的(Purpose)」の概念的本質は、単なる予定や漠然とした願望ではなく、最終的に到達すべき「状態」や「終局」にある。日本語の「目的」という言葉は、「目(視線)」と「的(まと)」から構成されており、これは弓道における標的のように、外部に固定された到達点を視覚的に強く示唆している4

この概念は、哲学的にはアリストテレスの「テロス(telos)」に由来する。アリストテレスにおいて、テロスとは、ある存在がその自然本性によって目指す「究極的な終局」や「完成状態」を意味する5。種子が樹木になること、あるいは人間が幸福になることは、それぞれの存在に内在するテロス(目的)の実現過程として捉えられる。現代のビジネスや組織論の文脈においても、「目的」はこの哲学的伝統を受け継ぎ、最も抽象度が高く、長期的で定性的な「存在意義(Why)」を指す言葉として機能している5。それは「我々はなぜ存在するのか」「社会においてどのような状態を実現したいのか」という、根源的な問いへの答えである。

「目的」と頻繁に混同されるのが「意図(Intention)」であるが、両者の間には「外的志向」と「内的志向」という決定的な差異が存在する4。「意図」を構成する「意」と「図」は、心の中にある計画や企てを意味しており、これはあくまで行為者の内面(脳内の設計図)に留まるものである。対して「目的」は、その意図が向かう先にある、外部世界における実際の到達点(完成した建築物)を指す。「意図」が行為の始点に近い概念であるのに対し、「目的」は行為の終点に位置する概念であると言える。

2.2 目的・目標・方針・手段の階層的連関(Means-End Chain)

「目的」を頂点として、それを実現するための具体的な要素が階層的に配置される構造は「手段-目的連鎖(Means-End Chain)」と呼ばれる。この構造を理解し、各層の概念を正しく使い分けることは、組織運営やプロジェクト管理において不可欠である5。以下に、その階層構造を定義する。

レベル1:目的 (Purpose) – The “Why”

  • 定義: 最終的な到達点、理想の状態、組織や個人の存在意義。
  • 特徴: 定性的、長期的、抽象的。数値化が困難な場合が多い。
  • 例: 「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」(Googleの使命)、あるいは「顧客の創造」5

レベル2:目標 (Goal/Target) – The “What”

  • 定義: 目的を達成するために設定される、具体的で測定可能な中間指標。
  • 特徴: 定量的、中・短期的、具象的。達成基準(KPI)が明確である。
  • 関係性: 「目的」が「健康になること」であれば、「目標」は「体脂肪率を15%にする」「毎日1時間走る」となる4
  • 注意点: 資料によってはGoalとObjectiveの定義が逆転することもあるが、一般的に「目的(Purpose)」が最上位の抽象的概念、「目標(Goal)」がその具体的指標とされる5

レベル3:方針 (Policy) – The “Which”

  • 定義: 目的や目標を達成するために選択される、行動の方向性や指針。
  • 特徴: 具体的な手段(How)を選択する際の判断基準となる。「どの道筋を通るか」を示す。
  • 例: 「既存顧客との関係深化を優先する」「新規市場開拓に資源を集中する」5

レベル4:手段 (Means) – The “How”

  • 定義: 目的や目標を実現するために実行される具体的な方法、道具、行為。
  • 特徴: 目的との相関関係においてのみ定義される従属概念であり、代替可能である。
  • 例: 「アンケート調査の実施」「新システムの導入」「1on1ミーティングの開催」5

この階層構造において重要なのは、上位の概念が下位の概念を規定するという不可逆性である。「手段」は「目的」のために存在するのであり、その逆ではない。しかし、現実の組織ではこの関係が頻繁に逆転する現象が見られる。

2.3 病理としての「手段の目的化」

この階層構造(Means-End Chain)は、組織の機能維持に不可欠であるが、同時に深刻な病理を孕んでいる。それが「手段の目的化(Goal Displacement)」である。

この現象のメカニズムは、認知的な距離と評価システムの歪みに起因する。究極的な「目的(Why)」は抽象的であり、日々の業務からは遠い存在である。対して「手段(How)」や「目標(What)」は具体的であり、目の前のタスクとして存在し、測定が容易である。組織の評価システムが「測定可能なもの(定量的指標や実行回数)」を偏重するとき、人々は無意識のうちに「本来の目的」を忘れ、「手段の実行回数」や「当面の数値目標」自体を自己目的化させる錯覚に陥る5

