中学1年生のユウキは、朝起きて洗面台の鏡を見るのが日課でした。でも今朝は何かが違いました。鏡の中の自分が、なんだかいつもと違って見えたのです。
「あれ?これ、本当に僕なのかな?」
そう思った瞬間、鏡がキラキラと光り始めました。そして気がつくと、ユウキは鏡の向こう側の世界に立っていました。
不思議な世界で出会った博士
「おや、新しい訪問者だね」
振り返ると、白衣を着た優しそうなおじいさんが立っていました。
「私はアイデン博士。この『ミラーワールド』で、みんなに『自分らしさ』について教えているんだ。君の名前は?」
「ユウキです。でも…ここはどこですか?」
「ここは『同一律』の世界さ。簡単に言うと、『自分は自分』『ものはそのもの』ということの大切さを学ぶ場所なんだ」
アイデン博士は手を振ると、目の前に大きなスクリーンが現れました。
まずは基本から 〜君は君だ〜
「ユウキくん、君は昨日の君と今日の君、同じ人かな?それとも違う人かな?」
「同じです、当たり前じゃないですか」
「そう、当たり前だね。でも、よく考えてみよう」
スクリーンに、ユウキの写真がたくさん映し出されました。赤ちゃんの時のユウキ、幼稚園の時のユウキ、そして今のユウキ。
「見た目はずいぶん変わったよね?身長も違う、顔も違う、話し方も違う。でも、全部同じユウキくんなんだ。これが『同一律』の第一歩だよ」
ユウキは不思議に思いました。「でも、そんなに変わってるのに、なんで同じなんですか?」
「いい質問だ!それは、君の『本質』は変わらないからなんだ。見た目や能力は変化するけど、ユウキくんという存在の核の部分は、ずっと同じなんだよ」
りんごの冒険
博士は手品のように、新鮮な赤いりんごを取り出しました。
「このりんごを見てごらん。今、このりんごは何だい?」
「りんごです」
「正解!では、このりんごを半分に切ったら?」
博士がりんごを半分に切りました。
「えーっと…りんごです」
「そう!四分の一に切っても?」
「りんごです」
「皮をむいても?」
「りんごです」
「少し腐っても?」
「うーん…腐ったりんごですけど、やっぱりりんごです」
博士は満足そうに頷きました。「素晴らしい!どんなに変化しても、りんごはりんごなんだ。これが同一律の基本的な考え方だよ」
クラスメイトのタロウくん
スクリーンに、ユウキのクラスメイトのタロウくんが映りました。
「タロウくんのことを考えてみよう。彼は家では『息子のタロウ』、学校では『生徒のタロウ』、サッカー部では『選手のタロウ』だね。それぞれの場所で違う役割をしているけど、みんな同じタロウくんなんだ」
「そうですね。でも、タロウくんって家ではすごく甘えん坊なのに、学校ではカッコつけてるんですよ」
「ほほう、面白いね。でも、甘えん坊のタロウくんも、カッコつけるタロウくんも、どちらも本当のタロウくんなんだ。人間は色んな面を持っているけど、それでも同じ一人の人間なんだよ」
言葉の不思議
博士は空中に文字を書きました。
犬 いぬ イヌ dog
「これらは全部、同じ動物を表しているね。書き方は違うけど、指している『もの』は同じなんだ」
「あ、そうか!」ユウキは気づきました。「漢字で『犬』と書いても、ひらがなで『いぬ』と書いても、同じ動物のことですね」
「その通り!これも同一律の大切な部分だ。表現方法が変わっても、本質は変わらない。君が『ユウキ』と呼ばれても、お母さんから『ユウちゃん』と呼ばれても、同じ君なんだからね」
数字の世界
今度は、スクリーンに数字が現れました。
1 1 一 壱 Ⅰ one
「これらも全部同じ『数』を表している。書き方は違うけど、『一つ』という意味は変わらないんだ」
ユウキは手を叩きました。「そうか!だから算数で『1+1=2』って言えるんですね。『1』がちゃんと『1』だから、計算ができるんだ!」
「素晴らしい発見だ!もし『1』が時々『2』になったり『3』になったりしたら、計算なんてできないよね。『1』は常に『1』だから、数学が成り立つんだよ」
変化の中の不変性
博士は庭に案内してくれました。そこには大きな桜の木がありました。
「この桜の木を見てごらん。春には満開の花を咲かせ、夏には青々とした葉を茂らせ、秋には葉が黄色くなり、冬には裸になる。でも、ずっと同じ桜の木なんだ」
「季節によって全然違って見えるのに、同じ木なんですね」
「そう。変化することと、同じであることは矛盾しないんだ。むしろ、変化できるのも、その木が『その木である』からこそなんだよ」
友情の話
「ユウキくん、君には親友はいるかい?」
「はい、ケンタです。小学校からの友達です」
「ケンタくんとは喧嘩したことはある?」
「あります。先月、ゲームのことで大喧嘩しました」
「でも、今でも友達だよね?」
「はい、すぐに仲直りしました」
博士は微笑みました。「それが同一律の美しいところだ。喧嘩をしても、ケンタくんはケンタくん。友情の本質は変わらない。表面的には色々あっても、根本的な絆は続いているんだ」
