象形文字と絵文字の違い

象形文字と絵文字:言語体系と記号群の比較言語学・記号論的分析

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序章:視覚的記号の再考 — 「古代の絵文字」という誤解の解体

現代のデジタルコミュニケーションにおいて、「絵文字(Emoji)は現代のヒエログリフ(象形文字)か?」という問いは、頻繁に投げかけられる魅力的な比較である 1。どちらも一見すると、対象物を「絵」で表現しているように見えるため、この類推は直感的に理解しやすい 2

しかし、この表面的な類似性は、両者の間に横たわる決定的かつ本質的な差異を覆い隠す「誤解」を生み出す危険性を孕んでいる。本レポートの目的は、この一般的に流布する見解を学術的に解体することにある。一方は数千年にわたり、一つの文明が用いた「完全な言語体系」の書記法であり 1、もう一方はグローバルなデジタルコミュニケーションを補完するために設計された「記号群」である 3。本稿は、この二つの異なる記号システムが持つ「異同」を、言語学、記号論、そしてそれぞれの発生史の観点から徹底的に比較分析する。

この比較が(学術的には誤りであるにもかかわらず)これほどまでに持続的に語られること自体が、現代社会の重要な文化的現象を示している。そこには、現代の瞬時的(Ephemeral)なデジタルコミュニケーションを、古代の永続的(Permanent)な書記体系の権威に結びつけたいという無意識の欲求が介在している可能性がある。しかし、この安易な類推は、ヒエログリフが持つ「言語としての複雑性」 1 を著しく単純化し、同時に絵文字が持つ「非言語的補完機能」 3 という本来の革新的な役割を見誤らせる。

したがって、本レポートの責務は、この魅力的な「神話」を解体し、両者をそれぞれの正しい文脈(言語史とコミュニケーション技術史)に厳密に位置づけ直すことにある。本稿は、第1部で両者の言語的地位(「言語」か「非言語」か)の決定的差異を、第2部でそれぞれの起源と発展の目的論的対比を、第3部で記号としての解釈の安定性(あるいは曖昧性)を論じる。

第1部:言語体系(Language) vs. 非言語的記号群(Paralanguage)— 決定的差異

本部は、ヒエログリフがなぜ「言語」であり、絵文字がなぜ「言語ではない」のかを、その内部構造の分析を通じて論証する。

1.1. ヒエログリフ:完全な言語の書記体系

ヒエログリフ(エジプト聖刻文字)は、単なる「絵の集まり」ではなく、古代エジプト語という特定の自然言語を、その文法、構文、語彙、音韻のすべてにわたって記述可能であった「完全な書記体系」である 1。その複雑性は、各記号が文脈に応じて複数の機能を果たした点に集約される 1

  1. 表語文字 (Logogram): 記号が、それが描く対象(または関連する概念)の「単語」そのものを表す機能。例えば、太陽の絵が「太陽」という単語を意味する場合である。ただし、ヒエログリフが表語文字のみで成り立つという見解は誤りである 4
  2. 表音文字 (Phonogram): 記号が、特定の「音」(通常は子音)を表す機能。これがヒエログリフの言語的機能の中核である。例えば、「手」の記号が、それ自体の意味とは無関係に、英語の「D」に相当する音(厳密には子音 /d/)を表す表音文字として機能した 1
  3. 音声補充 (Phonetic Complements): 表語文字として使われる記号に、その読み方を明示するために表音文字を添える機能 4

ヒエログリフが単なる絵記号ではなく、高度な言語体系であることの最大の証左は、「限定符(Determinatives)」の体系的な使用にある 4。限定符は、単語の末尾に付け加えられる記号であり、それ自体は発音されないという点で特異である 4。その機能は高度にメタ言語的であった。

第一に、限定符は「意味範疇の明示」を行った。先行する表音文字の並びが、どのような意味カテゴリ(例:「神々」「人間」「動作」「抽象概念」)に属するかを示した。

第二に、限定符は「同音異義語の区別」という決定的な役割を果たした 4。同音異義語が存在するという事実自体が、この体系が「音」を表記している(=表音的である)ことの動かぬ証拠である。もしヒエログリフが純粋な絵文字(ピクトグラム)であれば、「犬」の絵は常に「犬」を意味し、同音異義語の問題は発生しない。しかし、エジプト語の書記は表音的であったため、「同じ音」で「異なる意味」を持つ複数の単語(例:音が同じ「書く」と「王」)を書き分ける必要が生じた。書記官は、発音されず、意味カテゴリのみを付加する「限定符」を用いることで、この曖昧さを体系的に解消した。これは、「今、表音文字で書かれたこの単語は、『抽象概念』のカテゴリに属する」と読者に伝える、スクリプト内の「注釈」機能に他ならない。