具体的な事例として、「従業員満足度の向上(目的)」のために導入された「1on1ミーティング(手段)」が挙げられる。本来、ミーティングは満足度向上のためのツールに過ぎないが、いつしか「毎月実施すること」自体がノルマとなり、目的化してしまう。その結果、中身のない形式的なミーティングが繰り返され、かえって従業員の負担(満足度低下)を招くという本末転倒な事態が生じる5。また、より深刻な事例として、東芝の不祥事に見られるような「利益目標(Goal)」の絶対化がある。企業の存続意義である「社会への貢献(Purpose)」が忘れ去られ、短期的な数値目標の達成が至上命題となった結果、不正会計という破滅的な手段が選択された5

以下の表は、目的と関連概念の階層的差異を整理したものである。

階層レベル概念問い抽象度時間軸特徴・役割
L1 (最上位)目的 (Purpose)Why (なぜ)長期・恒久存在意義、理想状態、テロス
L2目標 (Goal)What (何を)中・短期測定可能な指標、到達点
L3方針 (Policy)Which (どの道)中・長期行動指針、選択の原則
L4意図 (Intention)How (企て)即時・短期具体的な行動の背後にある計画・論理
L5 (最下位)手段 (Means)How (道具/行為)短期具体的な実行行為、道具

第3部 統合的認知モデル:動機から価値への5段階プロセス

ここまで、「理由」「原因」「目的」といった概念を個別に分析してきたが、実際の人間の思考や意思決定のプロセスにおいては、これらの概念は断絶しているのではなく、一連の動的なフローとして統合されている。資料6に基づく「認知・正当化モデル」は、内面的な衝動がいかにして社会的な価値へと変換されるかというプロセスを鮮やかに描き出している。このモデルを理解することは、採用面接における志望動機の説明から、企業のパーパス経営に至るまで、あらゆるレベルのコミュニケーションにおいて極めて有効である。

3.1 思考と行動の5ステップ連関モデル

人間の行動は、真空の中で突如として発生するものではない。それは内的な衝動から始まり、外的な行動として現れ、論理的に正当化され、客観的に裏付けられ、最終的に意味と価値を評価されるという、以下の5つのステップを経る。

ステップ1:動機 (Motive/Cause) — 内的な点火

全ての行動の起点は、論理以前の心理的・内発的な衝動である。これを「動機」と呼ぶ。動機は「なぜ行動するのか」という問いに対する、極めて個人的かつ直接的な原因(Cause)である。それは「もっと稼ぎたい」「この製品が好きだ」「知的好奇心が刺激された」といった、個人の内面に湧き上がるエネルギーであり、その矢印は常に「自分」に向いている6。動機そのものには、必ずしも他者を説得する論理的整合性は求められない。それは生の事実としての心理状態である。

ステップ2:行動/判断 (Action/Judgment) — 事象の発生

動機というエネルギーに突き動かされ、あるいは外部からの刺激に反応して、具体的な行動や意思決定がなされる。例えば、「転職サイトに登録する」「特定の企業に応募する」といった行為である。

ステップ3:理由 (Reason) — 論理的構築と正当化

行動が発生した後、あるいは行動を決定する過程で、その行為を他者(あるいは理性的な自己)に対して説明する必要が生じる。ここで構築されるのが「理由」である。ステップ1の「動機」が「自分」に向いた個人的なものであったのに対し、「理由」はその矢印を「相手(社会)」に向けている6。

このステップは、個人的な「動機」を、普遍性のある「論理」へと翻訳するプロセスと言える。例えば、就職面接において「給料が良いから(動機)」とそのまま答えることは稀である。候補者はこの動機を、「御社の成果主義に基づいた評価制度の中で、自身の能力を最大限に発揮し貢献したい(理由)」という、組織の利益と合致する論理的な説明へと再構築する6。この「翻訳」能力こそが、社会的な知性の核心である。

ステップ4:根拠 (Grounds) — 客観的証明

構築された「理由」がいかに論理的であっても、それが単なる主観的な思い込み(〜という気がする)であっては説得力を持たない。そこで、その理由が事実に基づいていることを証明するために、客観的なデータや事実としての「根拠」が収集・提示される6。

