データセンターの環境問題

I. はじめに:デジタル化の進展とデータセンターの環境負荷

データセンターの重要性と急速な成長

現代社会において、データセンターは、クラウドサービス、IoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)、そして5Gネットワークといった革新的なデジタル技術の基盤として不可欠な存在となっています。これらの技術の普及と深化に伴い、世界のデータ生成量は爆発的に増加しており、データセンターへの需要はかつてない勢いで拡大しています。例えば、2010年には年間2ゼタバイトだったデータ生成量は、現在では1日あたり約3億2,877万テラバイト(年間120ゼタバイト)に達し、2025年までには170ゼタバイトを超えると予測されています 1。このようなデータ量の急増が、データセンター市場の成長を強力に牽引しています。

世界のデータセンター市場は、2021年から2026年にかけて年平均22%という驚異的な速度で成長し、2026年には6,160億ドルに達すると予測されています 2。特に、ChatGPTに代表される生成AIサービスの爆発的な普及は、この需要をさらに加速させており、Google、Microsoft、Amazonといった大手テクノロジー企業は、AI処理能力を支えるための大規模なデータセンター投資を世界中で加速させています 3

日本国内においても、デジタル化の波は同様に押し寄せています。リモートワークの常態化やeコマースの利用拡大、そしてAIの活用領域の広がりが、国内のデータセンター需要を大きく押し上げています 5。その結果、日本国内のデータセンターサービス市場は、2022年の2兆938億円から2027年には4兆1,862億円へと倍増すると見込まれており、このインフラが日本のデジタル経済成長の要となっています 3

環境問題が注目される背景

データセンターの急速な拡大は、その便益と引き換えに、地球環境に対する新たな、そして深刻な課題を提起しています。具体的には、サーバーやネットワーク機器を24時間稼働させるために必要な膨大なエネルギー消費、機器の冷却に用いられる大量の水使用、そして機器の更新に伴い発生する電子廃棄物の増大といった環境負荷が挙げられます 2

近年、企業や投資家の間でESG(環境・社会・ガバナンス)への意識が急速に高まる中、エネルギー消費量と温室効果ガス排出量が多いデータセンター市場は、特に厳しい監視の目にさらされるようになりました 2。多くの企業は、自社のインフラや業務が環境に与える影響を低減することにコミットしており、データセンターの持続可能な運用は、単に環境保護のためだけでなく、企業戦略上の重要な要素として認識されています。持続可能なデータセンターの運用は、二酸化炭素排出量の削減に貢献するだけでなく、テナントの総所有コスト(TCO)の削減や、運用リスク、さらには環境問題への対応不足による風評リスクの低減にも繋がると考えられています 2

デジタル化の進展とそれに伴うデータセンターの爆発的な成長は、現代社会に計り知れない利便性をもたらしていますが、同時に環境負荷の増大という無視できない側面を伴います。この状況は、デジタル社会の恩恵を享受しつつ、地球環境の持続可能性をいかに確保するかという、現代における重要な課題を浮き彫りにしています。この課題に対処し、両立させるための戦略的アプローチの緊急性が、今、強く求められています。

II. データセンターが抱える主要な環境課題

データセンターは、デジタルインフラの心臓部として機能する一方で、その運用は複数の深刻な環境課題を伴います。これらの課題は相互に関連し、地球規模での対策が喫緊の課題となっています。

膨大なエネルギー消費と温室効果ガス排出

データセンターの最も顕著な環境負荷の一つは、その膨大なエネルギー消費です。サーバーやネットワーク機器を24時間体制で稼働させるためには莫大な電力が必要であり、さらに機器が発する熱を冷却するための設備にも多くのエネルギーが費やされます 5

現状と将来予測

国際エネルギー機関(IEA)の報告によると、2024年時点で世界のデータセンターは約415テラワット時(TWh)を消費しており、これは世界の電力消費量の約1.5%に相当します。過去5年間で年率12%の増加傾向にあり、この消費量は2030年には世界の電力消費量の3%に達すると予測されています 4。データセンターは世界の総エネルギー消費量の2%以上を占め、これは航空業界と同等とされています 2。IEAは、電力使用に伴う二酸化炭素排出量が現在の1億8,000万トンから2035年までに3億トンに増加すると発表しています 6。一部の予測では、2026年にはデータセンター、AI、暗号資産分野の消費電力量が2022年の約460TWhから1,000TWh超へとほぼ倍増し、日本全体の消費量に匹敵する規模に達する可能性も指摘されています 1。データセンターはエネルギーを最も大量に消費する建物の一つであり、床面積あたりのエネルギー消費量は一般的な商業オフィスビルの10~50倍に及びます。この消費電力の大部分は、サーバーと冷却システムによるもので、データセンターで消費されるエネルギーの約50%が冷却とバックアップ電源に使われています 1。

AI需要の加速と電力消費への影響

生成AIサービスの爆発的な普及は、データセンターの電力消費量を劇的に増加させています。AIのトレーニングや推論には、高性能なGPU(Graphics Processing Unit)サーバーが不可欠であり、これらは一般的なサーバーに比べて発熱量が非常に多く、専用の冷却システムを必要とし、稼働時には高い消費電力を伴います 8。例えば、米国では生成AIの普及によりデータセンターからのCO2排出量が2018年以降3倍に増加したという研究報告があります 3。ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)のトレーニングには、数百メガワットもの電力を要することがあります 9。IEAは、AIの普及などにより、2026年の世界のデータセンターによる消費電力量が2022年の2倍以上に増加すると予測しており、2026年までにAI業界の電力需要は2023年の10倍に達すると見ています 10。

電力供給の逼迫と地域への影響

データセンターの電力需要の急増は、特に都市部など電力インフラが十分に整備されていない地域において、電力供給の逼迫を招き、地域社会への電力供給に影響を与える懸念が高まっています 5。例えば、アイルランドでは、データセンターが2030年までに国内総電力の31%を消費すると予測され、政府がデータセンター建設を制限する政策に転換しました 11。日本でも、データセンターの増設に伴い、同様の電力供給の課題が生じる可能性が懸念されています 11。データセンターの建設には広大な土地と電力・ネットワークインフラの整備が必要であり、都市部では高額な建設コスト、地方ではインフラ整備コストが課題となります 5。

