金は覇権を映す鏡: 歴史が示す国家の興亡と金準備の方程式

新興国が覇権を握るまたは維持する過程で、なぜ中央銀行は金準備を急速に拡大させるのか?その「金の買い占め」は覇権移転の原因なのか、結果なのか、それとも最終防衛策としての安全弁なのか──。

定義

  • 覇権国家:軍事・経済・金融・文化の複合的優位を背景に、国際秩序を率いる国家。
  • 金の買い占め(国家レベル):中央銀行や財務当局が行う、金地金や金貨の大量取得および保有比率の引き上げ。

時を遡り、金準備の増減と覇権の移り変わりを追うと、ある共通のパターンが浮かび上がる。金はただの貴金属にあらず、国家の信用と通貨システムの最後の砦として機能してきたのだ。

1. 17世紀オランダ:海上貿易が生んだ「金銀倉庫」

東インド会社(VOC)を武器に世界貿易を制したオランダ共和国は、莫大な貿易黒字を金銀で受け入れ、アムステルダム銀行に集積した。ここで銀行券の約95%が金銀預託を担保に発行され、欧州随一の決済ネットワークが構築された。実物としての金銀が通貨発行の後ろ盾となり、海上覇権と金融覇権を同期させたのだ。

2. 19世紀英国:金本位こそ「帝国の通貨パスポート」

産業革命で世界の工場となった英国は、1816年に金本位制を導入。ポンド1枚が金1ソブリンと結びつくことで、その信用は不動のものとなった。ロンドンは「世界の銀行」として金取引の中心地となり、インドやオーストラリアの金鉱山からの供給が帝国の裏金庫を膨らませた。金本位制が維持する低インフレと自由貿易が、ポンド覇権の強固な基盤となった。

3. 20世紀前半アメリカ:ブレトンウッズ体制の「ドル=金」契約

第二次大戦後、アメリカは工業生産と金準備の圧倒的保有力を背景に、1944年のブレトンウッズ体制でドルを基軸通貨に据えた。1オンス=35ドルの固定相場により、世界各国はドルを金と同等視し、戦後の国際復興をドル中心の金融秩序で支えた。しかし1960年代の双子の赤字は金流出を招き、1971年の金兌換停止(ニクソン・ショック)で「ドル=金」の契約は事実上終焉を迎える。だがアメリカは以降も軍事力と金融規模で信用を維持し続けた。

4. 21世紀中国:信用通貨としての元×金の“二段構え”

2000年代から中国人民銀行は静かに金準備を増やし続け、2025年第1四半期には約2,300トンに到達した。人民元の国際化や一帯一路投資、CIPS(中国版SWIFT)といった決済インフラ整備と並行し、金は外貨準備から見た米ドル依存リスク低減の“保険”役を果たす。金準備の拡大は、元の信認を高め、金融の自主権を確保する戦略的布石といえる。


金の買い占めと覇権移転の相関 3つのメカニズム

  1. 通貨信認の最後の担保
    実物の金が裏付けとなることで、自国通貨への不安を和らげ、新興覇権の信用基盤を強化する。
  2. 決済ネットワークの構築・維持
    交易ハブとなる都市は、金取引・再鋳造能力を備えることで金融センターとして繁栄する(アムステルダム→ロンドン→ニューヨーク→上海)。
  3. 地政学リスクの保険としての役割
    制裁や国際摩擦が高まるほど、金という“非連動資産”への需要が増加し、国家は備蓄を強化する。

結び:金は覇権の「振り子」か

歴史を通じて、覇権の移転局面には必ずと言っていいほど「金準備の急拡大」が伴った。金の買い占めは覇権獲得の“前兆”であり、既得権維持の“最終防衛策”でもある。ドル覇権が形式的な金兌換を放棄しても、金の歴史的・心理的価値は薄れていない。これからの中国の動向を見守るうえで、金市場の動きはまさに国際政治経済の「体温計」と言えるだろう。

覇権は「金」を抱いてやって来て、また去っていく。次回、どの大国がどれほどの金を抱えたままその舞台に立つのか、注視したい。

日本がアメリカに預けてある金と米国債の元本が返ってくるといいですね。