生成AIブームに伴い、世界各地でAI関連のデータセンター建設計画が急増しています。本レポートでは、最新の2024年〜2025年前半の情報に基づき、この「データセンター新設ラッシュ」の実態を以下の観点から整理します。
1. 世界全体の新設状況と計画中の件数
急増するハイパースケールデータセンター: 世界の大規模データセンター(ハイパースケールDC)の数は近年急増しており、2024年末時点で1,136施設に達しました。この数は過去5年間でほぼ2倍となった計算です。2024年単年でも新たに137件ものハイパースケール施設が稼働開始しており、各国で建設ラッシュが進行していることがわかります。さらに将来計画も多数あり、現在建設中・計画中のハイパースケールDCは世界で約504件(2025年3月時点)にのぼります。これは今後数年で500件超の大型データセンターが新たに誕生する見込みを示しています。
地域別の建設動向: データセンター建設投資は米国に集中しており、米国が世界全体の**設備容量の約54%**を占めるなど圧倒的な存在感を示します。残りは中国と欧州でそれぞれ15%前後ずつを占め、その他の地域が残余を担う構図です。各年の新設件数を見ると、今後も毎年120〜140件程度のハイパースケールDCが世界で新規稼働すると予測されており、特に米国を中心に大型施設の増加が続く見通しです。
爆発的需要の背景: こうした建設ラッシュの原動力は生成AIを中心とするAI需要の爆発的な高まりです。GoogleやMicrosoft、Amazonといった主要クラウド事業者各社は設備投資を軒並み増強しており、調査会社Bernsteinの分析によれば、これら大手4社は2023年に総額2,000億ドル超を設備投資し、その約半分が技術インフラに投じられました。さらに2024年には主にAI需要によって投資額が前年比50%増加する見通しと報じられています。実際、Synergy Researchの分析でも生成AI技術がデータセンター規模拡大の主因になっていると指摘されています。このようにAI分野への期待から巨額の資金がデータセンター新設に流れ込んでおり、世界的な建設ラッシュを引き起こしています。
一部で見られる慎重姿勢: もっとも、一部では将来的な需要に対する慎重な見方も出始めています。Alibabaグループ会長のジョー・ツァイ氏は2025年3月、「現在のAI向けデータセンター建設ペースは初期需要を上回る可能性があり、過剰投資のバブルになりつつある」と警鐘を鳴らしました。実際、米マイクロソフトは2024年末から2025年初めにかけて、インドネシア・英国・オーストラリアや米国内(イリノイ州、ノースダコタ州、ウィスコンシン州など)で一部データセンター計画の見直し・延期に踏み切る動きを見せています。同社は依然として2024会計年度に約800億ドルをデータセンター構築に投入する計画ですが、来年度以降はインフラ投資のペースを落とす方針とも報じられています。このように、AIブームによる急拡大の裏側で需要予測を慎重に精査し計画を調整する動きも散見され、今後の市場動向を見極める姿勢が広がりつつあります。
2. 各施設の規模(面積・処理能力・消費電力)
電力規模の大型化: AI対応データセンターは従来型に比べて格段に大規模・高性能化しています。一般的な従来データセンターの規模が10〜25MW程度の消費電力であるのに対し、AI用途に特化したハイパースケール施設では100MWを超える容量が珍しくなくなっています。例えばNVIDIA出資の日本企業ユビタスが計画中の新設AIデータセンターでは、当初受電容量3MWから開始し将来的に50MW超まで拡張する見通しです。この施設は建設に最低でも2万〜3万平方メートルの敷地が必要とされるなど、床面積の点でも従来比で巨大になります。米国でも最新のAI向けデータセンターは一拠点で数十万台規模のGPUを収容しうる設計となっており、建屋も複数棟にわたるキャンパス型が主流です。
処理能力の飛躍: 処理能力面でも、生成AIの大規模モデルを扱うには桁違いの演算資源が要求されます。例えば米CoreWeave社(AI特化のクラウド事業者)は、2024年末時点で世界32カ所のデータセンターに合計25万個超のGPUを稼働させ、360MW超の電力を消費する体制を整えています。さらに2025年中に新たに10拠点を開設予定で、総契約電力容量は1.3GWに達する計画です。このように1社で数十万GPU・数百メガワット規模の計算インフラを抱えるケースも現れ、モデル訓練や推論に必要な処理能力をまかなっています。世界全体で見ると、データセンター全体の消費電力量は2024年時点で約415TWh(世界電力需要の約1.5%)に達し、過去5年間で年率12%増というハイペースで増大しています。AI需要の拡大により今後も電力消費は増え続け、2030年までに2倍以上に達するとの予測もあります。これらの数字は、AIデータセンターがエネルギー面でも極めて大規模化していることを如実に示しています。