水資源の大量消費

データセンターの環境負荷はエネルギー消費に留まりません。サーバーの熱を効率的に除去するために、大量の水が冷却システムに利用されています。

冷却システムにおける水利用の現状

データセンターでは、サーバーや通信機器が発する膨大な熱を除去するために冷却システムが不可欠です。冷却が適切に行われないと、機器の過熱による故障や誤作動を引き起こす原因となります 12。冷却システムは大きく空冷式と水冷式に分けられますが、近年は冷却効率が高く騒音も少ない水冷式の採用が増加しています 3。水冷式データセンターは空冷式よりもエネルギー消費量が10%ほど少なく、二酸化炭素排出量も10%前後少ないとされています 13。しかし、この効率性の裏側で、水冷システムは大量の水を消費するという新たな課題を抱えています 12。Googleのデータによると、2022年に同社のデータセンター20か所で1日に使用した水の量は、米国民約17万5,000人分の使用量に相当しました 12。

AI利用による水消費量の増加

AIの進化に伴い、データセンターの水消費は急激に増加しています。Microsoftの2022年の水使用量は前年比30%以上増加し、年間639万9,415トン(オリンピックプール2,000個分に相当)に達しました 14。さらに、ChatGPTの場合、わずか5~50回の利用で約500mlの水を消費することが明らかになっています 15。2027年までに、世界のAI需要による水消費量は年間4.2~6.6億立方メートルに達すると予測されており、これはデンマークの年間水使用量の4~6倍に相当する規模です 13。特筆すべきは、データセンターの水消費の約83%が実は発電過程で使用されているという点です。これは、データセンター自体の冷却水使用量だけでなく、電力を生成する過程で間接的に大量の水が消費されていることを意味します 15。

水ストレス地域への影響

データセンターの大量の水消費は、特に水資源が限られている地域において、地域の水供給に深刻な負荷をかける可能性があります 12。一部の地域では、自治体の水供給量の25%をデータセンターが消費しているケースもあり、これは単なるテクノロジー企業の課題ではなく、地域社会全体に影響を及ぼす問題となっています 15。米国では、データセンターサーバーの直接的な水フットプリントの5分の1が、中程度から高い水ストレスを抱える流域に由来しており、サーバーのほぼ半分が水ストレス地域に位置する発電所に依存しています 13。この状況は、水資源の持続可能な管理がデータセンターの立地選定において極めて重要であることを示しています。

電子廃棄物(E-waste)の発生と管理

デジタル化の加速は、サーバーやネットワーク機器の更新サイクルを短縮させ、電子廃棄物(E-waste)の増大という問題を引き起こしています。

発生量の現状と課題

電子廃棄物とは、もはや不要になった、修正できない、新しい技術と互換性がない、または時代遅れになって寿命に達したために廃棄される電子製品を指します。これには、ハードドライブ、コンピューター、スマートフォン、テレビ、モニター、ネットワーク・スイッチ、ストレージアレイなど、あらゆる電子製品が含まれます 16。データセンターやデータストレージ部門は、増大する計算要求を満たすために必要なハードウェアのアップグレードや交換が常に行われているため、電子廃棄物の大きな要因となっています 16。国連大学の報告「Global E-waste Monitor 2020」によると、2019年には世界のE-waste発生量が過去最高の5,360万トンに達し、過去5年間で21%増加しました 17。この量は2030年までに7,400万トンに達すると予測されており、これは世界で最も急速に増加している家庭廃棄物の流れです 17。E-wasteは全体の固形廃棄物の2%を占める一方で、有毒廃棄物の70%を占めています 18。対策が講じられない場合、電子廃棄物は毎年8%増加すると予想されています 18。

有害物質と環境リスク

多くの電子機器には、鉛、水銀、カドミウム、臭素系難燃剤などの有毒物質が含まれており、不適切な処理が行われると土壌や水を汚染し、人間や野生生物に深刻な健康リスクをもたらす可能性があります 16。例えば、2019年には、廃棄された冷蔵庫やエアコンから放出される温室効果ガスが、二酸化炭素換算で9,800万トンと推計され、全世界の排出量の約0.3%を占めています 17。E-wasteの適切な管理は、地球温暖化の緩和にも貢献すると考えられています 17。

データセンターが抱えるこれらの環境問題は、それぞれが独立した課題であるだけでなく、複雑に絡み合い、相互に影響を及ぼし合っています。例えば、データセンターの電力消費の大部分は冷却システムによるものであり 1、水冷システムは空冷よりもエネルギー効率が良いものの、大量の水を消費します 12。さらに、電力生成自体が大量の水を消費するという事実も看過できません 15。AIの発展は、高性能サーバーの導入を促し、発熱量と消費電力を増加させ 8、結果として冷却のための水使用量も増大させています 15。また、技術革新の加速は機器の更新サイクルを短縮させ、電子廃棄物の増加に繋がります 16。これらの相互作用により、ある問題の解決策が別の問題を引き起こす可能性があり、包括的な視点での対策が不可欠であることを示唆しています。

この状況は、AIが環境負荷を加速させる「二律背反」の側面を持つことを明確にしています。AIはデジタル化の主要な推進力であり、データセンター需要を爆発的に増加させていますが 3、そのトレーニングや推論には高性能GPUが必要であり、これらは従来のサーバーよりもはるかに高い電力と冷却を要求します 8。この結果、AIの普及がデータセンターのエネルギー消費と水消費を直接的に増加させています 3。しかし、AI自体がデータセンターのエネルギー効率を最適化するソリューションとしても期待されているという側面も存在します 5。この「AIが問題を引き起こし、AIが解決策を提供する」という状況は、技術の進歩が常に環境負荷を伴うという現代の課題を象徴しており、その複雑な側面を理解した上で戦略を構築する必要があります。