第三に、語間を空けずに連続して記述するエジプト語の文章において、限定符は単語の終わりを示す「単語分割線」としても機能した 4

このように、ヒエログリフの体系は、「曖昧さの発生を予測し、それを体系的に解消する」という高度なメタ言語的機能を内部に備えていた。これこそが、記号の集まりが「言語体系」へと進化した決定的な証拠である。

1.2. 絵文字:既存言語を補完する記号群(パラランゲージ)

対照的に、絵文字(Unicode Emoji)は「言語」ではない 5。それ自体では文法体系(時制、格、法など)を持たず 7、特定の言語(例:日本語、英語)の音価にも対応していない 5。言語学的には、絵文字は「ピクトグラム(絵記号)」または「イデオグラム(表意文字)」に分類される 2

絵文字の真の機能は、「パラランゲージ(Paralanguage)=準言語」の可視化にある。

第一の機能は、「非言語的情報の補完」である。メール、チャット、SNSといったテキストベースのコミュニケーション(Computer-Mediated Communication, CMC)では、対面コミュニケーションに存在する表情、声のトーン、ジェスチャーといった非言語情報が決定的に欠如する 3。絵文字の使用は、このCMCにおける非言語情報の不足を解決するための代表的な対策の一つとして登場した 3

第二の機能は、「感情の伝達」である。絵文字は、使用者のパーソナリティー、感情的状態、態度などに対する印象形成を助け、感情を伝達する頼もしい手段として機能する 3。研究によれば、絵文字は人間の「表情」が感情伝達するプロセスと類似した機能を持ち、顔の認識プロセスを省略しても感情伝達が可能であることが示唆されている 3

絵文字が言語ではない証拠は、その使用法に明確に表れている 7。例えば、「😂」(嬉し泣き)の絵文字を一つ使用すると「面白い」という感情を示す。これを「😂😂😂」と反復使用した場合、そこに文法的な意味(例:「面白かった」という過去形や、「面白い人々」という複数形)は生まれない。この反復は、単に「非常に面白い」という「強調(Emphasis)」の機能しか持たない 7。これは言語の文法規則ではなく、感情表現の強弱(パラランゲージ)の領域に属する行為である。

したがって、絵文字は「言語」を置き換えるものではなく、テキスト化によって失われた「非言語的要素」を取り戻すための「補完的」記号群である。対面会話において、言語(言葉)と非言語(表情)が同時に機能し、後者が前者の意味を修飾する(例:「ありがとう」という言葉+笑顔/無表情)。テキストコミュニケーションにおいて、「ありがとう」というテキスト(言語)に「😊」(絵文字/非言語)を付加する行為は、この対面会話の構造をデジタル上で再現しようとする試みである。

結論として、絵文字は、ヒエログリフのように「言語そのものを書記する」 1 のとは対極的に、「言語(テキスト)の意味を修飾する」 3 という、本質的に異なる(そして補完的な)役割を担っている。

表1:ヒエログリフと絵文字の機能的・構造的比較対照表

特徴ヒエログリフ(古代エジプト文字)絵文字(Unicode Emoji)
基本的分類完全な書記体系(Logographic-Consonantal System) 1補完的記号群(ピクトグラム / イデオグラム) 2
音価(表音性)あり(子音を表す表音文字として機能) 1なし(音価とは独立して機能)
文法・構文機能あり(古代エジプト語の文法・構文を完全に記述可能) 1なし(それ自体では文法を構成しない) 7
記号の組み合わせ文法規則に従う(例:音声補充、限定符の付加) 4文法規則に従わない(例:反復による「強調」) 7
曖昧性排除体系的に行う(限定符による同音異義語の区別) 4行わない(解釈の曖昧性が本質的に内在) 8
主な機能言語の記録と永続化 4非言語情報(感情・ニュアンス)の伝達と補完 3
自立性自立している(単独で完全なテキストを構成)依存している(主たる言語(テキスト)を補完)