冷却・インフラ技術: 大量のGPUを稼働させるAIデータセンターでは、熱密度の上昇に対応するため冷却技術も高度化しています。従来の空冷方式に代わり、液冷(直接チップ冷却など)によって高効率に熱を排出する試みが広がっています。例えば米バージニア州のChesterfieldキャンパスでは、CTP社が独自の直接液冷技術を用いた120MW規模のAIデータセンター棟を建設中で、2025年以降にCoreWeave向けにサービス提供予定です。このように巨大化・高密度化する設備に対応し、電源・空調・ラック設計のあらゆる面で最先端技術が投入されています。
3. 用途別:生成AIのトレーニング・推論、HPC、クラウドAIサービス
生成AIのトレーニング需要: 現在の建設ラッシュの中心的用途は、**生成AIモデルのトレーニング(学習)**です。大規模言語モデル(LLM)や画像生成モデルの学習には莫大な演算能力が必要なため、各社が専用インフラを拡充しています。例えばMicrosoftはOpenAIのGPTモデル訓練向けに数万GPU規模の専用クラスターを構築し、Googleも独自のTPUポッドを備えたAI研究用データセンターを増設しています。Meta(Facebook)も自社AI研究用スーパーコンピュータ「RSC」を運用するなど、モデル訓練専用の超大型データセンターが各所で稼働中です。これらトレーニング用施設は主に米国など電力・用地の潤沢な地域に集中し、ネットワーク遅延よりも演算密度や効率を重視した構成になっています。
推論・サービス提供の需要: 一方、生成AIの推論(サービス利用)段階ではユーザーへの応答遅延を小さくするため、データセンターの分散配置が重要です。自動運転や遠隔医療のようにリアルタイム性が要求されるAIサービスでは、特定地域にDCを集中できず各国・各地域に分散配置が必要と指摘されています。その結果、各地で小規模・分散型のエッジデータセンター増設も進んでいます。Synergy Researchも「中核の巨大DCがますます大型化する一方で、ユーザー近傍に配置する比較的小型のDCも増加している」と分析しており、クラウド事業者は主要リージョンのみならず地方都市にも推論用インフラを拡げる傾向です。例えばAWSやAzureは大規模な中央データセンター群に加え、各国にローカルリージョンやエッジサイトを設置し、生成AI APIサービスの低遅延提供に努めています。
HPC・科学技術計算との融合: AI用途のデータセンターは、高性能計算(HPC)用途とも重なります。科学研究や気候シミュレーション等のHPC分野でもGPUを用いたAI技術が活用されており、各国のスーパーコンピュータ施設がAIトレーニングに供されるケースも一般的です。欧州連合はEuroHPC計画の下で世界トップクラスのスーパーコンピュータを各国に設置(例:フィンランドの「LUMI」、イタリアの「Leonardo」など)しており、これらはAI研究にも利用されています。日本でも理化学研究所の「富岳」に続く次世代HPCで生成AIを活用する構想が語られています。つまりAI専用クラウドとHPCスーパーコンピュータが相互に補完し合う形で計算需要に応えているのが現状です。また企業向けには、各クラウドプロバイダーがAIプラットフォームサービス(AWSのBedrock、MicrosoftのAzure OpenAIサービスなど)を提供しており、その裏側で大規模GPUインスタンスを稼働させるためのデータセンター拡充が欠かせません。このように、トレーニングから推論、研究用途から商用クラウドサービスまで、多様なAIワークロードを支えるインフラとして、新設データセンター群が機能しています。
4. ビッグテック以外の事業者による建設事例
AI需要の高まりは、従来からデータセンターを運用してきた大手テック企業以外にも新規参入や投資を促しています。以下に主要なカテゴリー別の事例を挙げます。
- AI特化クラウドベンチャー: 前述の米CoreWeaveは代表例で、GPUクラウド専業のスタートアップながら巨額の資金を調達し全米各地でデータセンターを急拡大しています。2024年末時点で32拠点・360MWの運用規模に達し、MicrosoftやOpenAI、IBMなどが同社の顧客となっています。さらに投資ファンドのBlue OwlやデータセンターデベロッパーのChirisa/PowerHouseと提携し、バージニア州などに**最大5億ドル規模のAI/HPCデータセンターキャンパス(初期120MW、将来拡張400MW超)**を共同開発中です。このように、新興企業が大手クラウドからの需要を受けて高速にインフラを構築する動きが見られます。