Table 1: データセンターの環境負荷主要指標

指標カテゴリ指標項目現状 (2022-2024年頃)将来予測 (2026-2035年頃)関連スニペット
エネルギー消費世界の電力消費に占める割合1.5% (2024年) 43% (2030年) 64
世界のデータセンター電力消費量約415 TWh (2024年) 41,000 TWh超 (2026年) 5、約945 TWh (2030年) 64
日本のデータセンター電力消費量国内全体の約0.8% (2022年度) 82倍以上 (2030年度、約17,000 GWh) 8、5倍以上 (2050年度、41,200 GWh) 88
データセンターの電力消費における冷却設備の割合約45% 33
AI業界の電力需要10倍 (2026年までに2023年比) 1010
水使用量Microsoftの年間水消費量639万9,415トン (2022年、前年比30%増) 1414
ChatGPT利用1回あたりの水消費量約500ml (5~50回の利用で) 1515
世界のAI需要による水消費量年間4.2~6.6億立方メートル (2027年まで) 1515
データセンターの水消費における発電過程の割合約83% 1515
温室効果ガス排出世界の温室効果ガス排出量に占めるデータセンターの割合2% (世界の温室効果ガス排出量) 18、1~1.5% (世界の電力消費量) 13.2% (2025年) 1、3億トン (2035年、電力使用に伴うCO2) 61
米国データセンターのCO2排出量増加率3倍 (2018年以降) 33
電子廃棄物 (E-waste)世界のE-waste発生量5,360万トン (2019年) 177,400万トン (2030年) 17、約8,160万トン (2030年) 1616
固形廃棄物に占めるE-wasteの割合2% 1818
有毒廃棄物に占めるE-wasteの割合70% 1818
E-wasteの年間増加予測8% 1818

III. 持続可能なデータセンター実現に向けた技術革新と対策

データセンターが直面する環境課題に対処するため、業界は多岐にわたる技術革新と対策を推進しています。これらはエネルギー効率の劇的な向上、再生可能エネルギーの積極的な導入、そして電子廃棄物の削減とリサイクルに焦点を当てています。

エネルギー効率の向上

データセンターのエネルギー消費を削減することは、環境負荷軽減の最優先事項です。この目標達成のため、様々な指標が活用され、冷却技術の進化やAIによる最適化が進められています。

PUE/DCiE/WUE指標の活用

データセンターのエネルギー効率を評価するための主要な指標として、PUE(Power Usage Effectiveness)とDCiE(Data Center Infrastructure Efficiency)が広く用いられています 21。PUEは、データセンター全体の総消費電力をIT機器の消費電力で割った値で計算され、1に近いほど効率が良いことを示します 21。平均的なデータセンターのPUEは約1.6ですが、効率の良いデータセンターでは1.2以下を目指す動きがあります 22。DCiEはPUEの逆数であり、IT機器が総エネルギー消費量のどれだけを占めるかを示します 22。また、水使用効率(WUE:Water Usage Effectiveness)は、データセンターの総水使用量をIT機器の消費電力で割った指標であり、特に水資源が重要な地域で施設の水効率を把握するために重要です 13。これらの指標は、データセンターのエネルギーと水資源の利用効率を定量的に把握し、改善策の効果を測定するための重要なツールとして機能します。

冷却技術の進化:空冷から液冷へ

データセンターの電力消費の約45%が冷却設備によるものであり 3、冷却効率の改善はエネルギー効率向上に直結します 5。従来の空冷式では、サーバーの発熱量増加に対応しきれなくなっており、より効率的な水冷式への移行が進んでいます 3。

  • 液浸冷却 (Immersion Cooling): サーバー全体を非伝導性の特殊な液体に直接浸して冷却する方式です 3。冷却液が直接熱源に触れるため、空冷に比べて冷却効率が劇的に高く、電力消費を大幅に削減できます。KDDIの事例では、サーバー冷却のための電力消費量を94%削減し、PUE値1.05を達成しました 24。これは、従来の空冷式データセンターのPUE値1.7と比較して大幅な改善です 24。ファンが不要になるため、騒音低減や設置スペースの有効活用、ハードウェア故障リスクの低減にも貢献します 26。液浸冷却には、冷媒が液体状態のまま自然循環する「単相式」と、液体がサーバーの熱を吸収して蒸発し、気体になった後に冷却されて液体に戻るサイクルを繰り返す「二相式」があります 26。NTTデータも川崎市でラック型液浸冷却技術の実証実験を進めており、PUE1.07を達成し、冷却効率を80%向上させています 25
  • コールドプレート冷却 (Cold Plate Cooling): チップなどの発熱部に直接冷却プレートを取り付け、冷却液を循環させて熱を奪う方式です 3
  • リアドア空調 (Rear Door Cooling): サーバーラックの背面に熱交換器を設置し、サーバーから排出される熱気を直接冷却する方式です。高熱を発するGPUサーバーなどに有効で、高い熱交換効率とエネルギー効率を実現します 3
  • フリークーリングと自然エネルギーの活用 (Free Cooling and Utilization of Natural Energy): 涼しい外気や冷水といった自然資源を利用して冷却を行う方法です 20。特に寒冷地では、外気を利用した冷却(エアサイドエコノマイゼーション)により、電力消費を大幅に削減できます 9。KDDIの液浸システムでもフリークーリング装置が組み込まれています 27。地熱冷却、太陽熱冷却、蒸発冷却といった新たな自然エネルギー活用も検討されています 20

AIによるエネルギー最適化

最新のAI技術を活用して電力消費を最適化する方法も進められています 5。AIはサーバーの稼働率を最適化し、低稼働時にはサーバーを停止することで電力消費を削減できます 19。NTTコムウェアと日本IBMは、AIを用いてサーバーの排出熱から電力消費量を推定し、データセンター全体の電力消費量とCO2排出量を効率的に算出する方法を開発しました 19。AIは、温度、湿度、気流、ホットスポットなどのリアルタイムデータを監視し、冷却システムを動的に最適化することで、エネルギー効率を向上させることが可能です 20。