「御社の将来性に惹かれた(理由)」と述べるならば、それを支える「過去5年間の売上成長率のデータ」や「新規事業の市場シェア(根拠)」が必要となる。理由が「思考の骨格」であるならば、根拠はそれを支える「コンクリートの土台」である。

ステップ5:意味 (Meaning) と 価値 (Value) — 解釈と評価

一連のプロセス全体、あるいはその結果としての行動に対し、事後的に、あるいは並行して高次の認知が行われる。ここで「意味」と「価値」という二つの異なる評価軸が登場する。

  • 意味 (Meaning): 解釈の軸(What is it?)
    「これは何を指すのか?」「どのような文脈にあるのか?」という解釈である。「意味」は前方方向への志向性を持ち、意図や目的の理解に関わる6。例えば、「この会議の『意味』は何か?」という問いは、その会議が何の目的で開催され、プロジェクト全体の中でどのような位置づけにあるのかを問うている。目的が不明確な会議は「意味がない」と判断される。
  • 価値 (Value): 評価の軸(How good is it?)
    「これはどれだけ役立つか?」「どれだけ重要か?」という評価である。「価値」は後方方向への判断であり、有用性や重要性の査定に関わる6。会議の目的(意味)は明確であっても、議論が紛糾して何も決まらなかった場合、その会議は「価値がない(有用性が低い)」と判断される。

この「意味」と「価値」の区別は、実存的な問いにおいても重要である。人生の「意味(目的)」が見つからなくても、日々の瞬間に「価値(喜びや有用性)」を感じることは可能かもしれない。逆に、社会的に高い「価値」を生み出していても、本人にとっての「意味」が欠落している場合、燃え尽き症候群に陥る可能性がある。

以下に、この統合的モデルを表形式で示す。

ステップ概念機能矢印の方向キーワード実例(転職活動)
1動機 (Motive)行動の心理的起点内向き (自分)欲求、衝動、Cause「もっと高い給料が欲しい」
2行動 (Action)具体的事象の発生実行、決断「A社に応募する」
3理由 (Reason)社会的・論理的正当化外向き (相手)論理、説明、Justification「御社の成果主義の環境で貢献したい」
4根拠 (Grounds)客観的な裏付け外向き (客観)データ、事実、Evidence「A社は業界No.1の成長率であり…」
5意味/価値解釈と評価メタ認知解釈(Meaning)、評価(Value)「この転職はキャリアの転換点(意味)であり、年収増(価値)をもたらす」

第4部 哲学的・実存的領域:「意味」と「理由」の深層と倫理

最後に、これらの概念分析を、ビジネスや論理の領域から、人間の生(Life)という実存的・倫理的な領域へと拡張する。「人生の意味」や「生きる理由」という問い、あるいは「目的のために手段を選ばない」という倫理的ジレンマにおいて、これまで論じてきた区別は決定的な重要性を持つ。

4.1 発見される「意味」 vs 構築される「理由」:ニヒリズムの超克

「人生に意味はないが、理由を持てる」という命題は、現代におけるニヒリズム(虚無主義)を超克するための強力な哲学的ツールとなる2

「意味(Meaning)」という言葉は、語源的に「内在的価値」や「本質」を示唆する。それは探求によって「発見されるべきもの」というニュアンスを持つ。しかし、科学的・機械論的な宇宙観(宇宙論的ニヒリズム)において、人生にあらかじめ埋め込まれた客観的な「意味」や、宇宙全体を貫く「目的(テロス)」が存在するという証拠は見当たらない。伝統的な宗教的物語が後退した現代において、「人生の意味」を探し求めようとすることは、存在しない宝を探すような徒労に終わり、絶望(受動的ニヒリズム)へと繋がるリスクがある2

一方で、「理由(Reason)」は、第1部で論じたように、ロゴス(理性)による「計算」や「構築」である。それは外部に発見されるものではなく、主体が自ら「創り出す」ものである2。人間は、客観的な「人生の意味」を発見できずとも、主観的な「生きる理由」を自らの意志で構築し、物語ることはできる。「家族を守るため」「この研究を完成させるため」「ただ美味しいコーヒーを飲むため」――これらは発見された宇宙の真理ではないが、個人が生きるための強固な「理由」となりうる。この概念的な移行こそが、受動的な絶望から能動的な創造(能動的ニヒリズム)への転換を可能にする。