- 通信キャリア・国内事業者: 通信事業者や国内データセンター事業者もAI向け設備増強に乗り出しています。日本ではKDDIが2024年12月、シャープ堺工場跡地を取得して150MW規模のAIデータセンターを建設・2025年度中の本格稼働を目指すと発表しました。NTTも自社で大規模DC網を展開しており、今後AI需要に応じGPUリソースを提供していく計画です。欧州でもドイツテレコムが既存16拠点に加え新たに5拠点のデータセンターハブ増設を2024年に発表するなど、キャリア系による設備拡張がみられます。また大手コロケーション(データセンター貸し出し)事業者も積極投資を継続しており、米Digital Realtyは2025年2月のフランスAIサミットでパリとマルセイユ地域に13棟の新設DCを建設すべく最大50億ユーロ投資すると表明しました。同じく米Equinixも各国で開設を進めており、こうしたコロケーション各社の施設はビッグテックのみならず幅広い企業・政府機関のAI需要を支える基盤となっています。
- 異業種からの参入(エネルギー・不動産など): データセンター需要の拡大は不動産開発会社やエネルギー企業にもビジネスチャンスをもたらしています。中東ではサウジアラビアが国家プロジェクトとして先端都市NEOMに100%再生エネルギー稼働のAIデータセンターキャンパス(50億ドル投資)を開発すると発表しました。これは現地デベロッパーのDataVolt社が手掛け、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)用途に特化した大規模施設です。また米国では、仮想通貨マイニング施設を運営していた事業者が続々とAIホスティング用途に転換しています。たとえばGalaxy社はテキサス州の既存マイニング施設(Heliosキャンパス)を買収し、CoreWeaveと提携して最大800MW規模まで拡張可能なAIデータセンター拠点へとリパーパスしています。この他、投資ファンドが地域の電力会社と協力してデータセンターパークを造成したり、工場跡地の電力インフラを活用してAI施設に改装するといった動きも各地で見られます。総じて、AIブームは通信・不動産・エネルギーなど異業種からのデータセンター市場参入を促し、多様なプレイヤーが建設競争に加わっている状況です。
5. 各国政府・地域政策の影響
補助金・優遇策による誘致: 各国政府はAI時代の基盤となるデータセンターを自国・自地域に誘致すべく、さまざまな支援策を講じています。英国政府は2024年9月にデータセンターを国家重要インフラに指定し、災害時支援やサイバー防護の強化を打ち出しました。さらに2025年2月には「AI機会行動計画」を発表し、AI向けデータセンター建設許可の迅速化・簡素化や、地域ごとに500MW超の電力供給を確保する「AIグロースゾーン」設立など積極的な施策を明らかにしています。フランスでも2025年2月にマクロン大統領が新AI戦略を発表し、18〜150ヘクタールの敷地を持つデータセンター用地35カ所(総計1,200ヘクタール)を整備し各拠点最大1GWの容量を計画するとしました。これら用地は2027年以降、原子力を含む95%脱炭素電力の大容量電力網に接続する計画です。このように欧州主要国は用地提供・許認可や電力面での支援策を講じ、民間のAIインフラ投資を後押ししています。
税制優遇と規制緩和: 米国では州政府レベルでデータセンター誘致の税優遇が広く行われており、設備投資額に応じた減税や電力料金優遇を提供する州も多くあります。また建築許可の迅速化や環境アセスメント手続きの簡略化といった規制緩和策も各地で進められています。例えばアイルランドやシンガポールでは一時、電力逼迫や環境制約から新設許可を厳しく制限していましたが、近年はエネルギー効率基準を設けた上で条件付きで新設を認可する方向に転換しています(シンガポールは2022年に環境性能要件付きでモラトリアムを解除)。一方、オランダでは特大規模DC建設に地元自治体が難色を示しFacebook(Meta)の計画が白紙撤回される例もありました。各国政府・自治体は電力や水資源への影響を考慮しつつ、投資促進とのバランスを図っています。
電力確保とエネルギー政策: AIデータセンターの電力需要増大に対応するため、各国で電源確保策が議論されています。原子力の活用が有力な選択肢として浮上しており、NVIDIAの黄CEOが「原発はAI向け電源として効率的で安定している」と述べたように、多くの関係者が注目しています。米IT大手も動きを速めており、AmazonやMicrosoft、Googleはデータセンター向けに原発由来電力の長期購入契約や次世代原子炉への投資を活発化させています。実例として、Microsoftは2023年に米ペンシルベニア州の停止中の原発(スリーマイル島)から電力調達する契約を結び、Googleも新興企業Kairos Powerの小型原子炉建設を支援し将来の電力購入契約を締結しました。再生可能エネルギーについても、大規模なPPA(電力購入契約)や自家発電設備の導入が進んでいます。サウジのNEOMプロジェクトは100%再生可能エネルギーでHPCを稼働させるAIデータセンターを計画中です。このように、電力確保と脱炭素化はAIデータセンター拡張の成否を握る重要要素となっており、各国政策もエネルギー面での支援・誘導に力を入れています。