パワー半導体技術の貢献

パワー半導体技術の革新は、データセンターのエネルギーバランスを改善し、効率化と運用コストの削減に貢献します 1。先進的なパワー半導体は、パワーサプライをより効率的にし、冷却要件を緩和します 1。窒化ガリウム(GaN)のような新素材は、半導体の効率と電力密度を向上させ、エネルギー消費を減らし、サーバーやデータセンターのエネルギー効率を高めるのに役立ちます 1。米国全てのデータセンターにGaN半導体が導入されれば、年間3.85TWhのエネルギー節約(315万トンのCO2排出量削減に相当)が可能と試算されています 1。

再生可能エネルギーの導入促進

データセンターの膨大な電力消費を根本的に解決するためには、再生可能エネルギー(再エネ)の活用が不可欠です。

再エネ導入の現状と目標

データセンターの膨大な電力消費に対する解決策として、再生可能エネルギーの活用は必須とされています 5。日本は2030年までに電力ミックスにおける再エネ比率を36-38%に拡大する目標を掲げています 10。2022年度には、日本の電力構成に占める再エネの割合は21.7%に達しており、FIT(固定価格買取制度)制度開始後の導入量は約77GWに上り、その約88%が太陽光発電です 32。Amazon、Meta Platforms、Google、Microsoftといった大手データセンターのテナントの多くは、100%再生可能エネルギーへのコミットメントを表明しており、業界全体の再エネ導入を牽引しています 2。

導入モデル:オンサイト発電、PPA、電力プラン切り替え

  • オンサイト発電: 太陽光発電所をデータセンター敷地内に設置し、自社で発電・使用することで、CO2削減と電気料金削減を両立できます 23
  • PPA(電力購入契約): 再エネ発電事業者から直接電力を購入する契約で、特に大規模なハイパースケールデータセンター事業者で普及しています 2。Google、Microsoft、Metaなどは、風力・太陽光ファームをデータセンターに直結(ダイレクトファーム)化し、中間送電網を介さずに直接電力を流すことで電力損失を削減し、CO2排出係数を実質ゼロにしています 30
  • 電力プラン切り替え: 自社での再エネ導入が難しい場合、電力会社が提供する再エネ由来の電力プランに切り替える方法もあります 23
  • 分散型電源の活用: 地域ごとに発電する分散型電源を取り入れることで、地域の電力供給を安定化させ、電力網への負荷を軽減することも可能です 5

廃熱利用の可能性

データセンターの冷却システムから排出される廃熱は、新たなエネルギー源として活用できる可能性があります 2。特に北欧では、データセンターの排熱を街のインフラ(床暖房や地域全体の暖房システム)に転用する計画が進行中です。液体冷却システムを用いて、データセンターからの熱を都市部に供給し、循環させることで、生産エネルギーが消費エネルギーを上回る新たな街づくりを目指しています 33。ストックホルム市は、2035年までに市内の熱需要の10%をデータセンターの廃熱で賄うことを目標としています 2。日本国内でも、サーバーの廃熱を利用したウナギ養殖施設を併設する事例が見られます 28。

電子廃棄物の削減とリサイクル

電子廃棄物の適切な管理は、資源の有効活用と環境汚染防止のために不可欠です。

製品寿命の延長と責任ある調達

電子廃棄物対策には、製品の寿命を延ばすことが重要です 16。高耐久性でアップグレード可能な製品の購入を優先することで、頻繁な交換の必要性を減らすことができます 16。Supermicroの調査では、データセンターの75%が5年以内にシステムを更新していますが、プロセッサーやメモリといったサブシステムをモジュール方式でリフレッシュすることで、コストと電子廃棄物を削減できる可能性が指摘されています 18。このアプローチは、システム全体を交換するのではなく、寿命の異なるコンポーネントを個別に更新することで、廃棄物を最小限に抑えることを目指します。

リサイクルプログラムと都市鉱山

電子廃棄物はリサイクル可能であり、適切なリサイクルは貴重な材料(貴金属、プラスチック、ガラスなど)の回収と環境への悪影響の低減に繋がります 16。廃棄されたサーバーや電子機器は「都市鉱山」と呼ばれ、金やパラジウムなどの貴金属を含んでおり、そのリサイクルは非常に重要です 36。松田産業のような企業は、機密データ破壊から貴金属回収・精製までを一貫して行うサービスを提供しており、高度なセキュリティ体制と物流網を保有しています 36。Microsoftは2025年までにサーバーの再利用率90%を目指しており 37、NTTグループも2030年までに廃棄物リサイクル率99%以上を目標としています 38。AIやロボット技術を活用して再利用可能な電子機器を特定することで、新たな原材料の必要性を減らし、天然資源を保護することも可能です 39。

データ消去とセキュリティ

電子廃棄物の処理において、機密データの漏洩防止は極めて重要です 36。オンサイトでの機能破壊や、高度なセキュリティシステムで保護された工場でのデータ消去サービスが提供されています 36。これにより、廃棄される機器に含まれる機密データや技術情報の流出を完全に防止し、企業の法的責任や風評リスクを低減します 16。

液浸冷却などの新技術は、従来の冷却方法と比較して圧倒的なエネルギー効率向上を達成し 27、PUE値の劇的な改善を通じてデータセンターの運用コストと環境負荷を大幅に削減します 26。しかし、これらの技術は高額な初期投資や特殊な運用・保守ノウハウを必要とする場合があります 25。特に液浸冷却では、冷却液の環境への影響や廃棄方法への配慮も必要となります 25。この状況は、技術革新が常にポジティブな側面だけでなく、導入障壁や新たな環境的・運用的な課題をもたらすことを示唆しており、その普及にはコスト、運用、そして新たな環境リスクへの対応が不可欠です。