第2部:起源と発展の軌跡 — 目的論的対比

本部は、両者が「なぜ」生まれ、「どのように」発展したか、その目的と歴史的文脈が根本的に異なることを明らかにする。

2.1. 「神々の言葉」の永続化:ヒエログリフの発生と文脈

ヒエログリフ(聖刻文字)の発生の目的は、その原語が「神々の言葉」を意味することに象徴されるように 5、神聖性と永続性にあった。

その主な使用文脈は、極めて限定的かつ公的なものであった 9

  1. 宗教的文脈: 神殿の壁面や、神々への讃歌(例:トトメス3世のアメン大神殿への奉納石碑) 4
  2. 記念碑的文脈: ファラオの軍事的偉業や勅令を記録する公的な石碑 4
  3. 来世的文脈: 墓の内部や「死者の書」など、永続性(Eternity)を確保し、来世に情報を伝えるための記録 1

これらの目的から、書記媒体は主に石材であり、時間をかけて精緻に「刻む」ことを前提とした、装飾的で儀礼的な書体であった 9

しかし、この神聖な文字体系は、数千年にわたる使用の中で、より実用的な書体へと変遷した 9。この変遷は、「言語」の変化ではなく、「書記媒体」と「社会的必要性」に応じた「書体(スクリプト)」の機能分化であった。

  1. ヒエラティック(神官文字):
  • 概要: ヒエログリフの筆記体(Cursive)バージョンであり、紀元前3千年紀から存在する 10
  • 媒体: 主にパピルスに、インクと葦のブラシで書かれた 10
  • 目的: ヒエログリフの装飾性を簡略化し、書記速度を上げた。宗教文書、文学、行政文書など、より広範な用途で使用された 10
  1. デモティック(民衆文字):
  • 概要: 紀元前650年頃、ナイルデルタ地方のヒエラティックからさらに発展した、より簡略化された筆記体 10
  • 目的: エジプト社会の「大衆(Popular)」 11 の書記体系となり、プトレマイオス朝時代には公式な行政、法律、商業文書の標準となった 11
  • 結果: デモティックの登場により、従来のヒエログリフやヒエラティックは、主に神聖な宗教的テキストや文学作品専用の「古風な」書体として使い分けられるようになった 11

このヒエログリフ、ヒエラティック、デモティックという3つの書体は、すべて同じ「古代エジプト語」という言語を記述していた 12。この発展は「書記の効率化」と「適応」の歴史であり、石に刻むための「永続的な書体」と、パピルスに日常的に書くための「効率的な書体」が、社会の異なるニーズに応じて並存・発展した、古代エジプトの高度な「書記文化(Literate Culture)」の証左である。

2.2. デジタル情報と感情の可視化:絵文字の誕生

絵文字は、古代の神殿ではなく、1990年代の日本のモバイル技術という、まったく異なる文脈で誕生した。

開発者と時期: 1999年、NTTドコモの栗田穣崇氏によって、i-modeサービス向けに設計された 13

技術的制約: そのデザインは、12×12ピクセルという極めて小さなグリッド内で行われた 13。これは、永続性(ヒエログリフ)とは対極にある、データ量と表示速度の「効率性」を最優先した結果であった。

当初の目的(二重性): 栗田氏の当初の目的は二重であった 14

  1. 情報サービス(主目的): i-modeが提供する情報サービス(天気予報、ATM、コンビニの場所など)を、文字(テキスト)よりも直感的に示すための「アイコン」としての役割。これが開発の主要な動機であった 14
  2. 感情表現(副目的): ユーザー間のメッセージングにおける感情的ニュアンスの伝達。しかし、ニューヨーク近代美術館(MoMA)が収蔵したオリジナルの176種のセットに含まれる「顔」の記号は、わずか5種類(喜、怒、哀、落胆、めまい)に過ぎなかった 13

絵文字のその後の歴史は、当初の「情報アイコン」としての目的が、ユーザーの「感情表現」への要求によって乗っ取られ、逆転した歴史である。14 が示すように、このわずか5種類の顔の絵文字が「絶大な人気を博した (enormously popular)」ことが、絵文字の進化の方向性を決定づけた。ユーザーは「ATM」の記号よりも「笑顔」の記号を求めたのである。

発展(グローバル標準化):

当初は日本国内の特定キャリア(ドコモ)の独自規格であった絵文字は、その有用性から、Google(2007年)やApple(2009年)によって国際標準化が提案された 15。

2010年、Unicodeコンソーシアムは「Unicode 6.0」で絵文字を正式に採用した 15。Unicodeコンソーシアムは、絵文字を「文字コード」として管理・標準化する団体となった 15。