記憶と同一性
「ユウキくん、5歳の時の記憶はある?」
「少しあります。幼稚園の運動会のこととか」
「その時の君と今の君、記憶も体も考え方も違うよね。でも同じ君だと思える。不思議じゃない?」
ユウキは考え込みました。「確かに不思議です。なんで同じだと思えるんでしょう?」
「それは、記憶がつながっているからなんだ。5歳の君から今の君まで、途切れることなく続いている『物語』があるよね。その連続性が、君を『同じユウキ』にしているんだよ」
川の話
博士は小さな川のほとりに連れて行ってくれました。
「この川を見てごらん。水は常に流れて、同じ水は二度と通らない。でも、これは『石神川』という同じ川なんだ」
「水は全部入れ替わってるのに、同じ川なんですね」
「そう。川の『形』や『流れ方』や『場所』が同じだから、同じ川なんだ。これも同一律の大切な例だよ。変化する要素と、変わらない要素が組み合わさって、『同じもの』ができているんだ」
チームの話
「ユウキくんは何かのチームに入ってる?」
「サッカー部です」
「そのサッカー部は、君が入学する前からあったよね?」
「はい、もう20年以上続いてるそうです」
「でも、20年前のメンバーは誰もいないよね?」
「そうですね。みんな卒業しちゃいました」
「それでも同じサッカー部だ。メンバーは全員変わったけど、『中学校のサッカー部』という同一性は続いているんだよ」
言葉の力
博士は真剣な顔になりました。
「同一律がなかったら、どうなると思う?」
「えーっと…」
「言葉が意味を持たなくなるんだ。『りんご』という言葉が、時々『みかん』を意味したり、『机』を意味したりしたら、会話ができないよね」
ユウキはハッとしました。「そうか!『ユウキ』という名前が、時々違う人を指したら、誰が誰だかわからなくなっちゃう!」
「その通り!同一律があるから、僕たちは話ができるし、考えることができるし、約束を守ることができるんだ」
物の大切さ
「君にとって一番大切な物は何?」
「お母さんがくれたペンダントです」
「それを5年後も大切にすると思う?」
「はい、絶対に」
「でも、5年後にはそのペンダントも少し変わっているかもしれないね。傷がついたり、色があせたりして」
「でも、お母さんがくれたペンダントには変わりありません」
博士は優しく微笑みました。「素晴らしい答えだ。そのペンダントの『意味』や『価値』は変わらない。それが同一律の心の部分なんだよ」
夢と現実
「ユウキくん、夢はある?」
「サッカー選手になりたいです」
「その夢は、今日と明日で同じ夢?」
「はい、ずっと同じです」
「君がもっと上手になっても、大きくなっても、同じ夢?」
「そうです。プロサッカー選手という夢は変わりません」
「でも、具体的な目標は変わるかもしれないね。『地元のチームに入りたい』から『日本代表になりたい』に変わるかも」
「あ、そうかもしれません」
「それでも『サッカー選手になる』という根本的な夢は同じなんだ。詳細は変わっても、本質は変わらない。これも同一律だよ」
最後の大発見
夕方になり、ユウキはもとの世界に帰る時間になりました。
「博士、今日はありがとうございました。同一律って、最初は当たり前すぎて意味がわからなかったけど、実はすごく深いんですね」
「そうなんだ。一番当たり前に見えることが、実は一番大切なことなんだよ」
博士は最後にこう言いました。
「君は君だ。どんなに変わっても、どんなに成長しても、ユウキくんはユウキくんなんだ。それを忘れないでね」
現実世界に戻って
気がつくと、ユウキは自分の部屋にいました。鏡を見ると、いつもの自分が映っていました。
「僕は僕だ」
そう言って微笑むと、なんだかとても安心した気持ちになりました。
それから、ユウキは色々なことを新しい目で見るようになりました。
毎朝飼っている金魚のキンちゃんに「キンちゃんはキンちゃんだね」と話しかけたり、大切な教科書を「この本はこの本だから、ちゃんと大切にしよう」と思ったり。
友達が髪型を変えてきた時も、「見た目は変わったけど、タロウはタロウだ」と思えるようになりました。
そして何より、自分に自信を持てるようになりました。テストの点数が悪くても、友達と喧嘩しても、「僕は僕だ。変わらない大切な部分がある」と思えるからです。
まとめ 〜同一律って何だっけ?〜
同一律とは「Aは Aである」ということ。
- 自分は自分(どんなに変わっても)
- ものはそのもの(どんな状態でも)
- 言葉は一定の意味を持つ(会話ができる)
- 数字は決まった値を持つ(計算ができる)
- 約束は約束として続く(信頼できる)
この「当たり前」があるから、私たちは考えることができ、話すことができ、成長することができるのです。
ユウキは今でも、時々鏡を見て「僕は僕だ」と言います。それは、アイデン博士から教わった大切な真実を思い出すためなのです。