再生可能エネルギーの導入は、カーボンニュートラル達成の主要な手段ですが 10、そのポテンシャルは地域によって大きく異なります 10。特に日本では、再エネポテンシャルが高い地域(北海道など)は、データセンター需要の高い都市部から離れていることが多いという地理的制約があります 9。このため、再エネの地産地消や、データセンターの地方分散化が電力網への負荷軽減と再エネ活用を促進する一方で 5、地方への移転には電力・ネットワークインフラの整備や、人材確保といった課題が伴います 3。これは、再エネ導入が単なる技術的選択だけでなく、地理的・インフラ的な戦略的判断と、地域社会との連携を必要とすることを示しており、データセンターの立地戦略と電力インフラ整備、そして地域との共生を一体的に考える必要があります。

Table 2: 主要冷却技術の比較

冷却方式冷却効率 (空冷比)主な特徴/メリット課題/デメリット関連スニペット
空冷式基準 (PUE 1.7程度) 24導入コストが低い、一般的な技術冷却効率が低い、電力消費が多い、騒音、設置スペースが必要、高密度サーバーに対応困難 33
水冷式エネルギー消費10%減 13冷却効率が高い、CO2排出量10%減、騒音少ない 12大量の水消費、排水による環境汚染リスク 1212
– リアドア空調高い熱交換効率サーバーラック背面で直接排熱を冷却、高熱GPUサーバーに有効、スペース効率向上 3ラック重量・サイズ増、メンテナンス時にサーバー停止の可能性、ファンによる電力消費・騒音 253
– コールドプレート冷却高効率発熱部に直接冷却液を接触 33
– 液冷方式 (直接液体冷却)高効率 (空冷比30%電力削減) 25熱源近くで効率的に冷却、高性能サーバー向け、温度制御精度向上、騒音・電力消費削減 20初期投資が高い、冷却液の漏洩・汚染リスク、冷却液の環境影響・廃棄方法への配慮 2520
液浸冷却劇的に高効率 (冷却電力94%減、PUE 1.05) 27冷却効率が極めて高い、ファン不要で静音、設置スペース削減、ハードウェア故障リスク低減、防塵・防湿 26初期投資が高い、特殊な冷却液とタンクが必要、運用・メンテナンスに専門知識が必要、冷却液の環境影響・廃棄方法への配慮 253
フリークーリング高効率 (外気温による) 20自然資源 (外気、冷水) を利用、エネルギーコスト削減、PUE改善 20気候に依存、汚染物質・湿気の侵入リスク (エアサイド) 2020
– エアサイドエコノマイゼーション高効率涼しい屋外の空気を利用 20汚染物質や湿気の侵入、気候依存性 2020
– ウォーターサイドエコノマイゼーション高効率冷水を利用し冷却塔を循環 20水の入手性、冷却負荷の処理能力に依存 2020
地熱冷却環境に優しい地球の安定した地下温度を利用 20地熱資源の豊富な地域に限定 2020
太陽熱冷却環境に優しい太陽エネルギーを冷却媒体に変換 20日照地域のデータセンターに有益 2020
蒸発冷却低コスト、エネルギー効率高い水の蒸発による冷却効果を利用 20湿度の低い場所に最適 2020

IV. 国内外の政策・規制動向と認証基準

データセンターの環境負荷増大は、各国政府や国際機関による政策・規制強化を促し、業界全体の持続可能性への移行を加速させています。

日本の政策と取り組み

日本政府は、データセンターの環境負荷軽減を国家戦略の重要な柱として位置づけ、具体的な目標と施策を推進しています。

カーボンニュートラル目標とグリーン成長戦略

日本政府は2020年に「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、温室効果ガス排出量と吸収量を均衡させる目標を掲げています 10。この目標達成に向け、「グリーン成長戦略」が策定され、データセンターは「半導体・情報通信産業」分野の重点目標の一つとされています 10。具体的には、2030年までに全ての新設データセンターで30%以上の省エネ化、そして2040年までにデータセンターのカーボンニュートラル達成を目指しています 10。この戦略は、データセンター事業者が環境対策に積極的に取り組むことを促す強力なインセンティブとなっています。

省エネ法改正とベンチマーク制度

2023年4月の省エネ法改正により、データセンターへの持ち込み機器によるエネルギー使用量も自社利用分とみなされ、エネルギー使用の合理化の対象が非化石エネルギーにも拡大されました 23。これは、データセンター全体のエネルギー消費を包括的に管理し、削減を促すための重要な変更です。また、2022年4月からは、データセンター業界が省エネ法の「ベンチマーク制度」の対象に追加され、PUE値1.4を目標とするなど、エネルギー効率改善への取り組みが義務付けられています 11。この制度は、各事業者のエネルギー効率を業界内で比較し、改善を促すことで、データセンター全体の省エネ化を加速させることを目的としています。

地方分散と地域活性化政策

電力供給の安定化と環境負荷軽減のため、再生可能エネルギーの導入とデータセンターの地方分散化が急務とされています 9。政府は「デジタル田園都市国家構想推進交付金」などで地方自治体によるデータセンター誘致を支援しており、電力供給制約のある都市部から、気温が低く再生可能エネルギーが豊富な地方(北海道など)への移転が進んでいます 9。これにより、冷却効率の向上や災害リスクの分散、地方経済の活性化が期待されています 9。さらに、日本郵船とNTTファシリティーズなどは、再生可能エネルギーを100%活用する洋上データセンターの実証実験に関する覚書を締結し、災害対策と環境配慮を両立する新たな立地モデルを模索しています 41。これらの政策は、データセンターの持続可能な発展を地理的な側面からも支援しています。

欧州の規制とイニシアティブ

欧州は、データセンターの環境負荷軽減において、世界をリードする厳しい規制と先進的なイニシアティブを導入しています。

Climate Neutral Data Centre Pact (CNDCP)