この標準化のプロセスが、後の「解釈の曖昧さ」(第3部)の直接的な原因となった。Unicodeは「文字コード」の標準であり、彼らが標準化したのは、絵文字の「具体的なグラフィックデザイン」ではなかった。標準化されたのは、あくまで「U+1F600 = 😀 (Grinning Face)」のように、コードポイント(番号)と名前(CLDR Short Name) 15 で定義された「概念」であった。

この「概念」と「実体(デザイン)」の分離が、Appleの「😀」とGoogleの「😀」が微妙に異なるデザインを持つという事態を生み、プラットフォーム間で解釈の齟齬 8 を引き起こす技術的な根源となったのである。

第3部:解釈の安定性 vs. 変動性 — 記号の曖昧さをめぐる考察

本部は、ヒエログリフが「意味の安定性」を追求した体系であるのに対し、絵文字が本質的に「解釈の変動性(曖昧さ)」を内包する記号群であることを、具体的な事例と共に分析する。

3.1. 絵文字における解釈の多様性と曖昧さ

絵文字は、第1部で論じたように「パラランゲージ」であるため、それ自体が持つ意味は固定されておらず、文脈に強く依存する。この本質的な曖昧さ 8 は、複数の要因によって増幅される。

要因1:文化的文脈依存

記号、特にジェスチャーが持つ意味は、文化圏によって全く異なる。絵文字は、この文化的差異をそのまま引き継いでいる。

  • 具体例「🙏」(Folded Hands):
  • Unicode名: “Person With Folded Hands”(合掌する人) 8
  • 日本文化: 「合掌」のジェスチャー。「お願い」「ありがとう」といった感謝や依頼を意味する 8
  • 欧米文化: 「祈り (Prayer)」のジェスチャー。宗教的な文脈(神への祈り) 18 だけでなく、世俗的な文脈(「(切実に)願う」「上手くいきますように」)でも多用される 20
  • 誤解(フォーク・セオリー): 「ハイファイブ (High Five)」 8。これは、絵文字のデザインと「ハイファイブ」の絵文字が欲しいというユーザーの願望が組み合わさって生まれた、広く流布した「俗説(Urban Legend)」である 16

要因2:プラットフォーム(OS)間のデザイン差

前述の通り、Unicodeは「概念」を標準化するだけで、実際のデザインは各ベンダー(Apple, Google, Samsung, Microsoftなど)に委ねられている 8。このデザインの違いが、送信者と受信者の間で深刻な「解釈の齟齬」を生み出す 8。有名な例として、初期のAppleの「ピストル」絵文字(リアルな拳銃)と他社の「水鉄砲」絵文字(おもちゃ)は、同じ「U+1F52B」のコードポイントを持ちながら、全く異なるニュアンス(脅迫と冗談)を伝えてしまう問題があった。

要因3:意味の派生と文化的再割り当て

絵文字は、その本来の(Unicodeが意図した)意味から離れ、特定のコミュニティ内で全く新しい意味が付与されることがある(Semantic Drift)。

  • 具体例「💅」(Nail Polish):
  • Unicode名: U+1F485 💅 NAIL POLISH(マニキュア) 7
  • 派生した意味(英語圏): 本来の意味とは無関係に、「気にも留めない素晴らしさ (non-caring fabulousness)」「アンチを黙らせる」「達成感」といった、自信に満ちた態度や皮肉なニュアンスを示す記号として再割り当てされている 7

この絵文字の「曖昧さ」は、システムの「欠陥」ではなく、それがパラランゲージとして機能するための「必要条件」であると分析できる。言語(テキスト)が「何を言ったか」というデノテーション(明示的意味)を正確に伝えるのに対し、パラランゲージ(絵文字)は「どのように言ったか」というコノテーション(含意的意味)を伝える。

ニュアンス(例:「皮肉」「fabulousness」)は、本質的に曖昧で、文脈やコミュニティに依存するものである。もし「🙏」の意味が「祈り」に固定されていたら、「ありがとう」や「お願い」のニュアンスでは使えなくなり、その表現力は著しく低下する。したがって、絵文字は「普遍的な言語」 8 を目指しているのではなく、その逆で、意図的に「曖昧さ」の余地を残すことで、テキストだけでは伝わらない繊細な、あるいは文化固有のニュアンスをユーザーが(時に誤解のリスクを冒しながら)表現できるようにするツールなのである。