4.2 倫理的制約:カントの定言命法と手段の尊厳

「目的」の追求において、「手段」はいかに扱われるべきか。これは効率性の問題を超え、倫理学の根本問題となる5。東芝の事例のように、目的(利益)のために不正な手段が正当化される論理は、倫理学的には「帰結主義(Consequentialism)」あるいは「功利主義」の極端な形態とみなすことができる。「終わり(目的・結果)良ければすべて良し」という考え方である。

これに対し、イマヌエル・カントの義務論は、手段と目的の関係に絶対的な倫理的制約を課す。カントの「定言命法」は次のように命じる。「あなたのの人格や他のあらゆる人の人格における人間性を、単に手段としてのみ (merely as a means) 扱わず、常に同時に目的それ自体として (as an end in itself) 扱うように行為せよ」5

この命題は、他人を手段として利用すること自体を禁じているのではない。社会生活は、店員、医師、教師など、互いにサービスを提供し合う(手段として利用し合う)ことで成立している。カントが禁じたのは、「単に手段としてのみ」扱うことである。相手の同意を無視し、尊厳を踏みにじり、単なる道具として使い捨てることは、いかに高尚な「目的」のためであっても許されない。

ビジネスや組織において、「目的(Purpose)」や「目標(Goal)」を追求することは正当である。しかし、その過程で従業員や取引先を単なる「調整弁(手段)」としてのみ扱い、彼らの人間としての尊厳(目的としての価値)を無視することは、倫理的に許容されない。効率的な「手段」の選択は、常にこの「人間を目的として扱う」という倫理的制約の下に置かれなければならない。これが、目的論と倫理学が交差する最重要地点である。

結論:概念の区別がもたらす知的強靭さ

本報告書の分析を通じて、「理由」「原因」「目的」という三つの概念、およびそれらを取り巻く関連概念は、以下のように明確に定義づけられ、体系化された。

  1. 原因 (Cause): 過去から現在への物理的・機械的な因果連鎖。主体性は希薄であり、しばしば否定的な事象の起源を指す客観的事実である。
  2. 理由 (Reason): 主体によって構築された、過去・現在・未来を繋ぐ論理的な正当化の物語。個人的な「動機」を普遍的な説明へと昇華させ、客観的な「根拠」によって支えられることで、社会的合意形成の基盤となる。
  3. 目的 (Purpose): 未来の地点に設定された究極的な到達点・理想状態(テロス)。それは「目標(What)」や「手段(How)」の上位に位置し、それらを統御する羅針盤であるが、認知的な錯覚によって「手段の目的化」という病理を引き起こすリスクも孕むため、絶えざる再確認が必要である。

これらを厳密に使い分ける能力は、単なる言語的正確さを超える価値を持つ。それは、自らの感情的動機を論理的に説明する力(理由)、手段に埋没せず本質を見失わない力(目的)、そして客観的な事実に基づいて議論する力(根拠)を意味する。不確実性が高く、価値観が多様化する現代社会において、この概念的解像度の高さこそが、個人と組織の知的強靭さ(Resilience)を支える基盤となるのである。

引用文献

  1. 論拠・理由・根拠の違いと関係, https://drive.google.com/open?id=1RACqStn9qBrM5s9iSEX0hb_yVRIcVRw9xbXowiw1l80
  2. 意味と理由:人生の探求, https://drive.google.com/open?id=1V5NCGAKAHeKsvr9sUaIP1IF3UMSDS7NsZAHoD7ctWMQ
  3. 第16回 「理由」と「原因」の違いが、よくわかりません。 – ARC …,  https://arc.ac.jp/Tokyo/mimi-bunpou016/
  4. 意図と目的の違いを解説, https://drive.google.com/open?id=1kqFGYy5aZAjyCLORBZR_aArt3NjKZDvjgmeaZxIceDk
  5. 目的と手段の関係性探求, https://drive.google.com/open?id=1_lKrsPKnp5mz61hAqUCfCSXo8Hfv5-IYdNCg-Rgzc5Y
  6. 意味、理由、根拠、価値、動機の違い, https://drive.google.com/open?id=1gIPwbwfolprxYnyiGtK3OIYxin1SN_62FKlEN9nv8Yc
  7. 意味と理由:人生の探求, https://drive.google.com/open?id=1eJuXd9khbFsv1gHD7Q18fdu-BgwQnUlYbs8MmP-bn34