CNDCPは、欧州のクラウドインフラサービスおよびデータセンター業界のプレーヤーと業界団体が、2030年までに気候中立を達成することを誓約した自主的なイニシアティブです 35。参加企業は、PUE目標(2030年までに1.3未満、温暖地では1.4未満)、再生可能エネルギー使用率目標(2025年末までに75%、2030年末までに100%)、リサイクル目標(2025年に使用済みサーバーの100%をリサイクル)、排熱再利用の義務化など、具体的な目標を掲げています 44。この協定は、業界全体での環境パフォーマンス向上を強く推進しています。

EUエネルギー効率指令 (EU Energy Efficiency Directive)

EUのエネルギー効率指令(EED)は、データセンター事業者に対し、エネルギー消費量、PUE、排熱再利用、再生可能エネルギー使用量などを2025年5月15日までに毎年報告することを義務付けています 4。これにより、データセンターの環境パフォーマンスに関する透明性が確保され、継続的な改善が促されます。ドイツでは、2028年までに200kW以上のデータセンターにおける排熱20%の再利用が義務化されるなど、具体的な規制が導入されています 44。

データプライバシーと環境基準

欧州市場は、データプライバシー、環境基準、計画法に関する複雑な規制条件があり、これがデータセンター建設の遅延要因となることがあります 45。しかし、これらの厳しい規制は、データセンターの持続可能性と効率性を高めるための技術革新を促進する側面も持っています 45。企業は、規制遵守を通じて、より環境に配慮した設計と運用を追求せざるを得ない状況にあります。

国際的な認証基準

国際的な認証基準は、データセンターの環境性能と信頼性を客観的に評価し、業界全体のベストプラクティスを推進する上で重要な役割を果たします。

LEED認証 (LEED Certification)

LEED (Leadership in Energy and Environmental Design) は、米国グリーンビルディング協会(USGBC)が開発・運用する世界で最も広く使用されているグリーンビルディング評価システムです 43。LEED認証は、立地と交通、持続可能な敷地、水効率、エネルギーと大気、材料と資源、室内環境の質、イノベーション、地域の優先事項の8つのカテゴリーで評価されます 47。データセンター向けの特定のLEED基準はまだ設定されていませんが、商業用内装チェックリストなどを活用して認証を取得できます 48。LEED認証は、建物の資産価値向上や企業イメージアップに繋がり、投資家などの判断基準にもなっています 46。

Uptime Institute Tier Standard

Uptime Instituteは、データセンターの設計、建設、運営持続性に関するティア規格と認証を策定・管理する世界的に認められた民間団体です 43。ティア1からティア4までの4段階に分かれており、数字が大きいほど信頼性や災害耐性、冗長性が高いことを示します 49。ティア3は99.98%以上、ティア4は99.99%以上の稼働信頼性が求められ、特に行政機関や金融機関などセキュリティを最優先する組織に利用されます 27。日本にはUptime Instituteの基準を参考にしつつ、日本の商用電源の信頼性などを考慮した独自の品質基準「データセンターファシリティスタンダード」も制定されています 49。

データセンターの環境負荷増大は、各国政府や国際機関の政策・規制強化を促しています。これらの規制(例: PUE目標、再エネ利用義務、報告義務)は、データセンター事業者に対し、環境対策への投資と技術革新を強制する側面を持ちます 4。特に欧州のCNDCPのような自主的誓約も、実質的には厳しい目標設定と透明性を求めることで、業界全体の「グリーン化」を加速させています 35。これにより、環境に配慮したデータセンターは、単なるコスト要因ではなく、企業価値向上、投資家からの評価、そして国際的な競争力維持のための必須要件となっています 2。一方で、過度な規制は建設遅延やコスト増を招き、特定の地域でのデータセンター誘致を阻害する可能性も指摘されており、そのバランスが重要です。

LEEDやUptime Institute Tier Standardといった認証基準は、データセンターの環境性能や信頼性を客観的に評価するツールとして機能します 43。これらの認証は、投資家や顧客に対して、データセンターの持続可能性への取り組みを透明化し、説明責任を果たす手段となります 43。特に、PUEやWUEといったエネルギー・水効率の指標は、単なる数値目標ではなく、運用改善を促し、継続的なパフォーマンス向上を可視化する役割を果たします 22。この状況は、データセンター業界が単に「環境に優しい」と主張するだけでなく、具体的な指標と第三者認証を通じて、その取り組みを証明する段階に入っていることを示しており、認証基準は、データセンターの持続可能性に関する透明性と説明責任を強化し、業界全体のベストプラクティスを推進する重要な役割を担っています。

Table 3: データセンター関連の主要な環境政策・認証基準

カテゴリ項目概要と目標関連スニペット
日本の政策・規制カーボンニュートラル目標2050年までに温室効果ガス排出量と吸収量を均衡させる 1010
グリーン成長戦略 (データセンター関連)2030年までに全ての新設データセンターで30%省エネ化、2040年までにデータセンターのカーボンニュートラル達成 1010
省エネ法改正とベンチマーク制度2023年4月改正でエネルギー使用の合理化対象を非化石エネルギーに拡大。2022年4月よりデータセンター業界をベンチマーク制度に追加、PUE値1.4を目標 1111
地方分散と地域活性化政策デジタル田園都市国家構想推進交付金等で地方誘致を支援。再生可能エネルギーの地産地消、冷却効率向上、災害リスク分散、地域経済活性化を目指す 99
欧州の政策・規制Climate Neutral Data Centre Pact (CNDCP)2030年までに気候中立を達成する業界の自主的誓約。目標: PUE 1.3未満 (2030年)、再エネ使用率100% (2030年末)、使用済みサーバー100%リサイクル (2025年)、排熱再利用義務化 3535
EUエネルギー効率指令 (EED)データセンター事業者に対し、エネルギー消費量、PUE、排熱再利用、再生可能エネルギー使用量などを毎年報告義務付け (2025年5月15日までに開始) 44
ドイツの排熱再利用義務2028年までに200kW以上のデータセンターにおける排熱20%の再利用を義務化 4444
国際的な認証基準LEED (Leadership in Energy and Environmental Design)世界で最も広く使用されるグリーンビルディング評価システム。環境性能を評価し、Certified, Silver, Gold, Platinumの4レベルで認証 4343
Uptime Institute Tier Standardデータセンターの設計、建設、運営持続性に関する世界的な信頼性基準。Tier 1~4の4段階で評価され、稼働信頼性 (例: Tier 3は99.98%以上) を示す 4343
PUE (Power Usage Effectiveness)データセンターのエネルギー効率を示す指標。総施設消費電力 / IT機器消費電力で計算。1に近いほど高効率 (理想は1.0) 2121
DCiE (Data Center Infrastructure Efficiency)PUEの逆数。IT機器の消費電力が総エネルギー消費量に占める割合 (%) 2121
WUE (Water Usage Effectiveness)データセンターの総水使用量をIT機器の消費電力で割った指標。水効率を示す 1313