3.2. ヒエログリフにおける意味の固定化

ヒエログリフのシステムは、絵文字とは対照的に、「曖昧さ」を体系的に「排除」し、「意味を固定化」するために進化してきた。

この機能の中心を担ったのが、第1部で論じた「限定符 (Determinatives)」である 4。書記官は、まず単語を「音」として表音文字で書き出した。次に、その「音」が持つ複数の意味の可能性を排除するため、最後に「限定符」を付加した 4。例えば、同じ音の並びでも、最後に「巻物(📜)」の限定符を付ければ「抽象概念」を、「歩く足(Λ)」の限定符を付ければ「動作」を、「神( ngồi )」の限定符を付ければ「神聖なもの」を意味することを、読者に正確に伝えた。

このシステムの目的は、神殿や墓に刻む「神々の言葉」 5 や公的記録 4 が、数千年後(永続性)に、あるいは異なる文脈(行政)で、誤って解釈されることがないよう、「意味の安定性」を最大限に確保することであった。

3.3. 考察:「ピクトグラム」としての共通基盤

これまでの議論で、両者の本質的な違いは明確になった。しかし、なぜこれほどまでに混同されるのか。その答えは、「ピクトグラム」という共通の(ただし表層的な)基盤と、日本語の「絵文字」という言葉の多義性にある。

日本語の「絵文字(えもじ)」という言葉は、本稿が主に対象としてきたUnicode Emojiよりも、はるかに広範な概念を指す 23

  1. ピクトグラム (Pictogram): 道路標識、空港や駅の案内表示、オリンピックの競技シンボルなど 23。これらも「絵文字」と呼ばれることがある 23
  2. アイコン (Icon): 説明書やソフトウェアの操作アイコン 23
  3. Unicode Emoji: 携帯電話などで使われる記号。

道路標識などのピクトグラムは、言語(日本語、英語など)に依存せず、「即時的」かつ「国際的」に情報を伝達するために、対象を極度に「単純化」したデザインを採用する 23

第2部で見たように、栗田氏がi-modeで開発した「絵文字」 14 は、その当初の目的(「ATM」「コンビニ」)において、明らかにこの「ピクトグラム」 23 の系譜に属していた。

ここが両者の共通点と分岐点である。

  • 共通点: ヒエログリフも絵文字(Unicode Emoji)も、その起源(あるいは一部の機能)において、「対象の視覚的イメージ(絵)」を記号化する「ピクトグラム」的側面を持っている。
  • 分岐点: ヒエログリフは、そのピクトグラム的起源から出発し、「音価」 1 と「限定符」 4 を獲得することで、「言語を記述する」複雑な書記体系へと進化した。一方、絵文字は、ピクトグラム的起源(情報アイコン)から、「感情を表現する」パラランゲージへと進化した。

結論:体系的言語と補完的記号 — 類似した外観、決定的に異なる本質

本レポートは、「象形文字(ヒエログリフ)」と「絵文字(Emoji)」の異同について、言語学、記号論、技術史の観点から詳細な比較分析を行った。導き出される結論は以下の通りである。

  1. 本質的差異(言語 vs. 非言語):
  • ヒエログリフは、「言語」である。古代エジプト語を音、文法、意味の全てにおいて記述する、自己完結した複雑な書記体系である 1。その複雑性は、音を表す「表音文字」と、意味の曖昧性を排除する「限定符」の体系的な使用に象徴される 4
  • 絵文字は、「言語」ではない。既存の言語(テキスト)に付随し、テキストでは失われる感情、ニュアンス、表情といった「非言語的情報(パラランゲージ)」を補完する記号群である 3。それ自体は文法を持たず、その使用法(例:反復による強調)も言語的ではない 7
  1. 目的論的差異(永続性 vs. 瞬時性):
  • ヒエログリフは、「永続性」と「神聖性」のために生まれた 5。石に刻まれ、神とファラオの言葉を永遠に記録することを目的とし、そのために「意味の安定性」を追求した 4
  • 絵文字は、「瞬時性」と「効率性」のために生まれた 14。デジタルの制約(12×12ピクセル)の中で、情報を即座に伝え 14、感情を補完する 3 ことを目的とし、そのために「解釈の柔軟性(曖昧さ)」を許容している 7
  1. 異同の総括:
  • 両者の「同(類似点)」は、その起源と外観が「視覚的な絵(ピクトグラム)」にあるという、表層的な点にのみ存在する。
  • 両者の「異(相違点)」は、その機能、構造、目的に関する、本質的な点(言語体系か、非言語的補完か)にある。