政策介入と需給調整: 急増するデータセンター需要は一部地域で電力網への負荷を高め、政策的な調整が行われるケースもあります。国際エネルギー機関(IEA)は2025年4月の報告で「2022年以降データセンター投資が世界的に倍増し2024年に5,000億ドルに達した」と試算するとともに、現行政策下でもデータセンターの電力需要は2030年までに2倍以上に増加すると警告しました。IEAは各国政府に対しエネルギーとAIの問題に注目するよう呼びかけ、特に地域レベルでは電力網強化がデータセンター建設ペースに追いつかず負荷懸念が高まっている点を指摘しています。実際にアイルランドやシリコンバレー周辺では送電網逼迫から新規データセンター接続を一時停止する事態も起きました。こうした背景から、政策当局はデータセンターを計画段階から電源開発やインフラ整備と整合させる取り組みを進めています。総じて政府・政策の影響は大きく、補助金・規制緩和で追い風を吹かせる例と、環境・電力制約で一時的にブレーキをかける例の双方が見られる状況です。
地域別の新設状況・規模・用途比較
最後に、地域ごとにAI関連データセンターの新設動向とその規模・用途の特徴をまとめます(表参照)。
| 地域 | 新設・計画件数の動向 | 規模の目安(容量など) | 主な用途・特徴 |
|---|---|---|---|
| 北米(米国中心) | 世界全体の約半数以上を占める新設件数。2024年も多数稼働開始。将来計画も ~250件超と最大。 | 1拠点あたり数十〜100+MWが標準。大規模キャンパス型(例:MicrosoftやGoogleの大型リージョン)。 | 生成AIのトレーニング主体(クラウド各社のAI計算拠点)。推論サービスの基盤も整備。CoreWeave等AI特化企業やマイニング転換組も多数。 |
| 欧州 | 新設・拡張計画が活発化。英・独・仏などで大規模投資(例:AWSが独に2030年代までに€150億規模投資)。主要市場飽和で周辺国にも分散。 | 大手クラウドのリージョン拠点は20〜50MW級が複数配置。コロケーション事業者による新設も旺盛(例:仏で13拠点に€50億投資)。 | クラウドAIサービスとHPC研究用途が並行。欧州内のデータ主権確保やソブリンクラウド需要も背景。政府主導のHPC(EuroHPC)でAI研究基盤を整備。各国政府が許認可・電力支援。 |
| アジア(中国・日本他) | 中国はBAT企業(バイドゥ・アリババ・テンセント)によるハイパースケールDC建設が続く。国家プロジェクト「東数西算」で内陸部に巨大DC群造成中。日本・韓国もクラウドリージョン新設や国内向けAIインフラ計画あり(例:日本で150MW級DC計画)。 | 中国: 数十MW級の施設が多数林立。超大規模AI訓練用DCも建設中。日本他: 5〜20MW級が中心だがAI用途で50〜100MW級計画も登場。 | 中国: 生成AI・クラウドサービス・政府AI需要(都市監視や自動運転)に対応。政府主導で地方にAI計算センター拠点網を構築中。日本他: 国内企業向けAIクラウドや研究に対応。通信大手や産学連携で国産LLM開発基盤を整備。 |
| 中東 | 湾岸諸国が大型プロジェクトを推進。サウジNEOMで$5B規模のAI/HPCデータセンター計画。UAEでもG42社によるAIスーパーコンピュータ投資。 | 50〜100MW超クラスのハイパースケールDCを計画。再生エネ・原子力活用で電力確保。 | 政府の経済多角化戦略の一環。地域のAIハブ構想でクラウドサービス誘致や自国AI研究を推進。大型投資で最先端設備を導入し、国威発揚も兼ねる。 |
| その他地域 | 北欧・カナダなど冷涼でクリーン電力豊富な地域に海外企業のDC進出が増加。南米・アフリカでは規模限定的ながら主要都市にクラウドDC新設。 | 北欧は水力・地熱電力を活かし50MW級DCを誘致。新興国では<10MW級が中心。 | 北欧: グリーンなAI計算拠点(海外企業の寒冷地DC)。新興国: インターネット需要対応が主目的だが将来AI利用も見据え整備。 |
【注】表中の新設件数はハイパースケールクラスの目安。規模や用途は地域内で一般的な傾向を示したもの。
以上のように、世界的に見ると北米を中心に空前のAIデータセンター建設ブームが進行しています。各施設は従来比で巨大化・高性能化し、生成AIの学習・推論やHPC用途など多岐にわたる需要に応えています。一方で急拡大による電力・環境負荷も無視できず、政府の政策対応や需給バランスの見極めが今後ますます重要となるでしょう。各国・各業界の最新動向を注意深く追いつつ、持続可能な形でAIインフラを整備していくことが求められています。