V. 環境配慮型データセンターの成功事例

データセンター業界では、環境負荷の軽減と持続可能性の追求に向けた多様な取り組みが、国内外で具体化されています。これらの成功事例は、技術革新と地域特性の融合、そして企業間の協力が、いかに環境と経済の両立を可能にするかを示しています。

日本国内の先進事例

日本は、その地理的・気候的特性を活かし、独自の環境配慮型データセンターを開発しています。

雪冷熱利用の「ホワイトデータセンター」

北海道美唄市にある「ホワイトデータセンター(WDC)」は、冬季に集めた雪を保管し、年間を通じてサーバー冷却に活用することで、CO2排出ゼロの世界初のエコデータセンターを実現しています 28。この革新的なシステムにより、PUE値1.08という世界最高水準の電力効率を達成し、従来型と比較して年間約20%のコスト削減に成功しています 28。さらに、このデータセンターはサーバーの廃熱を利用したウナギ養殖施設を併設しており、地域のエコシステムに貢献しつつ、新たな経済価値も創出しています 28。

液浸冷却技術の導入事例

液浸冷却は、高密度化するサーバーの熱問題に対する日本の主要なソリューションの一つです。KDDIは、三菱重工、NECネッツエスアイと共同で、液浸冷却技術を用いたコンテナ型データセンターの実証実験を行い、サーバー冷却のための電力消費量を94%削減し、PUE値1.05を達成しました 24。これは、従来の空冷式データセンターのPUE値1.7と比較して大幅な改善であり、液浸冷却が電力消費を劇的に削減する可能性を実証しています 24。NTTデータも川崎市でラック型液浸冷却技術の実証実験を進めており、PUE1.07を達成し、冷却効率を80%向上させています。現状は初期コストが課題ですが、2026年頃には普及価格帯を目指しており、今後の技術普及が期待されています 25。

再生可能エネルギー100%データセンター

再生可能エネルギーの活用は、データセンターの脱炭素化に不可欠です。ソフトバンクは北海道苫小牧市に、再生可能エネルギー100%を利用する日本最大のAIデータセンター(300MW超)を建設中です。2026年開業予定で、総投資額は約2,500億円、最大6,000人の雇用創出が見込まれています 28。オプテージの曽根崎データセンター(大阪)は、2026年1月稼働開始予定で、最新の高効率空調システムと関西電力の再エネECOプラン(トラッキング付帯)を利用することで、実質的に再生可能エネルギー100%を達成し、カーボンニュートラルなグリーンデータセンターを目指しています 11。また、松沢書店は、CECのグリーンデータセンター(ハウジング)を利用することで、年間約7トンのCO2削減に貢献しています。これは、データセンターがグリーン電力プランを利用しているため、電力使用に伴うCO2排出が実質ゼロになることによるものです 52。

海外の先進事例

海外でも、大手テクノロジー企業を中心に、水資源の効率利用や再生可能エネルギーの積極的な導入が進められています。

水冷システムと廃熱利用

Microsoftは、新しい閉鎖循環型の冷却システムを開発し、1つのデータセンターあたり年間1億2,500万リットルの水を節約できることを示しています。これにより、淡水使用量を50-70%削減可能です 15。これは、水資源への負荷を大幅に軽減する画期的な取り組みです。また、データセンターから排出される廃熱を有効活用する動きも活発です。北欧ノルウェーのベルゲン近郊では、データセンターの排熱を街のインフラ(床暖房や地域全体の暖房システム)に転用する計画が進行中です。液体冷却システムを用いて、データセンターからの熱を都市部に供給し、循環させることで、生産エネルギーが消費エネルギーを上回る新たな街づくりを目指しています 33。スウェーデンのストックホルム市は、2035年までに市内の熱需要の10%をデータセンターの廃熱で賄うことを目標としています 2。

再生可能エネルギー調達

大手ハイパースケールプロバイダーは、再生可能エネルギーの積極的な調達を通じて、カーボンフットプリントの削減に貢献しています。Googleは、ネバダ州のデータセンターで地熱発電グリッドを導入し、クリーンエネルギーを安定供給しています 11。また、Amazonは原子力発電所に直接接続されたデータセンターを取得し、持続可能で安定した電力供給を確保しています 11。多くのハイパースケールプロバイダー(Amazon、Microsoft、Googleなど)は、PPA(電力購入契約)を通じて新規建設された再エネ発電施設から直接電力を購入し、100%再エネ目標を達成しています 2。

これらの成功事例は、データセンターの「グリーン化」が、画一的なソリューションではなく、各地域のユニークな条件に合わせた「最適化された」アプローチによって、より効果的に達成されることを示唆しています。日本の雪冷熱利用データセンターや北欧の廃熱利用事例は、その地域の気候や資源といった特性を最大限に活用し、冷却システム(液浸冷却など)と地域エネルギー源(雪、外気、廃熱)を組み合わせることで、高い環境性能と経済性を両立させています。ウナギ養殖などの地域産業との連携は、環境負荷低減だけでなく、地域経済活性化という社会的な価値も創出しており、データセンターの持続可能性向上には、地域固有の特性と先進技術の融合が不可欠であり、これにより環境的・経済的・社会的な多角的な価値創造が可能となることを示しています。