「絵文字は現代のヒエログリフか?」という冒頭の問いへの最終的な回答は、明確に「否」である。

ヒエログリフを「古代の絵文字」と呼ぶことは、数千年にわたる人類の知性の結晶である「言語の書記体系」を、単なる絵の集まりへと不当に単純化する行為である。

同時に、絵文字を「新しい言語」と呼ぶことは、デジタル時代における人間の感情的コミュニケーションを支える「パラランゲージの補完」という、その真に革新的な役割を見誤るものである。両者は、人類のコミュニケーション史において、異なる時代に、全く異なる課題を解決するために生み出された、決定的に異なる記号システムなのである。

引用文献

  1. Hieroglyphs: Emojis of the Ancient World? Not Quite – Planet Word Museum,  https://planetwordmuseum.org/hieroglyphs-emojis-of-the-ancient-world-not-quite/
  2. Are emojis the hieroglyphics of the 21st century? | UCL Researchers in Museums,  https://blogs.ucl.ac.uk/researchers-in-museums/2017/11/07/are-emojis-the-hieroglyphics-of-the-21st-century/
  3. メディアコミュニケーションにおける非言語情報 … – OPAC – 千葉大学,  https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/102179/YAA_0013.pdf
  4. エジプト聖刻文字 英 Egyptian hieroglyph(ic) – 世界の文字,  https://www.chikyukotobamura.org/muse/wr_africa_16.html
  5. Emoji vs. Hieroglyphs: A primitive form of language? | by Una Sometimes | Beluga-team,  https://medium.com/beluga-team/emoji-vs-hieroglyphs-a-primitive-form-of-language-a228f52e4bc2
  6. Emoji aren’t the future of language – TheNextWeb,  https://thenextweb.com/news/enoji
  7. Emoji – Wikipedia,  https://en.wikipedia.org/wiki/Emoji
  8. Emojipedia.org – Hacker News,  https://news.ycombinator.com/item?id=14192566
  9. Egyptian hieroglyphs – Wikipedia,  https://en.wikipedia.org/wiki/Egyptian_hieroglyphs
  10. Hieratic – Wikipedia,  https://en.wikipedia.org/wiki/Hieratic
  11. Demotic (Egyptian) – Wikipedia,  https://en.wikipedia.org/wiki/Demotic_(Egyptian)
  12. Egyptian language – Wikipedia,  https://en.wikipedia.org/wiki/Egyptian_language
  13. MoMA ♥ Emoji – MoMA through Time,  https://www.moma.org/interactives/moma_through_time/2010/acquisition-of-and-emoji/
  14. One on One: Shigetaka Kurita’s Emoji | Magazine – MoMA,  https://www.moma.org/magazine/articles/998
  15. 知っておきたい!絵文字のUnicode入力方法と一覧表,  https://naoq.net/p1439
  16. What Does The Folded Hands Emoji Mean? [Emojiology],  https://blog.emojipedia.org/emojiology-folded-hands/
  17. The True Meaning Behind Each Hand Emoji – Bustle,  https://www.bustle.com/life/92678-what-do-all-the-hand-emojis-mean-or-how-to-know-when-to-use-prayer-hands
  18. What’s the meaning of imoji two hands together mean 🙏? – Quora,  https://www.quora.com/Whats-the-meaning-of-imoji-two-hands-together-mean
  19. Does the “praying hands” emoji mean praying or begging/pleading ? : r/NoStupidQuestions – Reddit,  https://www.reddit.com/r/NoStupidQuestions/comments/157ns4o/does_the_praying_hands_emoji_mean_praying_or/
  20. Folded Hands emoji Meaning – Dictionary.com,  https://www.dictionary.com/e/emoji/folded-hands-emoji/
  21. IamA Jeremy Burge and I run Emojipedia. I also started World Emoji Day, which is today. AMA! – Reddit,  https://www.reddit.com/r/IAmA/comments/8zmjjn/iama_jeremy_burge_and_i_run_emojipedia_i_also/
  22. 絵文字がプラットフォームごとにどう見えるか比較できるウェブサイトとか、一覧表みたいなものってある? : r/windowsphone – Reddit,  https://www.reddit.com/r/windowsphone/comments/2rvooh/is_there_a_website_or_a_chart_that_compares_how/?tl=ja
  23. 絵文字 – Wikipedia,  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%B5%E6%96%87%E5%AD%97