さらに、Amazon、Microsoft、Googleといったハイパースケールプロバイダーは、100%再生可能エネルギー利用や水消費量削減といった野心的な目標を掲げ、大規模な投資を行っています 2。これらの企業の取り組みは、PPAによる再エネ調達や、閉鎖循環型冷却システム 15 の開発など、具体的な技術革新とビジネスモデルの変革を伴います。彼らの市場における影響力と投資規模は、データセンター業界全体のサプライチェーンやパートナー企業に対し、同様の環境目標へのコミットメントを促す「牽引力」となっています。これにより、個別の成功事例が単発で終わらず、業界全体の持続可能性への移行を加速させる「標準化」の動きが生まれており、大手テック企業の積極的な環境コミットメントと大規模投資が、データセンター業界全体の持続可能性向上に向けた技術開発とビジネスモデル変革を強力に牽引していることが見て取れます。

VI. 結論と今後の展望:持続可能なデジタル社会の構築に向けて

データセンターは、現代のデジタル社会を支える不可欠なインフラであり、クラウドコンピューティング、AI、IoTといった先進技術の発展に貢献しています。しかし、その急速な拡大は、膨大なエネルギー消費、水資源の大量消費、そして電子廃棄物の増大という深刻な環境課題を突きつけています。特にAIの普及は、高性能サーバーの導入を促し、これらの課題をさらに加速させています。電力供給の逼迫、水ストレス地域への影響、有害物質を含む電子廃棄物の不適切な処理は、地球規模での喫緊の課題として認識されています。

これらの課題に対処するためには、多角的なアプローチが不可欠です。

  • 技術革新: 液浸冷却、フリークーリング、AIによるエネルギー最適化、パワー半導体技術といった先進的な冷却・省エネ技術の導入は、エネルギー効率を劇的に向上させ、環境負荷を低減する鍵となります。これらの技術は、データセンターの運用コスト削減にも貢献し、持続可能性と経済性の両立を可能にします。
  • 再生可能エネルギーの導入: オンサイト発電、PPA(電力購入契約)、グリーン電力プランへの切り替え、そして廃熱利用といった再エネ導入モデルの多様化と普及が、データセンターのカーボンニュートラル達成に不可欠です。再生可能エネルギーの導入は、電力供給の安定化にも寄与し、地域社会との共生を促進します。
  • 電子廃棄物管理: 製品寿命の延長、責任ある調達、高効率なリサイクルプログラム、そして機密データ保護を両立させた都市鉱山活用が求められます。これにより、貴重な資源の循環利用が促進され、有害物質による環境汚染リスクが低減されます。
  • 政策・規制: 日本のカーボンニュートラル目標、省エネ法改正、欧州のClimate Neutral Data Centre Pact(CNDCP)やEUエネルギー効率指令(EED)といった国内外の政策・規制は、データセンターの「グリーン化」を強制し、業界全体の持続可能性への移行を加速させる強力な推進力となります。LEEDやUptime Institute Tier Standardなどの認証基準は、環境性能と信頼性に関する透明性と説明責任を担保し、ベストプラクティスを推進します。
  • 協力: 企業間の連携(例: KDDIと三菱重工、NECネッツエスアイの協業)、地域社会との共生(例: 美唄市の雪冷熱利用とウナギ養殖)、そして政府と産業界の協力が、大規模なインフラ変革を成功させる上で不可欠です。地域固有の特性を活かした最適化されたグリーン化は、環境的・経済的・社会的な多角的な価値創造を可能にします。

将来のデータセンターは、単なるデータ処理施設に留まらず、地域社会と共生し、エネルギー・水資源を循環利用する「グリーンインフラ」としての役割を強化していくでしょう。地方分散型のデータセンターは、再生可能エネルギーの地産地消を促進し、地域経済の活性化にも貢献します。AIは電力需要を押し上げる一方で、データセンターの運用を最適化し、効率性を高めるための強力なツールとしても進化を続けます。この二律背反を乗り越え、AIが持続可能なデジタル社会の実現に貢献する未来が期待されます。

データセンター業界は、技術革新、政策誘導、そしてステークホルダー間の協力を通じて、環境負荷を最小限に抑えつつ、増大するデジタル需要に応えるという、かつてない挑戦に直面しています。この挑戦を成功させることで、データセンターは真に持続可能なデジタル社会の基盤となり、新たな価値創造の中心となるでしょう。

引用文献

  1. データセンターと新しいパワー半導体技術が、脱炭素化をどう … https://tanaka-preciousmetals.com/jp/elements/news-cred-20240612/
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  5. 爆増するデータセンター。電力問題などの必須課題と今後の展開 … https://primestar.co.jp/elcolumn/explosive_data-center/
  6. IEA:AI活用でデータセンターの電力使用量、2030年までに2倍に … https://trt.global/nihongo/article/2653afbf5ada
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  22. データセンターにおけるPUEとは?|Supermicro https://www.supermicro.com/ja/glossary/pue-for-data-center
  23. データセンターがCO2削減でできること|ドコモビジネス|NTT … https://www.ntt.com/business/services/rink/knowledge/archive_108.html
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  27. データセンター内のサーバーを液体冷却、冷却電力の94%減を達成 … https://newsroom.kddi.com/news/detail/kddi_pr-806.html
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  50. データセンターを検討中の方必見。Tierを理解して効率よく選定しましょう! https://www.dsk-idc.jp/blog_27.html
  51. 「GX(グリーントランスフォーメーション)」に … – TOHOBIZNEX https://biznex.tohogas.co.jp/article?articleId=SV00225
  52. グリーンデータセンター(ハウジング)|導入事例|株式会社松沢 … https://msp.cec-ltd.co.jp/case/case13/